オークションに出品せよ
”ガーディアントルーパーズ”の公式サイトがあるのは聞いていたが、単なるゲーム紹介用のサイトだと思って正直舐めていた。
まさかスコアポイントで、リアルのお買い物ができるとは知らなかったのだ。
購入できるのはゲーム関連グッズのみだが、他では手に入らないためオークションに流せば高値で売れるようだ。
5000ポイントで買えるパイロットカード用ストラップケースですら8千円前後で落札されている。これって合法的な現代の錬金術じゃないか。無料プレイ程度で喜んでいる場合じゃなかった。
試しにいくつかグッズを購入し、オークションに出してみることにする。落札者がいなかったとしても、自分用にも欲しいものばかりなのでリスクはない。
専用ヘッドギアは240kポイントもした。これも購入すると俺のこれまで貯めたスコアポイントがほぼ全部消えてしまう。オークションでは10万円前後で落札されているアイテムとはいえ、堅実に稼ぐならストラップの方がローリスクだ。
でも買ってしまった。自分が欲しかったのだ。ゲームでヘッドギアを使うとどうなるか試してみたかったのだ。気に入らなければオークションに出せばリアルマネーになるのだから、損はしないよな、多分。
注文したグッズは翌日には宅配便で届いていた。不在連絡票を見て夜中に営業所まで受け取りに行く。
開封した後、勢いに任せて全てのグッズを撮影し、ネットに出品し終わったのは朝の5時過ぎだった。これだけのエネルギーがどこから沸いて来るのか自分でも不思議だ。
徹夜したにもかかわらず、会社ではバリバリハイテンションで仕事をすることができた。不思議なエネルギーのおかげで今日はいくらでも働けそうな気がする。ヘッドギアを使うのが楽しみでたまらない、年甲斐もなくわくわくしてしまう。
さすがにサービス残業タイムになると、電池が切れたのか居眠りしてしまった。うるさい管理職は定時に帰っていないし、去年同僚が過労死してからはサービス残業中の居眠りは黙認されるようになったので、特に問題はない。
30分ほど居眠りしたおかげで頭もスッキリした。いよいよ出撃の時は来た。勇んでゲーセンに向かう。
筐体に乗り込み、財布から500円玉を出して投入する。最近はずっとスコアポイントでプレイしていたから、なんとなく新鮮だ。
鞄から専用ヘッドギアを取り出して、ケーブルで筐体に接続する。
装着するとゴーグルの液晶レンズにレティクルが表示される。当たり前なのだが感動。
『ディスプレイサイトシステムの初期調整を開始します、画面中央の十字を見てください』
ナビゲータAIのベティちゃんの声が耳元でクリアに聞こえる。ゴーグルにスピーカーも内蔵されているようだ。これはいい買い物をした、よな?
初期調整とやらは数秒で完了したようだ。液晶の表示がクリアに見えるようになった。
さて、まずは安全なCPU戦ステージ1だ。専用ヘッドギアとやらの使用感はどんなもんだろう?
ゴーグルの縁のせいで視界が狭くなるのは、明らかなデメリットだろう。実際に戦闘してみるとそれ程気にならないが、視界は広いほうがいいに決まってる。
ヘッドギアを装着したことで、俺の頭の動きとロボの頭部ユニットの動きが、より正確に連動するようになっている。いわゆる頭バルカン装備の機体ならメリットは大きいだろうが、俺のリンクスには頭バルカンのオプション装備はないので試せない。
火器管制装置との相性はよさそうだが、俺の場合は射撃モードそのものをまったく使わないから、それも意味がない。
そもそもリンクスは白兵戦特化型なので、火器管制装置は内蔵されていないしな。
なんとなくいつもより機体のバランスがとりやすい気がしないでもないが、いわゆるプラシーボ効果だろうか?
俺は周囲の音を聞き逃さないようにBGMオフでプレイしているのだが、ゴーグルの内蔵スピーカーから聴こえてくる戦場の音の臨場感が半端ない。地味だがこれはなかなかのメリットだ。
ステージ3のカニメカとの戦いで、ゴーグルの効果はよりはっきりした。音で背後の敵の気配がわかるというのは近接戦闘でもメリットになる。しばらく使ってみようかな、オークションに出すのはやめだ。
カニメカをなんとか倒してステージ3をクリア、そしてステージ4はボス戦だ。
ラスボスじゃないらしいから、多分中ボスだ。多脚戦艦だ。何度か戦ったことがあるが倒せなかった。
CPU戦で最初の実弾兵器を使ってくる敵で、特に誘導ミサイルが厄介だ。
ミサイル対策としては、デコイ専用のランチャーポッドというのを装備すればいいみたいだ。デコイ、つまり囮のロケットだな。使い捨ての上に結構お高いので、俺的にはそんなものは使っていられない。貧乏は辛いな。
ミサイルは直撃でなくても爆風によるダメージがある。回避しまくってなんとか近づいても、今度は機銃の弾幕が待ち構えている。
やはり近接戦闘でこいつを倒すのは無理なのか? いつの間にかライフゲージは半分以下だ。
イジェクトボタンに手を伸ばすが、ふと思いついた。すっかり存在を忘れていた、内装武器であるワイヤーアンカーって、こんな時に使えるんじゃないか? 多脚巨大メカの足にワイヤーをからめて倒すのは、映画とかでも定番中の定番だし。やってみる価値はあるだろうさ。
剣を片手で持ち、空いた左腕を多脚戦艦の足に向けると、ゴーグルに簡易レティクルが表示される。別にロックオンしたわけではないようだが、だいたいどの辺に飛んで行くかはわかるな。このくらいシンプルな方が俺には使いやすい。
アンカーを発射、首尾よく足に刺さったものの、俺の計画通りにはいかなかった。ワイヤーを巻き取ると機体ごと敵に引き寄せられてしまう。相手の方が遥かに重いんだし、そりゃあそうなるよな。
降り注ぐ弾幕を回避すらできず、気づいたら多脚戦艦の腹の下で虫の息だ。
巨大な足に踏み潰されないように注意しながら、アンカーを解除。何故か攻撃されないのは、腹の下は敵の銃座の死角になっているからか。よく考えればこれもよくあるパターンだ。
安全地帯発見だ。結局のところ、俺に足りなかったのは弾幕に飛び込む勇気だった。ゲームなんだから本当に死ぬわけじゃないのに、俺のチキンハートにも困ったもんだ。
安全地帯があるならあとはただ剣を振るだけ。腹の装甲を引き剥がしにかかる。
硬い装甲を無理に削るせいで、バスターソードの刃はすぐにボロボロになる。もったいない話だよ、こんな作業に使うにはビームソードの方が便利だな。
制限時間が迫って来たので思い切ってケリをつけることにする。露出したリアクターに剣を叩きつけ、爆発に巻き込まれる前にブーストダッシュでひたすら逃げる。こんな時にビームガンがあれば安全な距離から破壊できるよな。ちゃんと当たればだけれど。
やはり剣だけで戦う俺のプレイスタイルには無理があるのかもしれない。リンクスには愛着もわいて来たので今更他の機体に乗り換える気はないが、射撃の練習くらいはしておこうかな。
リンクスには火器管制装置が内蔵されていないが、外付けの火器管制装置もあるし、一部のスナイパーライフルなどには、銃そのものに専用の火器管制装置が内蔵されている。工夫次第で結構融通が利くゲームなのだ。
ともあれステージ4初クリアだ。おめでとう俺。
何かアイテムを貰ってしまう。初クリア報酬とかあるのか? そういやステージ2の初クリアの時はリンクスを貰ったんだった。ひょっとして偶数ステージで貰えるのだろうか?
アイテムは変わったデザインの武器で、見た感じはでかい剣に見えなくもない。まあ、銃って可能性もあるが。
情報を確認すると、アイテム名がリンクス専用剣になっている。銃じゃなくてよかったよ。価値はよくわからないが、専用って言葉はなんとなく嬉しい。
リンクスはもうボロボロだが、スコアポイントで修理してステージ5にチャレンジしてみるか? 専用剣とやらの試し切りもしてみたいしな。
いやいや、焦るな俺、深呼吸して考えろ。ステージ5は未知の領域だ、慣れない武器で行けるものかよ。最悪、いきなり新装備を壊してしまうことにもなりかねない。
とりあえず今日のところは撤退を選択する。生還ボーナスももらえるしな。
アパートに戻ってオークションを確認してみると、どれもかなりの値段で入札されていた。
ストラップケースに1万以上っておかしいだろ? まさかひやかしじゃないだろうな?
対人戦の場合、負けても1プレイで500ポイントはもらえる。つまり、5千円で10回プレイすれば、どんなに下手なプレイヤーでも確実に5000ポイントは稼げるのだ。それなのに5000ポイントの景品に何故1万以上の値がつく? 計算が合わないじゃないか。高く売れるのはありがたいが、なんとなくもやもやする。
落札価格はその後も上がり続け、最終的に俺の口座には5万円以上が入金されることになった。これはボロすぎる。
真面目に働くのがちょっと馬鹿らしくなるな。儲けは税務署に報告しないといけないのか? よくわからんが、後で調べておこう。
まあ、俺だってこんなウマイ話が続くとは思わないさ。思わないが、目の前のチャンスは逃さん。残りのスコアポイント全部を景品につぎ込んで、再びオークションに出品するぜ。
今回の5万円があれば100回プレイできるんだからな。1回のプレイで7k稼ぐとして700kポイント、景品のストラップ140個分になる。
ストラップが1個1万円で落札されれば、135万円の儲けになる計算だ。
これはやばい、やばすぎる。手取り十八万ぽっちで、一か月に360時間以上も働かされてる場合じゃないぞ。