表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺のロボ  作者: 温泉卵
34/113

マリオネットは傷つかない

「ねえ、あれ」


「使えそうね、回収できないかしら」


 ガリーナとマーシャが目をつけたのは、床に撒き散らされた料理、の中で倒れているテロリスト、の持っていたプラニコフだ。

 

 なるほど、強力な敵の武器を回収して使おうというのか。いわゆる鹵獲兵器ってやつだな。

 

 だが、落ちている銃を拾いに行くには、敵のまん前に出て行かなければならない。


 何故か二人とも俺を見る、まさか拾いに行けっていうんじゃないだろうな。敵はフルオートのショットガンなんてふざけた武器を持ってるんだぞ。

 

 アサルトライフルだけなら初弾から当たることは少ない、あれは撃つ方も一発目から当てる気はないみたいだけどな。

 

 最初の着弾を見ながら誤差を修正して、三発目くらいから本気モードで当てにくる。タンタンタタタンって音の後半のタタタンが危険なわけだ。


 敵の狙いはあまり正確とはいえないが、それだけに回避してもまぐれ当たりする可能性が高い。しかも相手の銃は一丁だけじゃない。


 敵の陣地の配置だって味方にとっては最悪といっていい。床に転がっているプラニコフを拾いに行けば敵の十字砲火に晒されることになる。十字砲火、クロスファイアってやつだ、これは本当にヤバイ。

 

 たとえCPUの雑魚敵相手でも、位置取りを間違えて十字砲火に飛び込んでしまうとボコられてしまうくらいだ。弾幕回避は楽しいが、あれだって十字砲火を受けないポジショニングが基本だ、俺だって反射神経だけで何でも避けてるわけじゃない。

 

 銃を拾いに行くシーンを何度も脳内シミュレーションしてみるが、蜂の巣になる未来しか見えない。ゲームみたいにブースト移動が使えれば話は別だけどな、そもそもワイヤーアンカーが使えれば落ちてる銃くらい簡単に引っ張り寄せれるんだよ。

 

 何でもゲームで考えてしまうのはよくない癖だが、リアルの銃撃戦なんて今まで縁がなかったからな。まあ、ゲームだって一種の戦闘シミュレーションなわけだし、多少の参考にはなるだろう。

 

 緊急事態にこそ、いろんな知識と経験から柔軟な発想をひねり出すことが重要なのだ。

 

 柔軟な発想ねえ……何とかアイディアをひねりだそうと唸っていると、たまたま給仕用のアンドロイドと目が合った。


 外部との通信手段はテロリストに妨害されているみたいだが、厨房の監視カメラとアンドロイドには今のところ異常は出ていない。この階専用の独立したシステムで動いているのかもしれないが。

 

 待てよ、こいつは使えるかもしれないぞ。銃を拾いに行くのに、何も俺自身が弾幕に飛び込む必要はないわけだ。

 

 

「そんなマネキンみたいのが役に立つの?」


 防弾ベストを着せたアンドロイドを、マーシャが疑わしそうに見る。一応細工はりゅうりゅうだ、後は……やってみなくちゃわからない。

 

「頼んだぞ」


 アンドロイドは俺の言葉に頷くと、厨房を飛び出す。テロリスト達は油断していたようで、最初の銃撃までに少し手間取ったようだ。おかげで貴重な数秒の時間が稼げた。

 

 走るようには設計されていないアンドロイドの決して素早いとはいえない動き。だが、不思議と弾は当たらない。

 

 俺が指示したわけでもないのに、一応回避運動もしながら早歩きで進んで行く。あれ? このパターンはどこかで見た覚えがあるな……リンクスの自動回避パターンにそっくりじゃないか。

 

 よく考えたらベティちゃんもここのアンドロイドも同じ系列の企業で製造されたわけだし不思議はないのか? まさか、このアンドロイドはサーバー経由でベティちゃんが操作してるとかじゃないだろうな? それだったらかなり期待できるんだが。

 

「へえ、ロボットもなかなかやるじゃない」


 マーシャが感心するのも無理はない、ゆっくりした動きだが、すでに数十発は回避に成功している。


 だが、さすがにテロリストも本気を出したようだ、弾幕を厚くして面制圧に切り替えてきた。あたりかまわず降り注ぐ銃弾に次々と被弾箇所が増えていく、それでも止まることなくアンドロイドは歩き続ける。

 

「さすがロボット、全然効いてないわ」


 ガリーナが子供のように歓声をあげる。


 効いていない、というより、弾がスカスカのボディを素通りしていってるだけなんだけどな。この手のアンドロイドは金属製のフレームにヌイグルミをかぶせている構造で、中身はゴムかスポンジが詰まってるだけだ。弾が基板とバッテリーにさえ当たらなければ致命的なダメージにはならない。

 

 一応重要なパーツには防弾ベストから抜き出したゲルパックを幾重にも巻いておいた。毛利元就じゃないが、一層じゃ簡単に貫通されるゲルも、三層重ねれば少しは役に立つ、かもしれない。

 

 防弾ゲルのご利益があったのか、アンドロイドは落ちているプラニコフまでたどり着き、銃にアルミ製のカラビナを引っ掛けるのに成功。俺は心の中でガッツポーズする。

 

 役目を果たしたアンドロイドは、銃は拾わずにそのままテロリストに向かって進み続ける。

 

「拾いに行かせたんじゃないの?」


「まさか、自爆攻撃?」


 テロリスト達もそう思ったのかもしれない、射撃が一層激しくなる。自爆なんてできないのにな、まあ、バッテリーが至近距離で爆発すればそれなりに危険か。だが、そんな効果は狙っていない、あのアンドロイドはあくまで囮だ。

 

 敵も味方も皆アンドロイドに気をとられている、そろそろいいだろう。

 

 手元の糸巻きを引っぱる、料理のデコレーションを固定するのに使う極細の絹糸、本物の蚕の吐いた糸で食べてしまっても害はない。目に見えない程細い糸の先はもちろんプラニコフに引っ掛けたカラビナに結ばれている。

 

 手品でよく使われるミスディレクションというやつだ、囮の動きに注意を引き付けている間にこっそりタネを仕込むのだ。仕掛けは単純だが、上手くできれば魔法のような効果がある。

 

 昔、実家で飼ってた猫がミスディレクションの達人だった。尻尾の先をピクピクさせて蛇と俺の目をひきつけた瞬間に、目にもとまらぬ猫パンチで蛇の頭を叩き潰していた。こういうのはシンプルかつ大胆にやるのがコツなんだよな。


 ショットガンの連射を浴びたアンドロイドは、敵陣にあと少しのところで力尽きて倒れた。なかなか壮絶でカッコイイ死に様だ。ガリーナが異国の言葉で何か唱える、多分死者にたむけるお祈りだろうな。人に似た姿の機械に、人はすぐ感情移入してしまうようだ。


 破壊されたアンドロイドは、リモコンで動く操り人形みたいなもので、本体のコンピュータは別の場所にあるんだが、面倒なので説明しないでおこう。別に騙す気はないが、長々と解説していられるような状況じゃないし、味方の士気が上がるんなら勘違いしたままでも構わないだろう。

 

 テロリストは今のアンドロイドへの攻撃で、ショットガンの弾を撃ちつくしてしまったようだ。狙ったわけじゃないが思わぬ大戦果だな。馬鹿みたいに無駄弾を撃ってたが、いくら攻撃しても平気で近づいて来るアンドロイドが余程怖かったのだろう。


 テロリスト達がアンドロイドに気をとられている間にプラニコフもちゃんと回収できたし、俺の作戦は大成功だ。大したことはやっていないが、悪戯が成功した時のような達成感はあるな。



 プラニコフとやらは、どう見ても安物のオモチャにしか見えないが意外に重い。弾倉を差し込む部分が少し割れているが大丈夫だろうか?

 

「ちゃんと撃てるかな? 少し傷がついてるけど」

 

「え? 一体いつの間に?」

 

「どんな魔法を使ったのよ」


 やっと気付いたか、ドヤ顔で自慢したいのになかなか誰も気付いてくれなくて少し寂しかったぞ。


 敵を騙すにはまず味方から、というか、味方を騙すつもりはまったくなかったんだ……ちょっとした手品なのに意外と誰も気付かないもんだな。


「バレルはちゃんと金属製ね、割れてるパーツがあるけどこれくらいならガムテープで大丈夫。残弾は二十発ちょいかな」

 

 マーシャは馴れた手つきで銃をバラバラに分解すると再び素早く組み上げる。いくつかのパーツが残ったが、多分要らない奴なんだろう。

 

「それがウランを使った核兵器?」


「違うわよ。劣化ウランって硬くて重いのよ、貫通力が上がるの」


 どうやらウラン弾ってのは核兵器とは違うらしい。弾丸を重くする目的でウランが使われているだけで、別に核爆発したりするわけじゃなさそうだ。

 

「試し撃ちしてくるわね」


 そう言って厨房を飛び出すと、ターンターンと単射で四発撃ってすぐ戻って来るマーシャ。

 

 三発目で一人のテロリストの頭をゴーグルごと撃ち抜き、四発目は初弾で二人目をやっつけていた。スコープも使ってないのに、恐ろしくいい腕をしてるな。

 

 この調子でテロリストを皆殺しにしてくれれば助かるんだが、相手だって案山子じゃない。

 

 マーシャが引っ込んだ直後、報復とばかりに猛烈に撃ち返してきた。何発かの跳弾が厨房に飛び込んで跳ね回り、料理長の爺さんが大声を上げる。年季の入った銅の大鍋に穴が開いたみたいだ。

 

「二人殺したわよ、賞金はいくら?」


「私の権限では確約はできないが、ボーナスが出るように交渉はしてみよう」


 賞金の支払いは隊長クンが窓口なのか。どうせ皆死ぬのに賞金の話をしても仕方ないと思うが、まあ、どんな時でもいつも通りというスタンスは評価できるな。

 

「これだけの事件だ、多分たっぷりボーナスは出るさ。この調子で奴らを一掃してくれないか」


「三悪魔のマトリョーシカアタックが見られるんスか?」

 

 生臭坊主を殴って気絶させた男の娘が、目を輝かす。マトリョーシカアタックだと? あまり強そうじゃないな、どっちかというとコミカルな攻撃方法の感じがする、次々に服でも脱いでいくのかな?

 

「成否にかかわらず一人一千万ドル、賞金は別途、医療費全アリならよくってよ」


「あ、死亡保険も全有りでよろしくお願いしますね」


 一千万ドルって十二億円以上だよな? いろいろおかしい額だ。全有りって何だろう?


「いや、だから。それは、私の一存では確約はできないわけでね」


 隊長クンは真面目だなあ、こんな状況だし嘘でも約束しちゃえばいいのに。万一生き残ることができた時は、それはそれで死ぬほど困るだろうけどな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ