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限りなく人っぽい何かと銀と金  作者: 美羽
黒色の慟哭
94/178

8-9

Long,long ago

Side:Luna






扉の先にあった世界は、見渡す限りの白銀だった。


「…………なに、これ」


想像もしていなかった光景に言葉を失う。

足が埋まるほどに降り積もった雪、視界さえも白く埋めようと荒れ狂う吹雪。

その最中で振り返れば目に映る城は、まるで呪われた場所であるかのような沈鬱さ。

向かう先には何も見えず、本当にここに生物が存在し生活しているのかと疑うようなものだった。

これからどうすれば、見渡す限りの真白のなかでどこへ向かえば。

そんな果てしない絶望が等しく私達を襲う。

けれどそれを振り切るように宗一郎さんが声を上げた。


「……行こう。こんな人の手が加えられていなさそうな世界だ。

きっと探せば身を隠せるような森だってあるだろう」


森へ。きっと人里にはおりられない。

追手がかかるかもしれない、指名手配されるかも知れない。

だからこそ人目から遠ざかることのできる場所へ。

その言葉に頷き、私達は慣れない雪の中足を進めた。

ただここではない場所へ。それだけを願って。


けれど、わかっていた事だったけど。

分かっていて、それでも忘れていたことだったけれど。

現実はそんなに、甘いものではなかったのだ。


「……!?」


「足が、動かない……!」


城から一定の距離以上遠ざかろうとすれば途端に自分のものではないかのように自由が利かなくなる身体。

どうにか無理矢理動かそうとしてもピクリともしない四肢は一体どうしたことか。

私だけではなくそれは私達全員に共通のことで。

まさかと感じた嫌な予感は、その場に響く哄笑により肯定された。


「ックク、ハハハハハ!!」


魔法陣と共に私達の目の前に現れた老人。

紛れもない私達を召喚した張本人。

その背後には彼が聖王陛下、と呼び敬っていた男も立っている。


「なかなかに良い見世物だったぞ!

だがお前達は逃げられん。

言ったであろう?【この城から離れることは許さん】、と」


その言葉に身体の内部が反応する。

ではこの動かない身体は。


「魔術か…………!」


「察しがいいな、女。

お前達は召喚されたその時より我が使役としてこの世界に存在している。

なればこそ我が命に逆らうなど不可能。

お前達がこうして逃げようとすることなど最初から分かっていてあえて放し飼いにしていたなど当然のことであろう」


茶番劇に聖王陛下もお喜びだと、魔術師は厭らしく笑った。


「暇つぶしにとそこそこの魔術師をぶつけてもみたが―――あれは使えぬな。

未だ出来損ないのままであるお前達に、それも一対一でも相手が務まらんとは」


やはりあの場でこの老人が出てこなかったのはそういうことか。

全て仕組まれていて、なにより最初から監視されていた?

だとするとその手段は間違いなく魔術だろう。

脳内で検索をかけると確かに―――ある。離れた対象を監視する術が。


「だがもういい。見世物は終わりだ」


そう言う魔術師は恭しく聖王に頭を垂れた。


「陛下、これより使役を完成(・・)させたく、その許可を」


「許そう」


完成、だと。確かにこの老人は私達のことを出来損ないだとか未完成だとか言っていた。

けれどそれを完成させるとはどういうことか。

まさか今ここで――――私達のうちの誰か一人だけを完成品として選び取るとでも言うのか。


自らの考える仮説に背筋が凍った。

そして同時にすぐ傍で聞こえる苦しみの声。


「………!?」


真っ白な雪に黒く蠢く魔法陣。

私達全員を収めるほどの大きさのそれは牢の床に描かれていたものと寸分たがわず同じものだ。

そしてそれに倒れたのは元々体調の思わしくなかった楓さんと宗一郎さんの二人。


「二人とも!!」


「しっかりしてください!」


駆け寄っても二人の苦しみは消えない。

慶介さんの時のように痛みに暴れまわることこそないようだったが、その表情や苦悶の声から与えられている苦痛は想像を絶するものであることに違いはなかった。


「っ………ぐぁっ、結局、…ふっ、………あいつに、ゆびわ…」


「楓さん!!」


なんで、どうして、だって彼は帰ると言った。

帰って、そうして愛しい人に約束を強請るのだと。


「宗一郎さん、しっかりしてください、お願いだから、死んだりしないで……!」


「私の、ことはいい………ぅ、…君達は、必ず、日、本に…」


どうしてそんな、望みを託すようなことを言うのか。

孫の姿を見るまでは死んでも死にきれないと、彼は笑っていたはずなのに。

私達がどんなに名前を呼んでも、どんなに駄目だと叫んでも次第に声は届かなくなる。

徐々に形を失っていく二人に、私達は気が狂いそうだった。


「所詮お前たちは我等の手の中。

使役は主の命に逆らうことなどできぬ」


ならば、ならば私達の思考は、行動は、その全てはなんだったと言うのだ。

老人のその言葉を合図に、ぐちゃりと形を失った楓さんと宗一郎さんだったものが足元に広がり湿った音を立てる。

それを為す術もなくただ見下ろして、ただその場に立ち尽くした。


「残ったのはお前とそこな小娘のみ。

だが―――それも直にただ一人となろう。

使役は1つあれば良い。如何に魔術で縛ろうと、寄り集まればいらぬ思考を生む」


足元に輝く魔法陣が収縮する。

それは明確にただ一人を――――優那ちゃんだけを囲った。


「…………っ、嫌っ!!」


彼女の悲鳴に慌てて傍へと駆け寄りそれを破ろうとして、けれど破れない。

邪魔は許さん、と。その言葉が放たれただけで私の力は効力を失った。

忌まわしく輝く魔法陣のなかで優那ちゃんが膝を折る。

段々と息が荒くなり、そのまま地に倒れ伏した。

今度は彼女が犠牲になろうとしている。

彼女までもがこれまでの三人と同じように、形さえ残らず私の傍から消え失せると言うのか。


「優那ちゃん……!!」


「るな、さ……」


私と彼女を遮る光の壁に取りすがって名を呼ぶ。

それに応える声はひどくか細かった。

消耗が速すぎる。他の三人の時だってこれほど速くはなかったはずだ。

あの老人が何かしているのだろうか。


目の前にいる。目の前で苦しんでいる。消えようとしている。

なのに私は何もできずにただ立ち尽くしているだけ。

何という責め苦だろうか。

いいや、苦しんでいるのは彼女なのだから私がそう思うことすら烏滸がましい。


「優那ちゃん、しっかりして……!」


死なないで。消えないで。私に諦めさせないで。

こんな時まで思うのは自分のこと。そんな自分に吐き気がした。

でも傍で同じく希望を持っていてくれる人を喪えば、私はもう何も望むことなんてできない。


「ごめ、なさい……私も、月さん、と、帰れな……」


「違う!帰るんだろう?

君はそう言った!だから私は信じられた!!

君達がずっと諦めないでいてくれたから、私だって陽を諦めずに済んだ!!」


「ごめ……ね………?」


謝罪なんていらない。だから一緒に帰ろう。

ずっと諦めないで、いつの日か愛しいあの世界へ。

けれど優那ちゃんの瞳は光を失い、その黒い双眸からはらはらと涙が零れた。

やめて。泣かないで。慣れ親しんだ、陽のような漆黒ではないけれど日本人であることを示す黒の瞳が絶望で染まるところなんて見たくもないよ。


「帰りたか、った、な……もっと、生き、て、……結局、プレゼント…」


兄へのプレゼント。心残りだとでも言うように呟く。


「死んだりしない……!君は、生きて、日本に帰るんだ!

私も、君も……慶介さんに楓さん、宗一郎さんだって、みんなみんな、私達の故郷に帰るんだよ!!」


私の言葉に、優那ちゃんが言葉を返すことはなかった。

ただ悲しそうに微笑んで、最後に一粒涙を落とした。

そう、それだけだったのだ。それだけして、彼女は形を失った。




悲鳴は声にならなかった。ひとりきりだ。紛れもなくそう感じた。

最後に彼女が見せた微笑みが涙が脳裏に焼き付いて離れない。

いいや、彼女だけじゃない。

忘れろと自分に念じて、必死に頭から引き剥がした事実。

苦しみのた打ち回る慶介さんの姿、死にたくないのだと怒りを露わにした楓さんの言葉、仕方がないのだと諦めを含んだ宗一郎さんの表情、そのすべてが。

もうきっと一生消えない。もうそれしか思い出すことができないくらい、わずか数日、きっとほんのすこしは温かな会話だってあったはずのそれらが、全て塗りつぶされ上書きされる。


「ふん、ようやく消えたか。手間をとらせおって」


背後から声が聞こえる。忌まわしいこの世界の人間の声。

同時に私の体が魔法陣に包まれた。


「女、我が使役。これでお前の力は他の及ばぬものとなった。

………とは言ってもまだ完成には遠いがな。

まずはその脆弱な肉体を変えねばならぬが……準備は整っておる。【そこでじっとしていろ】」


言葉により明確に縛られる身体。

考えていたはずだった。ある程度予想はついていたと言っていい。

誰か一人、5人の中で最も利用価値がある人間を残すつもりなのではないかと、私は予想していたのに。

それでもその言葉に嫌悪と憎悪、そして恐怖で体が震えた。


魔法陣が明滅する。体中に力が流れ込んでくるのを嫌でも感じる。

けれどこんな力、一体どこから。

疑問に答えるように魔術師は嫌らしく笑った。


「どうだ?亡き同胞の全てを吸い取る感覚は?」


「……………え?」


何を言っているのだ。一体、何を。


「あの消え去ったモノ共だ。

召喚は元々一人だけのつもりだったが、付属物がついてきた。

これを利用しない手はあるまい?」


召喚は一人だけ?付属物?ならば。ならばもしや。

思考がただ巡る。私の頭は恐ろしい仮説を立てた。


ならばもしや、あの4人はただ私に巻き込まれただけ?


「―――――-っ!!」


吐き気がした。もしも体を魔術で縛りつけられていなければきっと嘔吐していただろう。

では私の召喚に巻き込まれたために、あの日あの時あの場所で私の近くにいたために、彼らは私が陽と引き離されたように彼らの大切な人達と永遠の別れを余儀なくされたと言うのか。

そして今尚私の力を強めるためだけに糧として搾取されていると言うのか。


陽。陽、陽、陽。どうすればいい?ねえ、私はどう償えばいい?

だって知ってしまった。世界から切り取られる無力感、大切な存在との関係を裂かれる絶望感。

そのすべてを私はもう知ってしまった。

それを味わわせてしまった彼らに、私はどう償えばいいと言うの?


「【我が呪に応え、その生命よ揺らげ。

古の術による力の統合、そして新たなる創造物をここに】」


絶望のまま、私の視界は白く染まった。
















【また、泣いているのか】


触れる感触に知らず閉じていた瞳を開く。

そこはいつだったか訪れたことのある真白の空間で、同じ色を保っていても先ほどまでいたあの場所よりはるかに温かな優しさに満ちていた。

―――そう、あの場所は酷く冷たかった。


【月。泣くな】


ほろほろと零れる涙を空間と同じ色を宿した指が掬う。

最早それにすら大した感情を抱くことができず、私はただ目の前の神に問いかけた。


「また、お前か………今度は何だ」


【月、頼むから泣かないでくれ。どうしていいかわからない】


「勝手なことを言う。私をこうさせたのはお前の世界だ」


そう、この神が管理していると言う世界が私をこうさせたのだ。

だというのに泣くななどと、いっそ笑いすら込み上げてくる。

いいや、込み上げる感情はそんなものではない。

麻痺していたそれはようやく解け、今私の中に明確な殺意と憎悪として渦巻いている。


「殺す……殺してやる…あの魔術師も、国王も、あの世界に存在するすべて、そう、全部だ。

そうじゃなきゃ足りない。四人の苦しみも痛みも知らずにのうのうと生きている連中、みんなみんな憎い……!!」


世界の破壊を。それ以外では贖えないことをあの世界の人間達は起こしたのだ。

そしてそれを実行する私も、許されないことを彼らにした。

思えば私だけが召喚の最中この空間で神との対話を経験したことすら私に対するヒントだったのだ。

元々目的は私で、だからこそ神も私とのコンタクトを図った。

それに気づかずただ相違が恐ろしいからと口をつぐんだ私はなんて愚かだったのだろう。

私は彼らに糾弾されるべきだったのだ。

私こそが彼らから怒りと憎悪を向けられてしかるべき存在だったのに、私はみんなを騙してその温情に縋り、まるで自分も被害者のような顔をして彼らの傍に居続けた。

その結果がこれなのだから――――笑ってしまう。


【……その世界に、彼らの魂があるとしてもか】


自らと異世界に対する憎悪で混沌とした感情は、けれど神の言葉で一気に鎮まった。


「………どういう、こと」


【召喚により元の世界から切り離され、私の世界の物質として変換がなされた魂は永遠に私の世界で巡る。

だから死した彼らの魂はすでに輪廻の輪に導かれあの世界に生まれようとしているんだ。

それでも、お前はあの世界を壊すのか?】


「………………っ、お前!」


その言葉はある種脅しのようなものだった。

四人が生まれ変わってあの世界に生を受ける。

けれど私が世界を壊せばそこに生きる命、すなわち生まれ変わった彼らの命を消すことになるだろう。

神の言葉が本当かどうかも分からない、けれど嘘と言うには危うすぎるその言葉は私の行動を縛った。


【嘘ではない。私はお前を慈しみたい。

だからこそお前が後々に真実を知り悲しむところを見たくはない】


「よくも、ぬけぬけと…!」


【だが真実だ、月。

彼らは私の世界で輪廻転生を繰り返す。これは覆らない。

彼らがいつ、どこへ生れ落ちるのか私にはわからない。

私は世界への干渉を許されていないから】


そんな、そんな曖昧で不確かな言葉。

そんなんじゃ私は四人を見つけられない。

私は彼らに謝ることも彼らのために何かすることすら許されないというのか。


【それに、お前は未だ召喚術に組み込まれた術式に支配されたまま。

今行われている生命の魔術によりそれは更に強固になるだろう】


「あの、言葉でこちらを縛るものか」


あれのせいで私は何もできなかった。

あの魔術がある限り私はあの魔術師たちに反抗することができないだろう。

そんな状態では復讐など不可能。


【そうだ。けれど少しだけ術式を緩めることはできる】


言って、神は私の両の瞼に口づけを落とした。

いつかも感じたことのある感触に目を剥く。

まさか、あの時のあれも同じことをしていた?


「気安く触るな!!」


【……すまない。だがこうしなければ私はお前に守護を与えられない】


ぎろりと睨み付ければ神は悲しそうな顔をした。

それにほんの少し、爪の先ほど心が痛んだが構うものか。

目の前にいる存在は憎い異世界を管理する神で、だから私の味方ではない。

この世界に私の味方など誰一人としていないのだ。

だって全員死んでしまったんだから。みんな、私のせいで殺されてしまったんだから。

だから誰にだって心を許してはいけない。

自分を保って、彼らの苦しみを忘れずに、ずっとずっと憎しみの炎を絶やさないように。

そうしなければ殺される。そして殺された四人に顔向けできない。


【………そんな顔をするな。頼むから】


神の表情が痛そうに歪んで、でもそれに心を動かしてはいけない。


「誰がそうさせていると思っている。この世界だろう。

そもそもまたこの場所に私を呼んで、今度は何の用だ」


【……お前に四人のことを伝えること、強固な守護を与えること。

そしてお前の身に今起こっていることを知らせるためだ】


「今、起こっていること……?」


そう言えばあの魔術師は私を魔法陣で囲んで新たな詠唱を行っていた。

それと同時に私はおそらく意識を失ったのだろう。


【この世界には失われた魔術と呼ばれるものがある。

お前に渡した知識にも入っているだろう?】


確かにその言葉を聞けば簡単に脳が意味を理解した。

大昔に考えられ、けれど徐々に廃れていった術式。

その主な理由は倫理に関わること、そして術の発動に必要となる魔力が膨大な量であること。


【そうだ。そしてあの国――“聖国”の地下深くに眠っていた魔法陣こそが失われた魔術のひとつである召喚術のための陣だ。

今代の主席魔術師はそれを偶然発見し、長い年月をかけその解読に至った。

そして何十、何百人もの奴隷の魔力を消費し、あの日召喚術を行使したんだ】


「奴隷の魔力…?」


【あの魔術師一人では術を扱えない。

だからこそあれは奴隷に死ぬまで魔力を放出させ、お前たちを召喚させた】


やはり下種な性格をしているようだ。

それにあの世界に奴隷文化があるのなら私達へのあの扱いも納得がいく。

彼らにとって私達は奴隷同然の使える駒ということだろう。


【召喚術の中には召喚した対象を召喚者に隷属させるという術式も編みこまれている。

だからこそお前たちはあの魔術師に逆らうことは不可能だ。

けれど勿論抜け道もある。先ほど私が術を緩めたばかりだしな】


「抜け道?」


【召喚術に追加されている隷属の術式の場合、術者が言葉にしたものと予め魔法陣に組み込まれていた命令しかお前を縛る力は持っていない。

だからこそ術者が明確な命令をしなければいくらでも抜け道を作ることができる】


「………魔法陣に組み込まれていた命令は?」


少し考えて私はそう問いかけた。

確かに魔術師からの命令の方はどうにでも対処ができそうだが、問題はそちらだ。

恐らく魔法陣に組み込まれているものは絶対の命令として私を縛るだろう。


【術者の言に逆らわないこと、術者を傷つけないこと、術者と術者が許した以外の者から攻撃を受けた場合にはその対象を退けること】


「……それを、どうにかしないといけないって?」


【………】


黙って目をそらす神が憎らしい。

それらの条件をかいくぐって私はあれらを殺さなければならないということか。


【そして今、お前に新たな魔術がかけられようとしている】


「!?」


【禁術のひとつ、生命の魔術】


脳がせわしなく働き始める。

禁術は失われた魔術の中でも特に危険とみなされたものだ。

支配、記憶、生命の魔術。

頭の中の知識によれば生命の魔術は蘇生や生命創造――いわゆるホムンクルスの類を扱うもの。それを、私に?


【例え膨大な魔力、そして私から与えられた知識を持っていたとしてもお前の身体は人間のもので脆弱だ。

だからこそあの人間達は生命の魔術でお前の身体を造りかえようとしている。

この世界には人族だけでなく数多くの種族が生きている。

彼らの特性を寄り集め文字通りお前を変えようとしているんだ】


痛みを伴う視線が向けられ、心臓が嫌な音を立てた。

私を造りかえる。忌まわしい世界に生きる存在を使って。

知識が知らせるその方法は同化だ。

私がこの世界のモノ達と同化する?考えただけで眩暈がした。


【私には防げない。ただお前の精神を守るためにここに呼び寄せることしかできなかった】


「……何を、今更」


きっともうとっくに私は壊れている。

身の裡を這い回る感情をして、どうして精神が壊れていないなどと言えようか。


「許さない………私の身体を、造りかえる?

陽と同じものだったこの身体を?」


瞳の色さえ奪って尚、更に私を彼から引き離すと言うのか。


【……憎んでもいい。私も私の世界も、それだけのことをお前にした。

それでも月。私はお前に幸せをやりたい。

だからそんな、憎しみを口にしながら今にも泣きそうな顔をするな】


「五月蠅い、同情はいらないと言った……!」


同情なんていらなかった。優しさも温かさも不要だ。

だってそうしなければこれから先、立っていられない。

今の私を見たら、きっと陽も今目の前にいる存在のように痛そうに微笑むだろう。

変わってしまった私に痛みを感じて、それでもきっと悲しそうに私を許容してくれる。

抱きしめて大丈夫だと言ってくれる。ずっと傍にいるからって。


でもね、陽。もう私は君の隣を望めない。

だって私のせいだったから。

彼らにも望んだ誰かの隣があって、けれどそれは永遠に叶わないものになってしまった。

その元凶である私が、私だけがのうのうと生きて幸福を望むだなんて許されるはずがないのだ。

だから私はもう君の隣を望まない。

私が私のために望むのはただ一つ。

復讐を。あの人間達に、世界に、そこに存在するすべてに復讐を。


望みを持ち続けるのはとても辛いことだ。

いつだって望みが叶わないかもしれない絶望がすぐ傍にあって、それでも信じて歩き続けることの苦しみを知っている者はどれ程いるだろう。

私はそれを知ってしまった。だから多くは望まない。望めるはずがない。

一緒にあの、もう遠くなってしまった世界と大切な人を望んでくれる誰かがいなければ、私は絶望に負けてしまうから。

でも最初から絶望に染まった望みだけはきっと持っていられる。

私の身体が、魂が朽ち果てるまで。その時まで私が四人を、今抱く憎しみを忘れることがなければずっとずっとその望みを持っていられる。


「壊れたままで望みが叶えられるのならそれでいい。私には、それだけでいい」


私は私の罪を忘れないために、四人を忘れないために、この望みを私自身に刻もう。






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