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俺のロボ  作者: 温泉卵
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迫撃! 二人だけ

 

「マトリョーシカだって? お前達またあれをやるのか」


 しばらく姿を見ないと思っていたら、リンリンが樹脂製のコンテナを積んだ大きな台車を転がして厨房の奥から出てきた。

 

「じゃーん、ビッグボスからのクリスマスプレゼントだぜい」


 コンテナの中は銃や防弾装備でいっぱいだ。男の娘達が歓声をあげて飛びつく。オモチャに群がる子供みたいだ。

 

 ああそうか、彼女は食材搬入用のエレベーターを使って外部と連絡をとってたんだな。

 

「マトリョーシカアタック三人まとめて三千万ドルだって? それくらいいいんじゃない? 治療費も保険もまとめて全有りだ、景気よくパアッーっといこうや」


 隊長クンを差し置いてリンリンが勝手に仕切ってる。こいつにそんな権限があるのか? まさか、どうせ皆死ぬからハッタリかましてるんじゃないだろうな。

 

「こいつを使うか?」


 リンリンが小型のグレネードランチャーみたいなのをコンテナから取り出す。


「至れり尽くせりね、助かるわ」


 どうやらマーシャが使うみたいだ、右手にプラニコフ、左手にグレネードランチャーってわけか。映画なんかじゃグレネードランチャー付きのアサルトライフルも登場するが、ああいうのって使い勝手はどうなんだろうな? 見た目は強そうでカッコいいけど、なんでも機能をまとめればいいってもんじゃないだろう。グレネードランチャーの装弾数が一発しかないことを考えれば、撃った後のランチャーは捨ててしまえる方が軽くなっていいと思う。

 

「私はこれでいいわ、ロシア製じゃないけど悪くないわ」


 ガリーナは隊長クンの持ってたのと同じサブマシンガンを両手で二丁使うつもりのようだ。

 

「おい、P90じゃ奴らには効果ないぞ」


 経験者は語る、か。武器の山を目にしても隊長クンはまだ浮かない顔をしている。


「仕方ないわね、企業秘密だけど特別に教えてあげるわ。どんなボディアーマーも脇の下は無防備なものよ、腕が動きにくいのは皆着るの嫌がるから」


 ガリーナの言葉に、隊長クンの瞳に闘士が戻る。脇の下を狙うのだって相当難しいと思うんだけどな。

 

「弱点はあるってことか、よし、リベンジだ」


 ガリーナの真似をして隊長クンも二丁サブマシンガンでいくつもりみたいだ。両手に銃を持つのって強そうには見えるが、人間のパワーじゃ重すぎて扱いにくいんじゃないだろうか? 弾倉の交換だってやりにくいと思うんだが。


「いいかよく聞け野郎ども、奴らの首一つで百万ドルだ。パパからのクリスマスプレゼントだと思ってしっかり稼げよ!」


 リンリンのよく通る声が展望レストラン全体に響き渡る、味方の士気が一気に高まるのを感じる。こんなふうに場の空気を簡単に変えちまう奴っているんだよな。


 リンリンが百万ドルの賞金の話をしただけで、狩る者と狩られる者が一瞬で逆転したようだ。命の値段が一億円ちょいってのは安いような気もするが、賞金首の相場としてはどうやら破格みたいだな。

 

「エレベータの方にマトリョーシカアタックをかけるわよ。マーシャ、援護を頼む、オリガは残ってて」

 

「それじゃ、ベランダの連中は私たちがもらった。命が惜しくない奴はついて来な」


 あれ? オリガは留守番なのにマトリョーシカアタックは三人分の料金をもらえるのか? 彼女は治療を担当するポジションなのかもしれない。そういえばカマイタチって三匹セットの妖怪は、一匹目が人を倒し、次がカマで切り、三番目が薬をつけてくれるんだよな……カマイタチは日本の妖怪だ、ロシアのマトリョーシカとはまったく関係ないと思う。

 

 瞬く間にてきぱきと装備を整えた連中が、スタート位置につく。俺は邪魔にならないようにオリガとお留守番だな。

 

 俺みたいな素人がノコノコ出て行っても、役に立たないだけじゃなく、味方の足を引っ張る可能性が高い。その辺のことはいろんなゲームで学習済みだ。戦闘で出しゃばる素人はただの馬鹿だ、自分の出番が来た時に迷わず動けるように心の準備だけしておけばいい。

 

 俺とオリガの他に、料理人の爺さんと負傷した警備員、手首を挫いたという男の娘が残る。生臭坊主は隅っこに転がされたままだ、気を失ったまま死ねるのはある意味幸せかもしれない。

 

「目を閉じて、耳も塞いだ方がいいですよ」

 

 オリガに言われて真似をする。次の瞬間、ものすごい閃光と轟音。

 

 光の方は厨房まではたいして届かなかったので、目を閉じていればどうってことはなかった。轟音の方が深刻で、頭の芯にキーンと来た。耳がおかしくなって音がよく聞こえない。

 

 こんなのまともにくらった連中はたまったもんじゃなかっただろうと様子を窺う。どうやらエレベーター前の敵にマーシャがさっきのグレネードを撃ちこんだみたいだ。

 

 暴徒鎮圧用のスタングレネードは知っている。機動隊が使っているのをニュースで見たことはあるが、想像以上にすごい。

 

 スタングレネードを合図に味方は突撃を開始したようだ。あれだけの閃光と轟音の直後にみんなよく平気で動けるもんだ。

 

 エレベーター前のテロリストたちはかなり動きが悪くなっているが、それでもめげずに抵抗している。スタングレネードを至近距離でくらえば動けなくなるらしいが、ゴーグルである程度防いだようだ。すでにガリーナは単身でバリケードに乗り込んで銃を撃ちまくっている。狙いもつけずにひたすら乱射しているように見えるがそれでいいみたいだ、浮き足立って姿を見せたテロリストをマーシャが遠くからプラニコフで確実に仕留めていっている。

 

 ガリーナはバレエでも踊るようにぐるぐる回りながら銃を撃ち続ける。何発も被弾している筈なのに、平気で乱射を続けている。タフなのか急所を外れているのかどんなに弾を浴びても倒れない、バレエっぽい回転運動に何か秘密があるのだろうか? 弾切れになったらしく片方の銃は捨て、素早く弾倉を交換してまだ撃ち続ける。

 

 最後のテロリストの頭を、マーシャが放った劣化ウラン弾がヘルメットごと貫通する。まったくチートすぎる威力だな。ガリーナの方は派手に暴れまわってたわりに、ほとんど敵を倒してなかった気がする。

 

 どのへんがマトリョーシカなのかは謎だ、単なるゴリ押しの強襲にも見えた。だけどまあ、命知らずのガリーナと凄腕のマーシャのコンビネーションはとにかくすごかった。

 

 一方で、ベランダの方は無謀ともいえる突撃だった。すでに何人かの男の娘たちは床に倒れている。他のバリケードから駆けつけてくれた援軍にも大きな被害が出ている。


 そんな中で、隊長クンが意外な頑張りを見せていた。降り注ぐ弾丸の雨をかいくぐり、勇敢にテロリストに反撃している。弱点だと教えられた脇の下をひたすら狙い、すでに一人倒している。二丁のサブマシンガンの反動を上手く押さえつけている、使いこなせれば火力は二倍だから普通に強いな。こうして見ると彼の身体能力は超人的だ、俺なんかとはまるで比べ物にならない。若くして隊長に抜擢されるだけのことはある。

 

 リンリンはというと、他の連中が攻撃されている間にちゃっかり敵の懐に肉薄している。

 

 味方を囮に使ったな。褒められた行為じゃないが、簡単に狙ってできることじゃない。何しろ彼女が一番敵の近くにいるんだ。敵が他の味方に気をとられた隙に、気配を消して忍び寄ったのか。あいつの方がニンジャマスターみたいじゃないか。

 

 リンリンの武器は片手の拳銃のみだ。いつもの蛍光色のプラのじゃなく、ちゃんとした金属製の銃のようだが、サブマシンガン装備の他の連中に比べれば貧弱な武装だ。あいつめ、多分わざとだ。強力な武器を持っていれば敵から真っ先に狙われるからな。


 リンリンは敵のバリケードを逆に遮蔽物として利用して、夢中で銃を撃っているテロリストの真下まで忍び寄ると、軽業師よろしくえびぞりで獲物の襟首を捕まえる。不意をつかれた相手はバランスを崩して一気にバリケードから引き摺り落とされた。

 

 生け捕りにしたのかと思ったが、ゴーグルを引き剥がして躊躇なく拳銃で額を撃ち抜く。まったく恐ろしい女だ、敵でなくて本当によかった。

 

 頭上で弾丸が飛び交う中、悠然とテロリストの装備に着替えるリンリン。味方からは丸見えだが、テロリスト側からは死角になっていてまったく見えてないようだ。

 

 テロリストの装備に着替え終わると、普通にバリケードに戻っていき、味方だと勘違いしたテロリストを至近距離からプラニコフであっさり皆殺しにしてしまった。

 

 あっけないものだな、というか、リンリンのやり口が無茶苦茶すぎるだろう。味方を囮にして賞金首を独り占めか、あいつはまだまだ生き残る気でいるみたいだな。

 

 味方の被害も少なくないが、このフロアのテロリストは全滅した。いよいよ屋上に乗り込むのか。

 

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