俺は生き残れるか
「ベティちゃん、武装はCPU戦用パターンAで頼む」
『了解』
最近はCPU戦はもっぱらこれだ。右手に38銃、左手にバスターソード、背中のラックには虎の子のXキャリヴァー。
おまけとして足のラックにはソードブレイカーとショートサーキット。どちらも短剣だが38銃に銃剣として装着可能だ、攻撃力は低いが武器破壊特性が付いているのでたまに役に立つ。
38銃とバスターソードは場合によっては武装投棄する前提だ。38銃は店売りじゃないがオークションで捨て値で出品されていることが多い、安いのを見つけては買い足しているうちに倉庫に5丁くらい溜まってしまった。
「それでは20分一本勝負、地獄のサバイバルバトルロイヤル! カウントダウンスタート!!」
アリサ大佐のあざといポーズがバッチリ決まった後、スクリーンにカウントダウンが表示される。いよいよだ、気合を入れようと深呼吸しているうちに始まってしまう。
ゲーム開始、すぐ目の前にカニメカがいたので反射的に瞬殺する。
周囲には見慣れたシダの大木が生い茂っている、またこのパターンか。この植物は見た目より柔らかいためぶち当たってもダメージはほとんど無いが、あっさり攻撃が貫通するので盾にもできない。厄介なのはスキャナの探査を遮る性質があることだ、こいつが視界を遮る森林ステージだとアクティブスキャナですら大幅に性能が低下するためひたすらかくれんぼになってしまう。
まあ、見通しがよいステージだと相当広くないと開幕直後からいきなり撃ち合いになるだろうしな。広過ぎても相手を探して移動するのが大変になるし、ハード的な制約だってあるだろう。ハードの制約といえばこのクオリティのゲームで50人以上同時にプレイできるのも驚きだ、ラグったりしないだろうな?
森の中には結構多量にザコ敵が隠れていそうだ、パッシブスキャナに微かな反応がチラチラある。ライバル達もそれなりの腕だということを考慮すれば、対人戦に時間をとられるよりCPU狙いでスコアを稼ぎまくるのが正解かもしれない。
『4時方向レンジ3に多脚戦艦確認』
お、大物だ。進路上のザコ敵をつまみ食いしながら向かう。
『サジタリウス接近中、プレイヤー機です』
多脚戦艦の奪い合いになりそうだな、面白いじゃないか。
躊躇いなく多脚戦艦の弾幕に飛び込んで行く、サジタリウスは戦艦ではなく俺を狙って射撃を開始しやがった。まあ、利口なやり方だよな、逆の立場だったら俺だってそうするだろう。
さすがにものすごい十字砲火だ、アドレナリンが迸るぜ。
多脚戦艦の砲撃パターンは体で覚えている、サジタリウスの攻撃を落ち着いて回避していけば案外楽に避けれるぞ。降り注ぐ攻撃を紙一重で回避していくのは楽しい、もっとだ、もっとガンガン撃ってこい。
多脚戦艦の短距離攻撃用の武装には相殺効果のあるものが多いため、ある程度接近するとサジタリウスのビームが戦艦の弾幕と干渉してほとんどが拡散してしまうようになった。これじゃいつもより簡単じゃないか、せっかく気合が入ってきたのにつまらん。
ワイヤーアンカーを駆使して多脚戦艦の腹の下の安全地帯に滑り込む。
使わないバスターソードを地面に突き刺し、空いた右腕でXキャリヴァーを抜くと同時に左腕の38銃を腰のラックに素早く固定。流れるように手際よく武装交換するのは敵を攻撃するよりずっと難易度が高い。
Xキャリヴァーにビームの刃を発生させて、戦艦の底の装甲越しにリアクターを貫く。毎日のように繰り返してきた作業だ、リアクターの位置は見なくてもわかる。
手ごたえあり、急速離脱、ワイヤーアンカーでバスターソードを回収し、移動しながらXキャリヴァーと持ち替える。
サジタリウスは無視だ、後半になって奴が弾切れした頃に狩ってやろう。それまで奴が生き残っていればの話だが。
軽くダッシュしてサジタリウスを振り切る。ブッシュだらけで視界は悪い、すぐにこちらをロストしたようだ。
五戦目報酬のラジエータ設計図、六戦目報酬の補助ジェネレータ設計図のせいで、ほとんど全ての機体が大幅に出力が上がっている。中には設計図を使わなかったプレイヤーもいるだろうが、強化してないとかなりのハンデになるだろうな。
俺の場合、元々エネルギー残量なんか気にしてなかったが、さらに気にする必要がなくなった。以前より積極的にダッシュ移動をするようになったが、結構強引な機動をしてもパワーでなんとでもなる感じだ。ここ一番のスタミナにも余裕ができてガンガンいける。
ビームガンなどエネルギー系の武器を使ってる連中が一番パワーアップの恩恵を受けているが、実弾兵器からエネルギー兵器に持ち替えたプレイヤーが多いためオークションの相場は大荒れしている。
特に今回みたいな戦いだと装弾数に限りのある実弾兵器は不利だ、普通に考えてビーム撃ちまくり祭りだろう。
ビームは実剣で切り払えるものの、発射間隔が短くなったせいでタイミングが読み難くなった。まあ、ゲームの難易度が上がるのはそれはそれで楽しいんだが。
『3時方向レンジ5に多脚戦艦確認。ですが、何か妙です』
「うん、妙だ。ザコ敵の反応がやけに少ない、近くにプレイヤーが隠れてそうだ」
ベティちゃんは俺が視線で指示するだけで探査MAPを拡大表示してくれる。最近ますます気が利くようになってきたよな、俺たちはいいパートナーだ。
「俺ならこの辺で待ち伏せるな」
『微弱な反応がありますね、観測位置を変えて反応を重ねてみましょう』
パッシブスキャンでも複数の場所から対象を観測することでアクティブスキャン並みに精度が上がるらしい。
一対一なら結構役立つ小技だが、今回こんな手がどこまで通じるだろう。パーティーが組めるなら囮役がアクティブスキャンをガンガン使えるわけだしな。
事前に打ち合わせはできなかった筈だし、MAP上のどこに誰が配置されるかも判らない以上、パーティーを組むのは難しい筈だ。20分しかないんじゃ交渉している時間がもったいないしな、たまたま知り合いと出合ったとかでもない限りパーティーなんて無理だろう。無理だと思いたい。
『スキュータム二機が待ち伏せしているようです』
いきなり予想を裏切る展開だ、スキュータムが仲良くつるんでるらしい。はっきり言って余程の腕の差がないと二対一は辛い、こいつらは無視して別の獲物でも探そうか。
「でもおかしいよな、ステルス性能の低いスキュータムがわざわざ待ち伏せなんかするか?」
制限時間はそれ程長くない、待ち伏せする暇があればどんどんスコアを稼ぐ方がよくないか?
『7時方向に反応、先ほどのサジタリウスです』
レーダーマップに赤い点が追加される。あいつまだ俺を追って来てたのか? サジタリウスはどうやら俺ではなくスキュータムの方を見つけたらしく、狙撃ポイントを探すように動いている。二対一だからな、サジタリウスとしては先手を取って狙撃で撃墜したいところだろう。丁度いい、漁夫の利を狙おう。
スキュータムを狙うサジタリウスにさらに忍び寄る俺。面白くなってきやがった。
『微弱なエネルギー反応、すぐ近くに何かいます』
まだ何か潜んでいたのか、ブッシュに隠れてサジタリウスに迫る影は双剣のレオだ。サジタリウスに気をとられて俺にはまだ気づいていない。
あいつだけは危険だからな、最優先で倒しておかないと。
サジタリウスがスキュータムを狙う絶好の狙撃ポジションにつける。脚部のショックアブソーバーを展開して狙撃モードに変形した瞬間、レオがダッシュで斬りかかった。
タイミングが少し早いよ、まずスキュータムを狙撃させてやれよ。サジタリウスがスキュータムを一機撃墜してくれればやりやすくなるんだ。
あるいはこのレオもスキュータム達とつるんでるのか?
考えている暇は無い、レオがサジタリウスに斬りかかった瞬間に俺もダッシュ突きでレオに突進する。
Xキャリヴァーのビームの刃を限界まで伸ばして、そのまま柄まで通れと貫く。
Xキャリヴァーは攻撃力だけならこのゲームのTOP10に間違いなく入る強力な武器だ。レオの背中を貫いた大剣はそのまま機体を軽く切断していく、一瞬で相手のシールドゲージがなくなる。
レオはプレイヤー機体の中ではかなり硬いんだが、Xキャリヴァーの圧倒的な攻撃力の前には装甲値なんて意味ないな。まあ、普通はレオがこんな簡単に攻撃をくらってくれることはない。
アクティブスキャンをオンにしていれば、いくら森の中でも背後からの不意打ちに気がついた筈だ。サジタリウスに忍び寄るためにスキャナを止めていたのがこいつの敗因だな。
さて、中破して転がっているサジタリウスにもしっかりトドメを刺しておこうか。
俺が剣を向けるとサジタリウスは武器を手放して手を上げた。
『通信が入ってますが、許可しますか?』
ベティちゃんが少し戸惑ったように確認してくる、通信機能なんて初めて使うよな。
「あ、うん」
『あんたのおかげで助かったぜ、なあ、俺と組まないか』
ハスキーなオヤジボイスが飛び込んで来た、魚河岸のいなせなオヤジってかんじだな。
「いいだろう、時間がない、こっちに来るスキュータム2機をサクッといただくぞ」
せっかくの申し出だ、ソロで二機相手はキツそうだしな。
『了解、援護するぜ』
このゲームで誰かと共闘するのは始めてだが、特にパーティー機能があるわけじゃないようだ。単に双方向通信を許可しただけだ、普通に相手をロックオンして攻撃できる。
まあ、どうせソロで戦うつもりだったんだ、裏切られたら裏切られたで全弾回避すればいいだけのことだ。むしろそういう展開の方がギャラリー受けするかもしれない。
スキュータムは二機とも専用盾と44ビームガン装備だ、どうやら前衛後衛に役割分担して向かって来るつもりらしい。
作戦としては悪手とはいえないだろうが、俺にとってはかなりありがたい展開だ。
Xキャリヴァーを背中のラックに再度固定し、右手にバスターソード、左手に38銃を装備しなおす。Xキャリヴァーのみで斬り込むのも爽快だろうが、そこは駆け引きだ。近接馬鹿だと見抜かれると簡単には近寄らせてもらえないからな。
敵の威嚇射撃を適当に避けながら、こっちも適当にビームガンを撃ちつつ距離を縮めていく。俺はロックオンもせずに適当に撃ってるだけだからまず当たらない筈だが、それでも敵はちゃんと回避運動をとってくれている。
サジタリウスは中破していてまともに回避運動をとれる状態ではないが、火力は衰えていないため固定砲台となって猛烈に援護射撃をしてくれている。
両腕に44ビームガン、両肩に種類の異なる大型ビームガンを装備し、腰のウエポンベイにはロケットランチャーとミサイルポッドを装備しているサジタリウスの火力はスキュータム六機に匹敵する。敵の攻撃を前衛の俺に集中させておいて後衛のサジタリウスは射撃に専念する作戦だ。
敵とほぼ同じ作戦なんだが、汎用機と射撃特化型では火力が段違いなわけで、敵の前衛機の周囲には花火のように着弾エフェクトが表示され続けている。
ほとんど盾で防いでいるのはさすがだが、盾の耐久がいつまで持つかな? 後衛のスキュータムは味方が落ちる前に俺を撃墜しようと44ビームガンを連射してくるが、避けるのも面倒なので切り払ってそのまま前衛のスキュータムの懐に飛び込む。
同士討ちを避けるためサジタリウスの射撃が止まった一瞬の隙を狙って、敵機は盾と銃を捨ててビームソードで斬りかかって来た。
前衛を引き受けるだけあって白兵戦にも自信があったんだろうな、そこそこの太刀筋だがリンクスに挑むにはこの程度ではまだまだ遅い。相手の攻撃より先にバスターソードでスキュータムの首に突きを入れ、突き刺したまま抜かずにくれてやる。空いた右手を素早く背中に回し、Xキャリヴァーを抜き打ちに斬りつける。
Xキャリヴァーは重すぎて両手を使わないと自在に振り回すのは難しいが、慣性を上手く利用すれば片手でもこのくらいはできる。
スキュータムの胴を横一文字に切断したXキャリヴァーを、38銃を投棄した左手を添えて握りなおす。武器を換装する数秒が惜しい、バスターソードと38銃はひとまず置いていこう。
そのまま今度は後衛のスキュータム目掛けて突撃する。仲間がやられたのを見て逃げようとしたスキュータムの周囲にサジタリウスのロケット弾が火柱を上げる、ナイス足止めだ。
敵がロケット弾にうろたえている隙に一気に距離を詰める、援護射撃があると驚くほど楽できるな。
俺の急接近に焦った敵はビームガンを三連射してくる、回避も切り払いもせず刀身を軽く傾けて盾にしてビームを弾く。
スキュータムは明らかに動揺したようだが、驚くほどのことか? 自分たちだって盾を使っていつもやってることじゃないか。
観念したのか敵は盾と銃を捨てる。いい度胸だ、ビームソードで来る気か? 間合いを調整しながらXキャリヴァーを構えなおす、ビームの刃はわざと短めに調整する、エネルギーを節約するためというより、相手に間合いを見誤らせるためだ。大半のビームソードは長さ固定だから、初見の相手なら結構引っかかってくれる。
相手が斬り付けてきたところをカウンターで叩き潰そうと出方を窺っていると、いきなりバックダッシュして逃げ出しやがった。
あれ? スキュータムって手ぶらならXキャリヴァー装備のリンクスよりも速かったっけ?
だが、回避運動もとらずまっすぐ逃げる絶好の獲物をサジタリウス氏が見逃すわけもなく、立て続けにビームが命中。盾がないとスキュータムって脆いよな、転倒したところをXキャリヴァーで美味しくいただく。
『お疲れー』
サジタリウス氏は敵に回すと大したことないが、味方にするとなかなか頼もしかった。
「ナイス支援でした」
『残り180秒です』
ベティちゃんが事務的な声で告げる。
「戦艦を食うには充分な時間だな」
『おう、こっちはタゲられたらヤバイんで後から適当に支援する』
多脚戦艦などソロでも楽勝の獲物なんだが、今更パーティー解散もないだろう、戦艦相手に共闘したらどうなるのか興味もある。
時間もないので特に考えもせずに突撃する、Xキャリヴァー装備なら本当にカモな相手だ。
最低限の回避だけしながら、避けるのが面倒な弾だけXキャリヴァーで弾いていく。Xキャリヴァーの耐久値が減るのだけが心配だが、1時間に4%程度自己修復するからな、まだ9割以上残ってるから大丈夫だろう。
サジタリウスからの援護射撃が始まる、もう最後だと思ったのだろう、景気よく残ってるミサイルとロケットを全弾発射したためすさまじい火力支援となった。
これはうかうかしていると戦艦を沈められてしまいそうだ、素早く戦艦の腹の下に潜りこみ、薄い装甲を貫いてリアクターを破壊する。
うん、支援があると楽すぎるな、これは。
『残り60秒です』
『アクティブスキャンしてみる、近くに誰かいれば釣れるかもしれない』
その可能性は低いんじゃないかな、プレイヤーが近くにいれば多脚戦艦のような美味しい獲物を見逃さないだろう。
『残り30秒です』
『駄目だ、誰もいない。あんた、俺を倒してくれ、このスコアじゃどうせ16位には残れないしな』
意外な申し出に驚く、サジタリウス氏はなかなかいい奴じゃないか。だが、はいそうですかと言う訳にはいかない。短い間だったが俺たちは戦友だったんだ、明日は別の戦場で戦うことになるかもしれないが、今日は気持ちよく別れたい。
「嫌だね、カッコ悪い」
『カッコつけてる場合か? あんたのスコアで多分ボーダーくらいだぜ、ダメ押ししといた方がいいと思うんだが』
「一緒に戦って楽しかったからな、後味の悪い終わり方はしたくない」
サジタリウス氏がいなければスキュータム二機は倒せなかったしな。戦いの後の心地よい高揚感で結果なんてどうでもよく思えて来た、駄目なら駄目で美味しいバッテラを貰って帰るさ。
『そうか、俺も気持ちよく撃ちまくれて楽しかった。あんた絶対すごいよ、またいつかよろしくな』
『4時方向上空に高速接近する機体、ムスカです』
最後の最後まで油断大敵って奴か、サジタリウスの四丁のビームガンから凄まじい対空射撃が始まる、残り時間もないのでクールタイムを無視した猛連射だ。
サジタリウスは対空補正が最も高い機種だ、ムスカは運が悪かったな。まあ、知ってたら飛び込んで来なかっただろうが。
翼を撃ち抜かれたムスカが落ちてくるのをジャンプ斬りで両断する、紙装甲のムスカ相手にフルパワーのXキャリヴァーなんてオーバーキルもいいところだ。
単に剣のリーチを伸ばしたかっただけなんだ、フルパワーのXキャリヴァーは刀身の3倍以上のビームの刃を発生させ、紫色の残像を残して敵の機体を真っ二つに断ち斬った。斬るというより相手をほとんど蒸散させてしまった気もするがまあいいや、後で動画で確認しよう。
ド派手な技が決まったところでタイムオーバー、今の攻撃はギリギリ間に合ったよな? あ、38銃の回収忘れてた。