逆襲の社畜
やばい、ギャランティシステムやばすぎだろ。
たった一戦で30万近いスコアが加算されてしまった。現在進行形でアクセスは増え続けていて、この調子なら40万くらいまでスコアが入りそうだ。
対戦相手が人気ブロガーだというのが大きかったようだ。
あの蛍光ピンクの機体を使っていたのはサクラマルとかいうパイロットだった。
辛口のゲーム批評で有名なカリスマブロガーらしい。”ガーディアントルーパーズ”にはロケテストの頃からハマっていて、自称スキュータムの達人を名乗っている。本来の実力が発揮できれば近接戦闘も相当強いそうだ。
まあ、本当の達人なら視界の悪いステージで油断なんかしないよな? 俺は別に悪くない、と思う。
30万スコアを換金すれば3万円か。やばい、本物の牛の肉が食える。
そういえばオークションの儲けも50万近く貯まってきている。久しぶりに米を買い込んでスキヤキでもするかな?
前祝いに昼飯はチェーン店の牛丼にした、ご馳走といえば肉だろう。たまには会社の外で食べるのもいいもんだな。
会社に戻ると昼休みに10分以上席を空けたといって、嫌味な上司にたっぷり一時間以上叱責を受けた。おまけに外食に行く暇があるのは仕事に余裕がある証拠だと、ノルマをさらに増やされてしまった。
法律では労働者にだって一定の休息時間は認められてる筈だが、我が社のローカルルールは法律に優先するらしい。なんかもう、こんな会社辞めちゃっていい気がして来た。
サービス残業は自分のノルマだけ果たして7時前に会社を出る。同僚たちが悲鳴をあげていたが、たまには俺に頼らず頑張ってくれ。
明日は上司に皆の前で叱責されるんだろうなあ、協調性がないとか愛社精神が足りないとかどうせそんな話だ。
叱責の内容そのものには大して意味はない。皆のガス抜きと、社内の掟を破ればどうなるかの見せしめだ。
使い古されたマインドコントロールの手法なんだが、それなりに効果的だ。俺が理不尽に叱られるのを見て喜んでいるような奴らは、知らない間に立派な社畜に洗脳されていく。上司の命令や社内のおかしなルールに逆らえない人間になっていくのだ。
これまでは翌日に上司に叱られると考えただけで胃が痛かったのだが、今日は不思議と平気だ。むしろ理不尽な叱責にどう反論してやろうかと闘志が沸いて来る。
軍資金が少しでも手元にあると心の余裕が生まれるな、今ならクビにされても即路頭に迷うわけじゃない。次の仕事を探すまでくらいなら、ゲームを頑張ればなんとか食いつなげそうだしな。サービス残業がなくなればネットオークションの出品作業だって捗る。
俺の洗脳は解けたぞ、いつまでも大人しい社畜だと思うなよ。
ゲーセンの雰囲気が昨日までと違うと思ったら、ガーディアントルーパーズの筐体が一気に12台に増えていた。場所を空けるためにクレーンゲームのコーナーが撤去されてしまっている。
思わずガッツポーズをしてしまいそうになる。それにしてもゲーセンの経営者も随分と思い切ったな。
ジミー君の話だと筐体はレンタルなので、今くらいの稼働率が続けば店側は充分儲かるらしい。
むしろ謎なのはメーカーの資金力だよ、精巧に作り込まれた大型筐体は決して安くはない筈だ。ゲームの開発費だって相当かかってるだろうし、よく資金が続くもんだ。
まあ、俺達プレイヤーにとってはありがたい話だ。メーカーとしても投資した資金を回収するまではゲームを稼動させ続けたいだろうしな。倒産とかせずに末永く頑張って欲しいものだ。
筐体の数が三倍に増えたおかげでそれほど待たずに乗り込めた。中に入ると新しい機械の匂いがムッとくるが、そんなに不快ではない。むしろ本物の戦闘ロボに搭乗しているみたいでわくわくする。
『クリスマストーナメントへの招待状が届いています』
いつものようにCPU戦を始めようとしたのだが、何かのイベントが始まっているようだ。参加するだけでクリスマス限定のガチャチケが貰えるようだし、これはやらなきゃ損ってもんだ。
どうやら日本中のプレイヤーが参加できるトーナメント大会で、クリスマスの日に決勝戦があるらしい。一度負けたらそこで終わりなのが厳しいが、そこはしかたないか。
イベントの対戦は公開が前提で、ギャランティシステムの対象外となるようだ。要するにノーギャラだな。その代わりに上位入賞するとリアルマネーで賞金が出るらしい。
勝ち抜くたびに豪華な賞品も出るようなので、ここは気合を入れてやりますか。
ランダムステージでも俺には関係ない、どんなステージでもどうせ装備は決まってる。Xキャリヴァーを背負い、壊れかけのバスターソード片手に出撃だ。
宇宙港ステージだと? いきなり初見のステージだが、遮蔽物が多いし問題ないだろう。倉庫らしい建物が並んでいるし、コンテナっぽいのも多量に積んである。
着地までやけに時間がかかると思ったら重力が弱いのか? なんかふわふわする。月面かどこかの宇宙港って設定かな。このステージならXキャリヴァーを片手で振り回せそうだ。
まあ、大事な勝負で慣れないことをするつもりはない。ここは勝ちに行くぞ。
敵のアクティブスキャンを逆探知、おかげで相手のだいたいの居場所はわかった。こっちはまだ発見されていない筈だ。
アクティブスキャナの一番の弱点がこれで、使用すると自分の位置を晒すことになる。
つまり、不用心な敵さんがわざわざ俺に居場所を教えてくれているわけだ。ステルス性の高いリンクスには遠距離からのアクティブスキャンなどあまり効果がないのだよ。
それともわざと誘っているのか? そういう誘いなら乗ってやるが、ぎりぎりまで隠れて近づかせてもらうよ。
コンテナの陰に隠れながら接近する。いくらステルス性能がよくてもさすがに視界に入れば見つかってしまう。
問題は仕掛けるタイミングだ。チマチマ刻みながら近づくより、ズバッと上空からの奇襲なんてどうだ? 思いついたら即実行、勢いよくコンテナを飛び越える。
そこに居たのはスキュータムではなく、ミサイル満載のサジタリウスだった。
ロックオン警報が響き渡り、全弾発射されたものすごい数のミサイルが壁となって迫る。
頭が真っ白になったが、CPU戦での経験が活きた。ジャンプの勢いで上昇しながらミサイルをギリギリまで引き付け、地面めがけて一気にブーストダッシュをかける。
重力を味方につけた急降下ブーストは実にキレがいいよ、うん。一瞬の操作ミスで地上に激突するリスクはあるが、その程度のことを怖れていては何もできない。まあこのステージは重力が低いからその分マイルドだ。ぶっつけ本番の練習にはちょうどいい。
ミサイルの旋回半径の内側を通るように方向転換、敵の足元めがけてワイヤーアンカーを発射する。
ワイヤーを使えばいきなり180度の方向転換だって可能だからな、高性能ミサイルといえどもこの機動にはついては来れない。
敵が突然アンカーの射線上に飛び出して来たせいで、狙ってもいないのにアンカーが命中してしまう。
敵の足にアンカーを引っ掛けたみたいだな。ワイヤーを巻いて足元を掬ってやるとあっさり転倒し、そのまま足の方からこっちに引きずられて来る。
ワイヤーを高速で巻き取っているので、当然敵の上に墜落することになるだろう。
よく考えればリンクスの全重量を乗せて剣で突くのに絶好の機会じゃないか。だが、想定外の展開についていけずチャンスを逃してしまった。もう間に合わない。
ワイヤーを巻き取った勢いのまま左腕から敵に衝突。インパクトの瞬間に拳にフィールドが発生した。どうも、こういうのもパンチ攻撃扱いになるようだ。
ものすごい衝突だったが所詮はパンチ、敵のゲージは一割程度しか削れていない。まあ、近接特化のリンクスだからそれでも一割削れたのだ。他の機体だと殴った拳の方が砕けていただろう。
むくりと起き上がったサジタリウスが、腕のビームガンを向けようとしてくる。思わず敵の腕を押さえてしまったが、そんな暇があればXキャリヴァーでトドメを刺してしまえばよかったのだ。さっきから判断ミスが続く。まだまだ修行が足りん。対人戦の経験不足か。
レスリングのようになってしまったのでアームロックで締め上げる。サジタリウスの腕にも内装武器が何か仕込まれてる筈だからな。どうせビームソードあたりだろうが、使わせないぞ。
力任せに逆関節に曲げると敵の左腕が壊れてしまった。必死で逃げようとする敵のモノアイにワイヤーアンカーを零距離で射ち込んで引き倒す。
そのまま足で踏みつけて押さえつけ、Xキャリヴァーでトドメを刺す。なんともグダグダになってしまった。
まあいいよ、とにかく勝ったし。対人戦での勝利の興奮と喜びがじんわりこみ上げてきた。
勝利の報酬はソードブレイカーという大型のアーミーナイフみたいな武器だった。自己修復付きだからそこそこいい奴かもしれない。
期待したクリスマス限定ガチャの中身は、スコアポイント10kとピストルみたいな小型のプラズマランチャーだった。これも自己修復付き。勝利報酬よりガチャチケの方が若干豪華な気がする。