7-8
Side:Luna
目の前で穏やかに微笑むセイに、もう不安の影は見当たらなかった。
私は嫌われて軽蔑されても仕方のない事を言ったのに、それでも私を大切に想ってくれる彼。
シルヴァを殺せないままでいいと言うその真意は何なのだろうか。
問いただそうにもそれをしては私が認めたくない客観的な事実までついてきそうで、藪蛇を避けたい私にはどうすることも出来なかった。
いつもそう。セイは結局、一番大人だ。
普通なら受け止めきれないような事を簡単に受け止めてそのまま懐に入れる。
それに救われるけど、彼に負担をかけているようで私はほんの少し苦しかった。
私が一番その恩恵を受けてそれに甘えている癖に。
今回もきっと、彼は自分で彼なりの着地点を見つけてしまったんだろう。
だから今こんなに晴れやかに微笑んで、元の余裕を取り戻している。
でも私には彼の心が見えないから不安になる。
セイは私の答えに何を見て、何を思ったのだろうか。
「さて、それで話をもどそっか。
儀式が終わった後どうするか、だったよね?」
「………戻したくない。私は全然納得してないのに」
まるで子供が駄々をこねているよう。
私は私の心を見つけられず、すべてをセイに話せていないのに彼の言葉は求めるだなんて、我儘もいいところだ。
未だ抱擁の腕を解かず甘えるようにすりつけば漏らされる吐息。
呆れた?でも私をこうして甘やかしてくれるのは君だけだ。
「月ってばほんと悪女……」
「もう悪女でもいいよ。ねぇ、セイ、教えて」
「何を?」
「全部。でも私が気づきたくない事には気づかせないでよ」
「我儘」
「君にだけだ」
「………いつの間にこんな子になっちゃったんだかね、俺のオヒメサマは」
いつの間にだなんて、たぶん昔から私は狡かった。
そしてそれを助長させたのは紛れも無くセイと言える。
だって彼以外にこんなことをするなんて、この世界では有り得ない事だ。
「セイ」
「……俺は何があったって月が好きだよ。
それだけじゃ駄目?あんまり言いたくないんだけど」
「……どうして?」
「だって今までの俺、すごい余裕なくてカッコ悪いでしょ。
好きな相手にはできるだけカッコいいとこだけ見てて欲しいんだよ。複雑な男心なの」
「……」
私と同じくらい、セイだって狡い。
そんな風に言われて、困ったような声音を使われたらあまり強くは言えないじゃないか。
「君は、私の事を変わらず思っていてくれるの?
私はこんな、自分の意志さえ確かじゃない最低な人間なのに?」
「なに?自信無いの?……まるで昔みたいだね。
昔も月はそうやって何だかんだって理由をつけようとしてた」
彼の言う昔というのは、セイに全てを明かしたあの夜のことだろう。
でも今はあの夜と同じ様で何もかもが違う。
私の心、セイの心、シルヴァの存在。
私にとってはもうあの夜が遠いところにあって、でもセイにとっては違うのだろうか。
「だって本当のことだ」
「そうでもないよ。自分の心が分からないのは誰だって一緒だし、月の場合は余計ね。
色んな事がありすぎたせいでぐちゃぐちゃになっちゃってる。
でもいつかそれだってすっきりするはずでしょ?
俺が同じように何もかもから目をそらしてた時、月は黙って見守ってくれてた。
だから今度は俺が同じようにしたいんだよ」
「……私は君に嫌われたくない。
でもそれを言い訳にして、たくさんの秘密を抱えている」
情報屋に会うこと、彼女を殺すこと、“聖国”の城へと式神を差し向けたこと、シルヴァへの感情。
数え始めればきりがない程。
「嘘が言えない身体じゃ、そうするしかないもんね。
それも気にしないよ。さっきは怒ったけど、もう大丈夫。
月が臆病な事忘れてたのと、月の隠し事を見抜けなかった俺にも責任があるし」
「君は、どうしてそんなに……」
「うん?」
小首を傾げたセイに首を振ることで何でもないと伝える。
何でもないんだ。ただ君の優しさにどうやって報いればいいのか、分からなかっただけで。
「セイ、お願いだから、全部を納得して、受け止めないで…
嫌なら嫌だって言って。無理をして、私ばかり優先させるのは、嫌だよ」
「……分かってるよ。俺達は持ちつ持たれつでしょ?
それより、月の不安なことはさっきので終わりなのかな?
俺としては貴女の不安材料はなるべく消しておきたいし、弱い貴女を見るのが好きだからもっと言ってくれていいんだけど」
またそうやって私を甘やかす。
「ううん、もう大丈夫」
「そう?……月こそ、何かあったらちゃんと言ってね。
俺が揺さぶらないとなかなか弱音を吐いてくれないから、俺はそういうとこも心配だよ」
声からあたたかな感情が伝わってくるようだ。
声には温度があると言うけれど、セイのそれはまさしく私を包み込むようなあたたかさを持っていると思う。
それに勇気づけられるようで、どうにかそれらしい笑みを浮かべることが出来た。
まだぎこちないから、腕を解いてセイに見せることはできないけれど。
「寂しいって言ったら、すぐ来てくれる?」
「勿論。月がそう言わなくても、俺が寂しかったら会いに行くよ。
それに儀式が終わっても“聖国”に留まるって言うなら無理矢理にでもついて行く。
強制的に城に戻らされたって、今の俺には月の所にとんでく手段があるんだからね?」
得意げにセイは言うけれど、その手段を用意したのは私だ。
この国に来る前、“王国”の城でセイの式神を造った時に一緒に渡した魔導結石。
それに込めた魔術により彼は三回だけ私のもとに転移することが出来る。
回数の制限は魔導結石に込められる魔力量の限界によるものだから、魔力がなくなっても私が補充すれば半永久的に使用することも可能だろう。
この国で不測の事態が起こった時の為に作ったものだけど、今考えると早計だっただろうか。
「………取り上げてしまいたいよ」
「だーめ。ね、ついでに俺から念話できるようなやつも欲しいな。
もしも離れ離れになっちゃったら大変でしょ?
俺は念話使えないし、月からかけるんじゃそっちは声に出して会話しないといけないよね?
それ、声を出せないような状況になったら絶対困ると思うんだよね」
「君は………とんでもない強請り上手だ」
そして流石は内政チートと言うべきか。
この場合チートは関係なくて、ただセイのためになることは全てしておきたいと思う私に問題があるのだろうけど。
「セイ、君にあげたピンはある?」
「勿論。肌身離さず持ってるよ」
「そういうのはいいから……ほら、これでいいよ」
剣の収納、害をなす物質の排除と魔術防御の効果をつけてあるヘアピンに追加して念話の機能をつける。
他はともかく念話程度なら私から直接魔力供給を行ってもいいだろう。
その他は残念ながら使用する容量が大きすぎるためピンが砕ける結果になってしまうが、念話だけなら大丈夫なはずだ。
「君が望めばいつでも私に繋がるようにしてあるから」
「ありがとう月。これでしばらくは安心だよ」
「酷いな……私はそんなに信用ならない?」
ようやく心も落ち着いてきた。
少し腕をゆるめて至近距離でセイを見つめれば、彼は困ったような笑みを浮かべた。
「そういうわけじゃないけど………心配なんだよ。
神喰らいや召喚のこととなると月は何もかも気にしないで突っ走るから。
俺はそれに置いていかれないように必死なの」
「それは……」
確かにその自覚はあるから反論は口に出せない。
でも他に目を向けていられない程私にとって忌まわしいものだから、それを直そうとは思えないのだ。
「うん、それでもいいんだよ。
俺が置いていかれたくなくて必死になってるだけだから。
月のことなんだから、これは俺がとやかく言う資格はないと思ってる。
ただ月が俺の所に戻って来てくれるって約束してくれればそれでいいから」
「……君は、本当に私をどこまでも甘やかす」
だから私はこうして好き勝手やって君を悲しませたり、不安にさせたりしてしまうのに。
「……シルヴァの儀式が終わったら、一先ず“聖国”を出ようと思ってる」
「それは月が?それとも月を完全に写した式神が?」
「……私が、だ」
本当に、セイは抜け目ない。
私が式神と入れ替わってこの国に留まる可能性を忘れていないのだから。
「どのみちシルヴァに全てを伝える気はないから、いつまでも彼を連れてこの国にいたいとは思わない。
これからシルヴァは解放された潜在能力の扱いに困ることになるだろう。
得た力をすぐに使いこなせるほど彼は器用ではないし、この儀式でもたらされる力も小さなものではないから」
「じゃあしばらくはシルヴァ君の修行に専念するつもり?」
「……いや、“聖国”のことも同時進行で進めていくつもりだ」
完全に抱擁を解き、甘えるように上半身をセイにもたれてそう言えば彼の体が硬くなる。
あぁ、できるだけ何でもない口調で言ってみたのにあまり意味はないらしい。
肩を抱く力が強まり、気をそらすように髪が梳かれた。
「同時進行って言うのは式神を使って?」
「うん。それと間隔を空けながら自分でも」
「シルヴァ君の目を盗んで?」
「不可能じゃない。君だって分かるだろう?」
シルヴァを単独の依頼に向かわせている時でもいいし、魔術で眠らせたっていい。
それこそ数多ある手段に予想がついているのかセイもそれについての言及はしてこなかった。
「俺にはちゃんと言ってくれるんだよね?」
「……二重生活は大変だよ。
日の出ている間は政務をして、夜は他国に入り込むなんて。
身体を壊してしまったらどうするの?」
「月に看病してもらうから大丈夫」
またそんな事を言って。
咎めるつもりで顔を上げれば、私より余程そんな顔をしたセイがいた。
――どうやら咎められるべきは彼ではなく私のようだ。
「本気だから。絶対月を一人でこの国にやらないからね」
「………わかったよ、ちゃんと言う」
「約束だよ。破らないよね?」
「うん」
「“月は俺に黙ってこの国に出入りをしない。
俺に告げたとして俺がその意図をしっかりと把握できる状態じゃないと駄目だ。”
……ほら月、分かったって言って」
「………君がこんな形で私の身体を利用するだなんて」
冗談のつもりで皮肉ればセイの顔が歪んだ。
あぁ、別に怒ったり嫌がっている訳ではないのに。
私の身体は嘘が吐けない。
それはこういった約束事でも有効だ。
決まり事をつくってそれに私が頷く、それを後々破ることがあればその程度によってペナルティが課せられる。
だから私は約束を極力守らなければならないし、できない約束は避けなければいけない。
今のセイの言葉は、約束のより強固な補完だ。
セイに“聖国”への入国を告げてから行動を起こす、それだけでは抜け道がある。
要はセイに言いさえすればいいのだから、意識して会話を運べば彼にはそうとは思わせずにその事実を伝えることは可能だ。
けれどセイは意図をしっかり把握できるような言い方をすることを条件として新たに取り入れることでそれを阻んだ。
結果的に私がこの国へ出入りしようとするときには彼に分かるよう告げなければならず、この件で彼を誤魔化すことはほぼ不可能になったと言える。
「ごめんね、酷いことして」
「まったくだ。お詫びに優しくしてよ」
「……うん。じゃあこの後シルヴァ君が戻って来たらすぐに“王国”に?」
「そうだね。ただ“聖国”内での転移は平気だけれど、この国から他国への転移は結界に引っかかる。
一度国境付近まで転移して歩いて国境を越えて、その後“王国”に転移することになるだろう」
もしもこの国の人間に密入国がバレでもしたら面倒だ。
その程度で私の存在が明るみになるとも思わないけれど念には念を入れる必要があるだろう。
「わかった。もう城に飛ばしてる式神は置いていくの?」
「そのつもりだよ。彼女には定期的に念話をして、報告を受けるつもりだ」
ただ気になるのが、城へやってから数時間おきにあった報告が滞っていること。
勿論あちらから念話をかけるには声をだせる場所を確保しなければならないのだからなかなか難しいのだろうが、それにしても時間を空けすぎだ。
――国を出る前に、一度こちらから連絡を入れてみるべきか。
私の思考は式神にも流れているはずだから、この考えも無事伝わっているだろう。
それにこちらからなら式神は声を出すことなく会話ができる。
もし今もどこかに潜入している最中であったとして、大きな問題にはならないはずだ。
「ね、シルヴァ君はさ、俺みたいに月と式神の区別つくかな?」
「……考えたくもないことを言うの、やめてくれる?」
式神といいセイといい、どうしてそんなことを考え付いて、あまつさえ口に出すのか。
一気に気持ちが憂鬱になって体の力を抜けば上から押し殺した笑い声が降ってくる。
さっきまで余裕なかったくせに、一体何がどうしていつもの余裕を取り戻したんだか。
「ごめんね。でも俺としてはすごく興味ある事なんだよ。
それに式神との区別がついて困るのは月だよ?」
「それは……そう、だけど」
確かに式神でシルヴァを誤魔化すことが出来なければ、少なくとも日中や日をまたいだ行動に支障が出る。
でもだからって………式神のことを私じゃないって、シルヴァが分かっても分からなくても複雑だ。
「ね、今少しだけ試してみない?」
「……試す?」
悪戯っぽく告げられた言葉に首を傾げる。
試すとは、一体どういうことだろう。
「月の外見を完璧に模した式神をここにおいて、月は隠れる。
で、儀式を終わらせて帰ってくるシルヴァ君が式神だって分かるかどうか試してみるんだよ」
「えぇー」
何と言うか……頑張って儀式を終えた相手に対してその対応は、どうなのだろうか。
そう思ったことが表情からも声音からも伝わったんだろう、セイがむ、と眉を寄せる。
「昔俺が政務を頑張って健気に待ってるところに本人だって偽って式神をよこしたのはどこの誰だっけ?」
「うっ…………」
それを言われると弱い。
でも別に嘘を吐こうと思った訳じゃなくて、私なりに良かれと思ってのことだったのだ。
「ね?いいでしょ?」
「………わかったよ。
それじゃあ式神にここにいてもらう間、ついでだから城に飛ばした方の式神と念話をしてこよう。
別に私一人が突っ走るわけじゃない現状報告だし、いいだろう?」
既にセイの要求はほぼすべて呑んでいる。
そろそろ私のそれも承諾されて然るべきだ。
彼の方も何となく申し訳なさに近いものを感じていたんだろう、少し悩んだ後に仕方がないと頷かれる。
さて、なら彼の言う通り私の外見を写した式神を造ろうか。
「こんなものか」
『外見、匂い、気配、思考。全部月と同じだ』
セイに抱かれる私を立って見つめる私(の姿をした式神)。
どうにも微妙な気分だ。
そう思っているのは彼女も同じなのか、どこを見ていいものかと視線をうろつかせている。
唯一セイだけは平常通り、いや、それよりも上機嫌で笑っているが。
「うん、完璧。なかなか月に近くていいと思うよ。
まあ式神には悪いけど、やっぱり月と比べたら見劣りするけどね」
『まったく悪いと思っている感じが出ていないのだけど。
君は月には甘いのに、式神には酷いことばかり言うよね』
「だって俺が好きなのは月だもん。
式神で同じ考え方とかを持っていても結局はただの紙切れで、月じゃないじゃん」
……なんだこの、恥ずかしいの。
式神も嬉しいんだか悲しいんだか分からない微妙な顔をしている。
「………そもそも、どうして君は私と式神の区別がつくの?
絶対私の魔術は完璧なはずなのに、どうも納得がいかない」
「そりゃ愛の力でしょ」
「………」
「あ、胡散臭いって思ってる」
そりゃそうだろう。
言うに事欠いて愛の力って。
「いや、本当だって。何か違うなって思うんだよ。
……それに月だって俺と俺の式神の区別つくでしょ?」
「それは……確かに」
その言葉は真実だった。
自分で造って完璧だと思うのに、実際に目に映すとどうにも違うと感じてしまう。
セイはこれでいいと言ったから造りなおすことはしなかったが、私としては全然納得がいっていなかった。
「そういう感じで、なんか違うなって分かるの。
ね、月も上手く説明できないんだからやっぱり愛の力なんだって」
「……そう、なのかな」
反論することも出来ず渋々頷けば額に口づけが降ってくる。
それと同時に身体をやわく拘束していた手もなくなった。
「はい、それじゃあいっておいで。
俺は式神ちゃんとシルヴァ君待ってるから。
あ、出てくるのは俺が大丈夫だよって念話で伝えてからね。
それまで絶対出てきちゃ駄目だから、念話終わっても待機してること」
「セイ、君もしかして自分から念話したかっただけなんじゃ」
「そんなことありません。
シルヴァ君の実力を試そうと思ってるんです」
胡散臭い。大体何だ、実力って。
問えばまだ内緒、という返事と共に頬にもキスが与えられた。
絶対にこれは誤魔化そうとしている。……まあ、いいけれど。
「それじゃあ念話してくるよ……」
立ち上がった私に対して同じく立ち上がり向き合ったセイはうん、と頷いて少し体を屈めた。
すっかり式神は空気になっている。
あぁ、自分に置き換えてみると何とも切なくなる情景だ。
そんな事を思う私にセイは耳元でひとつ、吐息のように微かに囁く。
「いってらっしゃい、月」
懐かしい言葉だった。
最近では彼から向けられる機会がなかったそれ。
五年という長い年月彼に会わなかったこと、そしてここ最近の邂逅が慌ただしく、同時にシルヴァの存在により常にはないものとなっていたことがその原因だろうか。
―――なんとも、懐かしく愛おしい響きだ。
「……いってくる」
いつかの頃の様にその体を抱きしめる。
いいや、もう抱きつくと言った方が正しい形になってしまった。
それはセイの成長した身体と私の変わらない身体の違いをまざまざと私に突きつけてくるけれど、だとして嫌なものではない。
この差異が別れの足音であっても、それでも愛おしむべき変化だ。
「………貴女にいってらっしゃいって言える関係でよかった」
「可笑しな事を言うね、君は」
他にこんな言葉、誰が言ってくれると言うのだろう。
苦笑すればセイも目元を柔らかくして、そのまま顔が近づく。
一度触れるだけの口づけを交わして離れればそれだけで温もりにつつまれた気がした。
「それじゃあシルヴァの出迎えを頼むよ」
「任せて」
『まあ、そのための私だしね…』
イイ笑顔で頷いたセイと微妙な表情で答えた式神にこちらも微妙な顔で頷き返す。
そのまま足早に祠を去り、シルヴァにバレないように外で周囲に結界を張って念話しなければ。
気持ちを入れ替えないと。このあたたかさは愛おしいけれど、こんな状態でこの国を相手取ることは出来ないから。
……でも同時に、これが私を留めれくれる楔だ。
早くこの国を離れてしまいたい。
いっそのことすべて破壊できたら、全部が簡単に済むのに。
でもそれをしたらきっと皆悲しむ。
さっき穏やかに微笑んだセイだって、悲しげに漆黒の瞳を曇らせるんだろう。
それにこの国に同胞の生まれ変わりがいないとも限らないのだから、そうして力で解決する道は選べなかった。
どうかこのまま、何も起こりませんように。
この世界の神に祈る気はさらさらないけれど、どうか。
私が大切な人を悲しませる結果にならないことだけを、ただ。




