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俺のロボ  作者: 温泉卵
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血と硝煙の匂いのする女達

 三人娘は俺が妄想にふけっている間にも、ちゃくちゃくと戦闘準備を整えている。マーシャが言うには、ショットガンを厨房の扉から撃ち込まれたら、ここにいる人間は跳弾であっという間に全滅するらしい。硬いタイルの壁だと散弾が何度も跳ね返り続けて室内を飛び回るそうだ。


 布団や毛布のような柔らかい物をぶらさげておくと跳弾を防げるのだという。二十一世紀の殺戮兵器を布団なんかで防げるものだろうか? 弓矢で戦ってた頃のロシアの迷信な気もするが、気休めくらいにはなりそうだな。


 布団はないが、とりあえず料理人の爺さんにも手伝ってもらってハムやなんかを吊るしておく、これが本当の肉の壁だな。まあ、何もないよりマシだろう。


 幸い奴らのバリケードからは、角度的に厨房内は直接狙えない。


 奴らがここを攻めようと思えば、ぎりぎり入り口まで近づいて来る必要があるが、すでにレストラン内部には味方のバリケードも三箇所築かれており、テロリストの方もうかつに動けない状態になっている。


 味方のバリケードは、ステージの脇とトイレと厨房前に横倒しになったバーカウンターだ。厨房も含めればこちらの陣地は四つってことになる。


 ステージ脇にテーブルを見事に積み上げて築かれたバリケードには、アリサ大佐の姿も見える。一番被害の大きかったステージ周辺の負傷者を、タケバヤシ氏の取り巻きの小柄な美女たちが救出して集めているため、野戦病院のようになっている。


 タケバヤシ氏の好みは小柄な女性のようだ、いわゆるロリータコンプレックスってやつらしい。見た目は未成年にも見える女性がとりまきに集まっているのだが、なかなかどうして凄腕の戦士が揃っているようだ。


 外見は中学生くらいに見えるが、改造手術で作られた人造美人で、中身は老婆で歴戦のエージェント、なんて噂もある。あの活躍ぶりからすれば、案外本当かもしれない。


 最近の美容整形の進歩は驚異的で、犬や豚を人間と見分けがつかない外見に改造したりもできるらしい。倫理面の問題さえ気にしなければ不可能はないとも言われている。


 ただ、今のところはまだ拒絶反応などの問題を完全には克服できていないようで、あまり体を弄りすぎると著しく寿命を縮めることになる。ってのはつい最近見た特番でやっていた。


 金さえあれば老い先短い老人が若い肉体を手に入れることも可能だが、報道が事実ならせいぜい数年しか生きられないみたいだ。


 それでも、寝たきりで長い間生き続けるより、僅かな期間でも若返る方がいいって人も多いようだ。


 あの少女戦士たちの中の人が年老いた兵士なら、拒絶反応に苦しんで死ぬより、戦場で死花を咲かせる方が幸せなのかもしれない。


 俺なんか正真正銘まだ若いのにな、せめてあと十年くらいは生きてみたかった。“ガーディアントルーパーズ”に出会わなければ、今頃は社畜として年末進行で働かされてただろうな、テロで命を落とすこともなかった。


 たった半年程だったが、楽しい時間だったな。“ガーディアントルーパーズ”を始めてしまったことは後悔はしていないが、予選で敗退してたらこんなことに巻き込まれることはなかったのにとは思う。


 たら話をするなら、イーエモンに負けてたらよかったのか。ぷるりんちゃん達五位以下のプレイヤーは今頃は下の大食堂でクリスマスパーティーの最中の筈、避難指示はもう出ただろうか? ジミー君も彼女と一緒のはずだ、俺たちが頑張ればあいつらが助かる可能性が少しは上がるか。


 このホテルは規模のわりに客が少ない、落ち着いて避難すれば逃げるのにそれ程時間はかからないだろう。白いキリンとやらはビルの爆破にこだわりがあるらしく、周囲の建物は巻き込まずに目標のビルだけを倒壊させるらしい。隣のビルまで逃げれば助かる理屈だ。


 負傷者の救助を最優先に行動しているステージのバリケードとは対照的に、トイレにたてこもっている連中は派手に戦っている。あそこにいるのは多分、トミー准尉のグループだ。周辺の壁に残る無数の弾痕が激しい銃撃戦があったことを物語っている。


 特にテーブルを積み上げたりはしていないようだが、トイレのある通路が少し奥まった場所にあるために、そのままで立派な陣地になっている。おまけにトイレの入り口を囲むように、オブジェなんだろうが、銃眼のような穴が開いた衝立みたいな柱がおあつらえ向きに並んでいる。こんな事態があろうかと建築家が狙って設計したとしか思えないが、まさかなあ。


 トミー准尉の取り巻きの美女数名が、銃を構えてトイレの前で見張りをしている。ドレスを脱ぎ捨て動きやすい格好になった女達は、皆戦士の顔をしている。ここにいるロシアのお笑い三人娘よりずっと真面目に戦争してるな。


 位置的にはトイレとエレベータ前の敵のバリケードとは目と鼻の先だ。トイレは他の味方のバリケードからは孤立しているし、突出しているため真っ先にやられそうなポジションではあるが、逆襲の起点として都合のいい拠点だともいえる。問題は残弾がどれだけあるかだな、スカートの下に隠せる弾薬の量はたかがしれている。


 

 厨房のすぐ外に成り行きでできたバリケードは、倒れたバーカウンターの影に近くにいた連中が逃げ込んでできたものだ。隙を見て近くのテーブルなんかも横倒しに並べて、子供の戦争ゴッコの基地みたいになっている。


 銃撃を受けたテーブルの天板はめくれあがって、金属板が露出している。光沢からして鉄じゃないな、アルミっぽいが、防弾用ならジュラルミンとかかな? 普通はテーブルに防弾板など仕込まれていない、まるで最初から襲撃を想定してたみたいじゃないか。


 皮肉なのはテロリストまでちゃっかり防弾板入りのテーブルをバリケードに利用していることだ、屋上へのルート構築の手際よさといい、相当下調べをしているようだ。盗聴機の件もあるし、多分スパイみたいなのが大勢潜りこんでるんだろうな。


 バーカウンターの影には顔見知りの連中が隠れている。警備隊長君と生臭坊主、坊主の取り巻きの美少年たちもいるな。


 ミニスカのドレスなんか着ていて見た目は美少女にしか見えないが、あいつら性別は男らしい、男の娘ってやつだろう。ああいうのが生臭坊主の趣味らしい、同性愛は法律で認められているし好きにすればいいと思うが、男が好きだというのなら何故わざわざ女装させたりするんだろうな。学生時代の友人の何人かがオカマバーで働いているが、そういった店に来る客は女が多いと言っていた。


 彼らもやっぱりエージェントか何かなんだろう。整形なんて大袈裟にしなくても、線の細い男が上手に化粧すれば意外といい線いくからな、人数を集めるのは比較的簡単だった筈だ。腕も悪くないようで、スカートの下に隠し持っていた銃でテロリストをすでに何人か倒している。


 周囲に散乱した料理や、割れた酒瓶のせいで足場が悪く、テロリストがすっ転んだところを蜂の巣にしたみたいだ。コントみたいな死に様だが、全然笑えない。


 テロリスト達だって自分達の信じる正義のために戦ってるんだろうに、料理で滑って死にましたってのは少し哀れだ。


 社会人になってからは忙しくて気にもしてなかったが、そういえば昔から匿名掲示板等でのビリー氏の評判はすこぶる悪かった。ネットの情報が正しければ、世界の半分くらいの人間はビリー氏が死ねば大喜びするだろう。死の商人の元締めで、世界中の乱開発の仕掛け人で、大国のトップを顎で使ってるんだからな。


 ビリー氏がプロデュースした紛争で家族を失った人が恨みを抱くのは当然だし、環境問題で辛い思いをしている人なんかはとりあえず企業のトップを憎むだろう。職を失ったとか、株で大損したなんて人まで含めれば、恨みつらみは果てしがなさそうだ。


 待てよ、株か。ビリー氏の訃報を世界で一番最初に入手した投資家は途方もなく儲かるじゃないか。あらかじめ彼の死を知っていたとすればどうだ? 確実に彼の死を予測できる方法が一つあるよな。


 まったく、ビリー氏には殺される理由が多すぎる。巻き込まれる人間はたまったもんじゃないよ、ゲーム大会の表彰式程度のことにわざわざ出て来るんじゃないと言いたい。

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