鉄斬る剣
「降参だ! 頼む、殺さないでくれ」
ショッピングモールの駐車場で、何故か小太りのヒャッハー達がとっちめられている。
一体どういう状況なんだよ?
モヒカンやスキンヘッドに派手なメイク、どう見てもこいつらは悪党だな。トゲトゲパッドが俺と被っているのがなんかむかつく。
「黙れ! お前たちのせいで我々まで死ぬところだった!」
物凄く怒ってるのが、ショットガンを持った黒人のお姉さんだ。手足のスラリと長い長身の美女だが、綺麗な女性が怒るととても怖いのだ。こういう時は近づかないに限る。
「あいつらよそ者だぜ、ロボット達を引っ張って来やがったんだ」
俺の案内を勝手に買って出たお子様が、ヒャッハー達に中指を立てて、怖いお姉さんにゲンコツで小突かれる。
うーん? ヒャッハー達が悪のロボット軍団の手引きをしたってことか? あるいは、モンスタートレインばりに引っ張って来たとかかな? だとしてもギルティだな。
「痛い! 暴力女!」
「黙れクソガキ」
同時通訳は正しく機能してるんだろうか? まあ、別に翻訳なんか必要ない場面ではあるな。
綺麗なお姉さんに叱られて喜ぶ悪ガキ。思春期かよ。いや、こいつまだ十歳くらいだろ? おませさんかよ。
「助けてくれ! あんたヒーローなんだろう」
ヒャッハー達が何故か俺に泣きついて来る。
「誰がヒーローだ。拙者はニンジャだ」
「似たようなもんだろうが!」
まったく、アメリカ人ってのは、どいつもこいつもニンジャをわかってないな。
「俺達はニューヨークから逃げて来たんだ。初めてあんなロボットを見て、ビビッてここに逃げ込んだだけだ」
「ここの水や食料を狙って来たんだろう!」
「金ならいくらでも払う! 俺達は資産家なんだ」
「その恰好は、どう見ても悪党だろうが!」
「これはニューヨーカーの最新ファッションなんだ! ニンジャもなんか言ってくれ!」
「金なんてケツ拭く紙にもなりゃしねえ」
キメ台詞を口にするが、あれ? ウケてない?
「ドル札なんかじゃねえよ、電子マネーだ! 今噂のペミカンだってあるぜ!」
男達が資産家だというのはどうやら本当のようで、携帯端末を操作して多量のペミカン引換券を見せて来る。
あ、これってナンシー達の売ってるペミカンだな。そもそも日本国内でしか引き換えできないものを、何故こいつらが買ってるんだ?
どうやらオーストラリアの企業が、安定した金融資産として売り出しているようだ。
チャン大人の仕業か? 他人のふんどしで横綱相撲とは、相変わらずやってくれるぜ。奴の所業が俺達にとってプラスになるのかマイナスになるのか、それすら俺にはよくわからんが、ナンシーが怒ってたらとりあえず許さん。
ペミカンと聞いて、怖いお姉さんの態度が多少軟化した。地獄の沙汰も金次第って奴か。
ミネラルウォーターのペットボトルと缶詰一食分を、ヒャッハー達は10ペミカンで買わされている。相場観はよくわからんから何とも言えんが、命の値段としちゃいささか安い気もするな。
それにしても、ヒャッハーファッションがニューヨークのセレブに流行るとは、世も末だなあ。
お姉さんに怯えるヒャッハー達を他人事のように眺めていたら、なんか彼女が手招きしている。
おいでおいで? いや、アメリカじゃジェスチャーも違う意味かもしれないぞ。
おい子供、何故俺の背中を押している?
「それで、あなたは一体何者? 何が目的?」
怖い美女と二人きり。食事を出されたから、一応歓迎されているのか?
でも、普通に尋問だよなあ。
俺の方が年上の筈だし、戦闘力だって圧倒的に上だ。なのに、このプレッシャーは何だ?
「拙者は通りすがりのニンジャだ。あのロボット達が何なのか調べていただけなのだ」
平常心だ。ポーカーフェイスでクールなニンジャキャラを演じる。
「知らないで戦ってたの? あいつらはインベーダーよ。死体を持って行くけれど、こちらから攻撃しなければ無視してくれていた。馬鹿なニューヨーカー達が銃を使ったせいで行動パターンが変ったんだ。あなたも一度手を出したからには、ここで最後まで責任をとって戦ってもらうわ」
ほらすぐこれだ。外国でうっかり人助けなんかするもんじゃないな。
「それはできないな。これから奴らのアジトに斬りこむ」
「バカげている! 自殺志願者なのか?」
「ニンジャは死なぬ、ただ闇に消えるのみ」
適当にカッコイイ台詞を言ってみる。
「凄い……さすがはニンジャ……」
こいつ、ベティちゃんよりチョロいぞ。
「私のことはテレサと呼んでくれ。ここのまとめ役をしている」
「拙者のことはトビトカゲと呼んでくれ。ポスト・アポカリプスの世界で探索をしている」
「カゲ、カゲなのね? 日本政府の依頼で動いているの?」
「ニンジャは人の影だ。もっとずっと偉い御方のために動いているのだ」
自動翻訳のせいで若干奇妙なやりとりになったが、通じているならまあ問題ない。
テレサのテンションが何故か爆上がりしたため、比較的スムーズに情報を聞き出せた。大半は知っているものだったが、現地で裏を取るのは大事だよな。
「あなた、食べないの?」
「ニンジャは食わねど高楊枝だ。貴重な食料は子供達にでも回してくれ」
ドロイドは普通の食料を消化できるか? 構造的にはほぼ人間だし、できそうではあるが、故障したら嫌だしな。
「ああそれと、これを渡しておこう。ペミカンの試供品だ」
「これが……本物のペミカン? なによ、ただの保存食じゃない」
あれ? 食べる前から意外に評価が低い? というか、こいつらペミカンが何かも知らずに売り買いしてるのかよ。
どうやらここのショッピングモールには、実は食料は豊富にあったようだ。冷凍食品とか大量に腐らせて、廃棄が大変らしい。干し肉に加工するとかすればいいのに、人手が足りないそうだ。
ペミカンの真の価値は、今後も生産を継続していけることなのになあ。
今ある保存食を食べ尽くしたら彼女達はどうするのか? 俺が気にすることでもないか。
それより悪のロボット軍団だ。死体を集めて何やってるんだあいつら。アジトに乗り込めばそれもわかるだろう。
「ニンジャ行っちゃうの?」
テレサとの話が終わって出て来ると、いつの間にか増殖しているお子様軍団……アメリカの子供ってニンジャ大好きだな。
「それがニンジャのサダメなのだ」
このフレーズは便利だ。サダメとあれば納得せざるを得まい。
「ニンジャー、カムバーック!」
「ニンジャー、カムバーック!」
お子様達の大合唱だ。何故かヒャッハースタイルのニューヨーカーまで一緒に叫んでいる。
絶対面白がってやってるだろ、ノリノリだな。
地獄のような悲惨な状況にもかかわらず、陽気な連中だ。いや、悲しみに耐えるために無理に明るく振舞っているのか?
まあ、メロドラマのようにメソメソ泣いていても何も解決しないからなあ。人類は逞しい。
さて、とりあえず現地の人々との接近遭遇も無事済んだということで、白いキリンのアジトに乗り込むとしよう。
遺体を持ち去るロボット軍団を、子供達は人間を食べる宇宙人の手先だと怖がっていた。
多分別の目的だと思うぞ、碌なもんじゃないだろうけどな。
胸糞の悪い話だったら、白いキリンはぶっ潰してやろう。できれば味方にしたいと思っていたが、俺は感情の赴くままに動く主義なんでな。
奴らのアジトは、当初予想していた通りのポイントにあった。ビリーの情報が正確だった、というよりも、隠れる気はまったくなさそうだな。
一つの地方都市が、丸ごと透明半球で覆われている。どうせバリアだろう、そういやビリーの絵の中にも描かれてたな。
ドームに近づいて石を投げてみると、奇妙な力に弾かれた。触れても危険はないっぽいので手を伸ばすと、磁石が反発するように押し返される。
俺を不審者だと思ったのか、警備ロボがわらわらと湧いて来た。問答無用で撃って来る。銃弾はバリアの内側からだと素通りしてくるのか。
逃げるふりをして上手く誘導すると、警備ロボがバリアの外に飛び出して来た。やはり戻れずにあがいている。
何か中に入る手段はある筈だ。しばらく観察してみよう。
少し離れて敵を油断させてみる。銃弾の届かない所まで後退すれば、出てしまったロボを回収すると思ったんだが、意外に薄情だな。入れてもらえずウロウロしている。
この程度のバリア、リンクスでぶち破れば多分なんとかなる。
だが、ここまで来てリンクスを使うのは、なんとなく負けた気がする。
しょうがない、切り札を切るか。
ここで出してしまうのは惜しい気もするが、今使わないとずっと使わず死蔵してしまいそうだしな。
ゲームが下手な奴は、切り札を最後まで取っておいて負けるんだよ。
「出でよ! 時計の針」
それっぽくポーズを決めるが、何も起きない。
「おーい、ベティちゃん。お願い」
いきなり目の前に出現した時計の針。基部を慌てて掴む。
こいつの刃に触れればただじゃ済まない。ベティちゃんも、もう少し配慮してくれないと。
軽く振ってみると、黒い刀身が透明感のある残像を残す。微かに青みががっていて綺麗なものだ。
実は、目に見えている刀身はハッタリというか、警告のための表示であって人畜無害だそうだ。本物の刃はクモの糸より細いので視認できないらしい。
さて、こいつなら大抵のモノは切断できると思う。バリア的なものはどうだろうな。
そもそも刃先が届く距離まで近づけるかだが……
刃先を向けて、ずずいっとにじり寄ってみる。
都市を覆っていたバリアは、風船を針で突いたようにあっけなく消滅した。原理はよくわからんが、効果は抜群だな。
警備ロボからの銃撃が再開されるが、ひたすら避ける。時計の針で切り払っても無駄だ。あまりにも切れ味が良過ぎて、金属塊を切断してもぴったりくっついてなかなか離れないんだよ。
刀としては問題だが、そもそもこいつは武器じゃないんだ。メーカーの保証対象外の使い方だ。
時間を刻むのが本来の使い方みたいだが、そっちの方が意味不明だよな。
切り払い用途としてはビームソードにも劣る。仕方ないから、右手に時計の針、左手にビームソードの二刀流で臨むことにする。
どうせならビームシールドとかあればいいんだが。スキュータムの専用盾はフチの部分がビームシールドみたいなもんだから、技術的には可能な筈だ。というか、ゲーム版では一応存在した。人間が使えるサイズじゃないけどな。
ビームソードで弾丸の軌道を曲げるのは面倒くせえな。結局のところ、切り払いはギャラリー受けする見せ技だしなあ。ああ、何でも弾ける丈夫な剣が欲しいぞ。そういうのって、どこか宇宙の果ての古代遺跡にでも眠ってそうだよな。
時計の針は、言ってしまえば何でも切断できるだけの剣だ。
刀の間合いに入ってしまいさえすれば瞬殺できるので、それなりに便利ではある。
見た目すぐにバラけないので、殺った感がなくて不安はあるが大丈夫だ。斬った瞬間にはまともに機能しなくなっている。
銃の機関部を切断してしまえば、発砲できずに分解してしまう。分子間力とかでくっついているらしいが、そこまで接着力はないんだろう。
どうやら警備ロボの中枢は複数あるようだ。頭と胴体、それに左右の武器腕にも内蔵されているな。少なくとも四つ以上か。
コアを破壊して機能停止を狙うより、バラバラにしてしまった方が手っ取り早い。
Z字に剣を振るだけの簡単な作業で小間切れになる。
ふむ、楽に勝てるのはいいが、なんかイマイチな気分だ。
戦いには多少の無駄、そう遊びが必要だ。といっても舐めプするわけではなく、心を自由に解き放ち求道の剣を振るうのだ。これがなかなかに難しい境地なんだな。
そうやって実戦を重ねる中で、ポンっと開眼したりするもんだよ。
幸い敵はまだいくらでもいる。目覚めよ‼ 俺の秘めたる力。
今回は別に護衛対象もいないので、無理に全ての敵を倒す必要もないのだがな。まあ、倒したっていいけどな。
好きなように戦える、それだけで結構イージーモードだ。
建物を盾にして、足の向くまま気の向くままに、市街地をどんどん進んでいく。
包囲されても気にしない。カニメカの大軍に飲み込まれた時のことを思えば、この程度を包囲と呼ぶのは片腹痛いぜ。
ビルを貫通してクローが飛んで来た時はちょっと驚いたが、ゲームじゃ珍しくもない攻撃だ。すかさず時計の針を一振りしてワイヤーを切断してしまう。これで飛ばしたクローは回収できまい?
ツメがなくなればクローロボなんてただのデクノボウだ。
対処方法がわかってしまえば、クローロボはむしろ楽な相手だな。飛んで来るクローは威力はでかいが、音速にも達していない。発射の予備動作もミエミエだし、なんだったら生身の体でも余裕で避けれる。
おまけに一機あたりクローは左右の二つだけだ。回収用のワイヤーを切断するだけで無力化できるんだから、イージー過ぎる。
射程の長い警備ロボの方が普通に厄介だよなあ。生身の人間よりマシとはいえ、ドロイドの身体能力では一瞬で間合いを詰めたりは難しい。
成程ね、人間の世界では刀より銃が有利なわけだよ。というか、リンクスの機動力がなければ“ガーディアントルーパーズ”でも基本はそうなのか。
タケバヤシの奴が射程絶対主義を唱えていたのも、単に粋がってるだけじゃなかったのかもな。アウトレンジから一方的に攻撃できるなら、そりゃあ勝てる理屈だ。
でもなあ、合理的な敵を非合理な手段で叩き潰す。それがいいんだよ。
合理的思考は、言ってしまえば簡単に読むことができる。
おそらく敵は、戦場を俯瞰した上で戦力を動かしている。都市全体に配備されていたロボット軍団が、俺を排除すべく続々と押し寄せて来ている。
数の暴力で圧し潰す気だろうな。一対百が一対万に変わったところで状況は変わらん訳だがな。俺としては獲物が増えて嬉しい。
戦いを重ねるうちに、敵も多少は学習しているようだが、こっちはそれ以上に潰し慣れた。ビルの壁を利用した三次元的な機動が実に有効だ。
たまに立体機動を混ぜてやるだけで、敵は上空へも弾幕を張らなくてはいけなくなる。
つまり、敵の弾切れがそれだけ早くなる。
敵が幾万ありとても、一秒に一機倒せば一時間で三千六百破壊できる計算だ。残念ながらそこまでのペースは維持できていないが、千機程破壊したあたりから明らかに抵抗が下火になって来た。
白いキリン、実はたいした規模じゃないのか?
こっちもまあ、ドロイドのボディはすでに満身創痍で、酷使を続けた全身の筋肉は悲鳴をあげている。痛みは制御できるといっても、精神的にもなかなかキツイ状況だ。
だが、それがいい。ヒーローはギリギリの状況に追い込まれてこそ覚醒するものなのだ。
覚醒こそしてないが、体力を温存するために無駄な動きを削っていくうちに、身体のキレはむしろ良くなったな。
リンクスで戦ってる時ほど余裕がないので、自然にそうなった。
燃料補給、クソ甘い糖蜜を飲みながら、片手間に戦いを続ける。弾を撃ち尽くした警備ロボを追って行けば、敵の本拠地にたどり着けるだろうか?
そろそろ本当にドロイドボディが限界だ。濃厚な死の予感を感じながら、十字砲火を躱していく。
自分の死が見えれば、それを回避することもできるのか。なんのことはない、普段やっている未来予知の下位互換みたいなものだ。
まあ、二重の予知でもっと安全? 二枚刃のカミソリのように剃り残しなしだ。
退却していく警備ロボを尾行し、敵の地下基地っぽいのを見つけた。地下鉄の入り口のような施設に、ゾロゾロ出入りしている。アリの巣かよ。
どうするか? 狭くて長い通路で待ち伏せされたら、これはちょっとヤバイ。機関銃的な何かを乱射されたら、普通に考えて逃げ場ってなくなるだろう?
バリアでもあれば別だが……せめてバスターソード程度に頑丈な実剣があればなあ。
そういや、ガトリングガンとかって秒間百発以上撃って来るんだった。全ての弾が被弾コースってわけでもないだろうが、何発かは当たるよなあ。
無理ゲーだな。だが、そこがいい。
この程度で音を上げているようじゃ、銀河連邦には勝てないからな。
それに、どうせやられてもドロイドボディだ。ノーリスクって点じゃ、ゲームと変わらない。
ボロボロになった体に鞭打って、地下道に走りこむ。
うーん、なんとなくだが、生身の体でも同じことをしてしまいそうだ。最近は恐怖感が麻痺しているな。良くない傾向だ。
トンネル内に心配していたガトリングガンはなかった。侵入者がニンジャである可能性を想定していなかったんだろうな。案ずるより産むがやすしだ。
天井からぶら下がった監視カメラには同軸機銃が装備されているが、単銃身の普通の機関銃だな。
タタタタタンと射撃音が鳴り響く。せいぜい秒間12発ってところだ。生身の体ならこれでもちょっと厳しいが、ドロイドボディの反応速度なら対応可能なレベルだ。
わりとのんびりステップを踏んで躱し、ビームソードでも何発か弾く。ビームの収束方向に対して斜めに受け流すのがコツだな。
ここにきてこれは、いくら何でもヌル過ぎないか? ひょっとして手加減してくれている?
気を緩めたところに、前方から炎の渦が通路を突き進んで来る。そうこなくっちゃ。
ビームソードである程度炎の流れを変え、その隙に時計の針で壁を切断して退避場所を確保する。
ようやく二刀流がサマになって来たな。
火炎放射器とは、これまた古風なものを……確かにトンネル内部じゃ有効ではあるんだよなあ。
たとえ炎に焼かれなくとも、周囲の酸素が一瞬で奪われるため酸欠が怖い。ドロイドじゃなかったらヤバかった。
ドロイドとはいえ、普段は普通に酸素呼吸をしているんだ。けど、宇宙空間でも十分間くらいは行動可能らしい。便利な疑似生命体だな。
ここは最後の力を振り絞って敵に向かって走る。
再び炎の蛇が伸びて来るが、周囲の酸素が減っているため前回のような勢いはない。それでも燃えてるってことは、酸化剤でも追加してるんだろうな。
炎の中に浮かび上がる敵は……クローロボ? いや、赤く塗られた機体だ。
両腕にはクローの代わりに、火炎放射器のノズルが装備されている。背中に背負った燃料タンクのせいで、サンタクロースにも見えなくもない。こんなサンタさん子供が泣くぞ。
時計の針で無力化するのはわけなかった。一閃で膝を切断すると、そのままぐらりとバランスを崩す。すかさず時計の針を振り回しバラバラに無力化する。
しまった……燃料タンクを傷つけるんじゃなかった。噴き出して来る液体がヤバそうな感じだ。
絶対人体に有害な奴だし、いつ大炎上するかわからないので、急いで先に進む。倒してからの方がヤバイとか、なかなかやるじゃないか。伊達に赤いだけじゃなかった。
中ボスクラスだったのか? いや、さすがにそれにしちゃ弱過ぎだろう。シューティングゲームで言う所の、ちょい強い雑魚だな。
トンネルは唐突に終わり、広い格納庫のような場所に出る。駐機中の量産型スキュータムがズラリだ、その足元に警備ロボがわらわら。この状況は……ボーナスステージかよ?
考えるまでもない、量産型スキュータム目掛けて走り出す。
仲間には平気で銃を向ける警備ロボ達だが、量産型スキュータムに当たりそうになると撃つのをためらうようだ。そのように命令されてるんだろうな。
たかが小銃くらいで傷つくかよ。いや、バリアがない状態だと傷つくのか?
まあなんにせよ、手加減してちゃあ本場ジャパンのニンジャには勝てないぜ。
これは……勝ったな。
角度を計算して、なるべく弾を撃たせないように警備ロボの間を縫って走る。ラグビーでもしてる気分だぜ。
タッチダウンだ! なんとかコクピットに転がり込むことができた。
見慣れたジョイスティックに手を伸ばす。
ハッチを閉じ、機体をのっそり立ち上がらせる。
やはり“ガーディアントルーパーズ”のデフォルトの操作方法か。ランカークラスのプレイヤー達を集めれば、一気に地球最強軍団の出来上がりだな。トリスキーさん達、生きてればいいんだけどな。
壁の武装ハンガーからビームガンを手に取ろうとするが……上手くいかない。指先が震えて細かい操作ができないのか? このドロイドボディはすでに瀕死状態だもんなあ。よく頑張ったよ。
「ベティちゃん」
いつもの癖でつぶやく。銃を手に取るくらいの動作は、オートでお任せだ。
「ぶふぉっ!」
突然全身が何やら光るエフェクトに包まれ、トビトカゲの全身の傷が消えてなくなる。これは! 単体を全回復するあの有名な回復魔法、ペホアか?
いや、エフェクトはそれっぽかったけど、単に新品のドロイドボディとすり替えただけのようだ。こんな手があるなら、もう少し早くやって欲しかったぞ……いや、ベティちゃんなりにピンチを演出してくれていたんだろう。ギリギリの戦い程アツいからな。それで勝てれば最高だ。
ドロイドボディが新しくなって、震えも止まった。正確に操作してビームガンのグリップを握ろうとしたら……ある程度手を近づけるだけで勝手に銃を装備した。
ああ、最近はそういうイージーモードも追加されたんだっけ? 名前は忘れたが、ぶりっ子リンリンに一目惚れした中学生のプレイヤーがいたよな。あいつらがプレイしているお子様向けのゲームだと、デフォルトがこのイージーモードだ。
操作がクソムズイのも“ガーディアントルーパーズ”の魅力の一つなんだが、兵器としては操作が簡単な方がいいんだろうな。
これなら手が震えててもなんとかなった気もする。
ハンガーに並んでいるのは、全て同じビームガン……ヨンヨンビームガンの銃身を短くして全体的に簡略化したような奴だ、
剣がないとは終わってるよなあ、銃剣すらもないのか。他の武器はないようだし、両手にビームガンを装備しておくか。
さて、念のためにパイロットが乗り込む前に、他の量産型スキュータムは潰しておこう。
同じ機体で戦って、腕試しをしてみたい気持ちも確かにあるが、もうお遊びはここまでだ。
今、敵は予想外の事態に混乱しているだろう。立ち直る時間など与えず、容赦なく一気に叩き潰す。
ニンジャ一人に完全敗北したとなれば、悪の組織も素直に言うことを聞くだろう。聞かないようなら、悪党どもに今を生きる資格はないよな。よし、それでいこう。
さあ、景気よくぶっ放そうか。
あれ? ビームガンが発射できないぞ。故障? いや多分安全装置的な何かだろう。
手順通りにターゲットをロックオンして発射すれば撃てる筈だ。味方機体はロックオンできないから撃てないのか……ふーん、駄目だろこのクソ仕様。初心者に使わせるならこれくらいでいいのか?
「ベティちゃん、解除してくれ」
つい言ってしまったが……普通に安全装置は解除された。ベティちゃんの仕業か、それともこの機体のAIなのか? まあ、結果オーライだし。
ロックオンなどしなくとも、この距離なら適当に撃てば当たる。
バリアを展開していない駐機中の量産型スキュータムは超脆い。しょぼいビームガン一発で大破だ。
残りも全部片づけてしまう。ん? ビームを数発連射しただけで、エネルギーゲージがレッドゾーンに突入したぞ。警告音がうざい。
おいおい、ジェネレーターが非力過ぎるぜ。
初期状態のリンクスでも、エネルギーゲインはこの五倍以上あったな。
仕方がないので最後の一機は蹴り入れて叩き壊す。それだけで自機の足も小破してしまう。脆い! 脆過ぎる!! こんなのと比べれば、リンクスはスーパーロボットだな。
銀河連邦と戦うにしても、量産型スキュータム程度じゃ屁のツッパリにもならんな。ビリーにもっとマシな量産型を作らせないとなあ。
足元では警備ロボがわらわらと蠢いている。動いている。
踏み潰すのもこいつの運動性能では意外と大変だ。頭部に内蔵されているパルスレーザーを乱射してみるといい感じだ。ああ、これって明らかに対人攻撃用の武器だよなあ。
格納庫なんだから、どこかに出撃ハッチはあるだろう。どうもあっちの壁がそんな感じだな。
で、反対側の壁も開きそうには見えるんだけれど……こっちは整備工場か何かかな? 運搬用のレールみたいなのが何条も続いている。
気になるのでショルダータックルで隔壁をぶち破る。壁は薄かったみたいで、ほぼノーダメージで突き抜けることができた。トタンかよ? ペラッペラだな。悪の秘密組織も、台所事情は火の車なのかもしれない。
やはり工場だったか。結構、広いぞ。地下によくもまあこんな場所を。
どうやら警備ロボの量産ラインみたいだ。クローロボの装甲みたいのも作ってるな。完全自動の自動車工場とやっていることはそう変わらない。
白いキリンの奴ら、何がしたいんだろうな? 生き残った人類を警備ロボで支配する? 支配して何の得がある?
エネルギーも回復してきたし、この工場もビームで焼き払っておくか? 白いキリンが降伏すれば、ここも多少は役に立つかもだが、それこそ捕らぬ狸の皮算用だ。
相手が白旗をあげるまで、手を抜いちゃ駄目だよな。戦いは非情さ。
生産ラインにビームガンを向ける。
『おっとそこまでだ。俺様が留守の間に、随分と勝手な真似をしてくれたじゃないか』
誰だよ? なんだよ? 俺に言ってるのか?
どこにいる? 量産型スキュータムのセンサーには何の反応もないな。
背後のハッチがゆっくり開いていく。
どうやら外に出ていた量産型スキュータムが戻って来たようだ。いや、あの機体は違うな。なんだっけ? ああ、思い出した、トーラスだよ。
ハッチからトーラスと、おまけに二機の量産型スキュータムが姿を現す。なんだよあいつら、カッコつけて登場しやがって主人公気取りかよ。
三対一か……リンクスなら軽く一捻りなんだが、このポンコツじゃなあ……丁度いいハンデか。
ここに来た当初の目的を見失いつつある気もするが、この際まあいいや。今が面白ければそれでいいと偉い人も言ってるしな。
間違いなく面白くなってきやがった。なんだかとってもワクワクしてきたぜ。