神器なき戦い
対人戦モードでスタートし、マッチング選択画面で対戦相手の指定を選択する。
ええと、木村君はA筐体だったよな。同じゲーセンの筐体だから指定は簡単な筈だが、慣れないメニューは使い難いな。はっきり言ってこのゲームの対人戦関連のメニュー画面は直感的じゃない。担当したデザイナーがきっとへっぽこなんだろう。
『A筐体のアマゼウス兵長から決闘が申し込まれました。お受けになりますか?』
こっちのモードでもナビはベティちゃんがしてくれるようだ。優秀なAIである彼女のことは結構信頼している。作った奴は天才だと思う。面倒なメニュー関係の操作は全てベティちゃんにお任せしようかな。
アマゼウスって木村君のパイロットネームか。俺の階級は曹長に上がったばかりだが、曹長と兵長ってどっちが上なんだろう?
そういえばベティちゃんには最初からザック軍曹って呼ばれてたかな。軍曹時代が長かったので昇進してザック曹長って呼ばれた時は半端なく違和感があった。俺が軍曹に昇進したのはリンクスを受領するのと同時だった筈。昇進の条件はいくつかあるらしいが、初見ステージクリアによる二階級特進を狙うのが一番簡単らしい。まあ、難易度的に考えて、狙えるのはステージ2までくらいだろうな。
このゲームを始めて一番最初にオレンジペガサスに乗った時、ザック二等兵と呼ばれたのを覚えている。その時のナビは今のベティちゃんじゃなかった。もっとキャピキャピしたマシンボイスだった気がする。結構長いチュートリアルがあったけれど、スキップ可能な所は全て飛ばした。今のベティちゃんが解説してくれてたら、我慢して全部説明を聞いていたと思う。
あれ? よく考えたらベティちゃんってゲームのシステムナビじゃなくて、リンクスに搭載されているAIなのか? その辺の設定は深く考えたことはなかったが、そうだとすればますます他の機体には乗り換えられないな。
ちなみにベティちゃんって名前は愛称のようなもので、リアルでも戦闘機などのナビは伝統的にベティちゃんと呼ばれているらしい。執事といえばセバスチャンみたいなお約束なのだろう。
「ええっと、このゲーセンのA筐体だね? うん。彼と対戦する約束をしてる」
ついいつもの調子でベティちゃんにファジーな返事をしてしまう。いちいち細かく指示しなくても、あいまいな会話の中から俺の意図を拾って的確に対応してくれるベティちゃんだが、今回はそれが裏目に出た。
「え。ちょっと、待って」
気づいた時には転送エフェクトが発生し、舞台は戦場へ。
よりによって遮蔽物がなく走り難い砂丘ステージだ。それより致命的なのが武装だ。左右の足に装備されたトマホーク(笑)のみ。バスターソードは前回の戦いで壊れてしまったままだからな。負けられない戦いでチートな性能のXキャリヴァーを装備していないのは痛い。
『申し訳ありません。私の判断ミスです』
ベティちゃんの声が気のせいかしょぼんとしている。だが、まあ、これはちゃんと指示しなかった俺のミスだな。慣れないシチュエーションでAIにそこまで頼ってどうする。いや、人間でも一から全部指示しないとちゃんとできない奴もいるからな。
「問題ない。丁度いいハンデさ」
いきなりハードモードだが、勝ちの決まっている決闘なんて考えてみればつまらないじゃないか。Xキャリヴァーを使えば楽できていたので、最近少し調子に乗ってたかもしれない。
強い武器で勝っても、初心者狩りをして喜んでる連中と変わらないじゃないか。
考えてみれば最高のお膳立てだ。ジョークアイテムであるトマホーク(笑)だけで勝てば、木村君がいかにDQNでもグウの音も出まい。
せめてゲームの中でくらい思い切り前向き思考でいこう。
今回画面には敵の現在位置や武装まで表示されている。双方が対人戦モードスタートだといろいろカスタマイズできるみたいだ。敵味方とも同じ条件なので一見公平に思えるが、これだとリンクスのステルス性の高さによる優位性が失われてしまう。まあ、俺がお任せ設定にしたままなのが悪いんだけどな。
木村君の乗機はスキュータムか。まあ、安定の強キャラだし想定内だ。専用盾にヨンヨンビームガンのお約束装備なのも予想通り。ただ、肩武装にグレネードランチャーとガトリングガンを装備しているのには驚いた。欲張り過ぎだろ、重くて運動性が低下するぞ。まあ、弾が切れたら武装投棄するんだろうけど、貧乏性の俺にはできないやり方だ。最近の学生は金持ちだなあ。
相手の武装を見ればどんな戦いになるかはなんとなくイメージできる。俺は勇ましく両手にトマホーク(笑)を構えると走り出す。
砂漠ステージの砂は柔らかく、走るにはコツがいる。接地する速度、角度、足を抜くタイミング。ブーストダッシュで移動すれば関係ないんだが、俺は走るのが好きなんだよ。まあ、俺の場合はブーストダッシュは緊急回避用って意識が強いからな。ブーストダッシュに頼らずともリンクスの走りが結構速いというのもある。
敵が散発的にビームを射ってくるが、まだまだ遠い。向こうだって当たるとは思ってないだろう。
放物線を描いて飛んで来るのは肩に装備したランチャーから発射されたグレネード弾だ。このゲームの弾はゲームにしてはやたら高速なのが多いんだが、回避に慣れてくるとむしろ速い弾の方が避けやすい。一瞬で通り過ぎて次の行動に移れるからだ。そういう意味では弾速が遅いグレネード弾は逆に面倒くさい。連射されると複数の弾体がゆっくり飛んで来る間、その全てに意識を向けておく必要がある。弾着すると爆発して爆風エフェクトを発生させるのも厄介だ。この爆風エフェクトにはダメージ判定があり、かなり広範囲に広がる。従ってこちらとしては未来の爆風の範囲を予想しつつ移動しなければならない。
ただ、サジタリウスの飽和攻撃ならともかく、単射タイプのグレネードランチャーの攻撃くらいなら比較的脅威度は低い。グレネードの爆風でこちらの動きを制限し、ビームガンを当てるための布石にするつもりだと予想。
あー、むしろ逆みたいだ。ビームガンは牽制でグレネードに巻き込みたいのか。これはこれで悪くない手だと思うが、俺にとっては意味がない。剣でヨンヨンビームガンを切り払うのには慣れてるんでね。
トマホーク(笑)だって一応立派な実剣扱いの武器だ。ビーム相手なら一方的に切り払うことができる。耐久値だけは馬鹿みたいにあるから別に実体弾でも切り払えるけどな。
そういえばバスターソードはレーザーに耐久を削られていた。ビームとレーザーは別枠なのか? こういった情報は押さえておかないとまずい。後で攻略サイトで確認しておこう。
数回ビームを切り払ってみせたら、俺にビームは無駄だと悟ったのだろう。戦い方を変えてきた。グレネードランチャーを惜しげもなく連射してくる。どうやら絨毯爆撃するつもりのようだ。
木村君はかなりお高いグレネード弾を使っているらしく、近接信管が付いているタイプのようだ。普通の奴とどう違うかと言うと、空中で敵とすれ違っても爆発するため対空攻撃にも使える。つまり俺は空中にジャンプして逃げることができない。
飛んで来るグレネード弾は全部で7つ。上手にばら撒きやがったなあ、これじゃ逃げ場なしだ。
グレネード弾が爆発する前なら切り払えるが、近接信管がついているならそれも無理だ。いや待てよ、いいことを思いついた。
飛んで来るグレネード弾めがけてトマホーク(笑)を投擲する。さすがに命中させることはできなかったが、近接信管が反応して弾は空中で炸裂した。これで包囲網に穴が開き安全な逃げ場ができたわけだ。
投げたトマホーク(笑)はワイヤーアンカーでしっかり回収する。そういえばこれがワイヤーアンカーの本来の使い方だ。これからは投擲もしっかり練習しよう。
今ので弾切れらしく、敵の装備の表示からグレネードランチャーが消えた。どうやら投棄したようだ。馬鹿だなあ。残弾数は表示されないんだから装備してるだけで敵へのプレッシャーになるのに。俺ならギリギリまで捨てないぞ。
まあ、問題はガトリングガンだよな。俺が一番嫌いな系統の武器だ。一発の威力は大したことのない豆鉄砲なのだが、毎秒100発近い弾をバラまいてくる。
さすがに飛んで来る弾を全部切り払うのは無理だし、そんな真似をすれば剣の耐久が持たない。最低ダメージとはいえ、弾のヒット数の分の耐久をしっかり削って来るので、剣だろうが盾だろうがあっという間に耐久が尽きてしまう。そもそも対人戦でガトリングガンを持ち出してくる連中の主目的は敵の盾の耐久を削って破壊することなのだ。
ガトリングガンの欠点は作動までの一瞬のタイムラグと、装弾数が少ないこと。トリガーを引いてもすぐに弾が出ないのは状況によっては致命的だし、興奮してボタンを押し続ければ数秒で弾切れだ。
こちらとしては無駄に射たせて弾を使わせたいが、相手もそれ程馬鹿じゃない。ギリギリまで引き付けて、必中のタイミングで攻撃しようとするだろう。
盾を構えてじっと待ちうけるスキュータムと、足場の悪い砂漠を軽快に走り抜けるリンクス。敵との距離が次第に縮まっていく。そろそろヤバいかなと思った瞬間、ヨンヨンビームガンの三点バーストが来た。わかりやすいな。
ここでガトリングガンを使って来るな、と思いスキュータムの肩を見る。砲身がゆっくり回転を始めるのが見えた。そんな気がした。
ビームを切り払いながらギリギリまで引き付け、一瞬だけ右にブーストダッシュをかけて横に跳ぶ。ガトリングガンが弾丸の雨を吐き出しながら俺を追って向きを変える。機体を逆方向に切り返しながら素早く元いた場所に戻る。切り返しの一瞬、弾幕をかすってしまった。ある程度まとめて切り払ったが、それでも少し被弾したようだ。
機体のダメージを示すシールドゲージは1割も減っていないが、何故かモニタのエネルギーゲージが黄色くなっている。エネルギーが残り50%以下になったということだ。俺の場合エネルギー消費の大きい武器は使わないし、ブーストダッシュの多用もしないのでエネルギーゲージは常時グリーンだ。フルパワーのXキャリヴァーでダッシュ斬りを連発でもしない限りなかなか黄色にはならないんだが、今何か変なことしたか? バグなのか?
まあ、後で考えればいいことだ。せっかく切り開いたチャンスを一瞬たりとも無駄にできない。ワイヤーアンカーを敵のガトリングガン狙ってすかさず発射。巻きつけて引っ張るとガトリングガンは丸ごとあっさり外れた、やけに無抵抗だな。ガトリングガンは弾切れだったのか?
敵のビームガンのクールタイムがそろそろ終わる頃だ。このまま突撃して間に合うか微妙なタイミングだな。
さすがにこの距離だとビームを切り払うのは至難の業だが、ビームガンの銃口ははっきり見えている。切り払いのタイミングさえ合わせればなんとかなるだろう。
銃口を見つめながら走り続ける。狙いはピタリとリンクスの腹部に向けられている。クールタイム待ちなら今頃木村君はトリガーボタンを連打しているだろう。
銃口にうっすらと光が見えた、チェレンコフ光と言われている奴だ。こいつが見えてから発射までの間はコンマ1秒くらい。それだけあれば充分だ。
トマホーク(笑)を銃口に叩きつけるように切り払う。発射直後のビーム粒子が爆散し、次の瞬間ビームガン本体が爆発した。
暴発……なんだろうな。グレネード弾に負けないくらいの爆発だった。零距離射撃しようとすると、安全装置が作動するようになっている理由がわかった。さすがに今みたいなギリギリのタイミングだと安全装置も間に合わないみたいだけどな。
スキュータムの右腕は肘のところから吹き飛んでいる。奴に残る武装はもう左腕の内装ビームガンだけの筈だが、何故か盾を手放そうとしない。盾で殴ってくるつもりか?
普段ならこれで勝負はついたようなもんだが、トマホーク(笑)の笑える攻撃力の前には一発逆転もあり得る。何しろ銃のグリップで殴った程度のダメージしか与えられないんだからな。盾を地面に差し込むための尖ったアキュートは武器にもなるし、スキュータム専用盾の方が強いかもしれん。
待てよ、銃のグリップでなんとなく思い出した。こないだプラズマランチャーのグリップで敵の頭部を気持ちよくぶん殴った時、派手に首が曲がってたよな。
スキュータムの頭部ユニットを右斜め35度からトマホーク(笑)で殴りつける。
ダメージはほとんど入らなかったが、敵ロボの頭が妙な角度で曲がった。すかさず反対の角度からもトマホーク(笑)で殴る。
右、左、右、左。見よう見まねで覚えたばかりの二刀流で角度に変化をつけながら殴り続ける。反撃の兆しは今のところない。木村君のコクピットからはどう見えてるんだろうな?
10回ほど殴ったら頭部ユニットが抜けてしまった。一割ほどのダメージが入ったが、首を切り落としたにしては少な過ぎると思う。人間だったら即死だろう。ロボットだしメインカメラが壊れただけって扱いなんだろうか。
そもそもシールドゲージとかHPとか呼ばれているこのゲージも良く考えると謎だ。零になれば戦闘不能になって負けるのはゲームのお約束だとわかっちゃいるが、右腕と頭を失ってもゲージがまだ半分以上残ってるっておかしいだろ。HPゲージの表示がゲームの勝敗を明快にするのに必要なのは確かだけど、リアル過ぎる“ガーディアントルーパーズ”の世界にとってつけられた異物のように感じることもある。
ゲージはそんなに減らなかったが、頭がなくなって相当うろたえているようだ。次はどこをぶっ壊してやろうかな。さすがに高性能の専用盾をトマホーク(笑)でいくら殴ってもダメだろうが、重い盾を支える肘関節はどうだ? 肩関節や腰部ジョイントも狙い目かもしれない。無防備な膝関節もあるぞ。
あまりに無防備だったので膝に逆関節の蹴りを入れてみる。あっさり破壊してしまったぞ。ヤバい! 多くの格闘技じゃ反則技だったことを蹴ってから思い出した。このゲームじゃルール的には問題ないと思うが、クリーンファイトのイメージは大事だよ。これじゃまるで俺がヒールじゃないか。
膝を折られたスキュータムは転倒。ついに盾を放り出したがまだ戦意は失わない。左腕の内装ビームガンで攻撃して来る。ナイスガッツだ。
スキュータムの左腕を踏みつけ、動けなくする。そのままトマホーク(笑)でかっこよく止めを刺そうとしたのだが、攻撃力が低すぎてやはり無理だった。もう勝ちは決まったようなもんだが、油断大敵だと言うしなあ。木村君が熱血アニメの主人公ならここから奇跡の大逆転、なんて展開はお約束だ。きっと闘志を燃やしているに違いない。
こうなったら残った関節を順番に踏み潰していくしかないか。
『アマゼウス兵長が降参しました。』
ベティちゃんの嬉しそうな声がコクピットに響く。降参なんて機能もあったんだな。肩透かしを食わされたが、まあ、よかった。あのままいたぶるように破壊を続けていれば悪役にしか見えなかっただろうからな。
とにかく勝った。疲労感がどっと込み上げてくる。これ以上は無理なのでゲームを終了する。本来なら勝者は対人戦を継続できるが、継続せず終了を選ぶとプレミアムガチャが貰えるのである意味お得だ。
筐体から出るとオヤジたちの歓声に迎えられた。どうやら壁の大型ディスプレイに俺たちの戦いがリアルタイム表示されていたようだ。
A筐体から這い出て来た木村君は過呼吸気味にぜいぜい息を切らしている。本気でゲームすると意外と体力を使うよな。俺も他人のことは言えない、息が苦しくなって変な咳がしばらく続く。別に沖田総司を気取ってる訳じゃないのに誤解されたら嫌だなあ。
木村君はすごい形相で俺を睨んでいたが、つかつか歩いて来るといきなり頭を下げた。
「サーセンっしたあっ。アンタマジやべえわ。今後はアニキと呼ばせてください」
負けたら舎弟になるとか本気だったのか。いい迷惑だが、非を認めて謝るのは偉いよな。
「すごい対戦を見せてもらったよ、よかったらこれから飲みに行かないか? 是非一杯驕らせてくれ」
見覚えのある怖い顔のおじさんにいささか強引に誘われるまま、近くの回転寿司で祝勝会をあげる羽目になった。
いかついおじさんの他にも5人のサラリーマンプレイヤーが合流し、なかなか楽しい飲み会となる。こんなに楽しい酒は学生時代以来だ。半ば強制的に参加させられる会社の忘年会は苦痛でしかなかったからな。
「おお、すごい。さっきの対戦の再生回数がどんどん増えてますよ」
仕立てのいいスーツを着た若いイケメンが公式サイトをチェックして歓声を上げる。
最近は俺もそれなりに有名になってきたのか、対戦動画の再生回数は300前後まで伸びることが多くなった。ギャランティシステムでもらえるスコアポイントは再生回数×80なのでそれだけで約2万ポイント。換金すれば一戦のギャラが2千円程になる計算だ。
先刻の対戦からまだ1時間も経過していないのに、再生回数は四桁に達している。誰かが掲示板にでも書き込んだかな。ちょっとしたお小遣いになりそうだ。
「それにしても近接さんはすごい。なんかビームを斬ってませんでした?」
「彼はいつもそうだ。信じられない反射神経だ」
あれ? 切り払いは普通のテクニックじゃないのか? まあ、剣使ってるプレイヤーが希少だしなあ。
「ボクらはまだCPU戦のステージ2がメインですからね。次元が違いますよ」
なるほど、まだ初心者なのか。最近どんどんプレイヤー人口が増えているようで嬉しい。人気が出れば家庭用とか出るんだろうか? 家でプレイするにはフットペダルが問題だよなあ。
「アマゼウスには迷惑してたんですよ。初心者と見ると因縁つけて対人戦したがる困ったガキでね。我々の腕じゃいいように狩られるだけですし」
「対戦拒否すりゃいいんだよ。CPU戦は別に悪いことじゃない。この近接オヤジだっていつもCPU戦ばっかしてんだ。なあ」
俺は毎日1時間近くD筐体を占領してるからな。この人たちにも迷惑をかけてたんだろうなあ。
「すみません、いつも長い間筐体占領しちゃって」
「それはお互い様だ、気にするほうがおかしい。対人戦しかやらん連中にはそれがわからんのだ」
「あの、でもザックさんってかなりたくさん対戦の動画UPされてますよね。まさか対人戦派じゃないでしょうね?」
若いのが一人、対人戦派は敵だと言わんばかりに詰め寄って来た。派閥に分かれて争うようなことでもないだろうに。
「CPU戦で行けるとこまで行って、ヤバくなったら乱入待ち、ですかね」
皆の視線がおかしい。あれ? 普通そうするだろ? 違うのか?
「我々の腕だと修理費が倍かかるだけで無意味な方法ですね」
ええと、何でそうなるんだ? 俺の場合、対人戦のダメージは翌日まで放置して自己修復機能で回復させてるから修理費はかからない。
「それって生還が大前提ですよね」
「そういえば負けても撃墜されることは滅多にないですね」
……自慢したみたいでバツが悪い。聞き手に徹することにしよう。
「勝てれば対人戦も面白そうなんだけどなあ。狙って射つだけで精一杯だしなあ」
「騎士盾を手に入れればかなり楽になるぞ」
「そういえばザックさんのリンクスはレア機体ですよね」
「ショップで買えるのはリンクスⅡだな。近接さんのが旧式のオリジナルリンクス」
「旧リンクスは性能が悪いって評価でしたが、今日の試合を見れば神機体じゃないですか」
「レア機体は地雷性能だって聞いてたけど、次来たら俺も乗り換えてみようかな」
「オレンジペガサス最強伝説を信じて乗り続けてます」
「俺のキャンサーだってレア機体だ。ひたすら頑丈だぞ」
え? キャンサーだと?
ほろ酔い気分でウトウトしながら聞いていたが、一気に目が覚めた。まさかすでにあの機体を手に入れて使っているプレイヤーがいるとはな。
「キャンサーって、あれ使えるんですか?」
「あ、ああ。背中のウエポンベイにしか武器を積めないからクセはあるけどな」
怖い顔のおじさんはパイロットネームがトリスキーだそうだ。キャンサーが手に入るのを知っていれば蟹スキーにしたのになと笑って言った。
「背中専用武器って今のところ使えるのキャンサーだけでしょ? いいなあ。俺も欲しいなあ」
「背中武器は選択肢があまりないぞ。肩用の武装が使えないのは痛過ぎる」
機体の話になると皆盛り上がるなあ。ウエポンラックが使えない俺には武装のコーディネイトの話は半分も理解できないが、この手の話が楽しいのはよくわかる。
「ザックさんが縛りプレイしてるのはどうしてなんですか?」
突然変な話を振られてしまった。射撃が苦手だからというのもかっこ悪いな。
「ロボが剣で戦うってカッコイイじゃないですか、やっぱり」
適当に誤魔化す。そろそろ射撃の練習もしといた方がいいんだろうなあ。




