その名はXキャリヴァー
”ガーディアントルーパーズ”では新発見のアイテムには発見者に命名権が与えられる。発見者が24時間以内に命名しない場合、そのアイテムの所有者全員が命名可能になるが、その場合は早い者勝ちだ。
リンクス専用剣は命名可能なアイテムだった。つまり手に入れたのは全国で俺が最初ということだ。おそらくリンクスでステージ4をクリアしたプレイヤーは俺が初めてだったのだろう。
命名は公式サイトからも行えるため、一晩じっくり考えることにした。
未使用の武器のためイメージしにくい、せめてステージ1で試し切りしておくんだった。見た目は剣というよりアール・ヌーヴォーっぽい感じの特大ペーパーナイフだ。馬鹿でかいサイズから考えて両手剣で間違いないと思う。
強そうな剣の名前といえばムラサメとかコテツが思い浮かぶが、日本刀とは程遠いデザインだしなあ。
洋物の強い剣となるとまずはエクスカリバーだな。というか他に知らない。ネットで検索すればその手のは山ほど見つかるだろうが、それはそれでなんか負けた気がする。
もう、エクスカリバーでいいよな。
ドキドキしながら入力する。
『すでにその名称は使用されています』 だと?
ならばエクスキャリヴァーでどうだ?
『すでにその名称は使用されています』
皆考えることは一緒ということか。もう別にエクスカリバーでなくていい気がして来た。最後に思いつきでXキャリヴァーで試してみると登録できた。なにやら厨二臭が五割増しになってしまった。
サービス残業を適当に終わらせ、わくわくしながらゲーセンに向かう。いよいよXキャリヴァーの試し斬りだ。いい歳をしてゲームのアイテムごときで胸アツというのもどうかと思うが、ドキドキするものは仕方ない。
Xキャリヴァーの耐久値はバスターソードとは桁違いだ、おまけに自己修復能力まである。リアルの時間経過で勝手に耐久値が回復していくという、褒賞品にはほぼ標準装備されている便利な能力だ。
武器の最大耐久値の減少は修理に失敗した時に起きるので、自己修復能力付きの武器は間違っても修理してはいけない。
耐久値が0になれば壊れてしまうので、痛んできたら耐久値が回復するまで放置する。時間はかかるが、最大耐久値が減るリスクをなくせるのだからありがたい。
修理で瞬時に耐久を回復できる店売りのバスターソードと上手く使い分けていく必要があるな。
ステージ1ではXキャリヴァーの桁外れの攻撃力に驚かされることとなった。Xキャリヴァーは実剣だが、周囲にビームの刃を展開することもできる。エネルギーをかなり消費するが、リーチは伸びるし威力も大幅に増加する。
実剣として使用した場合、刃の切れ味だけならバスターソードと大差ないかもしれない。重量がある分鈍器としての破壊力は数段増しているので、クモ足メカなど当てるだけで叩き潰せる。
ステージ2も楽勝、敵のビームを簡単に切り払えるのには驚いた。まあ、ビームの刃を最大展開すれば面積的にもスキュータムの盾よりでかくなるからな。構えているだけでほとんどの攻撃を防げてしまう。
欠点がないわけでもない。重い剣を振り回すのはバランスを崩しやすく、転倒の危険が大きい。ブースト移動時は特に転びやすいので速度を落とすと、クリアタイムが悪くなる。ステージ2までならスコアポイント狙いにはバスターソードの方がいいだろう。
ステージ3ではあれだけ苦戦していたカニメカを一撃で粉砕できた。いくらなんでも楽勝過ぎる、あまり頼りすぎると腕が鈍ってしまいそうだ。
少し迷ったが耐久値は1しか減っていなかったので、ステージ4もこのままXキャリヴァーでいくことにする。
ミサイルを全部切り払いつつ多脚戦艦に突撃。下手に回避しようとして転倒する方が怖い。
ワイヤーアンカーの射程まで近づいて問題に気が付いた。両手が塞がっているとワイヤーアンカーが使えない。
短時間なら片手でXキャリヴァーを持てないこともない、かな? 失敗すると蜂の巣なのでワイヤーアンカーを使うのはやめておく。
ビームを最大展開にしたXキャリヴァーを盾にして、多脚戦艦の腹の下の安地まで突き進む。
Xキャリヴァーのチートな攻撃力の前には戦艦の装甲も意味がない。装甲の上からリアクターを貫いて大急ぎで逃げる。一呼吸遅れてリアクターが大爆発し、無数の破片が飛んでくる。攻撃されるより爆発に巻き込まれる方がよっぽど危険じゃないか。
近接戦闘では倒した敵の爆発に巻き込まれるのが一番怖い。いくら強力な攻撃力を手に入れてもこの点はどうしようもないな。むしろリアクターを一撃で破壊してしまうため、逃げる間がほとんどなくなってしまった。
ステージ5は初見なのでバスターソードを装備して行くことにした。万一にもXキャリヴァーを失うわけにはいかないからな。
干上がった塩水湖が戦場だった。間違って対人戦を選択してしまったのかと一瞬戸惑う。
敵は1機だけだが、人型の戦闘ロボだ。たしか名前はサジタリウスという、店売りのちょっとお高い機体だ。
トップヘビーの鈍重そうな機体で、両肩、両足、腰の左右に6箇所のウエポンベイがついている。
設計コンセプトが高火力タイプなのは一目瞭然。プレイヤーが使えば弾薬代がとんでもなくかかりそうだが、CPU戦の敵メカはそんなの気にしないだろう。
こんな奴相手に遮蔽物のまったくないステージでどうしろって言うんだ? Xキャリヴァーを盾にすればあるいは勝てるかもしれないが、バスターソードじゃ無理だろ?
イジェクトボタンで対人戦に逃げる手もあるが、せっかくなのでダメ元で情報収集だ。
開幕直後に敵はいきなり大口径ビームを一閃。回避したつもりだったが、途中でビームを横になぎ払いやがった。超長いビームソードで斬りつけられたようなもんだ、これはズルい。ダメージはそれ程でもないが、何度も続けられると厄介だ。
続けてビームガンの三連射が来る。これは歩いて回避できる、と思ったら嫌なタイミングで誘導ミサイルが追加で来た。仕方なくブースト移動を使うと移動先に大口径ビームを置いて来る。咄嗟にジャンプで飛び越えると今度は上にビームをなぎ払いやがった。優秀なAIだな、俺の動きの先を読んでやがる。
着地地点にはロケット弾の雨が降り注ぎ、容赦なくミサイルとビームガンが飛んで来る。
なんとかワイヤーアンカーで軌道変更して逃れる。さすがにここまでトリッキーな動きは予想できまい、ワイヤーアンカーって意外に役に立つぞ。
実弾兵器の弱点は弾切れだ。ロケット弾とミサイルが尽きれば奴の武器は大口径ビームとビームガンのみ。
ビーム兵器は弾切れはないがエネルギーを消費する。連射すればリアクター出力がエネルギー消費に追いつかなくなる。
満身創痍になりながらもついに奴を追い詰める。エネルギー切れで奴は満足に動けない状態だ。
一発逆転を確信して斬りかかった俺のロボの足元が突然爆発。地雷だ、いったい奴はどれだけ武器を持ってるんだ?
最後に俺にトドメを刺したのは奴の両肩に装備されていた実弾のキャノン砲だった。