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限りなく人っぽい何かと銀と金  作者: 美羽
黒色の慟哭
93/178

8-8

Long,long ago

Side:Luna






その後およそ半日ほどを魔術の練習に費やし、私達は作戦を実行した。


「【風】」


まずは鎌鼬で鉄柵を破壊する。

人一人が通れるほどの隙間を考え風の刃を飛ばせば金属が床を打つ高い音が小さく響き、その他の音が聞こえないか耳を澄ます。

ここで気づかれ騒がれてしまっては元も子もなかったが、どうやら檻の破壊に気がついた人間はいないようだ。

石造りの通路は静まりかえっている。


「……大丈夫そうです。行きましょう」


進む順番は私、宗一郎さんと優那ちゃん、そして楓さん。

これに男性二人は渋い顔を見せたが、この中で私が一番魔術をまともに使えるのだからと言えば渋々納得してくれた。

そもそも二人とも倒れて体力を失っているのだし、一番敵に出会いやすい列の先頭は無理だろう。

それに宗一郎さんは年齢もあってか優那ちゃんの手助けが必要だ。

そうなってくると争い事に向かない優那ちゃんと彼女を必要とする宗一郎さんを中央に、体力は少なくなっているだろうが若く力もある男性の楓さんに殿を務めてもらうしかない。


「……意外です。見張りの人とか、いるのかと」


「そうだね。私も少し驚いてる。

私達のこと自体をあまり多くの人間に知られないようにしているのか、それとも…」


「余程自分達の実力に自信があるのか、だろうね」


私の言葉を引き継いだ宗一郎さんが難しい顔をする。

向こうが絶対の自信を持っている。

それは老人との会話で私も気になっていたことだった。

何かまだ、私達が知らない仕掛けがあるのかもしれない。


「考えても無駄っすよ。

もう動いちゃってるし、魔法のことなんて考えてもわかんねぇし」


「……ふふっ、そうかもしれませんね」


「あ!月ちゃん今ちょっと馬鹿にした?」


「いいえ、全く」


自分が色々と考えてしまうタチなだけに、そう言った考え方を教えてくれる人がいると助かる。

勿論考えることも必要なのだが、今は考えていても埒があかないから楓さんの考え方が適切だ。

だから本当に馬鹿にしたわけでも何でもない、むしろ感謝しているのだが彼にはいまいち伝わっていないらしい。


「なんっか納得いかないって言うか…」


「まあまあ楓君。下手に愚痴を続ける方が大人げないんじゃないかな?」


「うっ……そうっすね…」


やはり宗一郎さんは大人だ。


「……階段があります」


立ち止まり三人を振り返る。昇るべきか否か。

私達が入れられていた場所からここまでは全て空の牢屋で埋められていた。

こちらとは反対方向に進めばまた違ったものがあるのかもしれないが……そちら側には私達が気づいたとき最初にいた場所、つまり広いホールのような空間に続いている。

その先に何かあるとは思えず、そしてあそこに行っても私達に召喚術の逆の魔術――つまりは日本に帰るための魔術が使えるかどうか分からないために、私達はまずこの建物からの脱出を第一目標とした。

自由の身になってしまえば宗一郎さんや楓さんの身体を蝕む魔術も消えるだろうし、そうなれば追っ手への警戒が必要になりはするが一先ず落ち着いて帰るための情報集めが出来るはずだから。


「私は昇ってみて構わないと思うよ。

ずっと思っていたことだがここは地下だろう。

窓がないこと、頑丈な石で組み上げられていることからもその可能性が高いはずだ。

ならば脱出通路は地上にしかないからね」


「建築系の元社長が言うんだから間違いないっすね。俺も昇るのに賛成」


「私もです。反対側に戻るのも大変だと思うし…」


「わかった、それじゃあ行きましょう。

優那ちゃん、宗一郎さんを頼むね」


階段は見る限りかなり長いし、技術の問題なのかかなりガタガタだ。

手すりもなく宗一郎さんが昇るのは大変だろう。


「ヤバくなったら俺が代わるから言って。

流石に二人一気に落ちてきたら受け止めらんないし」


「はい、お願いします」


話し合う二人に対して宗一郎さんは微妙な顔をしていた。

どうしたのだろうかと首を傾げるとそれに気がついてか表情を変えずにこちらを見つめため息を吐く。


「一気に介護老人になった気分だよ」


それは何と言うか……どうにもフォローしにくい問題だ。


「まあ、今だけだと思って若い子の手に甘えてください」


「……そうするとしよう」


さて、昇るとしよう。

問題は上から人が来た場合だ。

下にいる私達が絶対的に不利になってしまう。

相手の方が目線が上になるし、こちらは敵を倒したとして気絶した相手が重力に従って自分達の方に落ちてくるのを何とかしなければならない。

そもそも現代日本で争い事と無関係に生きてきた私達にとって、こういった足場が悪い場所で敵に出会うことが命取りと言うか。

と言うかあまり敵に対して実力行使をしたことがないので(ストーカーや誘拐犯の対応は殆どボディーガードがしてくれていた)ちょっと、いやかなり不安である。


そんな訳で私なりに少し緊張していたのだが……結局誰に会うこともなく階段を昇りきることが出来そうだ。

本当に、警備や監視の人間を一人も置いていないのはどういうことなのだろう。

人の気配はするために恐らく階段を出てすぐの場所からは人の往来がある程度はあるのだろうが……


「ここからが問題ですよね…」


あえて昇りきることはせずに、階段の途中、終わりが見える位置で立ち止まって声を潜める。

監禁されていた地下はともかく、地上は全くの未知の空間だ。

あの魔術師が城と言っていた以上なかなかの広さがあるのだろうし、そうなるとどう進めばいいのかも全く予想がつかない。


「そうだね、恐らく一筋縄ではいかないだろう。

ともかく出口を見つけることが最優先だが……」


「絶対邪魔は入りますよね。テンプレ通りなら兵士とかいそうだし」


そう、それをどう対処していくかが問題だ。

実際のところ私達は魔術を使い慣れてはいないため、とっさにそれを扱うことができるかと言われれば疑問が残る。

かと言って体術は――――もしかしたら今の私なら不可能ではないのかもしれないけれど、他の三人はそうではないだろう。

恐らく私が向かってくる敵の対応をし、三人にはその補助と脱出口の発見を頼むのが一番なのだろうが……私自身、自分がどこまでやれるのかがいまいち分からない。

もしもこの脱出に失敗してもう一度牢に連れ戻されることになれば二度目の脱出は格段に難易度が上がる。

それを考えるだけでも一度きりでここから逃げ出さなければならない。

失敗は許されないのだ。


「向かってくる人間は私と楓さんでどうにか……したい、ですね。

宗一郎さんは仕事柄こういった建造物に詳しいでしょうし、その分出入り口がどこにあるか見つけやすいのでは。

優那ちゃんはその手伝いをしてもらって…」


「そんな、月さん危険ですよ!」


「いや、一応護身術とかも身に着けさせられていたからそこまでではないよ」


それに今は神の知識もある。

実際のところどうなのかはわからないが、それを言っていては話が進まない。

楓さんも戦闘の人員に回したのは申し訳ないが自分にそこまでの自信がなかったからだ。

体術はだめでも今は魔術という手段がある。

どうにか相手を牽制する程度のことでもできたなら、と考えた結果である。


「RPGだったらガンガンいこうぜ、ってやつか……

でも俺、そういうのペーペーなんだけど」


「魔術もあるのでそこは問題ないかと。

要は向かってくる人を適当に風で吹き飛ばせばいいだけですから」


本当は気絶させるなりなんなりした方がいいのだが、それは私達初心者には荷が重い。

こんなことならもう少し真剣に護身術を極めればよかった。

いくらお互い練習中に怪我をするのが心配だったからって数か月でやめたもんなぁ…

どうせボディーガードがいるのだからと私も陽もそこまで熱心にやらなかったのだ。


「んー、なら大丈夫、かも?」


「楓さんまで!月さんは女の子なんですよ?」


「あれ?俺の心配は?」


憤慨した様子の優那ちゃんに楓さんが切なそうに問いかけるがそれに対する彼女からの返事はなかった。


「まあまあ。月君の策が一番確実なのは確かだ。

それに結局は私達が早く出口を見つけてしまえばいい」


「そうかもしれないですけど……」


「頼りにしてるよ、優那ちゃん」


「月さんってそういうところ、ズルイ…」


そうかもしれない。私はとても狡いのだ。

けれどその狡さが私には必要なものだから仕方がない。


「ふふっ、それじゃあ行こうか」


「わーお、月ちゃん大人の余裕」


「もう少し年相応にしていていいと思うがね…」


「私はこれでいいんです」


男性陣の言葉は聞かない。

今の状況でそんなものを求めたって仕方がないとわかっているだろうに、案外うるさい人たちだ。




数秒前とは打って変わって皆真剣な表情で視線を交わしあう。

頷き、直後に私達は地上へと段を駆け上った。

出た先は薄暗い室内。少し手狭で、装飾は少ない。

室内には一人だけ見張りなのだろう兵士がいて、階段から現れた私達に目を見開くと大きく口を開いた。

恐らく応援を呼ぶつもりだ。そう私の脳が判断したと同時に勝手に体が動いた。

目前に迫る兵士の体。声が発されるより速くその喉元に肘を打ち付け、足払いをかけて転倒させる。

突然の攻撃に倒れた体、その急所である鳩尾に全体重をかけながらもう一度一撃を見舞う。

そうすれば簡単に屈強な兵士は意識を失いダラリとその場に四肢を投げ出した。


「………」


「マジでか。月ちゃんすげぇ」


言葉を失った自らの意識がその言葉でようやく我に返る。


「……言ったじゃないですか、護身術は習っていたって」


軽口を条件反射のように返しつつ、私の心臓は嫌に高鳴っていた。

私がしようと思ったのではない、いいや、確かにどうにかして兵士の行動を止めなければと思った。

けれどそれだけだったのだ。なのに、身体が勝手に動いた。

黙らせる、その目的だけを明確に意識した途端、私の体はどうすればいいのかを即座に判断しそれを行動に移した。

後から事実と私の理解だけがついてきて、その時にはすでに兵士は力なく倒れていた。


―――これは、一体何だと言うのか。


これが神から与えられたもの?

与えられたのは知識だけではなかったということか。

いいや、ともすればこれは身体に与えられた知識なのかもしれない。

武術の達人などは眠った状態を襲われても無意識のままその対応が可能だと聞く。

これはそれに近い事象なのかもしれない。

だとすれば確かに助かりはするが―――まるで私の身体が自分のものではないようで、どこか気味が悪かった。


「……さて、進んでみましょうか。

とりあえず仲間は呼ばれなかったみたいですから、後は強行突破です。

こんな狭い部屋で敵に囲まれたら大変でしたが、一度廊下に出ればもうそんなことは気にしていられませんし」


小さな恐怖をどうにか胸の奥底に仕舞い込み無理矢理微笑む。

それに伴う違和感は陽にしか分からないものだ。

実際三人も特におかしな反応をするでもなく笑い返してくれる。


「そうだね、一先ずこの建物を出て身を隠せるような場所を探そう。

それから今後についてまた話し合えばいい」


「わかりました。んじゃまた月ちゃん、二人、俺の順番で進めばいいのかな?」


「そうですね。でももうそんなに気にしていられないでしょうから、形だけでもということで」


「確かに逃げている時は混乱しちゃいますもんね…

でも私はなるべく宗一郎さんの隣にいます」


「やれやれ、また介護老人扱いか…」


気合を入れなおしたらしい優那ちゃんに宗一郎さんがため息をつけば慌てて彼女が頭を下げた。


「す、すみません…」


「あぁいや、そういった意図ではないんだがね」


「あーぁ、宗一郎さん、優那ちゃんを泣かせた」


「いやいや!泣いてはいないだろう?」


「これは……泣きそうです………」


「…………君達、あまり年寄りをからかわないでくれないか?」


じとりと睨む宗一郎さんに、楓さんの悪ふざけにのった優那ちゃんもさすがに申し訳なくなったのか苦笑いを返した。

逃亡中になんとも緊張感がないように感じられるが、こうでもしていないと恐ろしくてどうにかなってしまいそうなのだろう。

私だって表面上笑えてはいるけれど不安で仕方がない。

ここからの脱出が成功したとして、その先の未来が拓けているなどとは間違っても言えないのだから。

けれど皆が諦めないでいるうちは私も諦めないでいられる。

だから足掻かなければいけない。どんなに恐ろしくったって。






「主席魔術師様の使役が逃げ出したぞ!捕まえろ!」


罵声と鎧の擦れあう音。その中を全力で駆ける。

当然と言えば当然だが、あれから部屋を出てすぐに私達は城内を歩く者達に見つかった。

室内という密室だったからこそ昏倒させることに意味もあったが、こうしてどんどん先へ進みそのたびに追手が増えていくのでは一々個人を相手にはしていられない。

今も正面から向かってくる相手は風で押しやり、後ろから迫ってくる者は炎で威嚇し距離をとらせるなどして私達はどうにか出口を目指していた。


「っ、三人とも、大丈夫ですか!?特に宗一郎さん!」


「どうにか、……ハッ…、着いていけては、いるね……!

……っ、…月君、そこを、左だ!」」


一応後ろを気にしながら走ってはいるのだが、やはり体力の少ない宗一郎さんは辛そうだ。

優那ちゃんは息は荒くなってはいるがまだ大丈夫そう。

背後の追手を警戒しつつ魔術を使わなければならない楓さんは負担が大きいだけに少し疲弊の色が見えた。

早くここから出なければ、と焦りを抱えながら指示通り角を左に曲がる。

その先にいた複数の兵士は風で壁に叩きつけ意識を失わせた。


「………!!あの正面の扉!

宗一郎さん、出口だと思いますか!?」


まだ距離があるが長い直線の廊下の先、それらしき重厚な扉が見える。

ついに出口かと確認をとれば力強い頷きが返ってきた。

もう少しだ。あと少しでこの魔窟のような場所から出られる。


「………っ、痛ってぇ!!」


「楓さん!?」


そう安堵した矢先、背後からうめき声が聞こえて私はあわててもう一度振り返った。

向けた視線の先では楓さんが足をおさえ蹲っている。

ふくらはぎの部分がすっぱりと切れてしまっていて、けれど周囲に武器のようなものは見当たらない。


「そこまでだ」


現れた男は私達が見慣れた格好をしていた。

数日に一度私達のいる牢に足を運び、そのたびに悪意を落としていったあの老いた魔術師。

同じ服装、そして今の状況から鑑みるに彼も魔術師なのだろう。

ならば楓さんの足を切ったのは風の刃だろうか。


「優那ちゃん、楓さんを!」


「大丈夫ですか!?」


「……ちょっとヤバい、かも。歩けねぇ…」


私達を殺すことの無いように、けれど間違いなく逃がすことの無いようにと足を狙ったとでも言うのか。

こみ上げる苛立ちがそのまま魔術師への敵意に変わる。

抱いた感情は明確な殺意。邪魔な障害の排除だった。


「月君、どうしたものかね」


「どうしようもありませんよ。

彼をどうにかしないと私達は逃げ切れない。

ならどうにかするしかありません。

お二人で楓さんに手を貸して、それで歩くことは可能そうですか?」


「おそらく出来るとは思うが………月君、まさか」


可能ならば作戦は決まった。

あの魔術師の相手を私がして、楓さんが進む時間を稼ぐ。


「できれば急いでくださると助かります」


ともかくそれだけ言って私は走り、立ち位置を入れ替えた。

他の三人を庇うように魔術師の正面へ。

ぎょっとする気配が背後でするが、かまっていられる余裕はない。


「使役の分際で我らに楯突くか!【風の刃の餌食となれ】!」


魔術師の詠唱と同時にわずかに色を含む半透明の刃がこちらに向かう。

やはり風の魔術、そう考えると同時にやはり条件反射のように動く身体。


「【風】!」


どうやら体術のみならず魔術の面でも無意識の反撃が可能なようだ。

攻撃を全く同じもので相殺して、同時に背後に結界を張る。

もしも攻撃が三人の方へ向かってしまったら大変だ。

ちらりと確認すると私を止めようとする優那ちゃんを宗一郎さんがどうにか宥め楓さんを支え歩かせている状態。

まだまだ出口までは時間がかかりそうだ。

―――いや、待てよ。私は魔術が使えるのだから、この状況だってどうにかなるのではないだろうか。


「【治癒】」


裂けた組織を結合させ神経と血管、筋肉を元の姿に戻す。

そんな光景を頭に思い描きつつ魔術を扱ってみれば、思った通り足を引きずるようにしていた楓さんが驚きの表情で自身の足を見やる。

出来ていたはずの大きな傷口は跡形もなく、ただのまっさらな皮膚が覆っていた。


「月ちゃん、もしかして今の、回復魔法的な?」


「できるかな、と思いついたので。いけますか?」


「バッチリ」


ならば心配はいらない。

後は目の前で屈辱に顔を歪ませる魔術師への対処だ。


「楓さん、先頭お願いします。ついでに扉も壊してしまってください。

後ろはこのまま私が受け持ちますから、交代ということで。【炎】」


「了解」


これで先の憂いも少なくなった。

まずは魔術師が倒れた後こちらに手出しをしてくる者がいないように炎で周囲をとりまく。

こうすれば私達と兵士は完全に炎によって分断された状態だ。

魔術師さえ倒してしまえば魔術が使えないらしい彼らにこの炎の壁を超えるのは不可能だろう。


「おのれ、小癪な真似を!」


「【風】」


動こうとしたその体を風の刃で床に縫い付ける。

無駄に長いローブを着ているからこそかなり有効だ。

そのまま相手の詠唱が終わる前に地を蹴って急接近し、二度と詠唱ができない様喉を潰す。

魔術師にとって詠唱に時間をかけるのは命とりだ。

先ほどから文章による魔術の行使を行っていたこの男は短縮詠唱などを使えないということなのだろう。


だとしてそんな、言うなれば下っ端のような存在が何故私達の捕獲に向かったのか。

私達には魔術が使えないと、完全にこちらをなめてかかっていたから?

いいや、私達が脱走したことは伝わっているのだから、普通は私達にも魔術が使えるのかもしれないという仮説に至ってもいいはずだ。

それともこの場所にいる魔術師としてはこの程度の実力が正当なもので、普通は短絡詠唱などを使える魔術師はいない?

それもありえない。私達を召喚した魔術師は詠唱破棄によって転移の魔術を使用していた。

――そもそもどうして、こんな大騒ぎになっている現場にあの老人はやって来ないのだ。


「月さん!どうしたんですか!?早く行きましょう!」


思考は呼びかける声に霧散した。

考えていても仕方がない。こちらには動くことしかできないのだ。

楓さんだって考えるだけ無駄だと笑っていた。

今はそう信じてただ走るしかない。

一瞬のうちに迷いを切り捨て身を翻す。

背後の兵士達は未だ炎の壁によりこちらに近づくこともままならないまま。

正面にいた人間たちは楓さんが風の魔術で散らしてくれている。


「……うん、そうだね。行こう」


走って走って、ついに私達は扉を潜り抜けた。









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