ネコミミ妄動
ネコミミ……ネコミミに見える。
いや。多分、アクティブスキャナ用のアンテナか何かなんだろうけどさ。
リンクス専用試作頭部ユニット(ネコミ^・x・^ミ)
ふざけた顔文字のアイテム名つけやがって。俺が第一発見者ならもっとカッコイイ名前をつけたのに。
ステージ7をクリアしたら新しい頭部ユニットを入手できたのだが、すでに俺より先に入手しているプレイヤーがいたようで変な名前がつけられていた。名前はまあどうでもいいが、あの鬼難易度の水マップをどうやってリンクスでクリアしたんだろう? 俺が絶対一番乗りだと思ったのに。
俺の場合、会社で仕事中にふと思いついた攻略方法を試してみたら上手くいった。攻略といってもワイヤーアンカーでチェーンデスマッチに持ち込んで、Xキャリヴァーで突きまくっただけなんだがな。水中でビームソードは使えないが、Xキャリヴァーの本体は実剣なので敵の機体に突き刺してからビームの刃を発生させるという力技で瞬殺できた。
まあいいだろう。この際もうアイテム名はネコミミでいいや。このデザインでは誰が見たってネコミミで納得だ。俺に命名権がなくってむしろよかったかもしれない。この手のアイテムに下手な名前をつけてしまうと掲示板等でずっと叩かれ続けるからな。
このネコミミヘッド、デュアルセンサーが造形的に人の目のように見える。見た目的に正義側のロボっぽい。
今まで使っていた頭部ユニットは、トンボの目玉のようなフェイズドアレイセンサーのせいでどうしても昆虫のイメージが強かったからな。宇宙からのインベーダーのメカ的な、何かそういうデザインだ。俺はわりと気に入っているが、小さい子が見たら泣いて怖がりそうなレベルだ。
頭部ユニットを変えただけで蟻型エイリアンから猫型萌系ロボになってしまった。折れそうなくらい細い腰のせいで、顔に見えるパーツがあるとどうしても女性のプロポーションに見えてしまう。古代中国じゃボンキュッボンな美女を褒める時に蜂に喩えたらしいしな。言われてみれば蟻とか蜂はなんとなく女性らしく見えなくもない。
これがリンクスⅡだと明らかに女性をモチーフとしたデザインに進化? している。対戦ゲームに紅一点はお約束だから、デザイナーが狙ってやったんだろうなあ。長い一対のアンテナがウサミミを連想させるためリンクスⅡはバニーちゃんの愛称で呼ばれている。尻尾はないけどな。
リンクスⅡは性能的には専用盾のないスキュータムという評価だ。リンクス本来の尖がった性能が失われたため、これといった長所もないようで使っているプレイヤーは少ない。
近接戦闘に特化していたリンクスに火器管制機能を追加していろいろできるようにした改良型のリンクスⅡだが、優秀な汎用機であるスキュータムには及ばなかったというところか。
ネコミミ装備のリンクスは、まあ、リンクス1.5といったところか。頭部ユニットを自由に換装できるというのは、他の機体に乗り換える気がない俺にとってはありがたい。
たまには気分を変えて射撃メインで戦ってみよう。
メインウエポンとして定番の44ビームガンを買ってもいいのだが、倉庫の肥やしになっている38式ビームライフルを試してみることにする。おそらく銃マニアのプレイヤーが命名したのだろう、帝国陸軍の三八式歩兵銃が元ネタだと思われる。確かに銃身が細身でひょろりと長いところは似ていなくもないが、昔の銃なんて大抵が細長い。俺なら種子島と名付けたな。
このサンパチはガチャでわりとよく出るビームガンで、レア武器なのに店売りの44ビームガンに性能で負けている。だいぶ前にガチャで出たのを、いつか役に立つかと放置していた。オークションに出しても捨て値にしないと売れないしな。
特筆すべき点として、銃口の下にバヨネットソケットがついていて、規格の合う銃剣ユニットを装着することが可能だ。生憎と店売りの銃剣は使い物にならないものばかりだ。剣があれば銃剣なんて別になくてもかまわないのだが、せっかくついてるんだしやはり使ってみたい。
バヨネットソケットの適合リストを見ると、ソードブレイカーは◎がついている。短剣や短刀の半分くらいは銃剣として装着可能みたいだ。×は多分使えないって意味だろうが、△や○だとどう違うのかよくわからない。
銃口の下側にソードブレイカーを固定すると、ビームとギリギリ干渉しない位置にきっちりはまる。ちょっとした槍だなこれは。重心が前よりになって銃としての使い勝手は悪くなるかもしれないが、こういうギミックは嫌いではない。とりあえず試してみることにする。
出撃した瞬間、見慣れた筈のステージ1の景色があまりにもクリアなのに驚いた。これがデュアルセンサーの威力か。なんというか岩肌の陰影がはっきり見えて臨場感が半端ない。遠近感も把握しやすくなった気がする。
反面、後方視界が悪い。俺の首の動きをトレースしてリンクスの頭部ユニットも動くので一応問題ないのだが、ほんの一瞬のタイムラグがある。その点、前のフェイズドアレイセンサーにはまったく隙がなかった。まあ、バックミラー代わりに後方監視センサーを見ればいいんだが、こういうのは気分の問題だ。
銃の扱いに少なからず苦手意識がある俺にとって、攻撃して来ないステージ1のクモ足メカは格好の練習相手だ。ターゲットをロックオンしてトリガーを引く。命中。射撃ってこんなに簡単だったか? 操縦に慣れたせいで、以前はあんなに苦労していた射撃の操作が苦もなくできる。
だが、簡単すぎて違和感がある。ロックオンするだけでリンクスがオートで狙いをつけてくれるため、その間俺のする事がなくなってしまう。
これが剣だとインパクトの瞬間の微調整まで自在にコントロールする必要があり、それが楽しいんだがな。試しに腕の動きを直接操作して自分で狙いをつけてみる。
ロックオン後に銃を動かす操作をすると、オートモードは解除されるようだ。だが、当然ながら手動で射つとなかなか命中しない。まあ、そこは腕次第というところか。
このゲームの銃火器には引き金がついてなくて、プレイヤーが押すコントローラのボタンがそのままトリガーになっている。わざわざロボの指で引き金を引いたりするのは二度手間だしな、変なところで合理的だ。模型を作ろうとしたマニアが気づいて、掲示板にカッコ悪いと書き込んだら賛否両論でえらく盛り上がったみたいだ。俺は使いやすければどっちでもいいけどな。
銃の一部が機体のどこかに接触していれば発射できるようだ。落ちている銃を踏んでトリガーボタンを押して発射なんてこともできる。こういうのは実際に使ってみないとなかなか気づかないもんだ。敵を知り己を知れば負けないぞ、と。まずはいろいろやってみよう。
38銃には単射モードしかないが、クールタイムが短いので案外使いやすい。射撃の練習用としては丁度いいかもしれない。
ステージ1の敵を全部倒してしまいステージ2へ。反撃して来る相手だとやはり勝手が違う。クモ足メカの急所に上手く命中させても一撃では倒せない。当然撃ち合いになる。
銃剣でも問題なく切り払いはできるが、銃を振り回していては当然射てない。こうなるとスキュータムみたいな盾が欲しいな。
回避しながらの射撃も試してみたが、手動で当てるのは難しい。オート射撃に頼っても敵が回避運動するので結構外れる。何より回避機動中に勝手に腕を動かされるとバランスが微妙に崩れてイラっとする。
だいたい銃を構えるモーションって動きにくいんだよな。狙いをつける時に機体を安定させようとするから隙ができるんだ。銃だと思うからいかんのだ、槍だと思えばいい。
思いついてバトンのように銃をくるくる回転させてみる。最近はリアルでも暇さえあればバランス感覚を鍛えているのでこの手の芸は得意になった、剣でも斧でも思い通り回せる。ペン回しと同じで重心と回すタイミングさえわかっていれば何でも応用が利く。銃を右手から左手へ、そして再び右手へ、ブンブン回転させて演武のように見得を切る。
この銃、剣より回しやすいぞ。まあ持つ場所が重心付近なんだから当然だけど。やばい、バトントワリングっぽくてなんかカッコイイかも。この技は対戦時にデモンストレーションとして使えるかもしれない。派手に決めて相手にプレッシャーを与えるんだ。
調子に乗って銃剣をくるくる回転させながら敵のビームを切り払えないかやってみたが、いきなり難易度が上がってしまった。このゲームで一番雑魚いクモ脚メカ相手に成功率は1割程度。何しろ銃剣の狭い当たり判定をタイミングよく飛来するビームに重ねなければならないので、相当に読みがいる。魅せ技としては結構いい線いってると思うんだが、人前で披露するにはまだまだ練習が必要だな。
射撃の際に動きを止めることなく流し射ちしてみると、かなりすごいことになってしまった。ビームサーベルを振るようなもので、広範囲をビームで薙ぎ払うことができる。威力は極端に低下するのでヒットしてもほとんどダメージは通らないが、拡散するビーム粒子が見た目的に綺麗だ。対人戦の牽制用に使えないだろうか? CPUのサジタリウスが大型のビーム砲で似たような攻撃をたまにしてくるが、あれは当たってもカスダメしかくらわないと知っていても結構ドキドキする。子ども騙しだが心理的攻撃としてはアリかもな、相手が気をそらしている間に接近してしまえばこっちのもんだ。
ステージ2でここまで楽しめたのは久しぶりだ、たまに武器を変えてみるのも新鮮で面白い、ゲームを本当に楽しめるのは初心者のうちなのかもしれないと思う。
射撃だけでなんとかなるのはステージ3までだな。多脚戦艦は時間さえあればなんとかなりそうな気はするが、38式ビームライフルではパワー不足だ。それほど高価なものでもないし、44ビームガンも買ってみるかな。
「最強の銃剣って言ったらタイガーマチェットっスよ。攻撃力はバスターソードの二割り増しっス。」
「何それ欲しい。」
ジミー君お勧めのタイガーマチェットとやらはどうやらレオの専用装備の短刀らしい。バヨネットソケットに対応しているので銃剣にしてしまえば他の機体でも使えるという裏技があるそうだ。人気アイテムだがオークションに滅多に出ず、出たとしてもかなりの高値がつくという。まあ、大半のプレイヤーは裏技的な仕掛けが大好きだからな。
俺は別にそこまでして銃剣を使いたいわけじゃない。それにしてもタイガーマチェットの性能は地味にすごい。1本だけならまだそれ程でもないが、二刀流で使えるのがチートだ。正直、対抗策が思いつかない。レオ自体が相当レアみたいだし、まず出くわさないとは思うけどな。
「そういえばいよいよ明日は5戦目解禁っスね。ジュニアの部が分かれるんで出遅れると相手探しに苦労しそうっスよ。」
クリスマストーナメント5戦目からは未成年のプレイヤーは別枠になり、エントリー時刻が17時までに制限されるようだ。パイロットカードを作る際に個人情報を登録しているこのゲームならではの措置だ、良い子は明るいうちにお家に帰りましょうってことだな。
最近ニュースでよく聞く、“平和を護る市民の団体”が出したテロ予告への対策なのかもしれない。“ガーディアントルーパーズ”がロボット兵器のパイロットを養成するための悪魔のゲームだという馬鹿げた主張をして暴れている連中がいるらしい。まったくおめでたい連中だ、非常に残念なことにこの世界には戦闘用巨大ロボなど存在しないし、仮に存在したとしてもそんな秘密兵器の操縦ノウハウを一般公開してどうする?
“ガーディアントルーパーズ”の運営母体が本物のミサイルを製造している米国の軍事企業だというのが連中の妄想の根拠らしいが、平和団体なら軍需産業がゲーム業界に転業する流れをむしろ歓迎すべきじゃないのか? まあ、平和のためには無差別テロも辞さずって連中みたいだ、変な事件になる前に早いとこ逮捕して欲しいものだ。
トーナメントの対戦相手が少なくなればマッチングがそれだけ大変になる。未成年プレイヤーが抜けると残っている対戦相手は200人弱しかいない、明日は出遅れないようにしないとな。
あれ? 今の時点で俺は日本でだいたい上位200人くらいには入ってるってことだよな。これってすごいんじゃないか?
明日勝てばTOP100入りじゃないか、装備をどうしよう? 付け焼刃のビームガンが通用する程甘くはないだろうが、牽制としてなら使えるか? とにかくXキャリヴァーは必須だよな。
ここまで勝ち抜いて来た連中だ、さすがに近接戦闘のやり方を知らないなんてプレイヤーはもういないだろう。
なんてこった、急にプレッシャーを感じてきたぞ。