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俺のロボ  作者: 温泉卵
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頭文字G

 なるべく重心を動かさないように、すり足でそっと敵に近づく。足の裏を地面に擦ってしまうとゴリゴリするので、ほんの僅か浮かせながら前に出すのがコツだ。

 

 斬撃が強力な実剣とは違い、ビームソードは振りまわすと威力が激減してしまう。突きでビーム粒子をピンポイントに絞るのがコツだろうな。できるだけ機体を揺らさないように、間合いに入ってからそっと押し付けるようにビームを発生させる。ザリザリっと砂でも噴出すような反動。飛び散る火の粉っぽいのが多分ビーム粒子だ。クモ脚メカくらいなら破壊に一秒も必要ない。すり足のまましずしずと次の目標に向かう。

 

 ここ数日、重力制御装置に対応するため今まで以上に細かい操作をしている。優秀なベティちゃんのサポートのおかげで案外なんとかなるもんだ。

 

 リアルな揺れが加わったため、プレイを開始して最初の十分程は臨場感があってすごく楽しい。だが、半時間もしないうちに乗り物酔いしたみたいに気分が悪くなってくる。一時間以上の連続プレイは苦行でしかない。

 

 複雑な動きをするロデオマシーンに乗っているようなものだからなあ。自分が操縦しているからこれでもまだマシなんだと思う。

 

 一日中プレイを続ける場合、多脚戦艦を倒した辺りでゲームを中止して二時間ほど休憩を入れ、再び一面からリスタートというパターンが楽だ。

 

 あまりがっつり食べると悲惨なことになるので、軽くおやつなどをつまみ、昼寝などもはさみながらまったりプレイしていたんだが、どうも上の方はもっとハードなプレイをお望みだったようだ。

 

 後半のステージを中心にスコアポイントがどんどん上方修正されている。無理をすればする程稼げるゲームバランスになってきた。

 ステージ7までクリアすれば余裕で五十万ポイントを超える。換金してもいいし、オークションに出品されるレアな武装を買い漁ってもいい。

 

 スコアポイントというニンジンをぶら下げられて、ドナルド氏の手のひらの上で上手く踊らされてる気もするが、苦労しただけ報われるシステムはわかりやすくていい。少なくとも前の会社に比べればずっとマシだろう。

 

 十分の一Gの設定をさらに半分程に調整してもらったが、酔うという点ではそう変わらなかった。おそらく俺の三半規管の問題なのだろう。スケート選手なんかは訓練で克服するらしいから、しばらくは耐えるしかなさそうだ。

 

 今でも最初に比べればかなり慣れてきたと思う。ゲーム中のリンクスの動きにシンクロすればする程、乗り物酔いは軽くなる気がしている。逆に筐体から降りた時の感覚がおかしくなり、無意識にゲーム中のリンクスみたいにすり足でしずしず歩いてたりする。こうなるとリンクスが人型でまだよかったかもしれない。



 体力と気力を温存するために、ステージ6まではビームソードとビームガンで進む。店売りのCAP03とBAR44だ、通称“三式セーバー”、“ヨンヨンビームガン”で知られている定番商品で、下手なドロップアイテムより高性能なのが嬉しい。耐久が減れば気にせず使い捨てにできるのが実にいい。

 

 リンクスには“リンクス専用チョバムアーマー”を装着してある。店売り品とドロップの二種類が存在するが、ドロップ品は入手条件が不明とされていてオークションにも滅多に出ない。店売り品との違いは自己修復機能の有無と耐久値だ。戦闘中にパージする前提なら店売り品の方がいいだろう。

 

 チョバムアーマーを装着すると、耐久力と防御力が向上し、機体の運動性能が低下する。被弾しなければ意味のない装備なので俺は使ってなかったが、こいつを装着すると動きがマイルドになって揺れ対策にはいい感じなのだ。

 

 前半ステージでは、なるべく緊張感を持たずに平常心でのプレイを心がける。敵の動きが見切れていれば、のろくてもまず当たらないものだ。とにかく手を抜いて楽にクリアしなければ体が持たない、ザコ相手は半分居眠りでもしながらプレイするくらいの感覚でいきたいものだ。

 

 殲滅速度が低下するので、ステージ2でもクモ脚メカに囲まれてしまう。飛んで来るビームを軽く首を傾けて避ける、体感的には拳銃弾よりやや遅いくらいだ。聞けば拳銃の弾は意外に遅くて、時速700km程度らしい。でもまあ、リンクスの身長が俺の六倍程度だと考えれば、700×6で時速4200km、それなりに速いのか。

 

 いずれにせよ、ビームを見てから避けてるようじゃ話にならない。アキラとの死闘で学んだことは多かった。先読みを明確に意識するようになって、切り払いに頼ることも少なくなくなった。

 

 まあ、ザコ相手だと先読みなんかしなくても撃たせて避けるだけでいい。クモ脚メカのAIは素直なので、こちらの誘いに確実に反応してくれるのだ。こいつらの相手は疲れなくて本当にいい。

 

 ステージ3のカニメカも単純だ、ハサミの攻撃を誘っておいて、ギリギリかわしながらビームソードを急所に伸ばすだけでいい。半年前はこいつに手こずっていたと思うとなんだか懐かしい。

 

 多脚戦艦は弾幕をパターン化させて撃たせるのがコツだな。ブースト移動しながらチョイチョイと機体を横滑りさせてやれば、無傷で腹の下の安全地帯に滑り込める。

 

 油断しすぎてミサイルを引っ掛けてしまい、慌ててチョバムアーマーをパージする羽目になったことも一度ならずあった。まあ、俺もまだまだってことだな。

 

 Xキャリヴァーなら一突きでけりがつくんだが、三式ビームソードでも十秒も押し当ててやれば装甲を貫ける。あとはリアクターにビームガンを三連射すれば終わりだ。

 

 クリア報酬で“リンクス専用チョバムアーマ”が出た。店売りの“リンクス専用チョバムアーマー”を装備した状態で、無傷でステージ4をクリアすれば高確率で出るようだ。アイテム名から察するに、第一発見者はかなりの面倒くさがりなんだろう。店売り品と同じ名前をつけて登録しようとして駄目で、最後の一字を削ったんだ、きっとそうに違いない。俺だったら“超万能アーマー”とかにしたのに。

 

 ドロップ品の方は運動性能の低下がほとんどないため、俺の目的には使えない。耐久値は店売り品の方が大きいので、上位互換というより用途が違う別の装備と考えた方がいいかもしれない。

 

 出たのはこれで四つ目だ、オークションに出品すれば儲かりそうだが、アリサちゃんの許可待ちだ。パイロット“ザック・バラン”のイメージを壊さないこと。というのも契約の条件にあるらしい。レアアイテムの大量出品で荒稼ぎとかは……多分、許可がおりないだろうな。

 

 ステージ5からはさすがに居眠りしながらじゃ無理になる。サジタリウスの思考ルーチンはなかなか複雑で、ワンパターンには持っていけないからだ。専用筐体バージョンはAIがかなり強化されている。

 といっても一機しかいないのでまだ楽だ。ビームガンを適当に撃ちながら適当に接近し、適当にビームソードでトドメをさすだけだ。今の俺なら倒すだけならなんてことはない。

 

 今の俺の課題はいかに機体を揺らさないかということだ。重力制御装置のせいで、無駄な動きをすればそれだけ乗り心地が悪くなる。とにかく急な動きをしないこと、一手も二手も敵の先を読まないとこれがなかなか難しい。

 

 そういえば昔の映画か何かで、武道の達人がコップを頭にのせて、入れた水をこぼさないように戦っていた。とりあえず今の俺が目指すのはあんな感じかな。

 

 CPUサジタリウスの弾幕を穏やかなステップでかわしながら、牽制で撃ったビームガンがたまたま敵の頭部センサーにダイレクトヒット。一発分のビーム粒子が全て吸い込まれたように見えた次の瞬間、頭が丸ごと吹き飛んだ。

 

 今のは少し爽快だったな。こういうのを見るとビームの威力も案外あなどれないと思う。


 そういえば敵に近づく前にビームガンで倒してしまうことも、以前に比べれば多くなった。ロックオンしないで、長いビームソードだと思って使っているとたまに当たる。今日なんか二十発に一回くらいは命中してる。

 

 ステージ6に出て来るスキュータムとトーラスの二機は、一般の筐体でプレイするより明らかに連携して攻撃して来る。

 

 俺としてはやることはステージ5と変らない。まずはスキュータムの相手をする。トーラスの存在は頭の隅にだけ置いて、たまに撃って来るビームだけを最小限の動きで避ける。

 

 スキュータムはこちらの攻撃を的確に盾で防ぎ、ビームガンを正確に撃って反撃して来る。動きだけならTOP16の連中と比べてもそれ程見劣りしない。ただ、CPUはあくまでスキュータムとして合理的に動くので読みやすいんだよな。たまに失敗でもされる方が、予測できない分厄介だと思う。

 

 重いチョバムアーマーを装着するとスキュータムより運動性は落ちてしまうため、逃げモードに入られると追いつけないが、二対一の間は積極的に戦おうとしてくれるので問題ない。切り結びながらこつこつとスキュータムの脚部にダメージを与えておく。

 ビームソード同士のチャンバラだと、基本的にはお互いにすり抜けてしまうが、剣を合わせる角度によっては一方的に切り払えたりもする。ここのスキュータムはちょうどいい練習台だ。

 

 助太刀に来たトーラスが後ろから牛砲で殴りかかって来るのを待って、カウンターで返り討ちにする。一機残されたスキュータムが逃げモードになっても、足を壊してあるので難なく追いつける。ワイヤーアンカーを引っ掛けてたぐり寄せ、ソードでトドメをさす。

 

 ふう、スキュータムとの白兵戦ではさすがにかなり揺れてしまった。気分が悪くなる程ではないが、もう少しスマートにできないものかな。

 

 インターバルで武装を変更、ここからはクラッシャーソードの出番だ。

 

 ステージ7の水中戦からは結構厳しい。水中を泳ぐ感覚は気持ちいいのだが、直撃でなくても水中ミサイルが近くで爆発すると衝撃がズンと腹に来る。

 

 耐久力の高いクラッシャーソードを盾に使う。理由は単純で、切り払うより揺れないからだ。元になったXキャリヴァーが盾並みにでかいので、使い勝手はいい。

 

 インパクトの瞬間に剣にエネルギーを流してやると、どういうわけかほとんど剣の耐久値が減らない、場合によっては回復することさえある。削られた分の耐久値を瞬時に回復してるんじゃないかと推測してるが、エネルギー消費が半端ないのがネックだ。

 

 クラッシャーソードはビームの刃が発生しなくなってしまったので、その代替措置かもしれない。攻めのXキャリヴァー、守りのクラッシャーソードって感じかな。名づける前に知ってればマモリーブレードとかにしたんだがな。

 

 水中での移動にはワイヤーアンカーを多用するが、これが絶叫系マシーンに乗ってるみたいでオジサンにはなかなか疲れる。そういえば今年でついに三十か、これで俺も立派なオジサンだよなあ。

 

 重装甲のキャンサーも、クラッシャーソードで殴りつければ一撃で沈む。刃を滑らせて斬るだけでなく鈍器的にも使えるのがいいところだが、この剣ばかり使ってると腕が鈍るかもしれない。

 

 問題はここから先だ。

 

 スコアポイントが桁違いに上方修正されたため、なかなかオイシイのではあるが、ステージ8以降はしばらくランダムステージが続くのだ。

 

 基本的な難易度が酷く上がるのに加えて、状況に合わせた装備の選択ができないのがさらに厄介だ。

 

 必要なければパージすればいいだけなのでチョバムアーマーは装備しておく。ここから先はスコアポイントが大量に入るのでケチる必要はない。


 武装は捨てるの前提でバスターソードとヨンヨンビームガンが無難なところだ。

 

 今のところ体調は悪くない。クリアできればステージ8だけで軽く百万ポイントは手に入る、気合を入れて頑張ろう。

 

 モニターに赤茶けた渓谷が表示された瞬間、武装選択をミスったと悔やむ。

 

 よりによってクモ脚無双ステージだよ。俺が勝手に名づけた。

 

 ステージ1に似たマップにこれでもかというくらいクモ脚とカニメカがひしめいている。時間制限さえもうちょい緩ければ、ここはおいしいボーナスステージなんだけどな。

 

 スタートと同時にチョバムアーマーをパージ。バスターソードの突きで一体、ビームガンの三連射で一体を破壊。バスターソードを斜めに構えてブーストダッシュでクモ脚をなで斬り。ブースト終了時に片足で地面を擦ってわざとバランスを崩しスピンをかけて回転斬り、ビームガンのクールタイム終了のタイミングと同時に再び三連射を急所に撃ち込んで一体破壊する。

 

 思考ルーチンはかなり強化されているが、所詮はクモ脚、とにかく弱い。問題はクリアの条件が敵の全滅で、時間制限が厳しすぎることだ。一秒に三体以上倒さないと間に合わない計算だ。

 

 Xキャリヴァーかクラッシャーソードを装備していれば楽勝でクリアできる。それ以外の武装だと厳しい。ヨンヨンビームガンだと単射では惜しいところで削りきれないため三連射で倒しているが、そうするとクールタイムが長くなって数を倒せない。

 

 このステージ、チート級に攻撃力の高いXキャリヴァーが使えるリンクスだからまだやりようはあるが、防御特化タイプのスキュータムとかだとクリアはほぼ不可能じゃないか? 作った奴は自分でちゃんとプレイしたんだろうな? ゲームバランスの悪さにはいい加減慣れたが、さすがにクリアできないゲームを作っちゃマズイと思うんだ。

 

 クモ脚は同士討ちの可能性があるとビームを撃たないので、群れの中に突入して暴れまわるのが一番安全だったりする。カニメカも混ざっているが、バスターソードならどのみち一撃だ。回避を捨ててひたすら攻撃に専念する。楽しいことは楽しいんだが忙しくて目が回りそうだ。

 

 敵が密集している場所は効率よく潰していけるが、遠くにパラパラと散っている奴らがどうしても残ってしまうなあ。あんなのどうすりゃいいんだよ? 射撃がマシになってきたとはいえ、距離があるとそうそう当たらない。

 

 ブーストダッシュとワイヤーアンカーを駆使して、レースゲームかと思うようなコース取りで激走しながら潰していくが時間切れでゲームオーバー。

 

 くそ、倒しそこなった敵がまだ二ダースは残っていた。

 

 集中している間は気にならなかったが、戦闘が終わると一気にきた。うー、気分が悪い。胃袋がシェイクされて裏返ったかもしれない。

 

 よろよろ筐体から這い出すと、隣のブースに竹林君がいるのが見えた。一緒にいる軍服のコスプレをした美少女はアンドロイドだな。彼も俺みたいにドナルド氏にスカウトされたんだろうか?

 

 俺もアンドロイドが担当の方がよかったよ、アリサちゃんはいろいろ濃ゆくてちょっと苦手だ。さすがに二十四時間勤務ではないらしく、時間帯によっては大会の時に見た覚えのある別のコンパニオンさんの時もある。あの娘達もバイトなんだろうか? ほとんど待機しているだけとはいえ、彼女達の仕事は下手な正社員よりも拘束がきついと思う。

 

 俺も実質この島に軟禁状態なんだし、他人の心配をしている場合でもないな。俺の場合はテロリストに狙われているらしいから仕方がないが、完全にホテル引き篭もり状態だ。すぐ近くにショッピングモールからレジャー施設まで大抵のものは揃っているので特に不自由はないのだが、移動の自由がないというのは空恐ろしくもある。社畜生活も地獄だったが、ここもある意味では別の地獄かもしれない。

 

 機会があれば、同じ境遇の竹林君ともゆっくり意見を交わしてみたいものだ。

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