安易にゲームの続編を開発するのは間違ってるんだろうか
「どこかキツイところはありませんか?」
俺が密かに地味子ちゃんと呼んでいるコンパニオンさんだ。彼女に手伝ってもらいながら、パイロットスーツみたいなのを装着していく。
名前は忘れたが大会イベントの時からちょくちょく見かける娘だな。アリサ大佐の助手というか、雑用係みたいなことをしている。女子大生がバイトでもしてるのかと思っていたが、常勤スタッフらしい。
コンパニオンをしているくらいだからこの娘もなかなかの別嬪さんなんだが、アクの強いアリサ大佐と並ぶとなんともオーラに華がない。いや、引き立て役ポジションには適任者なのか。
バラとカスミ草の花束みたいなもんだな。カスミ草は確かに脇役だが、ボリューム感をかさ上げして主役を豪華に引き立ててくれるお花屋さんの稼ぎ頭なんだぞ。でもあれって季節によっちゃ主役のバラより高くついたりするんだよなあ。
それにしてもこのスーツ、パワードスーツよりも着るのが大変だ。背骨に沿って電極シートを張り付けるのが特に厄介で、とてもじゃないが一人じゃできない。おかげで上半身裸の状態で若い娘と密室で二人きり、セクハラで訴えられないか心配だ。
地味子ちゃんは顔を赤くしながらも我慢して手伝ってくれている。最近鍛えてるから見られて恥ずかしいような貧弱な肉体じゃないが、自慢できる程でもない。ボディービルダーみたいに筋骨隆々にするためには、また違ったトレーニング方法があるみたいだな、いや、俺はやらないけど。
これが逆の立場だったら俺だって目のやり場に困ると思う。この会社はなんというか、その辺のデリカシーに欠けている気がする。この着替えがこれから毎日続くんだとしたら、地味子ちゃんもとんだ災難だ。
こんな仕事こそアンドロイドにやらせればいのに。
「痛くありませんか?」
最後に首のところのヘルメットとの接合部を慎重にロックしてくれる。気密性の高いパーツみたいだが、別に宇宙に行くわけでもなし、ぶっちゃけこの精度はまったく意味がない。本物の宇宙服と同じだから確かに見た目はカッコいいけどな。
顔が近くなったせいで彼女から控え目な香水の香りがする、これくらいだったら不快じゃない。でもこのままバイザーをおろすと移り香がこもってしまいそうだな、息苦しいのは苦手なのでとりあえず開けたままにしておくか。
防衛軍の女性達は任務中は消臭タイプの香水を使っていると言っていた。匂いってのは、たとえそれがいい香りであっても人間関係に様々なストレスを与えるものらしい。俺は潔癖症ってわけじゃないが、他人の使ったパワードスーツとか乗りたくないもんな。
スーツの重量は二十キロ以上ある。装着してしまえば重さは意外と気にならないのが救いだ。初めて耐Gスーツを着せられた時も驚いたが、ゲームでここまでする必要がどこにあるんだ?
コード類を地味子ちゃんに持ってもらい、えっちらおっちらと筐体に向かう。詰所から出てきたアリサ大佐に頭の天辺から爪先まで最終チェックされる。この娘はまたしばらく見ない間にずいぶんと厚化粧になった気がするな、もちろん口には出さない。
「ガーディアントルーパーズIIで本気でプレイヤーにこれ着せる気ですか? ゲーセンでこんなの無理ですよ。下手すると着替えるだけで一時間近くかかるんじゃないかな」
初めてで慣れていないのもあるだろうが、装着に三十分くらいかかってしまったからな。
“ガーディアントルーパーズ”の続編として“ガーディアントルーパーズII”が開発中らしい。すでに何週間も前からタケバヤシ君達はテストプレイを開始しており、俺だけが出張のせいで出遅れた形だ。
遅れを取り戻すために一週間の特別休暇を一日で切りあげて、さっそく今日から気合をいれてプレイしようと思ったのに、いきなりのスーツ装着で出鼻をくじかれてしまった。
「ガーディアントルーパーズII(仮)のコンセプトは限りないリアルなのだよ。開発段階でまず一度技術の限界にまで挑戦し、そこから不必要なものを省いていけば理想的な製品版が完成する理屈だ」
アリサちゃんは相変わらずずいぶん偉そうに説明してくれるよ。その理屈はわからなくもないが、ゲーム開発の手法としては大袈裟過ぎるだろう。
まあ、俺達の場合はスポンサーはビリー氏だからなあ、予算は青天井だ。国家予算規模のお小遣いを使えるゲームマニア様にとっては、開発でどれだけ赤字を出したところで痛くもかゆくもないだろう。カジノホテルの経営まで含めて趣味の延長なんだよな。大金持ちの道楽は常人とはスケールが違う。
「初出撃の前に一応忠告しておいてやる。ガーディアントルーパーズII(仮)では生還率が高く評価される仕様になっている。くれぐれも慎重に戦うように、機体の損傷には大きなペナルティを与えるからな」
生還を最優先しろって、米国製のミリタリーゲームなんかで最初によく言われるセリフだよな。戦果がなくても生還すれば次があるが、撃墜されればそれで終わりってやつだ。
初めて聞いた時は米軍は兵士の人命を尊重してくれて人道的だなと感心したもんだが、継戦能力を維持していくにはそれが合理的ってだけだった。エリートパイロットを養成するには時間も金もかかるからな。
だが、安全マージンを確保した戦闘は作業チックになりがちなんだよなあ。ミッション中心の展開ってことは、安全な狩場で経験値稼ぎをするようなプレイスタイルになるんだろうか?
そういったゲーム性も調整次第では面白くなる、のか? ゲームデザイナーの手腕次第だろうな。
「ところで、出張中に時間があったんで契約条項をチェックしてみたんですが、僕らがキャラになりきるのって、メディアの取材とかが入った時だけでいいみたいですよ」
樺太出張中はずっと素で通していたが別段問題はなかった。演技の必要がある場合は前もって取材者側からちゃんとリクエストがあるみたいだし、編集も入る。ずっと役になりきっているアリサ大佐が変なんだ。
「あ、あれ……そういう契約だったかしら。でも、ほら、普段からやっておかないと急なアドリブで困るかもしれないし、キャラ作りのためには仕方ないじゃない」
誰が決めたか知らないが、スタッフ全員のキャラ設定リストなんてのがしっかりあるんだよな。
それによると俺は寡黙なアウトローってことになっている。不機嫌な顔をしてずっと黙っていればそれっぽくなるから、演技は楽だ。喋らなくていいからアドリブも困らないな。キャラ作り? 何それ? って感じだ。
「アリサ大佐のキャラクター設定は……有能だがサディスティックな女性将校、ですか。確かに難しい役回りだとは思いますが、ずっと演技してるのは疲れませんか? 必要ないときはもっと気楽にいきましょうよ。せっかく美人さんなのに、ずっと怖い顔してるとかもったいないですよ」
彼女のなりきりプレイも最初のうちは面白かったが、常時あのテンションでやられると正直疲れるんだよなあ。
「何言ってんのよもう! 馬鹿ね!」
アリサ大佐は真っ赤になって怒り出す。どうも彼女にとって俺の提案は受け入れがたかったようだ。俳優の卵らしいし、きっとそれだけ演技に懸けてたんだな。俺はただ働きやすい職場環境を提案しようとしただけなんだが、思わぬ藪蛇になってしまった。
とにかくひたすら謝る。仕事仲間に好かれる必要はないが、嫌われると面倒事が増えるからな。
円滑な職場の人間関係か……黙ってお土産に樺太饅頭でも配っておけばよかったな、土産を買ってる時間なんぞなかったんだがな。そもそも樺太饅頭なんてものが存在するかどうかも不明だ。あ、そういや餃子があったか。確か残ってたのはリンリンが全部持ってったよなあ、賞味期限とか大丈夫だったんだろうか?
よっこらしょっと筐体に乗り込む。コード類は地味子ちゃんが接続してくれるのでお任せする。
筐体のレイアウトは基本的には以前と同じだが、パネルやレバーの質感がさらに高級感あふれるものになっている。無駄なところにもとことん金をかけるよな。いや、それで経済が回るんならこれも世のため人のためか。
「頑張ってくださいね」
地味子ちゃんがウインクして筐体を閉めてくれる。職場の雰囲気をよくしようといろいろ気を使ってるんだよな、なかなか大人だねえ。アリサちゃんにも見習って欲しいもんだ。
シンと静まり返った筐体の中に俺一人。防音も完璧みたいだ。
「あ、パイロットカード忘れたんだけど、なくても大丈夫かな?」
いつも財布に入れて大切に持ち歩いてるんだが、今日はパンツまで着替えさせえられたからな。うっかり脱いだ服と一緒に置いてきてしまった。
『仕方ないですね。次回まとめて処理しますから必ず持ってきてください』
どうやらガーディアントルーパーズII(仮)でもベティちゃんは健在みたいだな。融通が利くAIだから助かるよ、俺にとっては結構大事なことだ。
『あの、ストーリームービーがまだできてないんですけど』
「必要ない、どうせスキップするし」
『でしょうね』
ああいった演出は人によっては重要みたいだが、俺はただロボを操縦したいだけだからな。ストーリーとか世界観なんて邪魔なだけだ。メディアのインタビュー? どうせアウトローキャラだし設定なんか知らなくても困らないさ。邪魔する奴らは皆殺しだ。
ミッションブリーフィング画面もスキップしてゲームスタート、いきなり大地に立つ。どうやら発進シーンはなくなっているみたいだ。あれはお気に入りだったから製品版ではちゃんとつけて欲しい。
「武装選択もなしかよ。なんだよこの武器は?」
リンクスに装備されているのは鈍色のアスパラガスみたいな棒だけだ。デザイナーはおそらくSFチックな銃のつもりだったんだろうが、一度そう見えてしまったらもうアスパラガスにしか見えない。
『リンクスの初期装備となるビームガンソードBタイプです』
なんだよそのとりあえずつけたような名前は。俺なら……アスパラガンソード、いや、ソードアスパラガンにすべきか? ガンでソードなんだから近接戦闘にも使えるんだよな?
試しにトリガーを引くとビームブレードが形成される。普通にビームソードだけれど、これじゃ柄の部分が長すぎるな、長柄の刀みたいだ。ビームナガマキ……だと名前がかっこ悪いか。ビームナギナタ、ビームジャベリン……こんなのアスパラソードでいいか。
トリガーを離すと形成されているビームブレードがそのまま発射されて飛んでいく。シューティングゲームでよくあるチャージショットみたいな武器だな。この仕様だと近接戦闘で使い終わるたびにビームを飛ばすことになるのか、近所迷惑だよなあ。
分厚い手袋のせいでボタンが押しにくいかと思ったがそうでもない。むしろ前よりいい感じだ。機械式スイッチじゃなくなったみたいでクリック感はないが、思った通り確実に反応するから問題ない。パワードスーツと同じで、筋肉の電気信号を読み取ってるのかもしれない。
「しまった、ミッションの目的とか確認するの忘れた……ベティちゃん知ってる?」
出てくる敵を片っ端から倒すだけと思ってたんだが、周囲に敵が見当たらない。ちょっとこの展開は予想してなかった。
他のゲームでミッションブリーフィングをすっ飛ばして詰んだことも少なからずあるんだが、失敗から何も学んでいないな。まあ、ゲームで失敗しても失われるのは僅かな時間だけだしな。
このゲームに関しては、困った時はベティちゃんに聞けばいいと思ってたのもある。
『作戦目的は十万単位のマテリアルの回収。作戦時間は四十分ですね、もう三分経過しましたよ』
「時計はどこだ? 表示がいつもと違うからわかりにくいな」
俺がそう言うと、すぐに旧レイアウトっぽく修正してくれる。慣れてるから見やすいんだが、テストプレイでこれはいかがなものだろうか? いや、俺としちゃまったく問題ないんだけどさ。
とりあえずマテリアルとやらを探しにいかなくてはならないことはわかった。が、そのマテリアルはどこにあるんだ? いや、ミッションブリーフィングをすっ飛ばした俺が全て悪いんだけどな。
『マテリアルはエレメンタルユニットを撃破することで入手可能です』
「そのエレメンタルユニットってのはどこ?」
『ああ、ちょうど今発見しました。あれですね』
ズームしてくれる。なんだよ、お馴染みのクモ脚メカじゃないか。そういえば公式ガイドブックに書かれていたあいつらの正式名称はそんなだった気もする。ベティちゃんにはクモ脚で通じるから名前なんか気にしたこともなかったな。
かなり遠いが試しにロックオン……あれ? できないぞ。射程外でもマーカーは出るはずだが、そういうのもまったくない。ひょっとしてヘッドパーツがネコミミじゃなくなってるのか? ネコミミヘッドじゃない初期状態のリンクスは火器管制装置がついてなかったはずだ。
チェックしてみると、思った通りデフォルトのエイリアンヘッドに戻されている。IIになってなんかリンクスのデザインが全体的に生物っぽくなってるよ、ちょっとグロいかも。
アメリカ映画なんかにはそのまま出せそうなデザインだが、日本人ウケするかどうかは微妙だぞこれ。ロボのデザインに関しちゃ日本のアニメーターに任せておけば間違いないのに、ビリー氏はわかってないよなあ。
こうなるとネコミミヘッドのデザインがどんな感じに変更されてるかが気になるところだ。
他のロボのデザインもリニューアルされてるだろうが、他人のことはわりとどうでもいいな。
まあ、ロックオンできないのはわかった。銃が撃てなければ斬ればいいだけなので、とりあえずターゲットに接近していく。昔の人は言いました、銃がなければ剣がある。剣がなくても相手はザコだし、パンチやキックでもなんとかなるだろう。
「操作性もなんか細かいところでいろいろ変わってるな」
なんだろう、モーション開始時に一瞬のタメが入って、よりリアル感が増した感じだ。トータルでの運動性能は変わらないから、遅れを取り戻すためにトップスピードも上がってるんだろうな。よりメリハリのついたリアルな動きになったわけだ。
パワードスーツに乗ったことがある俺には、このモーションがあくまで作りものだとわかるが、知らない人なら本物のロボに乗っていると錯覚してしまうかもしれない。むしろこっちの方がリアルを超えたリアルっぽさがあっていい感じだ。
『以前のモーションに近づけてみましょうか?』
「いや、いい。これはこれで慣れれば楽しそうだ」
そういえばGも微かに感じるが、この程度なら肉体への負担などないだろう。ゲームなんだから最初からこうすればいいんだよ。最初に戦闘機並みのGをかけようとか考えた奴は頭おかしい……いや、ビリー氏のアイディアの可能性もあるし、批判はやめておこう。
上司に配慮できることも一社会人として必要なスキルだ。アウトローなのはあくまで運営が決めたキャラづけであって、現実の俺はしがない契約社員に過ぎないからな。ビリー氏が相手なら、俺は一片の迷いなく媚びることができるだろう。
ゲーセンバージョンでもGが体感できれば、それだけで結構話題になりそうだ。果たしてこのゲーム、ワンプレイいくらするんだろうな? 内容を考えれば一万円くらいとってもよさそうな気もする。
基本プレイ料金は高くても、腕さえ良ければそれ以上のリターンも期待できるようにしておけば、きっと皆が夢中になる。法律の問題とかありそうだが、ビリー氏の影響力をもってすればなんとでもなるだろう。
ガトIIが大当たりして、今後百年くらい続編が出続けてくれると嬉しいんだがな。
白っぽい岩肌が露出している谷間を走り抜け、ターゲットに近づいていく。向こう側にもう一匹いるのを見つけた。
相手はまだこちらに気づかない。あいつらはビームを撃ってくるタイプだろうか? ビームを飛ばすツノみたいのがついてないから、攻撃してこないタイプだと思うんだが、クモ脚メカのデザインも微妙に変わっているから断定はできない。
それにしても背景グラフィックまでもが前作以上にやたらリアルだ。開発スタッフは手抜きが下手なタイプなんだろう。俺はそういうところも嫌いじゃないが、ゲーム評論家からは技術力だけはある素人集団だと酷評されてるんだよな。
必要最小限に描写されたゲームの背景が、芸術的に見えるという意見には俺も賛成だ。だがそれは限られた予算とスケジュールの中から生まれた苦肉の策の結果であって、金も時間も有り余っているならまた違ったアプローチがあってもいいとは思う。
圧倒的なリアルは、それだけで強い説得力を持つ。白い岩がごろごろしてるだけの殺風景な谷間に過ぎないのに、リンクスを走らせていくだけで超楽しい。
アスパラソードの攻撃範囲に入る直前、クモ脚メカはやっとリンクスに気付いた。ビームは撃ってこないが、脚を振り上げて威嚇してくる。一応抵抗するようになったんだな、こいつ。
全体が透き通ったアメジストみたいな質感だ。前作だとここまでの透明感はなかった。関節もなくなって足の一本一本がシームレスに動くようになっている。これじゃタコかイソギンチャクだよなあ。
振り回される触手のような脚を回避しつつ、ビームブレードを発生させて振ってみる。脚を一本斬り飛ばしたら青い蒸気みたいなのが噴出した。
毒攻撃かと思って回避したのだが、ふわりとまとわりつかれてしまう。青い気体がリンクスに吸収されていき、モニターに何かのゲージが表示される。
「毒?」
『いえ、マテリアルの回収に成功しました。ミッションコンプリートです』
どうやらあの青い霧がマテリアルらしい。自動的に回収されるみたいだから、普通に倒せばいいのか。
脚を一本切っただけでクリアとか、最初のミッションとはいえイージーモード過ぎる。
「それじゃこいつはもう倒さなくていいのか?」
『いえ、倒してください。マテリアルはいくらあっても困りません。蓄積することで武装を実体化させることも可能です』
ベティちゃんが開いてくれたリストには、前作の倉庫に入っている筈の俺の武器コレクションがずらりと並んでいる。Xキャリヴァーもクラッシャーソードもちゃんとある。グレーで表示されているのは実体化に必要なマテリアルが足りていないってことだろう。なんだ、そういうルールなのか。
回収しきれなかった青い蒸気は、すぐに空中に拡散してしまう。傷口にできるだけ密着できるように斬りつけるのがコツみたいだな。
コアを破壊するとクモ脚メカ全体が青い粒子になって拡散を始める。中心にリンクスを飛び込ませると、面白いようにどんどん吸い込んでいく。
マテリアルのゲージがそれまでとは桁違いに伸びて、表示単位が変わってしまった。やはりコアは別格みたいだな。脚を一本ずつ切り落としていく方がいいのか、一撃でコアを潰した方がお得なのか? ちょうどいいからもう一匹で試してみよう。
相手の策敵範囲ギリギリまで忍び寄り、ダッシュ斬りの一撃でコアを破壊。拡散していく霧の中に迷わずリンクスを飛び込ませる。
『先ほどの倍以上回収できたようです』
「今のも少しロスしたけどな。そうか、コアだけを狙えばいいのか」
難易度の高いチャレンジの方が大きなリターンを得られる。納得いく仕様だ。
合計で一億近いマテリアルが確保できたので、バスターソードの実体化が可能になっている。どうせなら自己修復つきの武器を実体化させるのがお得なんだが、まずは試しだ。
実体化させてみると普通にバスターソードだった。こうして前作からアイテムの引継ぎができるというのはなんか嬉しい。
「こっちで実体化させたら、元のアイテムは消えるのか?」
『そうなりますね。一方通行になりますから貴重なアイテムの実体化は計画的に行ってください』
Xキャリヴァーは予備があるから大丈夫だ。一つしか手持ちがないのはクラッシャーソードとフライトユニットか。
そういえば機体強化アイテムの扱いはどうなるんだろう? 俺は既に使ってしまったから持ってないけどな。
「ひょっとしてラジエータ設計図とかは使わないでとっておいた方がよかった?」
『機体データは共有されていますので問題ありません』
そりゃいいな。テストプレイで強化アイテムを手に入れた場合には“ガーディアントルーパーズ”の機体もさらに強化されるってことか。
これじゃあ大会とかで随分不公平になるよな。強化アイテムなんてものが存在するんだから今更気にすることもないか。
前の大会じゃ、勝ち進む過程で強化アイテムが配布されたから対戦者の条件は同じだった。このままいくと次の大会は新規参入者には厳しいものになるだろう。
その前に運営が強化アイテムを一般配布するんじゃないかと噂されているが、どうなんだろうな。
「そういえばブラックボックスなんて意味不明のアイテムもあったよな」
『ブラックボックスのデータも共有されていますので問題ありません』
そうなのか。ってことはつまり、あれの中身は武器じゃないってことだな。
いつまでこのテストプレイが行われるのかは不明だ。おそらく製品版のガーディアントルーパーズIIにデータは引き継げるんだろうが、先のことはわからないしな。
現状不明な点も多いし、代わりのないクラッシャーソードはさすがに実体化できないよなあ。店売りのバスターソードで試したのは無難な選択だったな。
必要なくなったアスパラソードはインベントリに収納してしまう。普通にあると便利な機能だ。ミッション中に装備を変更できてしまうのはどうなんだろうとは思うが、出し入れにそれなりにエネルギーを消費する仕様なのでおかしなことはできないだろう。でなきゃ無限ガトリング砲とかできてしまうからな。
いや、待てよ。あらかじめ弾倉をインベントリから取り出して周囲に積み上げておけばいいのか。開幕ロケットランチャーのすごい版ができるよな。待ちプレイが圧倒的に強くなる予感がする、それはそれで熱い弾除けができそうだからまあいいか。タケバヤシ君とかきっと喜んでるだろうな。
さらなるターゲットを探してさまようが、一匹も見当たらない。ブーストジャンプで山の天辺まで飛び上がってみる。不用心な行動だが、相手から攻撃してくれれば位置がつかめるしな。
クモ脚は見当たらないが、遠くに海が見えた。グランドキャニオンかと思ってたらドーバーの白い崖だったな。残り時間も少ないし、今回はこれまでか。
夕焼けなのか、水平線付近はピンク色に染まっている。ん? 太陽が二つあるぞ。SFじゃお馴染みの二連星太陽じゃなく、あっちとこっちで照り輝いている。デザイナーが奇をてらったんだろうが、やっちまったなあ。SF板で科学的考証がどうとか思いっきりツッコまれるぞ。ゲームだからの一言で片付くんだけど、それを言っちゃおしまいだ。
ミッションはクリアしているから帰還を選んでも問題ないんだが、せっかくだからギリギリまで山頂からの絶景を楽しむことにする。クモ脚がひょっこりポップするかもしれないしな。
作戦時間が終了しモニタが暗転、リザルト画面になる。マテリアルを十万納品すればミッションコンプリートだ。スコアポイントが加算される。
前作ではスコアポイントがゲーム内通貨的な位置づけだったが、マテリアルが加わったことでややこしくなったな。
だが、実質的なゲーム内通貨が複数存在するゲームは珍しくない。宝石やコショウ、エリクサーなど、高価で数をため込めるアイテムならなんでもかまわないんだよ。
通貨がカンストした場合の対策や、デスペナの回避等々、それぞれのゲームシステムに合わせていろいろ工夫するのも楽しいもんだ。
マテリアルという新要素が加わってゲーム性がどうなるのか、判断するのはまだ早いか。
マテリアルはいつでもスコアポイントに交換することができるようだ、その場合のレートは1対1になる。今回のミッションはマテリアルで十万納品して、クリア後のスコアポイントが十二万ちょいになったから、二割ほどお得か。
スコアポイントでマテリアルを購入することもできるが、その場合のレートは変動するみたいだな。現在は2562対1らしい。要するにマテリアルの方がずっと価値が高い、あるいは品薄ってことだよな。
これだとスコアポイントに交換すると大損してしまう、このままため込んでおこう。問題はマテリアルの上限が低く設定されているパターンだ。その場合は溢れる前にスコアポイントに交換しないともったいないことになる。
「マテリアルってどれだけストックできるんだ?」
『その質問にはお答えできません』
ベティちゃんがそっけない。自分で攻略しろってことか、一度カンストするまでため込んでみるしかないか。
テストプレイで稼いだスコアポイントもリアルマネーに換金できるみたいだ。その場合のレートは1ポイント1米ドル……いや、これだとおかしくないか? ヌルいミッションをクリアしただけで一千万円以上もらえるじゃないか。
これはバグ、いや、設定ミスか? 多分、ドルと円を間違えてるんだ。テストプレイはデバッグも兼ねてるんだから報告すべきだろうが、まあいい、気づかなかったことにして今のうちに一万ドルほど換金しておこう。さすがに百万ドルは良心が咎めるが……やるか? やっちまうか?
気になるのは機体損傷のペナルティだよな。アリサ大佐がわざわざ注意するくらいだし、かなり厳しいんだろう。今回は無傷だったからペナルティの重さが実感できないが、機体修理に必要となるスコアポイントが前作より大幅に増やされたみたいだな。
いや、待てよ。前作ではワープアな俺はリンクスの自己修復能力を上手く使って、修理費を払わずに済ませていたんだ。IIでも同じ手が使えるなら、撃墜されない限りスコアポイントは消費しない、事実上ペナルティなしでいけるじゃないか。
ベティちゃんにその辺どうなのか確認すると、やはりお答えできませんときた。後でタケバヤシ君でも捕まえて聞いてみるか。