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俺のロボ  作者: 温泉卵
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天空の小屋

 

 突然ビリー氏から呼び出しがかかった。

 

 心当たりはない、強いて言えばマテリアルを馬鹿みたいに集めてしまった件くらいだな。

 まあ、あんなのは設定ミスなのはわかりきってるから換金はしていない。何も問題ない筈だ。

 

 仮に何かあったとしても、ビリー氏の立場ならアリサちゃんを通して俺に指示すればいいだけなんだがなあ。御大自らの呼び出しとは、これは結構な事件だな。

 

 ネットで調べてみたら、アメリカの大統領であってもビリー氏と面会するにはスケジュール調整で一年以上待たされるなんて噂もある。

 他にも一秒に何十億円も稼ぐ男だとか、握手をするだけで一兆円とられるとか、都市伝説級の噂話がゴロゴロしている。

 ネットの噂ってのは嘘と真実がごちゃ混ぜになっているが、多忙なビリー氏の時間が値千金なのは確かだろう。俺なんかと面会しようなんて酔狂な話だよまったく。

 

 アリサちゃんの後ろにくっついて、特設エレベーターに乗り込む。彼女の着ているコスプレの軍服も、なんかいつもより生地が上等な気がする。いきなりだったんで俺はいつものジャージだけれど、本当にこれでいいのか? 一応オーダーメイドの背広も作ったんだけどな。

 

 やばい、緊張して来た。

 偉い人に呼び出されて緊張するなんて、小学校の時に校長先生に呼び出された時ぐらいだ。

 

 社会人になってからは呼び出しなんて日常茶飯事ではあった。取引先にクレームで呼ばれるのは大抵代金を負けろってことだし、上司に愚痴を聞かされたりパワハラされるのは仕事のうちだと割り切ってたから、慣れればまあどうということはなかった。やはり一番きつかったのが校長に怒られた時だな。

 

 あれ? 校長になんで呼び出しをくらったんだったっけ?

 

 ああ、悪ガキが用水路に悪戯して、農家の人が学校に怒鳴り込んで来たんだった。

 そもそも俺はまったく無関係だったんだが、家が近所だったんで何故か呼び出されて何故か怒られたんだ。悪戯した生徒達も俺が無関係だったことを証言してくれたんだが校長は聞く耳を持たず、何故か実行犯と俺の二人が無茶苦茶怒られた。

 その後大人の目撃者も現れて俺の無実は明らかになったのに、文句を言ったら連帯責任だと言われてまた怒られた。

 

 くそ、思い出したら腹が立って来たぞ。当時は大人は何もわかっちゃくれないと思ってたんだが、今にして思えばもっと大きな声で抗議すれば普通に勝てた案件だった。

 

 おかげで俺はそれ以来田んぼに悪戯する悪童として近所では冷たい目で見られるようになり、今でも親戚一同は肩身の狭い思いをしているらしい。田舎の人間関係舐めんなよ。

 

 無理が通れば道理が引っ込む、結局その後の俺の人生は引っ込んでばかりだったよ。偉い人が相手でも道理は曲げちゃ駄目ってことだな。


 でも、ビリー氏に無茶ぶりされたら俺は……迷わずへつらう。

 

 

 エレベーターがホテルの屋上で止まると、アリサちゃんの案内はここまでみたいだ。

 

 代わりにメイド服を着た美女が二人待っている。動きがなんとなく機械っぽい、アンドロイドか? 殺気じゃないけれど、なんというか纏っているオーラみたいなのは生物的なんだがな。

 女の子達がスーパーリアルなアンドロイドなのか、改造しまくったサイボーグなのか判断に苦しむところだ。

 

 心配そうに一礼して去って行くアリサちゃんがやたら人間臭く見えるな。もともと彼女もかなりマネキンっぽく見える美人さんなんだけれど、それだけ二人のメイドさんが非人間的ってことか。

 

「お待ちしておりました、柿崎様」


 声は自然な感じがするが、最近のマシンボイスは自然な感じだからそれだけじゃ判断できないな。ベティちゃんだってその気になれば多分普通に喋れる筈だ。ゲームのナビゲータープログラムがロボっぽい口調なのは、処理を軽くするためというよりむしろ演出なんだろうな。


 ホテルの屋上は小奇麗に手入れされた庭園になっていた。テロリスト達が命懸けで目指した場所がまさかこんなだったとは予想外だ。


 端の方に大規模なヘリポートがあり、その向こうは遥か遠くまで海が見渡せる。絶景の空中庭園だな。俺だったら露天風呂を作るんだが。

 

 穏やかな風、空気は適度に温かい。今日は西風がかなり強く、空を見上げると雲がすごいスピードで流れている。どうやら見えないバリアが庭園の周囲に張り巡らされているようだ。

 温室、なんだろうか? 見た目的に熱帯植物っぽい花々が咲き乱れている。ハイビスカスっぽいのもあるし、南国風だよな?

 バナナか芭蕉かわからない植物も群生している。芭蕉だったら和風ってことなんだろうが、果たしてどっちなんだろう。裸婦像に混じって石灯籠っぽいオブジェも置いてあるが、わびさびはあまり感じない。

 下草の中には暑さに弱い筈の高山植物の群落も混じっている気がするが、俺はそこまで植物に詳しくないから自信はない。エーデルワイスっぽいのやクロユリっぽいの、それにコマクサっぽいのも綺麗に群生しているが、似たようなのが普通に園芸種にもあるのかもしれないしな。高山植物は厳しい自然の中で咲くから美しいんであって、見た目がそっくりでも花屋で買えたらありがたみがないってもんだ。

 

 極彩色の蝶々がうっとおしいほど飛び回っている。金属光沢を持った外国産の蝶もいる、多分珍しい奴なんだろうな。あまり大きいのは綺麗というより怖い。

 蝶の産地も出鱈目な感じがする。北方系と南方系がごちゃ混ぜになっているようだ。虫とかってわりと温度にデリケートなんだけどなあ。

 虫型のロボットかもしれないし、立体映像って可能性もあるが、おそらくは生きている本物だ。捕まえて確認してみたいが、余計なことをしてビリー氏の不興を買うのも怖い。


 とりあえずビリー氏が結構趣味が悪いってことはわかった。成金趣味というか、自然の節理や景観の調和なんてクソくらえって感じだな。それはそれで潔いのかもしれん。

 

 道の終点は、アルプスの少女でも飛び出して来そうな一軒のログハウスだった。

 

「どうぞ」


 一歩中に足を踏み入れて、ため息をつく。山小屋かペンション的な内装を想像したのに、外観とはまったく関係ない造りだった。

 

 昔の貴族の館を思わせる赤い絨毯が敷かれたホール。天井には豪華なシャンデリアと……模型の飛行機や飛行船、翼竜の骨格標本みたいのまでぶら下がっている。


 中が広すぎるように思えるんだが、なんらかの視覚的トリックなんだろう。あるいは物が多すぎるからそう見えるのか? 


 一言で言うなら博物館のゴミ屋敷だよな。

 

 床の上には戦車やら戦艦やら甲冑やらの模型が立派なガラスケースに入れられて展示……というか積み重ねられており、さらに化石や昆虫の標本なんかが入った小さな箱があちこちに放り出されている。


 ぶちまけられたおもちゃ箱かよ。しつけのできいていない小さな子供が、やりたい放題に遊びまくった跡のようだ。

 普通の子供はこんな立派な戦艦模型とか持ってないけどな。

 

 2メートル近いド迫力の戦艦大和の模型が、部屋の真ん中に鎮座している。爺ちゃんの作ってたプラモデルの大和もでかいと思ってたけれど、こいつは超でかい。でかい上に重量感がある、おそらくパーツの大部分が金属製だ。

 

「なかなかよくできてるだろう? USSサウスダコタだよ」


 ひょろっとした小男が、立派な執務机の後ろから声をかけてくる。先刻から妙な視線を感じてはいたが、ビリー氏か、やはりそこにいたか。

 

 周囲には他に十体ほどのアンドロイドっぽいメイドさん達の気配があるだけ……まあ、護衛要員だろうし見た目以上に戦闘力は高いんだろう。リンリンの例もあるし、か弱そうな女性でも油断はできない。

 

「戦艦はいいよね、海に浮かぶ鋼鉄の城だよ。大きな砲弾を火薬で飛ばしてぶつけ合うのさ。地球人はよくもこんな馬鹿みたいな兵器を考えたもんだよ」


 ビリー氏はつかつかと歩み寄ると、砲塔をぐるりと手で動かす。こいつだけケースに入っていないと思っていたら、触って遊ぶ用みたいだ。金持ちならモーターを組み込んだりしそうなもんだが、すごい金持ちだと一周回って自分の手で動かしたいんだな。

 それにしても大和じゃなくてアメリカの戦艦だったのか。そういえば大事な零式観測機がどこにも見当たらない。


 素人目には三連装の主砲がついている軍艦なら何でも大和に見えてしまうからな。ビリー氏の前で下手に知ったかぶりをしなくてよかったよ。

 

 同時通訳なのか、ビリー氏の声が英語と日本語で同時に聞こえてくる。言ってることが少しおかしい気がするが、そういうのはきっと通訳AIのクセなんだろう。人間の通訳でも常に完璧というわけにはいかないんだし、細かいニュアンスの解釈の違いや取りこぼしはある程度は仕方がない。

 

「敵の装甲を貫けるより強力な大砲を求め続け、敵の大砲に貫かれないように装甲を強化し続けた結果がこの姿というわけだ。たしか日本の諺にもそういうのがあったよね?」


 咄嗟に思い浮かんだのは矛盾の故事だが、あれは楚の国の話で日本じゃないしな。なんだろう? イタチゴッコは多分諺じゃない。泥縄? それもちょっと違うな。

 

「ところで君はこの絵を見てどう思うかね?」


 ビリー氏が細い手で執務机の背後に飾られている大きな絵を指差す。急に何だよ、戦艦の話はわりとどうでもよかったらしい。

 

 芸術のことはあまりよくわからないが、油絵の類だろうな? ナントカ派かは知らんがとにかく写実的な絵だ。大きな骨を棍棒のように振り上げた猿人みたいなのが描かれている。

 

 背景は砂漠にピンク色の空で、地平線のあたりで遠く光っている半球状のシャボン玉みたいのに違和感がある。昔のSF作品によく登場する未来都市のドームのようにも見えるな。

 

 猿人は痩せて筋張ってはいるが、結構強そうだな。チンパンジーなんかでも怪力だって聞くし、あの骨の棍棒で殴られたら即死かもしれん。

 

「なかなか手ごわそうですね、棍棒ってのも太刀筋が読みにくい。力任せに無茶苦茶振り回されたら厄介です」


 骨で撲殺されるとか無様だよ、絶対にそんな死に方は御免だ。言葉にしてて思ったんだが、棍という武器の持つ可能性について改めて気づいた。カッコ悪いから自分で使いたいとは思わないけどな。

 

 ビリー氏はしばらくきょとんとしていたが、小さい声で神経質に笑い始めた。

 

「君は実にユニークだね。今までいろんな有識者にこの絵を見せたが、そんな答えは初めて聞いたよ」


 そうか? この絵を見れば誰しも真っ先に強そうな猿だと感じるだろう? 見たまんまだし。

 

「この絵は18世紀にベルギーの無名の画家が描いたものだ。遠くに描かれているのがまるで宇宙船か未来都市のように見えることから、最終戦争後の地球を暗喩していると考える者が多いようだね」


 ああ、そっち系に考えるわけか、確かにその方が面白いな。第四次世界大戦で使われる武器が棍棒だという有名なアインシュタインの予言もあるしな。でも18世紀には核兵器はなかったわけで……背景の丸いのは画家が気まぐれでなんとなく描いただけじゃないのか? その当時わざわざ猿人を描くような絵描きは絶対変人だったと思う。

 

「ボクがこの絵を気に入っているのは、この猿のドヤ顔さ。こいつはきっと自分が世界一強いと信じて疑っていないんだ。たかが骨の棍棒で笑えるだろう? でも、確かに原始時代なら最新兵器だよねえ。最初に凶器を手にした猿は向かう所敵なしだったろう。この猿は僕の姿であり、地球人類の姿でもある」


 抽象的過ぎて何が言いたいのか俺にはさっぱりだよ。最近ヨーロッパの方じゃ原始人を崇拝する新興宗教が盛んらしいけれど、ビリー氏も猿になりたいんだろうか? まあご先祖様だし、俺だって原始時代のワイルドな生き方は嫌いじゃないよ。

 

「考えてもみたまえ、核兵器を遥かに超える武器を持った宇宙人が我々を見たらどう思うだろう? 武器の強さこそが文明のバロメーターなのだよ。我らがペリー提督が砲艦で日本を脅していた頃、野蛮人である筈の日本人の識字率は50%を超えていた。当時の合衆国でまともに本が読めた人間はいいとこ20%だったんだがね」


 今度は歴史の話か、話があっちこっち飛ぶのは天才肌の人物によく見られる特徴だって言うよな。

 識字率の話はひょっとして遠回しに日本人のことを褒めてくれてるんだろうか? 当時のアメリカの水兵は無学でもペリーは本くらい読んでただろうし、黒船を持ってた方が文明人ってことで別にいいぞ? 強い奴に逆らえないのは当たり前、ぶっちゃけペンじゃ剣には勝てないんだ。いや、頸動脈にペン先を突き立てればワンチャンあるか? だが昔の日本は筆だったし、毛筆じゃさすがに武器にはならんよ。

 

「ボクはねえ、地球人類の可能性を信じたいのだよ。君のような超人をずっと探していた、希望を託せる後継者としてね」


 なんかよくわからんが褒められてるみたいなのはわかる。後継者とか言ってるが、別に養子に来いって話でもなさそうだし、これも比喩的表現ってやつだろうな。ロボットゲームの未来を託したいということなら、同好の士として協力もやぶさかではないんだが。


 ビリー氏の意図がわからないから下手な答えはできないな。こんな時は沈黙は金だ。黙っていれば俺だってそこそこ賢そうに見えるかもしれん、というか喋れば確実にボロが出る。

 

「ボクの持つ株と、君のマテリアルを交換しようじゃないか。これは正当な取引だよ」


 想定外の方向へいきなり話題が飛ぶ。なんだよ、そっちの話かよ。


 いや、そもそもマテリアルのことで呼び出されたんだろうってことは想定してたんだ。つまり今までの話はまったく意味がないただの挨拶でこれからが本題だ。

 アメリカ人はいきなり本題から話すって言ってたのは誰だよ? 結構楽しそうに無駄話するじゃないか。そういえばナンシーだってアメリカ人だけれど、あいつなんてほぼ無駄話しかしないよな。


「マテリアルって……でも、あれはゲームで」


「ゲームだろうとなんだろうと、ルールはルールだよ。考えてもみたまえ、株も金もルールが守られなければただの数字だ」


 何だろう? 言ってることはわかるんだが、その話をするなら立場が逆だろう。俺が金はいらないって言ってるのに、ビリー氏はわざわざ金を払いたがってるのか? 誠実な人というよりなんか変な人に思えるよ。


「本当にいいんですか?」


 たしか何兆って金額だったよな、しかも米ドルで。いや、そんな大金貰っても使い道がないし困るんだけど。毎日一億円のお小遣いでいいよ、それでも使い切るのは大変そうだな。


 一日の食費なんて自炊すれば千円もかからないけれど、いい材料を揃えれば一万円くらいはすぐオーバーする。今は爺さんが結構贅沢に仕入れまくってるけれど、それでも来客の分コミで十万は使ってない筈だ。

 外食すれば天井知らずだけど、爺さん以上の料理を出す店はそうそうないと爺さん自ら言ってたし。


 いや、そりゃあ食事以外にも金は使うんだけれど……困ったな。なんで金を貰うのに多過ぎて困らなきゃならないんだよ? でもいきなり兆単位で金を渡されたら大半の人間は持て余す筈だ。きっとそうだ。

 

「ボクの財布を心配してくれているのかい? こう見えても自分が損する取引は決してしない男さ」


 もちろん一度に全額換金というわけじゃなく、ビリー氏が決めた分だけ少しずつでかまわないそうだ。それでも百億円単位の話だ。頭がおかしくなりそうだ。


 いくら金があってもカジノで適当に遊んだらすぐになくなりそうだが、リンクスを動かしてる方が絶対楽しいしなあ。


 ビリー氏じゃないけど本物の戦艦でも作ってみるか? 使い道はないから観賞用だけどな、実物大のプラモデルみたいなもんだ。別に航海できなくてもいいから、地上に作って別荘にしてもいいかもしれない。


 金持ちの金の使い方か、貧乏人の俺がいきなり大金を手にしても馬鹿なアイディアしか浮かばないよな。そういえば世界一のお金持ちであるビリー氏ご本人はどんな使い方をしてるんだろう?


 改めて周囲を見渡してみる。この部屋を一言で表現するなら大人のおもちゃ箱だよ、カッコいい兵器に古代生物に珍しい昆虫標本か。案外ビリー氏も金の使い道に困ってるのかもしれない。

 

 男ならハーレムなんてのもありがちな夢だよな、女の場合なら逆ハーレムなんだろうか? 護衛のメイドさんの一人になんとなく見覚えがある気がする。以前ビリー氏に付きまとっていた取り巻きの美女の中にいた。前に見た時は確かに人間だった筈なのに。

 

「コレが欲しいのかい?」


「いえ、アンドロイドなのかサイボーグなのかどっちかなと思って」


「やれやれ、生身の人間には見えないかねえ。なかなかよくできてると思うんだが」


 結局どっちなんだよ? ビリー氏の口ぶりから察するに生身じゃないのは確かみたいだが。あれ? サイボーグとアンドロイドの境界線って何だろう? 脳のあるなしか?

 

「サイボーグといってもロシア製のオモチャとはモノが違うよ。さすがの君でも彼女達には勝てないと思うな。いや、ジョークだって! 戦わないでいい」

 

 ビリー氏の不用意な発言というかジョーク? で突然女達が戦闘モードになったので、いきなり四方から押し寄せる殺気に押しつぶされそうになる。身体のスペックが段違いだからなあ、素手だと一対一でも勝つのは難しいと思う。

 ただ、言葉尻一つで行動するってことは、あまりお利口さんじゃないよな。ベティちゃんならこんな間違いはしないと思うし、番犬でもちゃんと空気はよめる。犬以下かよ。

 

「ボクを悪趣味だと思うかい? 彼女達も人類が生き延びるためのアプローチの一つではあるんだけどね」


 美女達の見た目に関しちゃ趣味は悪くないと思うけどな。それより真顔で人類の未来云々を語るのが痛々しいと思う。超大金持ちじゃなかったらいい歳して何言ってるんだと言ってやりたい。

 ……軽口を叩いていい相手じゃないので沈黙しておく。

 

 でもここで畏まって黙ってる俺も絶対同類みたいに見られるよな。誰も見てないからいいんだけれども。

 

 

 来た時と同じメイド達に案内されて山小屋を後にする。彼女達をお土産にいらないかと言われて、咄嗟に丁重にお断りした。今にして思えばせっかくくれるというなら、とりあえず貰っておいてもよかったかもしれない。二人ともいい感じの美女なのにちょっと惜しいことをしたかも。

 サイボーグだって人権はある筈だが、ビリー氏が白と言えば法律の方が変わるから怖いんだよ。あの人は確か未来委員会の特別委員長もやっていて、電脳化した人格に人権を認めるべきか否かなんてサイバーな議論もしてた筈だ。


 ……ビリー氏ってアニメとかならストーリー後半で絶対殺されるキャラだよなあ。巨悪というよりとにかく薄気味が悪い、でもなんとなく憎めなくもある。前からよくわからない人物だったが、直接話をしてみてもっとわからなくなったぞ。


 この屋上庭園もビリー氏たった一人のための施設なんだよな。その辺の植物園よりずっと金がかかってると思う。といってもここはビリー氏にとっては無数にある別荘の一つに過ぎないわけだ。

 

 なんとなくバビロンの空中庭園とか、ノアの箱舟といったイメージが思い浮かんだ。あまりよくない傾向だな、思考が中二病的な方向に引き寄せられつつある。ビリー氏の影響恐るべしだ。


 周囲を乱舞する蝶々を見てふと思う。やっぱり舞台裏でこいつらを飼育しているスタッフがいるんだよなあ。幼虫は芋虫だぞ、そんなのをウジャウジャ世話してるんだ……

 俺的にはどうかと思ったが、死んだ婆ちゃんが趣味で養蚕していたのを思い出した、お蚕様は結構可愛いかったよな。芋虫ゴロゴロでもそういうのが好きな人には案外天職なのかもしれないと思い直す。親方がビリー氏なら絶対給料はいいだろうしな。

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