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俺のロボ  作者: 温泉卵


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111/113

いま、俺が目覚める

 夢を見ている。

 

 どこか南国のビーチっぽい場所だ。周囲をキャッキャウフフしている美女達に囲まれている。

 無数の美女ってなんだよ、たとえ夢でもシュール過ぎるだろう。カニメカの大群を思い出す。

 

 うーん、これは俺の願望なのだろうか? それともリンリンのハーレム演出が、夢の中までフラッシュバックしているのだろうか?

 

 まあ、俺も男だし嫌じゃないけどな。少なくとも悪夢ではない。

 

 考えてみれば、最近は夢より現実の方が夢みたいだからなあ。

 

 さて、この後どんな超展開になることやら? ちょっと楽しみだ。なにしろ夢だし、なんでもありだもんな。

 

 空を飛ぶ? 夢の中ならわりと普通にできることだしなあ、そんなに有難味はない。平泳ぎですいーっとな。慣れれば泳がなくても空を飛べるんだ。

 

 そんなことより酒池肉林だ。目の前の見たこともないようなご馳走が、果たしてどんな味か気になる。

 見た目は素晴らしい。爺さんの料理でも、ネットの画像でもこんなの見たことない。夢なんだから、無意識に俺がデザインしたってことだよな? 実は天才なのかもしれない。

 

 俺の場合、夢で食事をしようとすると、大抵何か邪魔が入ることになっている。リンリンとかは良く、寝言でもう食べられないとか言ってるから、個人差があるのだろう。

 

 慎重に口に運ぶと、夢でも普通に味がする。やった、成功だ。

 味の方は、うん、不味くはない。ちょっと薄味か? 爺さんの料理には遠く及ばない。


 夢のような味がするんじゃないかとちょっと期待したが、大したことなかった。俺の夢である以上、自分の限界を超えられないってことか?


 認めたくはないな、そんな夢のないこと。俺の料理はこれよりもっと美味いって!

 

 果たして夢とは自分の脳が生み出す幻にすぎないのか? でも予知夢とかあるしな。テレパシーが存在するなら、時空を超えて何かとアクセスしているってトンデモ説も、ありっちゃありかもな。

 

 よし決めた、夢の可能性は無限大だって。その方が面白いし、夢があるもんな。

 

 それなら俺より強い奴に会いに行こう。超強い奴カモン。夢の中なら負けたってノーリスクだ。

 丹田に気合を溜めて、夢の翼で天に飛ぶ。夢の中で夢探しかあ、なんか俺も大変だな。

 

 さすがは夢だけあってご都合主義だ。すぐに夢は見つかった。

 

 金髪の侍が刀を構えて宙に浮いている。いいぞいいぞ、オラワク級に強そうな奴じゃないか。見掛け倒しでないことを祈るぞ……

 


 

 気配を感じて飛び起きる。あれ? 俺は何をしていたんだ? 金髪のヤバイ奴を次々に倒し、その度にどんどん強い敵が現れて……敵のインフレにワクテカしてたんだよな。

 次の強敵はどっちだ? なんだ? 戦闘力たった200だと? これじゃあ、ただの超強い人間だ。

 

「お願い、殺さないで」

 

 俺が殺気を向けると、セーラー服を着たリンリンが命乞いを始めた。

 

 あれ? リンリン? 俺は寝ぼけていたのか? 戦闘力ってなんだよ?

 せっかくいい夢を見ていたのに、こいつに無理やり起こされてしまったようだ。

 

「んががが、我が眠りを妨げる馬鹿はお前かー」

 

「え? そっち系が良かった? ボスキャラプレイとはマニアックね」

 

 そっち系ってどっち系だよ?

 

「で、そのコスプレは何の真似だ?」

 

 セーラー服なんだから女学生のつもりだろう、それくらいはわかる。何か特定のアニメキャラかもしれない。

 こいつ、二十歳は超えているらしいのに、セーラー服でも違和感がないのが怖い。化粧で誤魔化している筈なのに、スッピンに見えるのがもっと怖い。

  

「お隣さんの幼馴染が起こしに来たってシチュエーションよ? 王道だよ?」

 

「そんな王道は知らん。で、起こしに来たってことは何か緊急事態か?」

 

 それでも三時間は寝れたしな。起こしに来たのがリンリンじゃ怒っても仕方がない。

 こいつは悪女だが、意外に邪気は無いからな。

 

 それに、確かに緊急事態ではあった。俺がいい夢を見ている間に、銀河を揺るがす大事件が起きていた。

 


 

 たった数時間で、ブラックホール砲搭載艦が三隻沈められていた。つまり、三つの星系が現在進行形で消滅しつつあるということだ。

 

 気になるのは攻撃されたタイミングだな。情報が届くまでの時間を逆算していくと、俺が要塞艦を沈めたのとほぼ同時刻に、三隻とも沈められている。

 偶然の一致とは思えない、だが模倣犯にしては早過ぎる。

 

 ビリーとあーだこーだ話している間に、さらに追加で二隻沈んだ報告が入る。


「これで太陽系と銀河連邦を結ぶ全てのスターゲートが失われてしまったね」

 

 ビリーが星間連絡マップを確認してそう言った。

 

 宇宙で孤立した? 地球にとっては悪い話じゃない、銀河連邦と戦う必要がなくなるんだからな。むしろ都合よすぎて気味が悪いくらいだ。

 

 地球だけじゃない、トリックスターやカニメカの星も、まとめて銀河連邦から分断されてしまった。

 いや、何者かが切り離したかったのはカニメカ星系だろうなあ。地球やトリックスターは巻き込まれただけだと思う。

 

 宇宙海賊の中には閉じ込められたとか言ってパニックになる奴も出始めている。まだ百以上の星系と行き来できるというのに、閉所恐怖症になるとかおかしいだろう。

 

 立って半畳寝て一畳って言葉を知らんのか。俺は太陽系一つあれば一生生きていけるぞ。

 

 

 しかしまあ、あの馬鹿でかい要塞艦を簡単に沈めるような連中が、宇宙にはゴロゴロしてたってことだな。

 俺だってまあ、そんなに苦労しなかったけど、少しは大変だった。

 

 要するに俺より強い奴らが大勢いるってことだよな。

 ヤバイけど会いに行ってみるか? 危険を冒すのが冒険だ。敵が金髪かどうかはわからんが、さっき見た夢は正夢だったかもな。

 

 

 リンクスのコクピットに座ると落ち着く。もはや俺の体の一部のように馴染んだレバー……あれ、また形がちょっと変わってるぞ。

 最近ベティちゃんが自重しなくなって、遠慮なくバージョンアップしてくれる。もはや初期の面影はどこにも残っていない。

 コクピットの広さとかおかしいし。四畳半? いやもっと広くなった。もうどう考えてもリンクスの胸部に収まりきらないサイズだ。

 

 居住性アップのためだけではない。相殺できない程の衝撃を受けた時、シートごと、あるいはコクピットごと動いてパイロットへのダメージを吸収する仕様のようだ。

 銀河連邦の戦闘艦の艦橋がそういう構造になっているそうだ。このあいだ拿捕した船は最新鋭艦だったようで、ビリーや宇宙海賊達も大喜びでコピーしまくっている。

 

 技術は独占したいところだが、子分に飴をばら撒くのもボスの役目らしいしなあ。

 

 宇宙海賊なんぞ所詮は荒くれ者の集団だ。甘やかし過ぎると舐められるし、厳しくし過ぎても離反する。ちょうどいい塩梅ってのが難しいんだよなあ。

 

 

 

 さて、俺より強い敵に会いに行く作戦だが、どこに行こう?

 要塞艦を沈めている現場を見物したかったよ。もう沈めちゃってるんだよなあ、犯人は現場に戻るか?

 戻らないだろ、現場は既にブラックホールに呑みこまれている。

 

 それに宇宙飛行はもう飽きた。宇宙って基本何にもないから、すぐに飽きるぞ。

 インタビューでもそう言ったら、バッサリとカットされてしまった。宇宙飛行士を目指す子供達の夢を壊したくないそうだ。その程度で壊れる夢なら、早目に壊してやった方がその子のためだと思うんだが。

 

 

 という訳でカニメカの星で待ち伏せすることにする。奴らが何者かは知らないが、どうせお目当てはマテリアルだろう。

 

 

 ガーディアントルーパーズIIで駆けまわったフィールドは、以前と変わらない姿でそこにあった。見覚えのある山々。見知らぬクレーターなんかも追加で穿たれていたりするが、あれは手加減を知らないヴァルキリア達が悪い。

 

 ビーム兵器とかってクリーンなイメージがあったが、物質にぶつかる際に小規模な核分裂が起きることもある。そう簡単に連鎖反応とまではいかないが、それでも放射性物質は発生する。

 ヴァルキリアの凄いビームは地表に当たって爆発したりしていた。ウランか何か、核分裂し易い物質が落ちてたのかもしれない。

 

 この星に取り残された時は、まだ現実ではなくゲームだと思っていたから、環境問題とかは特に意識していなかった。

 大気圏内でビームを使うのは環境に悪いと思う。その点、剣でチャンバラはエコだと思う。俺の戦い方は実は一番環境に優しかったのだ。

 ビームソード? あれは有害物質を撒き散らしそうだよなあ。有尾人からいただいたビームソードは、振り回すだけでも空気と反応して変な匂いがするし。

 

 そういえば、この星ではリンクスから降りたことはなかったな。有害な微生物に感染するかもしれないとかで、外に出る時はアンドロイド……合成人間に憑依していたんだった。

 

 たった何か月か前のことが、今となっては何もかもみな懐かしい。夜空の星まで懐かしい。

 なんとなく宇宙要塞を探してみる。あれもそのうち攻略してみたかったな。

 

「あ、なんか光った」

 

 一瞬だったが、星の瞬きではなかった。宇宙で誰かが戦っている。

 

 すかさずベティちゃんが拡大してくれる。画像補正のせいで多少ディティールが甘いが、シルエットは確かにヴァルキリアだ。

 あれだけ強かったヴァルキリアの部隊が、一方的に狩られている。これは、何が起きている?

 相手も人型ロボだ。ソード系の武装で、易々とヴァルキリア達を撃破していく。

 

 いや、おかしいだろ? 謎のロボのスピードがおかしい。

 

 磁石に引き寄せられるようにスイッと剣の間合いまで近づき、一閃でヴァルキリアを両断してしまう。宇宙空間だぞ! あんなにスイスイ動けるなら苦労はないんだよ!

 

 機体性能がそれだけ凄いってことか? うーん、どう見てもチート臭い動きなんだが。

 

 間合いの詰め方は神がかっているのに、剣の腕はそれほどでもない。技巧も何もあったもんじゃない。

 強いて褒めるなら、迷いのない太刀筋ぐらいだな。シンプルだが、剣速は俺より速い。ああいうタイプは、なかなかフェイントに引っ掛からないから厄介なんだよ。

 

 ヴァルキリア達だって必死で反撃はしている。強力なビームの飽和攻撃だ。見た感じじゃ結構命中しているのに、まったく効いていない? バリアーで弾いている感じではない。完全に素通りしている。

 

 ゲームの話だが、チートで当たり判定を消した奴と戦ったことがある。あれと似たような感じだ。

 こっちの攻撃は当たらないのに、敵からの攻撃は当たる。やられる方はたまったもんじゃない。

 

 ゲームなら完全回避でドローに持ち込むこともできるが、リアルの戦争だからなあ。これはお手上げだ。

 

『あの機体、瞬間的に光速を超えていますね。物理的にはあり得ない動きです』

 

 光速ってのは、まあ、無茶苦茶速い。銀河連邦の高速宇宙船でも、せいぜい光速の数パーセントだ。

 そして光速を超えてはいけないルールがあった筈だ。アインシュタイン先生が決めたからな。

 

 瞬間移動も結果的には光速を超えて移動できるが、あれは空間を飛び越えて近道してるってことで、一応法則は守っているらしい。

 だが奴は正面から相対性理論を無視してきやがった。ヌルっと普通に光速の数倍で動いてやがる。物理学者が見たら怒るぞ。ビリーはなんて言うだろうな。

 

 有り得ない可能性を適当に取り除いていけば、最後に残るのがそれっぽい真実だ。

 やっぱりこの世界はゲームだった? いやそれよりも夢オチってことでどうだ? 全て説明がつく。

 たぶん俺は昨夜からずっと寝てるんだ。リンリンが起こしに来たのも夢だったってことでOK。

 

『あと数秒でヴァルキリアが全滅しますけど、どうします?』

 

 ベティちゃんの声が俺を現実逃避から引き戻す。夢みたいだけど夢じゃなかったか。

 

「とりあえず逃げる! いや、戦略的撤退だ」

 

 あれはうかつに戦っちゃいけない奴だ。勝ち筋が見えないなら、最初から敵対しないのが一番いい。

 

 奴がいくら高性能でも、まだリンクスに気づいていない可能性は高い。光学ズームで見てただけだから、完全パッシブだし。

 

『賢明な判断でしょう。あれと戦うとか言い出したらどうしようかと、ハラハラしてました』

 

 ベティちゃんが極めて冷静な口調で言う。

 

「フハハ。猪突猛進しか知らない猪武者とは違うのだよ」

 

 斬れない相手なんだから、逃げても負けじゃない。今新たに決めた俺ルールだ。

 そりゃあ、ちょっとは悔しいが、退くも勇気ってことで自分を褒めてあげたい。

 

 チート野郎の相手なんてしたくないし。そう、それでいこう。

 

 

 

 たったの数十分で、あっさり地球に帰還する。

 忘れ物でもしたような顔で、しれっとビリーの所に舞い戻る。

 

 ビリーは宇宙海賊達とリモート会議の最中だった。

 地球軌道上に続々と海賊船が集まりつつあるようだ。

 

 丁度いいかもな。

 

「ヤローども、ちょっとこいつを見てくれ。分かるかな、分かんねえかなあ」

 

 さっき見てきた戦闘映像をそのまま流す。分かる奴はすぐにそのヤバさに気づいたようだ。これで分からない奴は海賊稼業には向いてないからさっさとやめちまえ。

 

『けっ、銀河連邦の奴らいい気味だぜ。最強の海賊王様なら、当然勝てるんでしょうなあ』

 

 嫌味な顔のヒューマノイドタイプが嫌味な物言いをする。この手の輩はどこの組織にもいるよなあ。

 

「俺の手下に間抜けは不要だ」

 

 一喝してやると顔を青くして黙り込む。

 どうせ馬鹿なら反乱を起こすくらい根性見せろよ。容赦なく叩き斬ってやるから。

 

「いいか、今は情報収集の時だ。奴らが幽霊なのか、何らかのトリックなのか、手品のネタがはっきりするまで絶対にこちらから攻撃するなよ」

 

『とにかく逃げろ隠れろ生き延びろってこったね。あたしらは有難くトンズラさせてもらうよ』

 

 まあ、その解釈でも間違っちゃいないか。

 

 女海賊が真っ先に逃げ出すと、他の海賊船も次々に地球の軌道から離れていく。

 束になっても勝ち目がなければ、分散して逃げ回るのが最適解だ。

 

 交渉可能な相手かもしれないが、とにかく情報が足りない。そもそも知的生命体かどうかもわからないんだ。暴走した銀河連邦の秘密兵器とかだったらどうする? 

 

「なあビリー、お前天才なんだろう? 奴はどうやってアインシュタインを無視してると思う?」

 

「ボクは天才じゃない、超天才だよ。アインシュタインの式にもいろいろあるんだけど、質量をゼロにして計算してみるのはどうかな」

 

 ビリーがメモ用紙になんか書きなぐる。

 うん、さっぱり意味不明だ。

  

「つまり、やっぱりあれはロボの幽霊ってことか?」

 

 幽霊の質量はゼロなのか? 魂に重さがあるって話は聞いたことがあるな。

 

「いや、既成概念にとらわれてはいけないって言いたかっただけだよ」

 

 ビリーはポケットからレーザーポインターを取り出すと、壁に向かって振り回して見せる。赤い点がすごい速さで壁を走り回る。

 

 確かにこれなら赤い点は光速だって超えられる……のか?

 

「ああ、立体映像ってことか。でも立体映像は攻撃できないだろう? そうなると誰がヴァルキリアを斬ったんだ?」

 

「斬られた方も含めて全て映像だった、ということじゃ駄目かな? それじゃつまらない? じゃあ攻撃の瞬間だけ実体がどこかから瞬間移動して来るというのはどうかな?」

 

 ふむ。ビリーは馬鹿だけど頭がいいなあ。

 

 改めて映像を見直すと、確かに斬りつける瞬間は肉眼で確認できる程度のスピードだ。この時に実体化しているのなら、別に倒せない相手じゃないな。まんまと騙された。

 

 相手の方から間合いに飛び込んで来てくれるんだ。カウンターでハメ殺せば簡単だ。待ちは卑怯とか言ってる場合じゃないしな。

 

「他にもいくつか仮説を思いついたよ。ヴァルキリアの切断された破片を調査したいなあ。はへん! はへん! ギブミーはへん!」

 

 お前は子供か! いいよ、わかったよ。

 俺もあの宇宙要塞には一度行ってみたかったし、今すぐ拾いに行くよ。

 

 我ながらフットワークが軽いなあ。

 

 防衛軍とかだと漂着船の調査をするのにも会議を開いていて、結論が出るまで三日はかかるらしい。

 兵は拙速を尊ぶと言うが連中は石橋を叩き過ぎだ。中にはまともな軍人さんもいるが、多数決じゃなあ。

 

 地球人同士のいざこざは当分放置でいいだろう。今は宇宙が大変だ。

 

 再びカニメカの星へ戻る。今度はわざと座標をずらしそのまま宇宙空間へ。

 ベティちゃんが素早く軌道計算してくれる。宇宙の旅にも慣れたもんだ。

 

 すでに宇宙要塞周辺に戦闘の気配はない。ヴァルキリアを全滅させて立ち去ったか? だと楽なんだが。

 そういや、奴は何故剣しか使わなかったんだろうな? 剣しか使えない? それともこだわりか?

 

 いろいろ謎過ぎる。本当に幽霊だったら成仏させてやるのがいいんだろうが、宇宙幽霊の宗派なんてわからんしなあ。

 よく分からないものはやっぱり怖い。こそっと破片を拾ってすぐ帰ろう。

 

 

 奇抜な形の宇宙要塞は近くで見ると案外小さかった。あの巨大な要塞艦を見た後じゃなあ。

 

 幸いにして、奴の影はない。

 たまにはこういうコソコソしたミッションもいいな。

 

「あれ? 残骸とか見当たらないぞ?」

 

『要塞の引力なんてたかが知れてますからね、軌道上を流れて行ったんでしょう』

 

「あー、スペースデブリな」

 

 ゴミになって星の回りをぐるぐる回ってるんだよな。拾いに行くのも面倒だし、要塞の中を探すか。

 

 小惑星にそのまま穴をあけて格納庫にしたタイプの宇宙要塞だ。以前は地上からも格納庫の照明が見えた。

 今は真っ暗だ。

 

 皆殺しのあった現場か、ホラー映画みたいだ。戦闘中はそうでもないが、戦いがすんだ戦場ってのはなかなか怖いぞ。

 破壊の跡を冷静に観察してしまうからだろうなあ。戦ったりする奴は野蛮なロクデナシだ。戦争反対。なんかそう思えてくるもんだ。

 

 ん、たいしたことない殺気がいっぱいある。警備システムでも生き残ってるんだろう。


「一応バスターソードを出してくれ、いや、やっぱ邪魔だからいいや」

 

 狭い場所だと剣は邪魔だなあ。奴も格納庫内じゃ光速に加速とかできずに困ったんじゃないか? あ、幽霊って壁抜けできるんだっけ? ビリーの仮説が正しければ障害物は問題なさそうだな。 

 ああ、でも、テレポーターにとっては、瞬間移動したら石の中にいるってパターンが一番怖いと思う。

 

 子供の頃、怪談を聞かされた夜に、布団を頭から被って幽霊から身を守った覚えがある。布団一枚で防げる霊って、一体。

 

 子供って馬鹿だ。いや、一周回って天才か?

 テレポート防止ネットとか、案外有効かもしれない。

 

『あ、銀河連邦の残存兵のようですね。ヴァルキリアには脱出装置がついていますから』

 

「脅かすなよなあ。捕虜にして尋問? それも今更だな。とっとと残骸だけ回収してずらかろうぜ」

 

 鬼の居ぬ間に洗濯。鬼の洗濯岩。何故か鬼は洗濯に縁があるようだ。

 

 馬鹿なことを考えながら、袈裟切りにされたヴァルキリアの上半身をインベントリに収納する。

 この辺の残骸を全て回収すれば、三機くらいは組めそうだ。

 

 新たな殺気? いや、これは。

 

 いきなりリンクスに振り下ろされた刀身を、咄嗟に白刃取りで受ける。凄い力だが、ベクトルを多少ずらしてやれば、どうということはないのだよ。ブレードはポッキリ折れ、シュワシュワとリンクスの手の中で消えてなくなった。

 

「なんだ? マテリアルみたいだな?」

 

『高品質のマテリアルですよ! これは!』

 

 ベティちゃんも人間みたいな演技をするようになったな。AIは驚かないって、それくらい知ってるから。

 リンリン達の演技指導が良かったのか? でも、ガリーナなんかは凄いダイコン役者のままだよな。

 

 襲って来たのは、やはり奴だった。どことなくリンクスに似た機体。ニセリンクスと命名したいところだが、そこまでじゃないんだなあ。

 

 超光速に加速するでもなく、突っ立って折れた剣をしげしげと眺めている。

 驚いているのか? いや、アニメじゃあるまいし、戦闘ロボはそんな人間臭い芝居はしない。

 

 敵の両手剣はニュルっと再生されていく。あ、これは修復したらまた来るな。

 

 予想通りギュンギュン来た。

 

超速移動からの思い切りのいい突きだ。が、間合いが甘い!

 どんなに速くても、インパクトの瞬間さえ読めれば対処は可能だ。

 こちらから踏み込んで紙一重で避ける。

 

 ふーん、こいつ、今の俺の動きに反応が間に合わなかったな。

 ビリーの仮説は当たってるっぽいぞ。

 

 どんなに速く移動できても、攻撃の瞬間はただのロボみたいだ。

 

「バスターソード二本」

 

 二刀流で相手をしようか。バスターソードなどポキポキへし折られるだろうが、マテリアルが回収できる相手なら赤字にはならんだろう。

 

 わざと隙を見せて攻撃を誘い、当たり判定が発生する一瞬にカウンターを叩き込む。

 結構なハンデだが、剣の勝負としては面白い。

 

 右の剣で上手く斜めに刃を滑らせて受けることができた。同時に左の剣で敵の片腕を斬り落とす。二刀流はこういう時に便利だ。

 

 意外に柔いな。バリアーはないのか。反撃されることは想定外ってことかな。

 

 腕ゲットだぜ! 昇華してマテリアルになる前にインベントリに放り込む。

 

 奴は失った腕を再生させ、再び挑んでくる。不死身かよ。

 いや、考えようによってはマテリアルを無限に回収できる? 長期戦は面倒だが、ご褒美があるなら俄然やる気出た。

 

 障害物を素通りして来るが、攻撃の瞬間だけは近くに壁があると邪魔みたいだ。なるほど。

 初見殺しではあったが、カラクリさえわかってしまえば対処は難しくはない。こいつ一機だけなら、三日くらいは相手をしていられるだろう。

 

 剣で挑んでくれるというのが有難いよな。待ちに徹してカウンターを合わせるだけでいい。

 相手も馬鹿じゃないから、手を変え品を変え挑んでくるのだが、剣道初心者みたいでちょっと微笑ましい。パイロットは素人だな。

 たった一度のミスでこっちは負けるわけだが、そんなのもう今更だし。

 

 戦い続けるうちに、敵に焦りが見え始めて来た。随分人間臭い反応をするじゃないか。中の人の顔が見たいよ。

 

 剣を腕ごと斬り落とすのが、一番楽でマテリアルの回収量も多い。

 敵さんも再生にマテリアルを使っているんだろうから限界はある筈だ。今のところまだ尽きる気配はないな。

 

 なんとなくだが、こいつはカニメカの上位的な存在じゃないかと思えてきた。

 コア的なパーツを破壊すればトドメはさせるんじゃないかな? コアの位置はわからないけれど、多分頭部か胸部だと思う。

 

 勝ったな、と思う心が負けフラグ。

 最強の敵は睡魔だ。

 

 さすがにコアっぽい場所は簡単には攻撃させてくれないようだ。

 奴さんにしてみれば、ヤバくなったら逃げればいいんだしな。つまりまだ俺に勝てる気で戦いを挑んで来てるってことだ。

 

 状況を見る限り、ある意味かなり互角の勝負ではあるんだよなあ。つまりこいつは好敵手だと言える。

 

 なのにイマイチ盛り上がらないバトルだ。相手のパイロットが未熟だからな、機体性能に頼り過ぎなんだ。逆なら燃えたのに、俺だってテクニシャンと戦いたい。

 ああ、こいつは俺との戦いが凄く楽しいのかもな。自分だけ楽しみやがって……マテリアルは授業料として貰っておこう。

 

 あー、でも、最初の白刃取りはちょっとワクワクドキドキしたな。血沸き肉躍るって奴だ。

 血が滴るような本物のビフテキが食べたいな。

 

 さすがに食事をしながら戦える相手ではない。

 空腹は集中力を高めるが、行き過ぎると消耗が激しくなる。

 

 ああ、ヤバくなったら瞬間移動で逃げればいいか。

 そう思った一瞬、気が緩んだのだろう。致命的なミスをしてしまう。

 

 いかん、避けきれん!

 

 

 

 あれ? 来る筈の攻撃が来なかった。

 あいつ、どこ行った?

 

『逃げられましたね。マテリアルを失い過ぎて戦意を喪失したのでしょう』

 

 いずれ逃げるとは思っていたが、このタイミングでそうなるか?

 俺にとっては運が良かった。ナージャちゃんに救われたのかもしれない。

 

「削り切れなかった。俺の負けだな」

 

 次は俺への対策を立ててリベンジしてくるに違いない。

 

 奴の仲間が他にいるのは、要塞艦が同時に沈められたことからも明らかだ。

 二機で来られたらヤバイ。三機で来られたら二刀流でもお手上げだ。

 

 逃げるか? いや、受けてたとうじゃないか。幽霊じゃなかったわけだしな。

 剣で斬れる相手なんだ、たとえ負けても納得はできる。

 

 俺もいよいよ年貢の納め時か? 最後の晩餐は肉がいいな。

 

「ベティちゃん、ビフテキある? 霜降りじゃなくていいから、血が滴り落ちるくらいのレアがいい」

 

 なければマテリアルで生成したっていいさ。今の戦いで相当稼いだしな。

 リンリンが冷凍肉を買い占めていた筈だが、取りに戻るのはヤバイ。地球に奴らを引き込んでしまう危険があるからな。

 

 俺の勘だと、奴らは強い相手を探している。戦闘を楽しんでやがる。

 クレイジーな連中だが、あれほどの戦闘力ならバンダリアとか相手にしても面白くないだろう。地球はするっとスルーしてくれ。


 あ、スーパーヴァルキリアをビリーに預けたままだったかもしれない。

 

 







 

 

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― 新着の感想 ―
[一言] パラレルワールドや未来から来たカキザキ=サンではなかった。 自分を自分で観測してるのかと一瞬思ったけど、技量的にそんなことありえんてぃだったね。 んで、ラックカンストはデカいやっぱり。 …
[良い点] 相変わらず面白いです。 チートvsチートは誰もツッコミが無くて草。 ベティちゃんのバージョンアップでツッコミスキル実装が望まれる。いや実装済みだけど既に毒されているだけか…? まぁこの…
[良い点] 二ヶ月ぶり、バス◎ードよりも待ってたぜw 相変わらずどこからどう突っ込んだら良いのか多すぎてわからんがw [気になる点] 一瞬セーラー服でそう言うプレイが何かのネタに有るのかとも思ったが、…
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