新兵器バンダリア
「銀河連邦のスパイ? そんなの大昔から地球に浸透してるよ」
事も無げに言うビリー。知ってたら早く言えよ。
「神話や伝説によく登場するでしょ? 不死身の英雄や無敵の悪魔が。月から来た美女とかもいたっけ?」
いきなり話のスケールがぶっ飛んだな。
神話が実話とか怖いよ。結構グロい話が多いんだぞ。
「いや、その手の話は作り話だし」
「昔の人はわざわざフィクションを語り継いだりしないよ。トロイの遺跡だってちゃんと埋まってたでしょ」
トロイ戦争? たしかイリアスだかオデッセアだっけ? ホメロスが書いた叙事詩とかいう奴だな。白い木馬が活躍するストーリーが有名だ。俺は読んだことはないが、歴史の教科書にそう書いてある。
ただのおとぎ話と思われていたのを、なんとかマンが発掘してみたら本当に遺跡が見つかったんだ。そういうことになっている。
まあ、俺はトロイなんて信じない。たまたまその辺に埋まってた昔の都市を掘り出して、神話と結び付けただけだろう。遺跡から神々の戦いの痕跡は何一つ見つかってないからな。
いや待てよ。昔の人がトビトカゲやミイラマンを見たら、その程度でも神だと勘違いしたかもな。
空を飛んだり、イカヅチを投げたりするくらい、トビトカゲでもできるしな。手榴弾を投げて見せれば、火薬を知らなかった昔の人なら、雷を操れるんだと勘違いしてしまったことだろう。
なるほど、ビリーが言いたいのは、嘘と勘違いは違うということかもしれない。
神話を勘違いありきのノンフィクションだと解釈すれば、歴史の真実が見えて来るってことか。
「神様や英雄扱いされた奴らもいたってことは、銀河連邦のスパイは必ずしも悪しき存在じゃなかった?」
「地球人類全体にとっては紛れもない悪であっても、個々人のレベルで考えれば奴らは利用価値があるからねえ」
思わせぶりなことを言う。こいつだって宇宙人を利用して儲けてたわけだしな。
売国奴という言葉は昔からあるが、売星奴? 語呂が悪いな。
今は地球のために戦おうとしているみたいだし、まあいいか?
別に心を入れ替えた訳じゃなく、あくまで自分のためだろうがな。
「スパイ狩りなんて軍の皆さんに任せておけばいいんだよ。通常兵器で十分対処可能だろう? こっちはこっちでやることがあるからねえ。例のブツの試作品を見て行ってよ」
ビリーはもう量産型ヴァルキリアの試作機を完成させたらしい。
なんか早くないか? プラモじゃないんだし。さすがは自称天才だ。
アニメなんかだと試作機はその辺の少年に奪われるのがお約束だが、さすがにそこまで警備はザルじゃなかった。地下施設だと侵入者をシャットアウトし易いのがいいな。
「これが宇宙戦の切り札となる新兵器、スペースバンダリアだよ」
ライムグリーンに塗装されたその機体は……量産型スキュータムの劣化コピーって感じだな。物凄く弱そうだぞ。
腕や足がただの丸棒なんだが、ここはツッコむところだろうか?
「おい、足が……」
「宇宙じゃ手足なんかただのカウンターウエイトだからね。これでいいのさ」
足はともかくマニュピレーターがないと武器が持てないだろう? 鈍器としてそのままぶん殴るのにはいいかもだけど。
「武装は右肩の大砲だけか」
弾倉はリボルバータイプか、マニアックだな。
「80mm長砲身ライフルだよ」
「装弾数が六発ってのは、いくらなんでも少なくないか?」
「ああ、それね。量産型じゃ一発きりになるよ。バレルの耐久性に問題があるんだ」
一発撃って終わりだと! 火縄銃より酷いな。
「使い捨ての大砲より、ミサイルとかの方がいいんじゃないか?」
「合理的な考えだね。ボクもそう思うんだけど、手持ちの兵器でヴァルキリアのバリアを貫通できたのはこいつだけだった」
あの鉄壁のバリアを貫通できるのか、それはそれで凄いな。ライフル砲なんて今や骨董品だと思っていたが、どうやら砲弾をスピンさせるのが良かったらしい。
ただ、やっぱりぶち抜くにはそれなりの初速が必要で、装薬を増やしていったら一発で砲身がオシャカになることになったと。
「それで、こいつのバリアはヴァルキリアのビームを防げるのか?」
盾と矛だ。まっとうな兵器には、敵を貫ける矛と敵の攻撃を防げる盾の両方が必要なんだ。
「いや、全然。日本軍と共同開発した陸戦型バンダリアがベースだからね。バリアに関しては量産型スキュータムにも劣ると言っていい」
なんだよ話が違うじゃないか。てっきりヴァルキリアのコピーを量産するんだと思っていた。
ヤラレメカを量産してどうする? アニメの間抜けな敵役じゃないんだから。
「これじゃあ勝てんだろう」
「ヴァルキリアの弱点がわかったからね。あれはビームを二百回も発射すれば行動不能になる。ならこっちは二百倍の数を揃えて戦えばいい。簡単な算数の問題だよ」
つまり、最初からやられるの前提かよ? こんなメカ絶対乗りたくねー。
「量産型は当然無人機だろうな?」
「うーん……それも面白いアイディアかもね。生命維持装置を全て省略すれば、さらなるコストダウンも可能なわけだし」
一体どこまでコストを削る気なんだ? というか、こいつパイロットの命を何だと思ってるんだ? 人を人とも思っちゃいねえ。
「ベースに使っているバンダリアは、バックパックの変更で様々な状況に対応できるというコンセプトなんだ。日本人は面白いことを考えるよね。いっそのことコクピットをバックパック仕様にしてしまおう。ベース機体を無人機にすれば、相当無駄なものを排除できるなあ」
もうそれ別の機体だろ? 簡略化し過ぎて標的機とかドローンみたいなものだぞ。
「量産にあたっては、現状とにかく消費資源を減らしたいんだよね。日本の備蓄資源を全部使って、一万機は作れるかなあ?」
「おいおい、備蓄資源がなくなればヤバイじゃないか?」
日本人が三十年間地下に引きこもるための大切な資源なんだぞ。
銀河連邦に勝たなきゃ人類に未来はないんだけどな。
「月のプラントが復旧すれば、あっちでも百万機くらい量産するさ。うちの社員とその家族を月の地下都市に移住させてしまおう。一千万人くらいのキャパシティーはあるからね。ああ、いいアイディアじゃないか! 武装難民の問題もそれで解決する」
こいつ、使える奴だけ月に連れて行って、あとは野となれ山となれってか?
ノアの箱舟かよ。キリスト教的な発想なのかもしれないな。こいつは無神論者だけど。
地球のどこかでは、今でもまだ小規模な核戦争が続いているし、月に疎開はアリっちゃアリか。
社員の家族にテロリストが紛れ込んでなきゃ大丈夫だろう。
ビリーがバンダリアの量産にかかりっきりになり、髭ジジイはトリックスターへ向かったまま戻って来ない。こうなると俺がすることがない。
銀河連邦はあれっきり攻めて来る素振りも見せないしな。奴らのタイムスケールは百年単位とか、下手したら千年単位らしいので、地球人の感覚ではなかなかついていけない。
今の世界の指導者の中に、百年先、千年先を見据えた政治ができる奴がいるだろうか?
ああ、張大人は皇帝になってから、比較的上手くやっている。独裁は、今のような危機的状況だとメリットばかりが目立つよな。
派閥争いしか能のない政治家や役人達を、容赦なく粛清してしまえるのはちょっと羨ましい。
銀河連邦の政治体制はどうなってるんだろうな? 元老院みたいのがあるらしいから共和政か? ローマ帝国にも元老院はあったし、あんな感じかな?
悪の皇帝みたいのがいれば話は早いんだが、そういうラスボス的なのはいないっぽい。ただ、テレパシーとかで繋がっているそうだから、元老院そのものが一つの知的生命体だと言えるのか。
群体? レギオンかよ。銀河皇帝レギオンとか、悪っぽくてカッコ良くないか?
巨大な脳味噌が宇宙全体に分散してるみたいなイメージだよなあ。そんなのどうやって倒せばいいのか見当もつかんけどな。ビリーは何やら企んでるっぽいので、作戦は丸投げしておこう。
結局、暇な時間は、女の子達とずっとトランプで遊んでいる。なんか皆仕事が忙しいみたいだけど、交代で付き合ってくれている。
運の要素が強いゲームは、俺とナージャちゃんの独壇場だが、リンリンやアリサちゃん、ガリーナなんかがたまに食い込んでくることもある。
頭脳プレイが要求されるものは、当然のようにナンシーやオリガが強い。
まあ、全てをひっくり返すナージャちゃんの豪運が最強なのは確定している。
別に美女達とキャッキャウフフして喜んでいるわけじゃない。白衣の女がきっちりデータを集計している。これもESP研究の一環らしい。
壁面にいくつもネット番組を垂れ流しながら、ポテチなんかをつまみながら、ソフトドリンク等を飲みながら、まったりとトランプで遊ぶ。
強いて言えば、学生時代に友人宅でダベっていたノリが一番近い。違うのは俺以外全員女性ってことだ。リンリンはハーレムだのなんだの茶化して来るが、違うだろ? なんか凄く普通というか普通だぞ?
「照明を薄暗くして、バッチリメイクをキメて、気合を入れて着飾って、高い酒を並べたら、ぼったくれるわよ。このメンツなら」
「そんな、柿崎さんからお金はいただけません!」
「リンリンあんた、ただ飲みたいだけでしょ」
「アルコールは困ります。基礎データが揃ってからにしてください」
「げ、ドレスとか勘弁してくださいよ。最近ちょっと太っちゃったかも」
「羨ましいわね。サイボーグになっちゃったら、太りたくても太れないのよ」
「私、お化粧のやり方が良く分からなくて」
「若さ自慢? お肌ピチピチだって自慢してるわけ? 今は良くても皆年を取るのよ。いいわ、お姉さんがメイクのイロハから教えてあげる」
なんだこの茶番劇は。女子が三人集まれば姦しいと言うが、三人どころじゃないからなあ。
リンリンがぼったくりのお店とかほざいているのは、まあ冗談だろう。
金なんて今じゃケツ拭く紙にもなりゃしねえ……ってわけでもないが、トイレットぺーパーを闇市で買えば同じ重さの万札がいるな。
現状、手に入るものなら俺達は好きなだけ手に入れることができるし、手に入らないものはいくら金を積んでも手に入らない。去年の今頃は、はした金を稼ぐために社畜をやってたんだが……金ってなんだろうな。
金銭の価値が地に落ちても、それでもナンシーやランネイなんかは空しい空しいと言いながら、暇を見つけてはマネーゲームにいそしんでいる。
瀕死の世界経済を動かすのは、それはそれで面白いようだ。物欲というより支配欲なんだろうなあ。
『ベジタリアンはもう時代遅れです。植物にだって命はある! 食用プラスチックを食べて、あなたも植物系宇宙人と友達になろう!』
何かと思えばCMか。アリサちゃんが見ているモニターだな。
画面に視線を向けると音量がアップする。この部屋にいる全員の視線がAIにモニターされていて、指向性の高いスピーカーを状況に応じて操作してるんだろうな。
植物系宇宙人ねえ、まあ、そういうのもいるんだろうなあ。そいつらがオトモダチという概念を持っているかどうかは疑問だが。
最近はビリーも宇宙人の存在を隠さなくなった。徐々に認知させる方向で動いているようだ。
宇宙人とも話せばわかりあえると主張する文化人は多いが、侵略されるという意見は何故かごく少数派だ。野蛮な宇宙人像は時代遅れ? 科学が進歩していれば平和主義者に決まっているだと?
核ミサイルをぶち込まれても平和ボケが治らなかったようだ。偉い人達って想像力が足りないな。
髭ジイに会わせてやったら面白いかもな。天才宇宙人に家畜呼ばわりされたら、有識者達はどんな顔をする
のだろう?
『ビリーは自分達だけ月に逃げようとしている! 我々を見捨てるのかー!!』
「なんだこれ? CMじゃないな」
「デモよデモ。東京第三シェルターから生中継」
実況中なのか。リアルタイムだろうがビリーに対する批判は消される筈だが……ネット管理AIがあえて見逃している?
「なんか、デモ行進してる奴らが自動小銃を振り上げてんだが」
銃刀法はどうなった? 銃がOKなら俺だって日本刀とか携行したいぞ。デッキブラシとは桁違いの戦闘力だぞ。いや、どうせなら薙刀の方がいいか。リーチ的に。
「こいつ、武装難民を取り込んで有名になった活動家よ」
アリサちゃんが何気に詳しい。というか、彼女自身一歩間違えてたら活動家になってそうだよな。役者志望だっただけに、何気に自己顕示欲とか強いし。
『備蓄食料は人類の共有財産だー! 持ち逃げは許さないぞー!!』
自動小銃をパンパン威嚇射撃しながら、地下都市の大通りを練り歩いている。東京のシェルターって無駄に天井が高いよな。確かに解放感はあるけど、そのくらい我慢しろよ。強度は大丈夫なのか?
なんか面白そうなので、トランプを中断して皆で見る。
突然、先頭を歩いていた活動家がズッコケるように倒れた。
「狙撃だね」
「後ろ上方から弾が入った。ビルの五階くらいから狙ったかしら」
マーシャとオリガがなんか怖いことを言っている。
後頭部を狙われたら、普通は頭がムズムズするもんだがなあ。避ける素振りもないとは、油断したな。
グロ画像にリアルタイムモザイクがかかって良く見えないが、ありゃあ即死だ。苦しむ時間もなかったろうし、そう考えると悪い死に方でもないのか。
やりたいことをやってる最中に死ねたんだ。ある意味本望だろう。
俺の死にざまは一体どんなだろうな。即死だと自分じゃ認識できないし、苦しくったって一分ほどは時間が欲しいよな。
冥途の土産とか、走馬灯とか、人生最後のイベントを堪能してから死にたい。
「ざまあみろ。あいつ前から嫌いだったんだ」
リンリンは死人にも容赦ない。こいつはこういう奴だから仕方ない。
嫌味な感じのイケメンだったから、爆発しろと少しは思ったが……死んだら仏さんだし。
それに、闘争の中で銃弾に倒れたんだ。俺の中で奴は戦士としてカテゴライズされた。敬礼で見送るほどじゃないけどな。
あいつの主張は、そこまで的外れではなかったしな。ビリーに選ばれし者達一千万人が月に行った後は、地球に残された人々は放置されるだろう。そこに気づいたのはなかなかだ。間抜けな有識者連中より見どころはあった。
デモでどうにかなると思っていたのが甘いけどな。そもそも、いつまでもビリーにおんぶにだっこでいられるという前提が甘い、甘すぎる。
ビリーの奴は決して善人ではない。そもそも善人ってなんだ? 自分達に都合のいい人物像を、善人として思い描いていているだけじゃないのか。
ビリーは悪魔だよ。それも相当タチの悪い悪魔だ。そこを分かった上で付き合わないとえらい目にあうぜ。
撮影者がカメラを投げ捨てたようで、画面がぐるぐる回る。これは、慣れていないと酔うな。ナンシーが顔をしかめている。
なんか傾いた状態で視界が固定された。排水溝のフチに引っかかったみたいだな。自動でズーム調整しているが、デモ隊の一部しか映らない。
マイクが音を拾ってるから、音である程度周囲の状況はわかるけどな。
「40対3ってところかしら。少数精鋭の方が勝つわ」
銃撃戦が始まり、ガリーナが冷静に戦況を分析。
デモに参加していた一般人の多くは何が起きたのか理解できていないようで、まだ半笑いを浮かべたまま突っ立っている。
この状況で恐怖を感じないというのもある意味凄いな。あ、撃たれた。
周囲の人間がバタバタ倒れていくのを見て、やっと危機意識が目覚めたのだろう。それでものんびりと逃げていく人々。
え? あれでパニックを起こしているのか? それならもっと真剣に逃げろよ。
何故か無性に腹が立ってきたな。あいつら本気でこの先生きのこるつもりがあるのか? 命を何だと思ってるんだ?
「狙撃したのも武装難民みたいね」
音だけで銃の種類まで特定できるのは凄いな。
各分野のエキスパート達によって情報のピースが組み上げられ、事件の背後関係まで浮かび上がってくる。大した女の子達だ。
むろんあくまで推測だから確度はそこまで高くない。だが情報戦は拙速を尊ぶ、らしい。
情報戦ってなんとなく頭良さそうな感じするよな。剣を振り回してる方が楽に思えるのは、俺が馬鹿だからかもしれない。
「あ、警備ロボが出て来た」
下半身がキャタピラで動く安物だ。射撃が安定しているから実戦向きではあるな。
ゴム弾で容赦なく武装難民を制圧していくロボ達。なるほど、武器を持っている人間だけが攻撃対象になるのか。
プログラム通りに動く機械は迷いがない。ルールを守らない人間が悪いんだし。これはこれでアリだな。
うーん、警察機構だけでなく、いっそ政治家や官僚も人間いらなくないか? いくら聖職だとしても、現状がちょっと酷過ぎるしなあ。
庶民にとっては、無能な人間に支配されるより機械に支配された方がいい感じだろう。
問題は、今や俺はどっちかといえば支配者側だと言うことだが……別に権力とかいらんよなあ。
「一般市民が殺される様子がネットに流れたから、慌てて重い腰をあげたわね」
そうなのか? 良く分かるなあ、アリサちゃん。まあ、俺だって最初からわかってたよ、って顔をしておこう。
「ゴム弾でも骨とか折れてないか、これ?」
「最大威力に設定したら死ぬよ」
死ぬのか。死んだらゴム弾の意味がない気もするが……あれってバットがあれば打ち返せるんじゃないか? 今度試してみよう。
それにしても、こんな映像を垂れ流しにするビリーの意図はなんだ? 人々が不安になったら、治安にも良くないだろうに。
「なんか醜いわね。戦いを忘れた豚どもって感じ」
「平和を愛する人達じゃない? そんなふうに言ってはいけないわ」
リンリンとナージャちゃんが何やら議論している。この二人の組み合わせは珍しいな。天使と悪魔って感じだ。
戦い忘れた人々か……市民達が薄ら笑いを浮かべながら殺されていくシーンには、確かに背筋が寒くなった。彼らは最後の瞬間まで、自分達が殺されるなんてあり得ないと信じてたんじゃないかな。
うーん、何故かリンリンの意見の方にシンパシーを感じてしまうのは、俺の心が薄汚れちまったせいだろうか?
嫁に選べと言うのなら、1000%ナージャちゃんの方なんだが。というか、リンリンだけはないな。奴は、たった一枚紛れ込んだ外れくじだ。ジョーカーだ。
ジョーカーもゲームによっては活躍するから悩ましいんだよ。
バンダリアの量産が順調だというので、なんとなく見物に行く。
決してトランプに飽きたという訳ではない。どっちかと言えば人間関係の調整に疲れた。
だってそうだろう? ナージャちゃんがいると、絶対に勝てないメンバーが出てくるんだ。実験だとしても負け続けるのが面白いわけがない。そんな子達をなだめすかすのが、何故か俺の仕事にされてしまっている。
好意を持たれているだけに、ある意味クレーマー対応よりキツイ。飴玉を与えて喜ぶ子供じゃないしなあ。
地下の秘密工場では無数の産業ロボットが、生産ラインを流れるバンダリアを組み上げていた。
流れ作業なんて考えた奴は誰だ? 資源さえあれば何百万機だってすぐ作れそうだぞ。
量産型は表面が鏡面仕上げで、カクカクのミラーボールみたいだ。見た目的には試作機より強そうだぞ。
丸棒だった手足も三角柱に変更されている。多分ステルス的な何かを狙ったんだろう。
肩の大砲はまだ搭載されていないようだ。出撃前に装備するんだろうな。
「初期量産型はとりあえず二千機にしたよ。ついでに改良型の陸戦用バンダリアも二千機作るんだ。量産効果を狙うなら合計で一万機は作りたいところだけど、資源が全然足りないんだよ」
ビリーの周囲に展開された無数のモニタ上では、キャドソフトっぽいのが動いている。
マウスで操作しなくても、サイコミュで入力できるみたいだな。慣れたらかなり便利そうだ。
「新型の陸戦用バンダリアと量産型スキュータムだと、どっちが強いんだ?」
「乗り手次第だけど、だいたい互角になるようには調整したよ。その方が面白いからね」
悪魔みたいなことを考える奴だな。いやこいつは悪魔だった。
「残り少ない地球上の資源を巡って、地球人達がどう動くか楽しみだねえ。銀河連邦と戦う前の予習みたいなものさ。平和ボケしてる連中には丁度いいんじゃないかな」
ふむう。こいつの言動もラスボスっぽくはあるよなあ。昔のアニメならビリーを倒せばハッピーエンドじゃないか? 現実は、悪の支配者を倒してもその後も生活は続くからな。後先考えず生活基盤をぶっ壊してしまったら困るのは自分達だ。
俺はただ、純粋に強い敵と戦いたいだけなんだけどな。あ、俺も悪役ポジションじゃないか? 少なくとも主役じゃないよな。主人公の噛ませ犬にされて、ラスト直前で味方になって死ぬタイプだ。
「コクピットをバックパック化したのは正解だったよ。コストがかかる脱出装置をエースパイロット専用にできるしね」
「いや、エースだって最初は一般兵だろ? 脱出装置は標準装備しようよ」
「死線を自力で超えなきゃ、覚醒しないと思うんだ」
「覚醒? そんなのゲームやらせりゃいいだろう?」
「シミュレーターでそこまで真剣になれる人間は多くないんだよ」
俺があんなに真剣になれたのは……金がかかってたからか? 貧乏は力か? 貧すれば鈍するとも言うけどな。
いや、多分、金なんか関係なかったよ。純粋にリンクスを動かすのが楽しかったんだ。
赤ん坊が歩こうとするのと同じ。本能みたいなものかな。
「ま、ボクも鬼じゃないんだ。考えておくよ。余計にかかった分のマテリアルは、きっちり頂くけどね」
転移脱出装置にはマテリアルが必要みたいだな。なんとなく知ってた。
ああ、久しぶりにマテリアルを回収しに行くか。ツノゼミンミンに作ってもらいたい武器もあるしな。
「全然関係ない話だけど、モヘンジョダロの北東辺りに、伝説の巨人の剣ってのが埋まってるらしいよ」
「もへん所? どこだ? 地球上か?」
「インドの近くじゃない? 天才のボクも地理には詳しくないけど、マップを見ればわかるでしょ」
うーん……バンダリアの量産に口出しされたくなくて、俺を他所へやりたいのかな? まあいいだろう、乗ってやろうじゃないか、その話。
伝説巨人の剣とか、強いに決まっている。リンクス用の時計の針とか発見できれば、バンダリア百万機より戦力になるしな。
それに、古代遺跡で冒険とか夢があっていい。情報戦とかプロパガンダとか、そういう難しい話は俺に向いてなさそうだ。
善は急げだ。早速、西に向かうぞ。ゴーウエストだ。




