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俺のロボ  作者: 温泉卵
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お釈迦様が見ている

 準決勝第二試合、スキュータム対サジタリウスの対戦は開始数秒でサジタリウスの勝利で終わった。


 遮蔽物のない砂丘ステージ、ビームガンの射程内で向き合って戦闘開始。


 スキュータムはフライトユニットで飛んで逃げようとしたのだが、対空ミサイルのクリーンヒットで叩き落された。


 サジタリウス相手に飛ぶのは自殺行為のようだな、スキュータムは逃げたりせずに自慢の盾で耐えればもう少しは生き延びただろうに、馬鹿な奴だ。


 もっとも、サジタリウスの飽和攻撃は盾でなんとかなるものではない。前後左右でロケット弾が炸裂し爆風の攻撃判定に包まれてしまうのだ。


 俺なら避けきれるだろうか?


 だが、俺の相手はサジタリウスではなく、負けた方のスキュータムだ。


 三位決定戦とはいえ、奴は一応日本最強のスキュータムだ、決して弱い筈がない。どんな戦い方を見せてくれるか楽しみだ。



 珍しく俺が対戦相手より先にステージに立つ。


 ジミー君の横で試合を見ていた俺を、アリサ大佐が目力で有無を言わせず呼び寄せたのだ。


 別に俺だってわざと毎回遅刻をしているわけじゃないんだが、まあいいや、アリサ大佐には借りもあるしな。


 対戦相手のシュドウニュウドウ伍長は今日は袈裟を着て坊さんのコスプレをしている。そんな格好でフットペダルが踏めるのか?


「小人養い難し、社会の底辺が働きもせず昼間からゲームなんぞにうつつを抜かしているとは嘆かわしい、拙僧が引導を渡してくれようぞ」


 ヒールを演じてるつもりなのかな? 毒舌だと聞いてはいたが、正直微妙すぎてリアクションに困る。


「あー、なんだこいつ? 論語読みの論語知らずって奴か?」


 俺がなんとなく呟いた言葉をマイクが拾ってしまい、何故か観客が爆笑する。この坊さん、性格悪そうだし観客に嫌われてるのかもな。


 ヒールってのはそういうのじゃないと思うんだ、悪役だけど観客に愛されるのがヒールだ。本当に嫌われてどうする。


「ええい、猪口才な。貴様はいずれ死んだら地獄行きだ」


 嫌な言い方をする奴だなあ。そりゃあ、地獄に送ってやるとかはお決まりの台詞なんだけどさ、坊さんの格好をして言われると縁起が悪いじゃないか。


「ちなみに拙僧は極楽往生すると決まっておる、残念だったな」


「そりゃよかった、あんたと一緒なんてそれこそ地獄だ」


 坊さんと言い争いはしたくないが、売り言葉に買い言葉だ。それにこいつはどうも胡散臭い、偽坊主かもしれない。


 観客席からまばらに拍手がおきる、俺が今いいこと言ったみたいだな。ひょっとして今までのやりとりはトンチ合戦か何かだったのか?


「ぐぬぬ」


 本当にぐぬぬなんて言う奴は初めて見たよ。よし、ダメ押しといくか。


 バニーちゃんを手招きして、とっておきのクリスタルチップを俺の勝利に賭ける。


 観客がどよめき、坊主の顔が真っ赤になる。予告ホームランみたいなもんだからな、相手にプレッシャーを与えることができる。まあ、自分にもプレッシャーがかかるんだが、気にしたら負けだ。


 坊主はもう無視して筐体に滑り込む、ハッチを閉じれば外の雑音をシャットアウトできるのはありがたいよな。


 まあ、小さな覗き窓はあるんだが、ハーフミラーになっていて中から外は見えないし気にしなければいい。完全な密室にすると中でいろいろ悪さをするプレイヤーもいるからな。


 さあて、やっぱり武装は新生クラッシャーソードかな? そういえばXキャリヴァーのオークションはどうなったんだろう?


 オークションを覗いてみると、今まで見たこともないくらいの数の牛砲とXキャリヴァーが出品されている。


 牛砲はまだかなり高いが、Xキャリヴァーは大暴落中だ、中には2000ポイントで出品されているものまである。たった200円じゃないか。


 思わず入札するが落札できない。即落設定じゃなかったみたいだ、当たり前か。


 とりあえず安値がついているXキャリヴァーに片っ端から入札していく、これだけあれば1本くらい落札できるだろう。


『あと1分で試合開始ですよ』


「大丈夫、装備はさっきのままでいいし」


 正確にはXキャリヴァーがクラッシャーソードに化けてしまっているが、使い勝手は大差ない筈だ。



 今度のステージは都市の廃墟だった、しかも夜。


 ここは障害物だらけでわりと気に入っている、なかなか面白い戦いになりそうだ。


 スキャナに微かにスキュータムの反応がある。このぶんだと向こうにはリンクスは見えていないな。


 敵の移動速度は遅い、どうやらフライトユニットは装備していないようだ。


 奴はスタジアムを目指しているようだ、廃墟となったドーム球場だが、あそこなら床がフラットで遮蔽物がない。


 スキュータムが盾を構えてリンクスを待ちうけるにはなかなか勝手のいい場所なのだ。


 先回りするか? 飛んでいけば破れたドームの隙間から奴より先に入り込める。


 だが、あえて奴の作戦に乗ってやるのも面白いかもしれないな。 


 待ちスキュータムは確かに強いが、やることはほぼ決まっているので行動が読みやすい。いうなればCPU戦の強力なボスみたいなものだ。


 スタジアムの広さは何度も戦って体が覚えている、下手にブーストダッシュすれば一瞬で壁に激突してしまうため微妙に回避しにくい。


 回避を躊躇して一瞬でも止まったらそこでスキュータムに蜂の巣にされてしまう。なんとか剣の間合いまで近づけてもスキュータムだって近接戦闘はできる。


 頑丈な盾は白兵戦にも有効で、Xキャリヴァーの攻撃をも受け止めてしまう。かつて何度かスキュータムの内装式ビームソードに斬られて撃墜されたのは苦い思い出だ。


 だが、相手の土俵で戦って勝つのはすごく楽しそうだ。


 トーラスとの追いかけっこではあまり剣を振り回せなかったからな、真っ向勝負してみたい気分なんだ。



 スタジアムの入り口付近に隠れて奴が来るのを待つ。


 来るのが遅いと思ったら大きなコンテナユニットを背中にしょっていた。


 どうやらこっちには気付いていないようだ、不意打ちで倒してしまえそうだが、それじゃ面白くない。あくまでこれはゲームなんだしな。


 スキュータムはスタジアム中央の定位置に陣取ると、コンテナから取り出したロケットランチャーを並べ始める。


 なるほどな、開幕ロケランの応用だな。サジタリウスのようにロケット弾の弾幕を張ろうというのだろうが、丁度いいじゃないか。


 俺はサジタリウスと戦いたくってたまらなかったんだよ。弾幕を避けまくって突進するあのスリル。アドレナリンが沸騰した時のまるで自分が神にでもなったような全能感。


 せいぜい楽しませてくれよ。


 スキュータムの準備が整うのを待ってスタジアムに飛び出す。程よい緊張感に全身の神経が完璧に反応している。


 驚いた奴がロケット弾を乱射してくる、超短射程のクラスター弾頭か、いいぞいいぞ。


 弾体を避けるだけなら造作もないが、炸裂する爆風の攻撃判定はかなり広がる。タイミングを計算しながら、針の穴を通るようなルートを正確に駆け抜ける。


 頭の中に周囲の状況がビジョンとして浮かび上がる。これは一体誰の視点なんだろうな? 神の視点? これができるのは本当に調子のいい時だけだが、まさに今がその時だ。


 イナヅマのようにジグザグの回避ルートのイメージが浮かぶ、実際には慣性のためにもう少し滑らかな曲線で結ぶことになるが、イメージとしてはカクっと鋭角に方向転換するつもりで曲がればいい。


 何十分の一秒という間隔で、小刻みにレバーを動かす。速すぎる入力は本来ならエラーとして弾かれるのだが、さすがはベティちゃんだ、正確に俺の意思を読み取って電光石火に反応してくれる。


 スキュータムは足元に積み上げたロケットランチャーを素早く持ち替えながら全弾発射して来るが、ヌルイな。


 弾数だけ揃えたところで、やはりサジタリウスの飽和攻撃にはとても及ばないようだ。


 切り払うまでもなく小刻みなブーストダッシュの連続で弾幕を抜けてしまう。


 スキュータムはロケットランチャーを投げ捨て、床に置いてあった専用盾を拾おうとするが。


 クラッシャーソードを一閃する。


 いや、なんとなく斬れる気がしたんだ。


 無心で振りぬいたクラッシャーソードは、空振りしたかのようにほとんど抵抗もなくスキュータムを両断してしまった。


 実剣は上手く振れば性能以上の攻撃力を発揮することがあるからな。へっぽこ性能のアースブレイドでもたまにすごい威力を叩き出すことがある、素の威力が桁違いのクラッシャーソードならスキュータムくらい一撃でも不思議はない。


 スキュータム相手じゃ物足りなかったな。やはりクラッシャーソードの試し斬りには多脚戦艦くらいの耐久がないとイマイチ効果がわからない。



 筐体から出ると会場がシンとしずまりかえっていた。


 アリサ大佐の顔も少し引きつっている。あっさり勝負をつけ過ぎたかな? 連続で短い試合が続くと司会進行も大変だろうが、俺のせいじゃないぞ、だいたいあの坊主が弱すぎるんだ。



 決勝戦を見るためにジミー君の横の席に戻る。彼が一緒だといろいろ解説してくれるので面白いからな。


「近接さん、いろいろおかしいっスよ」


 隣でぷるりんちゃんも頷いている。


「イナヅマみたいな残像しか見えなかったっス、あれってまさか出鱈目にレバガチャしてただけじゃ?」


 初心者が出鱈目にレバー操作すると、たまに機体がフッと見えなくなることがある。ベテランプレイヤーの予想外の位置に機体が移動して見失うだけなんだけどな。


 俗にレバガチャ回避と呼ばれているようだが、そんな幸運が何度も続く筈もなく、すぐ普通にカモられるだけなのだが。


「いや、俺は結構真面目に避けてたぞ、暗かったからよく見えなかったんじゃないか?」


「あの至近距離でクラスター弾頭を普通に避けちゃうのもどうかと思うんですけど」


 ぷるりんちゃんも不満そうだな、超重量級のジェミニには無理かもしれないが、リンクスならそのくらい楽勝なんだよ。


 それにしてもクリスマストーナメントはこれで終わりか、最後の一戦があれじゃ不完全燃焼だ、戦い足りない気分だぞ。


 明日の朝一番の船に乗って関空からリニアか。アパートで一晩ゆっくり寝たら明後日からはまた仕事の日々だ、すぐに年末年始で休めるのがちょっと嬉しいな。


 できればタケバヤシ曹長のサジタリウスとも戦ってみたかったが、決勝戦が終わったら表彰式でその後はパーティーだ、対戦する時間はなさそうだな。


 今日のパーティーは高い酒を思いっきり飲んでやるぞ、ほとんど食えなかったキャビアにもリベンジだ。


「あ、そういえば、三位決定おめでとうございます」


 思い出した様にジミー君が言う。気がつくのちょっと遅いよ、言われるまで俺も忘れてたけどな。

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― 新着の感想 ―
ガン逃げ相手に判定負けとかいう前回勝負に萎えてたけど主人公の変態軌道に大満足しました。最高。
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