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俺のロボ  作者: 温泉卵
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俺のロボ大地に立つ

 時刻はもう9時を過ぎている、今日もサービス残業頑張りました。

 

 少し前までならこの後は帰って寝るだけだった。会社では仕事漬け、安アパートには寝に帰るだけ、いつの間にかそんな生活が体に染み付いていた。

 だが、今の俺には仕事帰りに寄る場所がある。吹きすさぶ木枯らしもなんのその、足取りも軽く人ごみの中を進んでいく。

 

 地下街に降りると、蒸せるような熱気、眼鏡が白く曇る。

 立ち食いそば屋と焼き鳥屋の間の狭い通路を抜ける。香ばしい醤油だれの匂いがすきっ腹にしみるが、飯は後回しだ。

 

 賑やかな騒音に引き寄せられるようにふらふらと向かう先は、昔懐かしいゲームセンターだ。最近の若い子はアミューズメントセンターとも呼ぶらしいな。

 店内は光と騒音の坩堝だが何故か落ち着く。学生時代は毎日のようにゲーセンに通ってたからな。

 

 立ち並ぶプライズゲームには目もくれずズンズン奥へ進む。俺のお目当ての筐体は一番奥の壁沿いに並んでいる。

 強化プラスチック製の大きな白い繭が四つ。ロボットアクションゲーム”ガーディアントルーパーズ”の専用筐体だ。

 繭の中には、まるで宇宙船のコクピットのようにメカが詰まっている。装飾用に貼られているキラキラのシール以外は、全てゲームプレイに必要な機材だ。もし戦闘用巨大ロボが実在したら、コクピットは本当にこんな感じかもしれない。

 

 四つの筐体の後ろには、数人ずつ順番待ちの行列。常連の間のローカルルールでAとBは対戦台、CとDはCPU戦用と住み分けができている。

 俺はいつものD筐体の列に並ぶ。

 

「ちいーっス」

 

 顔見知りの小太りの青年が声をかけて来た。パイロットネームはジミーだったかな? 近くにあるデザイン専門学校の生徒さんらしいが、いつ来ても見かけるな。おそらく一日中この店に入り浸っているのだろう。

 そのせいで、ジミー君は常連たちの顔役のようになっている。まあ、若いっていうのはそれだけでいいよな。持て余すくらい自由な時間があるとか、正直羨ましい。

 

「D筐体は今対人やってますんで、近接さんからCPU戦に戻しマース」

 

 俺のパイロットネームは“ザック・バラン”なのだが、最近は”近接オヤジ”の通り名で呼ばれている。一応まだギリギリ20代なのにオヤジは勘弁してほしい。

 

 俺が嫌がるのでみんな面と向かっては近接さんと呼んでくれるようになったが、どうせならもっとカッコいい二つ名にして欲しかった。

 

 “ガーディアントルーパーズ”ではこの手のゲームのお約束として、スタート時にCPU戦と対人戦を選択できる。

 対人戦の相手は同じ店舗の筐体を選んでもいいし、他店のプレイヤーとのマッチングも可能だ。

 特に相手を指定しなければ、全国の筐体からランダムで対戦相手が選ばれる。マッチングが成立するまでCPU戦でプレイして待つことも可能だが、その間に撃墜されてしまえばゲームオーバーだ。

 

 対人戦はデフォルト設定だとソロデュエルで一戦180秒の二本勝負、ドローは双方負け扱い。二敗したらゲームオーバーになる。

 他にもペア対ペアのタッグデュエルやチーム戦もできるようなのだが、試したことはないな。

 

 CPU戦のステージ1は敵が攻撃してこないチュートリアルステージで、600秒でクリアできなければゲームオーバー。逆に言えば、敵を残しておけば10分間は好きなだけ練習できるわけだ。

 

 ステージ2からは普通に攻撃される。ボヤボヤしていると開幕数秒で撃墜されてしまうため無理ゲーと言われている。落ち着いて操縦すれば避けるのはそこまで難しくないと思うんだけどな。

 

 まあ、まともに操縦できれば、だけれど。

 

 ロボの操縦が難しすぎるのがこのゲームの間口を著しく狭めている。直立姿勢の維持すらできずに諦めるプレイヤーが続出、レビューサイトでの評判は当然最悪だ。

 

 なんとか歩けるようになっても、武器をつかんで持ちあげるだけでこれまた一苦労。ゲームとしてこだわるべきはそこじゃないだろ? と大半のプレイヤーは去っていく。

 

 だが、苦労して初めて銃を持ち上げることができた時の達成感は、決して他のゲームでは味わえないものだった。そこまでついて来れたプレイヤーの大半は、このゲームの熱狂的な信者になっていくのだ。

 

 なんとかロボを動かせるようになっても、ターゲットをロックオンする操作を覚えるのにもう一苦労。さらに、ロックオンできたからといって、確実に命中する保証もない。

 敵だって回避するからな。とにかく、そう甘くはないゲームなのだ。

 

 現状、大半のプレイヤーはステージ2のザコ敵をろくに倒せない状況だ。初心者はまずCPU戦のステージ1で機体の動かし方を覚え、一通り操縦できるようになったらソロデュエルでプレイヤー同士戦いながら腕を磨くことが推奨されている。

 

 俺の場合、CPU戦のステージ3までは、そう苦労せず行けるんだがな。

 

「近接さん、D筐体空きましたよ」

 

 ジミー君にせかされるように筐体に乗り込む。常連さんは皆一秒でも長くプレイしたいのだ。ぐずぐずしてはいられない。

 

 操縦席に座り、パスケースに入れて大事に首にかけているパイロットカードをかざす。賢い機械がきっちり俺の設定を読み取ってくれる。

 

 1プレイ500円だが、ゲーム内通貨でもあるスコアを5000ポイント支払うことで無料プレイも可能だ。10ポイントで1円のレートなんだな。

 

 スコアポイントを支払いゲームスタート。サーボモーターの微かな振動、座席のポジションが俺に合わせて微調整されているのだ。

 フットペダルがぐぐっと大きくせり上がって来る。くそ、最近の若者達はずいぶん足が長いようだな。

 

 このゲームの操作には、左右のジョイスティックと両足のフットペダルを使用する。ジョイスティックには左右7つずつ計14のボタンがついており、さらに視線入力と音声入力にも対応している。

 

 ボタンの割り振りはカスタム設定でいじることもできるが、今のところ特に不都合は感じないのでデフォルト設定のままだ。

 

『お帰りなさいザック軍曹、いつもの装備でよろしいですか』

 

 ハスキーなマシンボイスはナビゲータAIのベティちゃんだ。最近のAIは驚くほど優秀になったよな。このベティちゃんは俺の音声入力をほとんど聞き間違えない。

 

 格納庫の壁が開いて無骨な剣が出て来る。装備名バスターソード、おそらく元ネタは中世ドイツのバスタードソードだろう。片手でも使える両手剣だ。材質は知らん、鉄っぽく見えるが、何かすごい金属って設定の筈だ。

 

 俺はロボの腕を伸ばして剣を受け取る。結構重いのでロボの重心がぐらりと傾く。慣れないうちは、このまま転倒して起き上がれず、格納庫の床を這い回る羽目になる。噂では格納庫で10分以上ぐずぐずしているとゲームオーバーになるらしい。

 

「剣の耐久値は充分残ってるな、OK、CPU戦スタート」

 

『了解、今日も頑張りましょ』

 

 青い光に包まれて、ロボがワープする。

 

 360度全周スクリーンに、グランドキャニオンさながらの光景が浮かび上がる。俺のロボは落下中、いや降下中だ。このくらいの高さなら何もしなくてもダメージはないが、反射的に軽くブースト制動をかけてしまう。

 

 ソフトな着地が決まり思わずにんまりする。降下して着地しただけ、ただそれだけなのにすごく面白い。こういうのがこのゲームのいいところだ。

 

 フットペダルを軽く踏み込むと俺のロボが軽快に走り出す。揺れる視界、飛び去るように流れていく景色、まるで自分自身が巨人になった気分だ。

 

 俺の愛機であるリンクスの身長は、10m以上ある設定だったと思う。まあ、ありきたりなゲーム設定などは、わりとどうでもいい。重要なのは俺の思うままに動いてくれるその性能だ。ピーキー過ぎず、鈍重でもないお気に入りの機体なのだ。

 

 このゲームでパイロットカードに登録できる機体は1機だけ、そして複数のパイロットカードは持てないことになっている。

 生体認証システムに登録しないとパイロットカードが作れないのは大げさだと思ったが、一部の国や地域ではスコアポイントの換金もできるらしいのでその関係だろうな。

 問題はカードの縛りのせいで、事実上一人1機体しか所有できないことだ。新しい機体に乗換えれば前の機体は手放すことになる。

 

 初期状態では練習機であるオレンジペガサスが登録されていた。別の機体に乗り換えるにはポイントを貯めて店売りの機体を購入しなければならないわけだが、稀に報酬として機体が貰えることもある。

 

 俺のリンクスはショップには売られていないレアな機体だ。120kポイントで買えるリンクスIIという機体の方が高性能らしい。それでも無料で手に入れることができたのは、かなりありがたい。

 

 俺の場合、初回プレイでステージ2までクリアしたら、いきなりリンクスを貰えた。その時はそういうものだと思ってあまり考えずに乗り換えたのだが、普通は店売り機体を手に入れるまで数万円はつぎ込むものらしい。中には100kポイント貯めるまで三桁万円分プレイした人もいるそうだから、俺は相当にラッキーだったといえる。

 

 少し操縦しただけでオレンジペガサスとは段違いの性能に惚れ込んだ。練習機より強いのは当たり前、俺の思うままにしっくり動いてくれるのが最高だ。今のところ他の機体に乗り換える気はない。

 

 リンクスには固定武装として両腕にワイヤーアンカーが内装されている。これは攻撃用というよりも、急制動や投擲武器の回収に使う特殊装備といった感じだ。まあ、滅多に使うものではない。

 

 オレンジペガサスの固定武装は右手にビームソード、左手にビームガン、頭部にパルスビームガンだったから、固定武装に関しては弱体化したといえなくもない。

 だが、俺はビームソードより実剣が好きだし、苦手な射撃はそもそも命中しないから問題はないのだ。

 

 俺のメイン武器は一振りの剣、3200ポイントで買える店売りのバスターソードだ。売られている実剣の中で、まともに使い物になるのはこれしかない。他はひどいなまくらばかりなので、選択の余地はないのだ。

 そもそも近接武器自体が、銃に比べて圧倒的に種類が少ないからな。

 

 店売りの近接武器としては、他にビームソード2種類、銃剣タイプのものも数種類試したことはある。どれもしっくりこなかったがな。

 

 オレンジペガサスの初期装備アイテムである銃剣はかなり使いやすかったが、ショップには売っていないので壊れても補充できない。

 

 各武器には耐久値が設定されており、0になると壊れてしまう。減ってしまった耐久値は修理で回復できるが、修理に失敗すると最大耐久値が減ってしまうというマゾ仕様だ。

 

 俺はバスターソードの最大耐久値が三割くらいに減ったところで買い替えることにしている。買い替えはだいたい週イチのペースだな、コストパフォーマンスは悪くないと思う。

 最近は剣の扱いも上達してきたので、あまり痛まなくなって来た。刃物は使い方次第で長持ちするのだ。

 

 

 岩陰からクモのような多脚メカが姿を現す。俺のロボより少し大きくて、なかなか迫力があるが、これでもこのゲームでは最も弱いザコ敵だ。

 

 ステージ1の敵としてこのクモ足メカが16体配置されている。ノロノロ徘徊しているだけで攻撃も回避もしないので、初心者にとってはいい練習台になる。

 

 フットペダルを一瞬だけフルパワーまで踏み込み、瞬間的にチョンとブーストダッシュで加速して、機体ごと敵に叩きつけるように斬る。

 こんな時、ペダルを踏みっぱなしにすると、加速し過ぎて機体のコントロールが難しくなる。

 このゲームに行動後の硬直は設定されていないが、大きな動きをすれば隙が生まれることに変わりはない。

 

 結構刃渡りの長いバスターソードだが、ビームガンに比べれば射程は零も同然。実戦では体当たりするつもりでぶつかっていかないと、刃先は届かない。当然だが本当に体当たりしてしまってはやりすぎだ。間合いを見極め、敵のすぐ横を紙一重ですり抜けざまに、剣の刃を斜めに滑らせるように斬る。

 

 一撃で決めるには胴体のコアを破壊するのが確実だ。たくさんの脚が邪魔にはなるが、角度さえよければコアを脚ごとまとめてすっぱり切断できる。

 

 バスターソードはこのゲームでは鈍器に近い扱いだが、角度を上手く調整して素早く刃を滑らすことで、切断による大ダメージを与えることも可能なのだ。

 

 ビームソード系の武器は逆で、ゆっくり斬るほど深く切断できる。刃物というより溶接機みたいな感じだな、同じ場所に当て続けるのがコツなんだ。

 サブウエポンとしてビームソードを装備していた時もあったが、結局使わないので最近は外している。ビームソードでのんびり斬っていると、タイムボーナスが減ってしまうからな。

 

 ステージ1のクリア条件は16体のクモ足メカを全て倒すことだ。クモ足メカ1体につき100ポイント、さらにステージクリア時にもボーナスポイントが入る。

 

 クリアボーナスの詳細は公表されてはいないが、恐らく撃破数、自機のダメージ、命中率や回避率、クリアタイムなどが関係していると思われる。

 

 ステージ1のクリアタイムは今のところ100秒前後だが、それでだいたい3000ポイントのスコアになる。

 

 俺の目標は1回のプレイで7k、つまり7000ポイント以上稼ぐことだ。

 俺の安月給では1プレイ500円のゲームを毎日続けるのは手痛い出費だ。幸い、このゲームはワンプレイ5kポイントで遊べる。ハイスコアを出し続ければ実質タダゲーだ。

 弾代や機体の修理費にもスコアポイントは必要になる。剣だと弾代がかからないのがとてもいい。リンクスは自己修復能力が高いという設定なので、修理費もかからない。大破してもリアルタイムで8時間も放置しておけば、勝手に全快してしまう。

 

 まあ、剣の買い替えと修理、撃墜された場合の修理代などはどうしてもかかってしまうが、毎回7k稼げればなんとか上手く回していける。

 

 というわけで、敵が攻撃して来ないステージ1では確実に3k以上稼いでおかないと、後が苦しいのだ。

 

 ステージ2の敵はステージ1とまったく同じ配置でスタートする。ただし、敵はこちらの攻撃を回避し、ビームで反撃して来る。

 

 だが、クモ足メカの近接戦闘能力はないに等しく、俺にとってはいいカモだ。ビームを発射して来るタイミングさえ覚えれば、ただのヌルいシューティングゲームだ。完全回避も難しくない。

 

 ビームの弾速はゲームにしちゃかなり速い。ビーム兵器のダメージ計算は独特で、一瞬掠った程度ではほぼ無傷だ。逆に同じ箇所に連続でビームを浴び続けると簡単に装甲が溶解してしまう。

 火炎放射器みたいなものなんだと、勝手に解釈している。

 

 被弾すると装甲の表示がグリーンからオレンジ、レッドに変化して危険を教えてくれるが、そんなのをのんびり見ている暇があればとっとと避けろということだ。

 

 大事なのはとにかく動きを止めないことだな。特にブースト移動後の急制動中を狙われれば蜂の巣にされてしまう。俺がブースト移動を多用しない理由だ。

 

 いざという時には敵のビーム攻撃を剣で切り払うことも可能だ。実剣や盾にはビームを拡散反射させる効果のある材質が使われているという設定らしい。だったらその材質で機体の装甲も作れよと思うが、そこはまあゲームの設定だからな。

 

 この設定のおかげで実剣はビームソードに一方的に打ち勝てる。その代わりビームソードは実剣よりリーチが長いのが多いし、実弾を切り払っても痛まないというメリットもある。

 

 飛んで来るビームを剣で切り払うのは、見た目カッコいいのだが、無駄なアクションを敵に強要されているということでもある。切り払いをしている時点で押されていると思わないとな。

 

 そもそも重いバスターソードで敵弾を切り払うとバランスを崩しやすく、下手をすれば転倒しかねない。腕の内装武器がビームソードなら切り払い専用に使うのはありだ。でもそのためだけにリンクスIIに乗り換える必要は感じない。最初はスコアポイントが勿体ないというのもあったが、今じゃこの旧式のリンクスに愛着もある。他の機体への乗り換えなど考えなくなったな。

 

 ステージ2もそろそろルーチンワーク化してきているので、スコア最優先でのクリアを目指す。

 

 今日は調子がよくノーミスでクリアできたぞ。よし、ステージ2クリア時点で目標の7k突破だ。問題はここから先だ。

 

 ステージ3を安定してクリアするのが俺の次の目標だ。ステージ3にはクモ足メカの他に、格闘戦用のハサミがついたカニみたいな敵メカが登場する。

 

 厄介なことにこのステージにカニメカは2体いる。単体ならまだなんとかなるが、連携されると相当手強い。前後を挟まれ、フルボッコにされて撃墜されてしまうこともよくある。

 

 攻略方法としては二体を合流させなければいいのだろうが、敵もこちらの思い通りにはなかなか動いてくれない。

 

 クモ足を全滅させたところで気がつけば、カニメカ達が並んでハサミを振り上げていた。

 

 こうなったらボコられないように一撃離脱を繰り返すしかない。こいつらを牽制するために、ショットガンくらい装備しておくのもいいかもしれないな。サブウエポンかあ。

 

 面倒な展開に急速にやる気がなくなっていく。やはり今日は仕事で疲れ過ぎたよ。こいつらの相手はもっと元気のある日にしたい。

 

 コンソールの乱入許可ボタンを押す。CPU戦時に一度だけ使用できるボタンで、プレイヤーの間ではイジェクトボタンとも呼ばれている。

 マッチングの優先順位は対人戦からのスタートを選んだプレイヤーより低くなるため、必ずしもすぐに挑戦者が現れるとは限らない。まあ、ゴールデンタイムだし、この時間帯なら誰か来てくれるだろう。

 

 日本中で稼働中の筐体が、光回線を通じてリンクしている。特に指定しなければある程度実力が近いプレイヤー同士が自動でマッチングされるという説もあるな。幸いすぐにHERE COMES A NEW CHALLENGER!!

 

 対人戦は完勝でもスコアポイントは3000程度なので、あまり美味しくない。ただし、対人戦スタートだと最低500ポイント保証のガチャチケが、現在配布キャンペーン中だ。ガチャ運がよければレアな機体や武器が入手できることもある、らしい。

 

 対人戦のブリーフィング画面に進むが、機体に損傷はないので武器だけ修理して終了する。修理失敗でバスターソードの最大耐久が少し減ってしまった。なんとなく先行きが悪い。

 

 戦場はビルが立ち並ぶ都市ステージだった。これはラッキー、遮蔽物が多くて助かる。 

 センサーに目をやりながら、ビルの間を警戒しつつ進む。

 

 現実と見分けがつかない精巧な建物、最近のゲームじゃこのくらい当たり前なんだろうが、それでもやっぱりたいしたもんだ。

 

 力をかけて踏み込むと道路がひび割れてロボの足跡が残る。わりとどうでもいいところまで、全力投球でとことん凝っているのは、このゲームの特徴だ。

 

 人や車が走り回っていないのは助かる。さすがに踏み潰して歩くのは嫌だしな。

 

 時間切れドローは面白くないので、敵の居場所に見当をつけて走る。かくれんぼしてる場合じゃないだろう? 向こうから攻撃してきてくれれば探す手間が省けるんだが。

 

 ビルの影が怪しそうな気がしたので、少し斜めに走る角度を変更してみる。案の定、一条のビームが脇を掠めていった。

 溶けたビルの窓ガラスが霧状に飛び散って、キラキラしている。

 

 敵の機体はプレイヤーの間で騎士とか呼ばれているやつだな。正式名は何だったかなあ? まあいいか。

 片手に大きな盾、片手にビームガンを構えている。あの機種の定番の装備だ。盾持ちは厄介なんだよな。

 

 店売りの量産機なのに、この騎士はやたら高性能なんだよな。頭部ユニットもデュアルセンサータイプで、二つ並んだカメラが人間の目みたいに見える。角飾りのようなアンテナと相まって、見るからにアニメの主役メカだ。当然人気も高い。

 

 ペイントは変更していないようで、ショップで売られているデフォルトのままだな。基本色は白、装甲のパーティングラインに沿って赤いラインが施されている。カッコイイけれど結構目立つ、有視界戦闘で目立ってどうするんだとは思う。

 

 俺を狙ってくるビームガンはクモ足メカのに比べれば格段に強力で、直撃を食らえば一発で終わる。だがこのくらいの距離なら、銃身の動きに注意していれば回避は容易だ。三連射してきたのをギリギリで避けて距離を詰め、ビームガンのクールタイム中にえいやっと叩き斬る。

 

 剣の間合いに入ってしまえば、近接戦闘の経験のない相手だと一方的に勝てるな。騎士ロボは内装のビームソードがついている筈なのに、使おうともしない。いや、使い方を知らない可能性もあるか。

 そんなビームガンなんか捨てて、チャンバラしようぜ?

 

 二戦目もほぼ同じ展開になった、相手のプレイヤーはビームガンの性能に頼り過ぎだ。近接戦闘に持ち込むと、一応盾で剣を防御する様子を見せたので、少しは進歩したな。

 だが、足払いしてやったらあっさり転倒した。起き上がる前に装甲の薄い腹部を叩き斬ってあっけなく終了。

 弱い者虐めのようだが、対戦ゲームは非情さ。それに手加減などしない方が、相手も強くなるだろう。

 

 

 次の対戦相手も騎士だった。装備も同じビームガンと盾だが、グリーンにリペイントされているので明らかに違う相手だ。そういえばさっきの対戦相手の名前を確認してなかったな。

 

 残念ながら今度は遮蔽物のない砂漠ステージだ。ビームを避けつつ追い掛け回すが相手も逃げるのでなかなか距離が詰まらない。

 

 結局一発掠ってしまい俺の判定負け。

 

 二戦目は双方ノーダメージで引き分けかと思ったが、何故か俺の勝ちだった。結構ややこしい判定処理をしているようで、たまにこういう謎の勝敗も起きる。

 プレイヤーからは教育的指導と呼ばれているが、柔道かよ。

 

 そして三戦目。敵は開幕直後に盾を捨て、攻撃もせずにブーストダッシュでひたすら逃げていく。追いかける俺を狙い撃ちする作戦だろうが、そんなミエミエの手には引っかからないよ。

 

 結局、三戦目はドローで双方ゲームオーバーだった。俊足のリンクスとはいえ、飛び道具がないと逃げに徹する相手には苦労させられる。筐体から出ると俺の対戦が大型ディスプレイでリプレイされているところだった。

 

 

 プレイ中は自分の機体を見ることがないのであまり意識しないが、こうして見るとリンクスのデザインはどう見ても悪役メカだよなあ。

 

 三次元曲面で構成された有機的なフォルム。蟻のように異様に細い腰部関節。トドメに昆虫の複眼のようなフェイズドアレイセンサーが、流線型の頭部ユニットを覆っている。 

 デフォルトのペイントはソリッドの濃紺だったのを、俺の趣味でグレイ系の迷彩にリペイントしてある。薄汚れたスケルトン系のモンスターに見えなくもないな。

 よく俺だけ別のゲームをしていると言われるわけだよ。

 

 ビルの谷間で白い騎士ロボットを痛めつけているリンクスの姿は、完全に悪役のそれだ。

 客観的に見れば、ろくに機体を動かせていない相手を一方的に斬っていただけだな。初心者虐めをしてしまったかなあ。いや、だって、対人戦に出てくるから。

 

 だいたい、このゲームの操縦は難易度が高すぎるのだ。俺だっていまだに銃は満足に扱えない。モタモタロックオンの操作をしている間に撃墜されてしまうし、射ってもめったに当たらない。

 ぶっちゃけ、近接戦縛りプレイをしているのではなく、近接戦しかできないのだ。

 

「手加減なしっスねえ。相手は北海道地区のランカーさんですよ」

 

 リプレイをぼうっと眺めているとジミー君に声をかけられた。そうか、初心者じゃなくてよかった。遮蔽物のない砂漠ステージなら俺が一方的に負けてたかもな。

 

 残念ながら緑の騎士との勝負はリプレイされなかったが、ジミー君に聞いてみたところ、双方ノーダメージなら回避ボーナスの多い方が判定勝ちになるのではないかとのこと。公式の情報ではなく、あくまでプレイヤー間の推測のようだが。

 

 つまり、相手が先に射って来たら、それで回避ボーナスをゲットできるから、その後は無理に追い回さなくてもいいのか。これはいいことを教えてもらった。

 

「スキュータムの火器管制装置とBAR44は専用装備といっていいくらい相性がいいっスからね。あれを全弾回避なんてやってのけるのは近接さんくらいっス」

 

 むう、何を言ってるのかさっぱりわからんが、褒められたのは理解できた。よせやい、照れるぜ。

 

 そういえばあの騎士ロボはスキュータムとか言うんだったな。主人公メカにしてはちょっと弱そうな名前だと思う。タムじゃだめだ、せめてダムにしないと。

 まあ、戦闘ロボの名前としては、リンクスの方が絶対カッコいいけどな。

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― 新着の感想 ―
独白多めのこの文体が好きで、読み返しに来ました。一話からかなりやってますね、この人。初回プレーでステージ2クリアって、どうやったんだろう。
[一言] 近接オジサンって年齢じゃなく近接戦闘特化がモトネタだろw とても面白いです。久々に良作見つけちまった
[一言] 久方ぶりに読み直し 当時は一人称の文もあって気がつかなかったが、一話の時点ですでに大概なNINJAっぷりだったんだなあ柿崎氏
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