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俺のロボ  作者: 温泉卵
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コテコテのダメージ

 テロリストの主力はベランダから出て屋上に登って行った様だ、やはりメインターゲットはビリー氏ってことだろう。レストランに残されたテロリストは二十人もいないな。

 

 光学迷彩は少しでも機能が低下するとバレバレで無意味になるため、残っている敵はすでに動き難いマントを脱ぎ捨ててしまっている。どうやらあの光学迷彩マントは発砲時の火薬の煙に晒されただけで機能不全になるようだ、あんなにデリケートだと屋外での使用は難しいだろうな。小麦粉かベーキングパウダーでも振り撒いてやろうと思ってたのに、その必要もなかった。

 

 警備員が暴徒鎮圧用の催涙ガス弾を不用意に使用してくれたおかげで目がひりひりする。テロリスト達は全員ゴーグルとマスクを着用していたため、まったく意味なかった。ひょっとすると光学迷彩を機能低下させる効果くらいはあったのか? リンリン達はいつの間にか備え付けの簡易ガスマスクをちゃっかり着用している、厨房で泣かされたのは俺だけのようだ。

 

 エレベータ前とベランダ出入り口に築かれたテロリスト側のバリケードからは機関銃が睨みを利かせている。椅子とテーブルを集めて急ごしらえで作られたにしてはなかなか立派なバリケードだ。エレベータの方に十人くらい、ベランダの方は何やら屋上と行き来しているようで四~八人といったところか。

 

 奴らの使っている銃のほとんどは、リンリン達がプラニコフと呼んでいるアサルトライフルっぽい奴だ。


 アサルトライフルといえば“ガーディアントルーパーズ”では高性能なビームガンのせいでいささか影が薄い武器だったが、エネルギーチャージ等気にせずに弾倉交換でガンガン撃ちまくれるため、一部の実弾信奉者からは絶大な支持を得ていた。

 

 プラニコフは黒い樹脂製で、見た目はオモチャっぽいのに圧倒的な威力だ。警備の連中の防弾ベストは貫通されてしまうようで、一方的にやられている。


 テロリストはもう一種類、金属製の頑丈そうな銃を使っている。デザインはプラニコフに似ているが驚いたことにショットガンで、しかもフルオートで連射可能なのだ。

 

 ゲームでもショットガンはお馴染みの武器だ、小さな散弾をばら撒く特殊な銃で、近接戦闘でロックオンせずに撃っても当たるのでわりと俺も好きな銃だ。ただ、その間合いだと俺の場合は踏み込んで剣で斬る方が早いという話になる。

 

 敵に使われた場合、散弾一発あたりの威力は小さいものの、大量の弾がコーン状に飛び散ってくるので、全部避けるのはなかなか難しい。

 

 実剣で切り払うのは難しいが、拡散ビームと同じパーティクル扱いなので、ビームソードを使えば簡単に切り払える。リアルでビームソードがないのが残念だ。

 

 ショットガンはその長所がそのまま弱点でもある、拡散する弾は距離が離れれば散らばり過ぎてしまうのだ。

 

 だが、この展望レストラン内という閉鎖空間で使うにはベストチョイスといっていい武器かもしれない。散弾の威力が小さいといっても、装甲のない人間相手なら大ダメージを与えることができる。おまけに奴らのショットガンは機関銃みたいに連射できるのだからたちが悪い。

 

 ゲームでもそんなチートな武器はなかった。ショットガンは基本単射で、次弾の発射には短いがクールタイムを挟む必要があった。フルオートのショットガンなんて、ビームソードがあっても全弾切り払える気がしないぞ、ゲームだったら挑戦するのはちょっと楽しそうだが。

 

 ステージ付近に重なるように倒れている来客の大部分は、最初のショットガン掃射でやられている。散弾が小さかったのか致命傷とはまではいかず、ほとんどがまだ息はあるようなのだが動けないで呻いている。

 

 警備員達の着ている防弾ベストはショットガンの弾は防げるようなのだが、プラニコフの弾は貫通する。プラニコフを持ったテロリスト達は最優先で警備員を攻撃してきたため、大した抵抗もできないですでに壊滅状態だ。

 

「なんで一般人まで巻き込むかなあ」


 血まみれで呻き声をあげる来賓たちの姿につい独りごちる、さっきまで華やかに着飾って笑っていた人たちが、一瞬でボロボロになって地獄の亡者のようにのたうっている。体中に何十発という散弾を撃ちこまれたんだ、絶対痛いだろうな。

 

「連中にしてみれば、正義の戦いのためのやむを得ないコラテラルダメージってわけね」

 

 独り言のつもりだったのに、黒髪のロシア娘のマーシャが相手をしてくれる。

 

「コテコテのダメージ?」


「日本語だと副次的被害って意味よ、敵がやったら虐殺、味方がやればコラテラルダメージ。都合のいい言葉ね」

 

 ロシア人に日本語を教えられてしまった。よく考えればこいつら二ヶ国語がペラペラなわけで、英会話すらまともにできない俺より余程頭いいんじゃないだろうか?

 

「なるほど、お目当てがビリーさんだからそれ以外は副次的被害ってことか。なんかこう、スマートじゃないやり方だなあ」


 ビリー氏一人を狙えばいいのに、何故わざわざここを戦場にするかなあ。来賓の中に暗殺者を潜りこませてビリー氏が登場した時に襲うとか、光学迷彩で隠れていたスナイパーが狙い撃つとか、もっとスマートなやり方があるだろう。


「連中が突入のタイミングを誤ったとは考え難いし、殺しが目的ならいきなりビルを倒壊させればいい。ビッグボスの誘拐が目的で間違いなさそうね」


 ビリー氏がビッグボスか、なんかラスボスみたいだな。テロリストから見ればビリー氏は本当にラスボスで、俺たちは障害物か雑魚キャラってところだろうな。善悪の基準なんて立ち位置でいくらでも変る、そもそも現実の世界で自分は悪役だと思っている人間がいるのだろうか?

 

「彼らのクライアントがターゲットの死亡確認を要求してきたって可能性はないかしら?」


「オリガ、あんた、たまに黒いことさらっと言うわね」


「あら、だって遺産相続には大事なことよ」


 銀髪癒し系お姉さんのオリガ、ほにゃっとしてると思ってたが意外とリアリストのようだ。


 そうか、世界一のお金持ちとなると遺産も天文学的な額だ。ビリー氏は独身という噂だったが、自称親族は無数にいるらしい。すみやかな遺産相続のためには死亡をはっきりと証明する必要があるのか。でも、それなら衆人環視の下でビリー氏だけを暗殺するのは悪くない方法だと思うんだが? 影武者の可能性を考えれば、DNAの採集まで必要なのか。

 

「あまり決めてかかるのはよくないかもね、ボスだけが狙いだとするとあいつらの動きは腑に落ちない。多分こっちにもまだ仕掛けて来るわよ」

 

 確かに変だな、ビリー氏だけが目当てなら奴らがここに戦力を残す意味はほとんどない、全兵力を屋上に集中させる方が利口だ。


「ひょっとして、今回に限ってあいつらがビルを爆破せずに退却するなんてことは?」


 テロリストだって毎回同じ手口はマンネリ過ぎると思ったのかもしれない、ビリー氏を人質にすれば、全員生きたままビルを降りて退却することだって不可能ではない。自分達も巻き込んでビルごと自爆なんてナンセンスだろう。


「確かに可能性はゼロではないけれど、連中、死ぬ覚悟を決めた人間の動きをしてるわ。自分達の命を捨てることで彼らの儀式は完成する、今までずっと続けて来た教義なんだから突然の変更はできないでしょう。やはり爆薬は仕掛けられてると見るべきね」


 マーシャの答えには説得力があるな、やはり俺が生きのびることはできないらしい。


 カルト宗教がテロと結びつくと恐ろしいってことだな。もっと恐ろしいのは、少なくともテロリストの一般兵士達は彼らなりの崇高な理想に殉じる覚悟で戦ってることだ。対する俺たちが戦う理由は、巻き込まれたから、金で雇われたから、下の連中を逃がすため、降伏が受け入れられないから、など様々だが、つまるところ成り行きなんだよなあ。


 今まではビリー氏が金の力で世界中のマスコミをコントロールしてきたおかげで、ビリー氏が正義で逆らうテロリストは悪って風潮があったが、ビリー氏の影響力がなくなれば全部ひっくり返される可能性だってある。


 ビリー氏が諸悪の根源として認定された世界にでもなったら、俺は下手すりゃ犯罪者じゃないか。死んでからのことなんてわりとどうでもいいが、家族がご近所から後ろ指を指されるのは嫌だなあ。

 

 ビリー氏が悪者だろうがなんだろうが、勝てば官軍だ。ビリー氏が助かって俺たちも助かる奇跡の一手はないものだろうか? 目の前のテロリスト全員を瞬殺して、屋上の連中も速攻でやっつけて、ビリー氏とヘリで逃げる。とかできればいいんだが、戦力的に不可能だし、第一ヘリに乗れる人数には限りがある。短いつきあいとはいえ、顔見知りを置き去りにして逃げるってのも後味が悪いよな。そもそもその状況で俺がヘリに乗せてもらえるという前提がご都合主義に過ぎるというものだろう。

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