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限りなく人っぽい何かと銀と金  作者: 美羽
銀色の喪失
97/178

9-2*

Side:Silva




「“聖国”に囚われていた五年間は、本当に夢みたいだった。

それはそれはとびっきりの悪夢だったんだよ、シルヴァ?」


そう言ってルナはこれ以上なく暗く美しく笑んだ。

変わり果てた――そうは言っても顔の造作などは一切変わらず、ただ精霊族の耳や竜族の鱗などの付属品が表れただけなのだが、それでも気配は全くの別物。

たくさんのものがごちゃ混ぜになったような混沌としたそれに、その笑みは酷く似合っていた。

そう思ってしまう自分が、とても嫌だったけれど。


「……確か前に、ルナは俺に“聖国”で強くなる訓練を受けていたって言った」


闇ギルドでの僅かな会話。

それに対してセイルートは強い否定を示したが、ルナは嘘をつくことが出来ない。

ならばそれはある意味本当のことでもあったのだろう。

もうひとつ、あの頃の自分はどこまでも弱かったという彼女の言葉もまた。


「よく覚えていたね。流石は私の可愛い弟子だ」


そしてまた彼女はそうして、俺に対して甘い言葉を紡ぐ。

憎悪でその瞳を燃やしながら。


「私はあの国で強くなれた。

人は何かを守るために強くなれるけど、同じくらい何かを壊すためにも強くなれる。

失ったものが大きければ大きいほど、それは顕著だ」


ルナが失ったもの。

漆黒の瞳、普通の身体、元の世界での生活、共に召喚された四人の命、そしてヨウ。

確かにそれらは彼女にとってとても大切なものだったんだろう。

だから普段からルナは愛おしげに故郷を語り、そして自分以外に陽について語られることを厭った。


「丁度君にその話をした日、同じ様に私は言ったね。

私の知っている教育方法は罵声を浴びせられることと鞭で叩かれることだったって。

私はそんな風にたくさんのことを教えられた。

神からの知識はあったけど、最初の頃の私は人殺しが怖いただの愚図な餓鬼だったから、魔術を人に向けられるようになるまでとても時間がかかったんだ」


どうして自分をそんな風に言うのか。

それはある意味当然のことだ。

ルナの元いた世界は、その話ぶりからいってとても平和な場所だったんだろう。

恐らく相手を殺さなければ自分は生き残れないような、そんな場所じゃなかったはずだ。

この世界は魔物の存在があるからそれよりは確かに戦える人間が多い。

けれど貴族に生まれ育った者や王都などの魔物の脅威から遠い場所で過ごす人間は同じ様に荒事とは無縁だ。

なのに、ある意味確かにこことは違う世界で育った証でもあるその恐怖という感情を、そしてそれを抱いた自分をどうしてそんな、これ以上なく忌まわしいものかのように話すのか。


「私はたくさんのことを学んだ。

この世界の命がどんなに軽くて薄っぺらいものなのか、生き物というのがどれだけ簡単にその命を消すのか。

どちらも神の知識じゃ得られなかったし、あの世界の私じゃ分からなかった事だ。

だから私は強くなれた。この世界の人間はどこまでも私にとって無価値だって事が人を殺せるようになって分かったし」


知っているかな、シルヴァ?

そう言ってルナが首を傾げる。


「私は化け物だ。それはこの身体のこともそうだけど、何より心の有り様が。

私はここで人殺しをしても心がまったく動かない。

罪悪感なんて露ほども感じない。

だってそれでいいんだって私を召喚した人間達が、つまりこの世界の人間が教えたんだから当然だろう?」


「………っ、でも、ルナは俺に言った!

やっぱり闇ギルドで、虐殺は悪いことで、俺が嫌な風に感じるって。

そう言えるのはルナだってその感情が分かるということ」


だからルナは残酷な化け物なんかじゃない。

そう言いたかった俺の言葉は続く彼女の答えに力を失った。


「うん、分かるよ。

この世界に来る前まで私は、確かにそう思っていたから。

それにある程度はそういういい人のフリをしていないと、他人から望まれなくなってしまうじゃないか」


確かにルナを変えたのはこの世界なのだ。

今目の前で心底不思議そうにする彼女は他人の命を奪うことに何の疑問も抱かないのだろう。

邪魔だった、気に入らなかった、必要だった、そんな理由できっと呆気なく人を殺す。

けれど同時に過去の彼女の理性と感情と正義がそれを異常だと彼女に伝える。

異常な人間は世の中を生きにくい。

酷い噂が出回ればそれだけで行動が制限される。

だからきっとルナはその異常性を隠し、誰にでも均等に平等に微笑んで見せるのだ。

その心に何の興味も関心も抱かないままで。


「これに関しては俺も同じだから、別に月が特別な訳じゃないよ」


そこへ黙って会話を見守っていたセイルートが口を開いた。


「俺もこの世界で何を殺しても罪悪感なんて感じない。

その相手が側近でも兄でも、国王夫妻でも。

ただそんなことが出来ちゃう自分は、もう絶対にあの世界に帰れないんだろうなって悲しいだけ」


彼女と同じように暗く微笑んで見せたセイルートはそのままの眼差しをルナへと向けた。

縋るような、愛しさを全て込めたような、俺にはできない瞳の色。

俺は彼らと同じ経験をしておらず、そしてそれに基づく感情を一切理解することができないから。


「そしてそんな俺のことを、俺にとってのあの世界そのものである月が受け入れてくれるから。

だから俺も月が何をしても、月がどんなものであっても受け入れる」


「そうだね、私も君も、ずっとそうやって心の平穏を保ってきた。

そして蔓延る孤独に耐えてきた。

でもそれにしてはシルヴァへの肩入れが過ぎるような気がするけれど?」


微笑むルナの疑問もわかる。

俺だって説明を受けてさえセイルートの考えがよくわからないままだ。


「うん、そうかもしれない。でも選ぶ時がきたんだなって感じたから」


「選ぶ時?」


「そうだよ。俺は月をおいて死んじゃう。

それが分かってたから、俺は俺が死ぬまでの短い時を貴女の隣で過ごすんじゃなくて、俺が死んだ後も長く残る“王国”をつくっていくことにした。

でもずっと一人だと思っていた貴女の隣に、いつの間にかシルヴァ君が現れた。

……最初はね、すごく嫉妬したんだ。

だってシルヴァ君はこの世界の人間で、なのに簡単に月の隣に居座ろうとするから。

俺が諦めたことを全部手にしようとしてて、それが何も知らないこの世界の人間だってことが許せなかった。

何より、まるで月がこの世界に奪われるみたいで、すごく怖かったんだ」


前もって語られていた内容と、あの時は告げられることの無かった彼の真意。

それを聞いてルナは悲しそうに眉を寄せた。

唇が言葉を紡ごうとして結局閉じられる。

何を言っていいか分からなかったのか、何も言いたくなかったのか。


「うん、無理しないで。これは俺の勝手な我儘だから」


俺には分からないその心を、全て分かりきったことであるかのようにセイルートは微笑んで受け止めた。


「でもね、それは違うってわかったんだ。

あの時、洞窟で月は大切なことを俺に言ってくれたよね。

シルヴァ君には絶対教えたくない、俺と月だけの秘密だからここでは言わないけど、その言葉で俺は自信が持てた。

例え月とシルヴァ君の間にどんなことがあっても、それは俺と月の関係には影響しないんだって。

それが分かれば俺はもう何も怖くなんかないんだ。

ただ月がいなくなっちゃう以外、俺に怖いものはなくなるんだよ。

だからその最後の恐怖を取り除くために、俺はシルヴァ君を利用した」


「どうして、そこにシルヴァが出てくるんだ」


「簡単だよ。シルヴァ君がいれば月が寂しくないんじゃないかって思ったから。

もしもシルヴァ君が俺じゃどうにもできない部分を変えることができるなら、それで貴女の孤独が少しでも和らいで貴女が壊れきって消えるかもしれない未来を回避できるなら、俺はそれでいいんだ。

そのためにシルヴァ君の感情だって利用するし、月が怒るかもしれないこともする。

でも俺は怖くない。だって月は言ってくれたでしょ?

何があっても、俺のことを嫌わないでいてくれるって」


「…………君は、とても狡猾だ」


「うん。ごめんね。だから月、シルヴァ君にたくさん話してあげて。

それでシルヴァ君の話を聞いてあげて。

その上で貴女がどんな答えを出しても、俺は貴女が大切だよ。

だってほら、こんなにも“月が綺麗なんだから”」


最後の言葉に、ルナはこぼれんばかりに瞳を見開いた。

じわりとその表面に涙の膜が張り、それでも零れはしない。

きっと二人だけに通じる共通の言葉なのだろう。

もしかしたら元の世界に関係のあるものなのかもしれない。でも。


「ルナ。セイルートばかり見ないで。今話してるのは俺」


「……君は、どうしてそう変わらないのかな」


だってルナがいけない。

すぐにそうやってセイルートばかり見て。

分かってはいる。セイルートと違って、俺は何も告げていないから。

俺はずっとルナからの言葉と真実ばかり望んで、結局のところ何一つ彼女に俺の気持ちを告げられていないから、この差異は仕方のないものだって。

でもだからと言って納得できるわけじゃない。俺はこれでも焦っている。

早くセイルートと同じ場所に立ちたい。

彼女の全てを知って、それでも彼女に想いを告げて彼女の隣に立っていたい。

だからそのためにも、彼女の口から紡がれる真実を、早く。


「……生意気な目の色だね。きちんと自我を持ち、自分の望みが何であるか分かっている色だ。

私が君をそうなるように育てたけれど、今は少し後悔しているよ」


「俺はルナに育てられて幸せ。ルナと一緒にいられて幸せ」


「ふん……言っていればいいさ。さて、話の続きだったか。

“聖国”でたくさんのことを学んで、もうその頃には私に敵う存在なんていなくなった。

だから私は自分に課された枷をどうにか騙し誤魔化しながら当時の聖王と主席魔術師を殺して自由になった。

その時私はこの国のためにたくさんの魔術を使わされていたから、私がそれを解いた結果国は一気に力を失った」


大地を豊かにし作物が育つように。

天候を操り国境には降り積もる雪を、聖都にはあたたかな風を。

森を焼き刃向う者を殲滅し国を広げ。

そんな風に、彼女はその力でたくさんのことを成していたと言う。

そしてそれを失い元の生活に戻った“聖国”は、以前はそんな中で暮らしていたというのに、既にあの頃に戻ることが出来なくなっていた。

国の頂点に立つ聖王と、それに仕える魔術師達の長である主席魔術師の存在が失われていたのもその要因として含まれていただろう。

けれどルナの力にばかり頼りその恩恵に浸っていた“聖国”は、あまりにも呆気なく崩れた。

矜持だけは強かった国の人間達はそれを他国に知られることを恐れ鎖国を強いたけれど、その前に各国から奪った領地を逆に奪い返されたという。


「いい気味だよね。その様子に私も少しは溜飲を下げた。

まあ、それでも足りないくらいだったけど。

その後はこの国と“王国”の国境になる森でしばらく過ごしていた。

聖王達への復讐だけを目的に生きてきた私は、その後どうするかなんて考えていなかったから。

そしてそこでユエという男に出会って、私はもう一度目的を手に入れた。

この世界の人間の望みを叶えるという目的をね」


そこまではセイルートに聞かされていた話でもあったから俺は頷いた。

その様子にルナが笑みを深くする。


「君は私のこの思考をどう思う?

この世界で輪廻転生を繰り返すであろう四人の望みを叶えるために、憎い世界の住人の望みも同じく叶えるという矛盾。

そして望みを叶えることでこの世界の人間とふれあい、私の抱く憎しみが薄れることの無いようにその心の浅ましさを見続けること。

自分でも随分狂った考えだと思うけれど、君の意見が聞きたいな?」


向けられた問いに、俺は唾を飲み込んだ。

彼女の行動や考えについて、確かに俺なりに思うところはある。

そして言いたいことも。でも、それはまだ。


「………まだ、内緒」


「へぇ?どうして?」


そう、まだ言えない。


「だって俺は、まだ全部を聞いてない。

まだ話の中のルナは“聖国”から逃げ出したばかりで、ギルドにも所属していないし、闇ギルドも作っていないし、セイルートにも、それに、それに俺にだって会ってない。

ルナが今言ったのは、最初の頃のルナの気持ちと考え。

今のルナのものじゃないから、俺は全部聞いて、今のルナのことを少しでも分かるようになってから俺が思ってることを言いたい。

……だから、まだ、内緒。それじゃあ駄目?」


窺うように彼女を見詰めればルナは俺の言葉に少し驚いたようだった。

迷うように一瞬それが逸らされ、迷いを振り切った瞳が再びこちらを射る。


「君は本当に正解を選び取るのが上手いようだ。

いいだろう、君の言葉に従おう。

君のことを聞くのは私が全て話し終えた時だ。セイもさっき私にそう言ったしね。

―――ただ、私の思想がこのたった五十年で、ただ無価値なこの世界の人間と触れ合った程度で覆っていると思うな」


「……っ、わかって、る…」


向けられる怨嗟の言葉と殺意に身体が震えた。

そんな自分が情けなくてたまらない。

セイルートはこんな状況下でもルナの精神面の心配こそすれど、彼女に怯えを見せることは一切ないのに。

そしてそんな俺の様子にルナが皮肉に笑むのが悲しくて堪らない。

違うのに。貴女を恐れたいわけじゃないのに。


「さて、新たに目的を得た私はこの世界を渡り歩いた。

“王国”、“帝国”、“教国”、どこへでも行った。

その中で皇帝のガイオスとも出会ったし、前教主とも顔を合わせることがあった。

そして放浪を始めて八年が過ぎた時、もう一度ユエに会ったのさ。

それが切欠で私は正規ギルドに登録した。

ただ旅をするだけでは望みを叶えるのが難しかったけれど、ギルドの人間なら違ってくる」


確かに素性の知れない旅人とギルド員、頼られるのは後者だろう。

望みを叶えるというルナの目的に、ギルド員という地位はもってこいだったに違いない。


「ギルドに入るだけで、そしてそこで依頼をこなしていくだけで面白いくらい私は望みを叶えることが出来た。

宵闇の名は煩わしかったけれど、その名前が有名になればなる程汚らしい望みだって私のもとに舞い込んだ。

―――でも同時に望みを叶える聖人君子としても有名になって、吐き気がしたよ」


望みを叶える者。そんなルナに対しての評判はギルドの陰でいつだって囁かれていた。

望めば何でも叶えてくれる。金も要らない利用しやすい駒。

そんなものと同じくらい、いいや、それ以上に、宵闇の名は神のように崇められた。

皆がその力にひれ伏し、その行動に憧憬を抱き、そして尊敬の念を抱く。

常ならば喜ばれるはずのそれは、けれどルナにとっては嫌悪の対象でしかなかったのだろう。

そう考えれば宵闇に対し過剰な敬意を払う輩を彼女が殊の外疎んでいたのも納得がいく。


「私が優しい?美しく善良で清らかな力を持つ当代最強の人間?

あははははっ!馬鹿じゃないか!?……いつだってそう言ってやりたかった。

私におかしな幻想を押し付ける人間達、すべてに。

私はどこまでも自分勝手で汚らしい色の瞳とこの世界の肉体を持つ、ただの化け物だ。

でも私が望みを叶え続けるためにはその幻想が必要だった。だから耐えた。

まあ、少ししたらそれも我慢が出来なくなって結局闇ギルドをつくるような結果になったけれど」


闇ギルド。ルナがセイルートの傍以外で唯一と言っていいほどくつろいだ表情を見せる場所。

彼女がこの世界で形作った場所。

彼女の帰る場所はこちらなのだと、何の疑いもなく言い放つことのできるジョーカーが待つところ。


「ジョーカーに出会って彼女と戦って、私は彼女に真実の半分を教えた。

そして彼女は一つだけ私に望みを言った。

その望みを叶えるため、そして私自身のために私はあの場所に闇ギルドをつくったんだ。

……思えば誰かの望みと私の欲求が重なったのなんて、あれが最初で最後だったな」


「……だから、闇ギルドはルナにとって特別?」


「特別、か……ある意味そうかもね。私はあの場所を気に入っている。

別にだからと言って必要になれば彼らのことを殺すけれど、それは確かと言えるだろう」


「………」


なんて、羨ましい。

ルナが特別だと言う、そんな存在限られている。

俺の知る限りこの世界ではセイルートくらいだろう。

そんな特別をもらっている彼らが羨ましくて憎らしくてたまらない。


「けれど私は私の憎しみを忘れたくはない。

そして望みを叶え続けなければならない。

だからあの場所に長くいることはせずに、結局私は正規と闇、その両方に居座り続けた。

勿論望みのために、正規の方に重きをおいてね。

――そしてランクがSSになって少ししたある日、私は神喰らいに出会った」


「それは“王国”の……?」


「そうだよ。そう言えば君には少しだけ話したんだったね。

けれどあの時君には語らなかったこともある。

国王に望まれあれと三日三晩戦って、私は二日目に神喰らいの真実に気が付いた」


「神喰らいの真実?」


鸚鵡返しに繰り返した俺に、ルナはそこで初めて笑みを消した。

憎悪だけがそこに残って空気が震える。


「神喰らいは生命の魔術によって造られたもの。

私は大昔に造られたアレを元に今の身体を与えられたんだ」


言葉が耳を打った瞬間、脳が高速で回転する。

生命の魔術と神喰らいと、そしてルナ。

神喰らいを元にルナの身体が造られた。そしてその手段が生命の魔術。


「神喰らいは幾多の生命をより合わせて造られたいびつな怪物。

そして私は同じようにこの世界の種族を集め合わせて強固な肉体と魔力を手に入れた。

ね?とても簡単な事だ。私と神喰らいは同じ存在なんだよ」


あの日の夜、そして闇ギルドで、慈愛すら滲ませて神喰らいを怪物だと罵った彼女が脳裏に浮かぶ。

そして神喰らいに対して同情を示した俺に対するルナの怒りも。

あれは神喰らいへの同情がまるで自分に向けられているようで、だから彼女はあれほどまでに怒りを露わにした?


「君の考えはおそらく当たっている。

私はこの世界の人間が神喰らいに対して同情を浮かべるのが我慢ならなかった。

この世界の人間の身勝手な理由で造りだされた怪物。

最後には術者の手に余り、親であるそれすら喰らって孤独になった化け物。

どこまでも私と同じ境遇に知った時には笑いが止まらなかったよ。

――だからこそ、あれを憐れんであれの命を狩っていいのは私だけだ」


「……でも、ルナと神喰らいは違う」


「へぇ?例えば何が?言ってみせてよ?」


「………っ、」


どこまでも冷徹な視線。明らかな怒り。

でも彼女があの魔物と同じだなんて、認めたくはなかった。

例えそれを彼女が望んでいなかったとしても。


「ルナは、感情がある。誰彼かまわず衝動に任せて生きる神喰らいとは、絶対、違う…!」


「っ、ははははは!感情!感情ね!」


可笑しくてたまらない。そう言いたげにルナは高々と笑った。


「……まあ、確かにそうかもね。

感情でなくとも、私には月としての理性がある。

ただ、神喰らいに貪食衝動があるのと同じように、私の中にだって抑え切れない衝動は存在するんだよ?」


「え……?」


「おや、悲しいな、もう忘れてしまったの?

私は戦えば戦う程人を殺したくなるって、前に君に教えたじゃないか」


神喰らいはどこまでも他者を求める生物だ。

だからこそ絶えず何かを喰らおうとし、その存在を身の裡におさめようとする。

ある意味究極的に他人を必要とする生物。


「けれど私は違う。私はいつだって何もかもを壊してしまいたい。

自らに刃向う者、敵意を向ける者全て壊して拒絶して消してしまいたい。

そう思うように私は造りかえられた。

――だって殺戮兵器が他人を求めたって、意味ないだろう?」


私はずっとずっと、破壊衝動を抱いて君を見ていたよ。

そう言ってルナは手を伸ばし、軽い動作で俺の額に指先で触れた。





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