6-11*
Side:Silva
何だか、ルナの様子がおかしい気がする。
昨日――そう、昨日俺が戻って来て眠ってしまって、それで起きてから、何だか。
とても寂しそうにしている気がするのだ。
それに不安定で、なんだか崩れてしまいそう。
こんなことをルナに対して感じるのはおかしいと思うけど。
だってルナはいつだって強くて、弱いのは俺ばかりで。
だからそう感じるのは気のせいなはずなのに、どうしても俺は気になった。
昔をなぞるようにされた質問。
とても簡単で、逆にこちらが戸惑ってしまうような問いかけ。
簡単に紐解かれる思い。
何より、金と銀、どちらかではなくどちらもという答え。
ルナは、きっと俺なんかよりもセイルートの方が大事。
それは今まで一緒にいる中で(セイルートの存在を知ったのは最近だけど)分かり切っていたことだった。
セイルートはルナの中で特別。
だからルナは俺が贈ったリボンとセイルートからのそれを差し出されたら、やっぱり金色を選ぶと思っていた。
なのに、彼女はどちらも、と言った。
信じられなくて聞き返した俺に、ルナは冗談っぽくそれなら金にすると言ったけれど、その時伏せられた瞳には深い―――こんなことを感じるのはやっぱりおかしいかもしれないけど、悔恨か罪悪感が湛えられているようで。
そしてそれが俺が見た夢の内容と重なって――でもそれを聞いたら駄目な気がして、結局俺はルナに核心的な事は何も言えなかった。
「考え事なんて余裕だね、シルヴァ君?」
脳裏に浮かぶ彼女と同様に目を伏せれば、思考を振り払うように目の前を刃が掠る。
本気で傷つけるつもりはなく、注意をそちらに向けさせるためのものだったのだろう。
目蓋をあげその姿をきちんと瞳に映せば、セイルートは笑みを深くした。
「考え事、ルナとのことかな?
今日、っていうか昨日の午後あたりから、なんか変だもんね」
笑みはそのままに瞳の色だけを凶暴に深めた彼はそのまま有り得ない速度で目の前に迫り、そして次の瞬間腹部に感じる圧力。
そのままかなりの距離まで吹き飛ばされるのをルナの結界が阻んだ。
「……げほっ」
「ごめん、力入っちゃった。俺、これでも少し焦ってるんだ。
こう見えてルナの事すごく心配してるんだよ。
だから昨日のうちに何があったのかなって、君に教えて欲しいんだよね」
そのための勝負の申し入れだったのだろう。
でも彼女の力の及ぶ結界内での会話なんて、ルナには丸聞こえなのに。
俺のそんな疑念も目の前の男は分かっているらしくへらりと笑う。
「ルナはたぶん盗み聞きしないと思うよ。
だってなんか確信してるみたいだったもん。
君から俺は何の情報も得られないって。
まあそこがまた俺としては引っかかるとこなんだけどね」
「…………」
「あれ?地味にショック受けてる?」
「別に……俺がルナの事を分からないのは、分かってた事」
確かに悲しくはあるけど、それをセイルートに知られるなんてそれこそ死んでも御免だ。
それに確かに分かっていることでもあるから。
ルナは俺が望んだ通りに少しずつ、彼女なりに俺や彼女自身、そして状況を推し量りながら本当を見せてくれているけれど、それでもきっとまだセイルートの知るそれには遠く及ばないと。
けれどセイルートは何の嫌がらせなのか不思議そうに首を傾げてみせた。
「うーん?そんな事ないと思うけど」
「死ね」
「うわっ、酷!」
何だそれは。勝者の余裕か何かか。
苛ついて言葉と共に魔術を放った俺のこと、きっと誰も責めないと思う。
その攻撃を危なげなく避けたり剣で斬り捨てたセイルートはもう一度首を傾げつつ再び間合いを詰めてくる。
「たぶん君はルナの事分かってきてるよ。
だからルナはあんな風に変なんでしょ」
「……」
新手の揺さぶりか何かだろうか。
そう思ったことは相手に伝わったらしい。
ギリギリと刃と刃がせめぎ合う中、セイルートは心外だとばかりに息を吐いた。
「あのさあ、俺を何だと思ってんの。
あの頃の素直な君はどこ行ったのさ。
あーぁ、こんなスれちゃって可愛くないったら。
やっぱあれなの?闇ギルドの人達とかちょっとイッちゃったランクSSとかの影響なわけ?」
まあそれくらいの方が俺もやりやすいけどさぁ。
そうぶつくさ言う奴の背後に風の刃を向ける。
どこから取り出したのか(きっとルナの空間魔術だ。ムカつく)もう一本の剣で危なげなく処理され、更に気に喰わない思いは募った。
「闇ギルドのことまで知ってる……」
「ルナが俺に秘密にすることなんてあるわけないでしょ。
俺はルナの全部を知ってるんですー」
「死ね」
「だから酷くない?
で?本部での会話はどんなだったわけ?
オニーサンに話してみなよ。お子ちゃまの君よりは冷静に判断してあげるからさ」
別に、セイルート何かに話さなくてもルナが考えている。
大体ルナから秘密にされることはないなどと言うなら彼女から聞けばいいのだ。
……そりゃ、二人だけで話すなんて、それこそ気に入らないどころの話ではないけれど。
「ルナからは聞かないよ。あんまり今のルナの事を揺さぶりたくないんだ。
話すとして、君から話を聞いて俺なりにそれを組み立てて粗方の予想を立ててから。
あんまりルナの事傷つけたり、泣かせたくないし。
泣かせたり揺さぶったりは計画的にやりたい派なんだ。
他の人間にルナのそういうとこ見せたくないし、俺が彼女の事壊したくないし」
「泣かせて、壊す……ルナを?」
ルナとそんな姿がどうにも結びつかなくて、つい鸚鵡返しに呟いた言葉はセイルートを呆れさせた様だった。
「何、ルナだって泣くこともあるよ。
ルナはあぁ見えて傷つきやすいんだから。
だから俺は近くにいる君に対して脅したり威嚇したり忠告したりしてんじゃん」
「でも……ルナは強いから」
「まあ実力的にはそうだろうけどさ……」
ため息を吐いたセイルートはけれど次の瞬間一転して自慢げな表情を浮かべた。嫌な予感。
「まあ君には分かんないか。
ルナの泣き顔とか、見れるの俺だけだもんね」
やっぱり。自慢話。
セイルートは俺よりも長い付き合いだし、それにルナはこの男相手に心を許しているみたいだから確かに涙のひとつくらい見せたことはあるかもしれない。
それは頭では理解している。理解はしているけど、心は全然納得できない。
「…………俺だって、見たことくらいある」
だから悔し紛れにそう言った。
――そして直後、ものすごい力で地面に押し付けられた。
ダンッ、と遠慮なしに腹に足を落とされて冗談じゃなく一瞬息が止まった。
………でも、どうしてか誰かのこういう動き、見たことがある気がする。
俺がこういう風に全く敵わない相手なんて、昔はともかく今はそこまでいないはずなのに。
「――何て言った?」
でもそんな既視感を追いかける時間は無かった。
へらへらと終始浮かべていた筈の胡散臭い笑顔はどこかに追いやられ、それこそ獰猛な怒りと殺意をまき散らしたセイルートがこちらを見下ろしているから。
「何。泣いてるとこ見たって?いつ?どうして?」
「ぐっ……重、い!」
「いいから答えろよ」
冗談じゃなく答えなければ殺される気がする。
だから気は進まなかったしそれこそ情けなかったけれど、しぶしぶそちらを見ないように重い口を開く。
―――本当はこんな余裕なんてとうになくて、今にも襲い掛かる威圧感に身体が強張りそうだったけれど。
「………………夢の、中」
「……………………は?」
だから、嫌だったんだ。
セイルートにとっても予想外の答えだったんだろう。
力が抜けた足に向かって勢いよく刃を突き刺そうとして―――それにも、既視感。
勿論それは避けられたけど、一応体は自由になった。
「何それ、夢って。はぁー?
一瞬本気になっちゃった俺が逆に恥ずかしいだろほんとウザイ最悪」
「うざ……?」
「別に意味は知らなくていいっつーの。
てかほんと夢って何だよ死ねよクソ犬」
「……そこまでセイルートに言われる筋合いはない。
それに俺だってどうしてあんな夢見たのか分からないし……
おかげで昨日は少し俺も変になった。勿論、ルナも何だか変だったけど」
でもそれは俺が変だったのもあるんじゃないだろうかとか、色々こっちだって考えているのだ。
それに対してこんなに不機嫌になられて訳の分からない(分からないなりに何となく悪い意味だろうことは分かる)暴言を吐かれて、こっちだって嫌になる。
苛立ち紛れに小さく威力の低い魔術を雨の様に降らせてやった。
「うわ、これもウザっ!
……てか、その夢って昨日の朝見たの?
別に朝食の時はシルヴァ君変じゃなかったじゃん。
君みたいな実力不足のガキはそういうの隠せないでしょ」
………本当に、この男は俺を苛々させる天才だ。
ルナは俺の事を喜ばせて突き落すのが上手いけど、でもそれよりよっぽどこっちの方が性質が悪い。
まあルナになら突き落されてもいいけど……別に俺に被虐願望があるわけでは決してないが。
「五月蠅い。黙れ。胡散臭い顔ばっかりのお前に言われたくない。
確かに夢を見たのは昼寝の後だけど、だからって別に朝に見ていても…」
「昼寝?シルヴァ君昼寝したの?」
「……した。したと言うか、してた」
人の話をぶった切って自分の問いを通すなんて行儀がなってない。
しかも俺のことをきっと馬鹿にしてる。
互いに剣で打ち合いながら進む会話に終わりは見えそうにない。
セイルートは本当に俺から色々聞き出そうとしているらしい。
恐らく話が終わるまで勝敗を決さないつもりなのだろう。
……つまり今も俺の実力はなめられていて、本気ではないということだ。
「もしかして帰ってきてルナと話してて、気づいたら寝ちゃってた?」
「そうだけど、お前に馬鹿にされる筋合いはっ……?」
ぎろりと睨んだ先でセイルートが予想と違い何か考え込むような顔をしていたから、思わず俺は言葉を止め眉を寄せた。
「気づいたら寝てて、じゃあその前とか、何話したか覚えてる?」
「何を……?それは、やっぱり、本部でのこととか」
「……なるほどね。あー、そういう事か。
そりゃルナも止めないよね、俺の事」
戸惑いが大きくなっていく俺とは反対に、セイルートはどんどん頭の中で自分の推理を固めていっているようだった。
俺は困惑で剣先が鈍るのに、相手は逆にどんどん力を込めてくる。
まさかこれで終わりにするつもりだろうか。
「んで?総代とはどういう話したのさ?」
「………」
「教えてくれたら仕方ないから今夜はルナと二人で食事とっていいよ」
「明日の朝も」
「………今夜部屋に食事を運ばせて、使用人は極力出入りさせない」
「明日の朝」
「………………わかったよ!」
セイルートの提案に心惹かれ思わず頷きそうになったけれど、ぐっと堪えた。
自分で自分を褒めてやりたい。
総代との話を目の前で顔をひきつらせている男に話すのはまるで俺がこいつに相談しているみたいで嫌だけど、交換条件の内容は魅力的だし第三者の考えを聞くのは無駄ではないだろう。
セイルートが自分の考えを俺に話すかは分からないけど、少なくともルナには話すはずだし。
ギルドから問題視されているのは俺じゃなくてルナだから、最悪ルナが色々知っていてくれれば問題はない。
「ふーん。つまり総代は君と話したかったってことか」
話を聞かせた後にセイルートが言ったことは、悔しいことにルナの予想と全く同じものだった。
………気に入らない。何で同じことを考え付くんだ。
「その顔から言ってルナも同じような事言ってた?」
「……でも、ルナはそこまで確定的なことは言ってない」
首を狙ってくる剣先を一歩下がって避け言い返す。
ルナは自分の出した結論にセイルート程確信を持っていないみたいだった。
だと言うのにどうしてこの男はここまではっきりと言い切るのだろう。
それに色々と聞けてすっきりしたからなのか剣に遠慮がなくなってきているし。
「んー?あれ、おかしいな、結構単純な事のはず……いや、違うか。
………ルナは確かに確信できないかもしれないね。
たぶん気づきたくないんだろうな、やっぱり。
そう考えると君にあらかじめ話を聞いといてほんとよかったかも」
「………?」
「君にはまだ分かんない事情。
……でも、やっぱり君、ルナのこと分かってきてるよ」
ふと今までとはうって変わって切ない笑みを浮かべたセイルートに一瞬ルナが重なった。
そういうルナの表情を、見たことがある気がする。
現実でも、昨日見た夢でも。
「そうじゃなきゃたぶん、ルナは何もしなかったはずだから」
「何を、言ってる?ルナは俺に何も……」
「うん、君の記憶ではそうだろうね」
「記憶……?」
ますます訳が分からない。
セイルートは浮かべていた笑顔を消して、晴れやかなそれを浮かべるけれど。
「分かんなくていいよ。
でもまあ、ムカつくけどもうちょっと自信持っても許してあげる。
君も少しくらいはルナの本当に近づいてるってね。
さて、それじゃあ最後に君が言ってた夢の事聞こっかな。
ルナが泣いてる夢って、具体的にどんな?」
「なんでそんなことまで言わないといけない」
俺はまだ何ひとつ分かっていないのに。
自分だけ納得して俺には決定的なことを何ひとつ語らず、ヒントだけを零して。
これが大人特有の狡さというやつか。今日はもう散々だ。
せっかくルナと落ち着いた休日が過ごせたのに、午後にこんな風に根掘り葉掘り色々聞き出されるようになるなんて。
脚に力をいれて肉薄しそのまま正面は剣、両脇と背後を魔術で攻める。
「おっとっと、危ないなぁ」
どんな筋力をしているんだと言いたくなるような高い跳躍でかわされたけど。
着地を狙ってもう一度剣を振るえば再び鍔迫り合いが始まった。
「夢は俺だけのもの。話す必要を感じない」
午後あったことで良かったのはルナを見た時のセイルートの反応くらいだろうか。
ルナを目に映した瞬間そのルナに好かれる忌々しい漆黒の瞳を見開いて、じっと上から下まで(ルナの髪はとっても長いから)彼女を見つめて。
褒めたいのにそれをやったのが俺だって確信できるから褒めたくない。
そんな思いを表すように口を開いたり閉じたりする様は傑作だった。
十数分もかけて良かったと思う。以前映像の魔術で俺が髪を結った彼女の姿をセイルートに見せてはいるけれど、やっぱりあの程度だと足りない気がしたから。
ああいうすぐに仕上がる比較的簡単なものはたぶんセイルートも練習すれば出来てしまう。
だからよりダメージを与えるにはそれこそ貴族でも位の高い、無駄に金のある女が望むような複雑で美しいものを俺がやって、魔術ではなく実際に見せるべきなのだ。
あれくらい複雑なものなら一朝一夕ではできないし、そもそも本職の人間くらいじゃないと無理だ。
俺が結って巻いた髪を靡かせながら廊下を歩くルナの事を男も女も振り返って、この髪型がどれだけルナの可愛らしさと綺麗さを引き立てるか、それが一番わかりやすく俺に教えてくれる。
その度に鼻が高いような、逆に見るなと言いたくなるような気持ちだったし。
そして極めつけにセイルートの愕然とした表情。
手紙で書いたそのままの言葉をルナに聞こえないように囁いた時は本当にすっきりした。
それにジークからセイルートがヘアスタイリストを城に呼んだという情報を前に貰っていたから、ついでに猿真似はみっともないとも言ってやった。
本当に良いザマだ。ルナにばれたら呆れられそうだから内緒だけど。
「い、い、か、ら!!あーもう苛々する!
シルヴァ君って俺を苛つかせる天才だよね!!」
「それ、俺も思った。真似するな」
「真似してないっつの!それに絶対俺の方がそう思ったの早かったし!」
「俺の方が早い。お前の存在を知った時から思ってた」
オルド支部のヒルルクの部屋でセイルートの話を聞いたときのことを思い出すだけで今でも不快な気持ちが湧き上がる。
知らず舌打ちまでしていた俺に向こうも至近距離で嫌そうに顔をしかめた。
「ふん、それでいったら俺もだし。
大体そっちが俺の事知ったのってどうせあの依頼の時だろ?
俺なんかルナが君を弟子にとった時から君の事聞いてて苛々してたもんね」
「もんと言うな。可愛くもなんともない。悪寒がする」
「こんの、クソ犬……!」
「俺は狼。そんな事も分からないなんて残念な頭」
「君よりかはマシだっつーの。俺がどんだけ策略と謀略得意か知らないんだ?
まあそうだよね、総代の真意とかそういうの全く分かんないお子ちゃまだもんね?」
「要は裏でやる姑息な手段が得意という事だろう。
一体どうしてそんなことを自慢げに話せるのか理解できない」
「まっすぐ突進して捻りも利かないような純真と言えば聞こえがいい子供に言われたくないな」
「曲がりくねった性根の大人になるならこれでいい」
「応用が利くって言うんだよ。語彙が貧弱だね」
「応用?ハッ!笑える。応用が利く奴がやるのが真似事なんて、初耳」
「ちょっとくらい手先が器用だからって何自慢げにしてんだよ」
「そのちょっとくらいに敵わない奴がよく言う」
「俺はオールマイティーにいろんなことが出来るんだよ、一芸にしか能力を発揮できない君と違って」
「器用貧乏と比べられたくない」
「………チッ」
「………チッ」
舌打ちも同時だった。癇に障る。
「大体、」
「そもそも、」
「………君達は何をしているんだ」
まだまだ続きそうだった嫌味の応酬は間近で響いた声に力を失った。
剣を合わせたままぎこちなくお互いに横を見る。
やはりと言うか何と言うか、腕を組んで呆れた表情を浮かべながら立つルナがそこにいた。
「鍔迫り合いの状態のまま口以外全く動いていなくて何を話しているのかと耳を傾けてみたら……君達さ、一体何してるの」
「………いや、それは、その」
「…………セ、セイルートが、たくさん俺の悪口を言うから、俺も、悔しくて」
「は!?」
「悪口?セイが?」
合わせていた刃を一方的に引き鞘におさめてルナの傍に駆け寄る。
訝しげに眉を寄せた彼女は俺とセイルートを交互に見て、俺の言葉を測りかねているようだ。
「今日のルナの髪は俺がやった。
それで、セイルートはそんなことできないから、俺の事それしか取り柄がないって」
「ちょ、このクソ犬!!」
かかった。傍にいるルナが眉をあげるのが視界に映って、俺は勝利を確信した。
「セイ。いくらなんでもそんな言い方はどうなの?
それにシルヴァは犬じゃなくて狼の獣人だって知っているじゃないか。
分かっていてそれをそんな風に言うのは失礼だよ」
「いや、違うからね!?そいつも同罪だから!!」
「もうどっちでもいいよ。
ともかく今日の勝負はこれで終わり。
こっちの見る気までなくなってしまった」
肩を竦めたルナはあまりセイルートの話を聞く気はないようだ。
ざまあみろ、ともう一度言ってやりたいけど、この距離だとルナに聞こえてしまうから我慢する。
ただ顔だけは存分にそういう感情を出してやった。
悔しそうな顔をするセイルートに背を向けて、先に歩き出したルナを追う。
その背中はまっすぐ伸びて揺らぐことなく、確かにその体は華奢なものだけど弱さとは無縁の、とても強いものだ。
セイルートの語る涙や弱さとその背は結びつかず、そしてそれは俺自身が見た夢も同様だ。
だからやっぱりあんな夢を見たのは気のせいと言うか、偶然なんだろうけど、でもどうしてか夢の中の光景が脳裏に焼き付いて離れない。
セイルートに言わなかった夢の内容は、誰にも内緒にしたかった。
それくらい切なくて悲しい、そして同じくらいに美しい夢だったから。
『シルヴァ、ごめんね』
切なくて透明な微笑みを浮かべた彼女は夢の中でそう言っていた。
紫の瞳には今にも溢れそうなくらいたくさんの涙が湛えられていて。
『私は君が嫌いだ。君は私に近づいてる。
君がいつか私の全部の本当を知ってしまいそうで、怖いよ』
遠くて近い、そんなよくわからないところにいるルナに俺は手を伸ばすことも出来ず。
ルナは悲しんでいて、泣いていて、それだけは絶対に忘れたらいけないんだって、ただ強く思った。
『君に、私は私に許されるだけ、やさしくしたいな……』
そう言ったルナは目を閉じて、一度だけ俺の目の前で涙を流したのだ。
「……ルナは、俺にいつだって優しい。だから、泣かないで」
「え?シルヴァ、何か言った?」
小さく呟いた言葉は彼女の耳に届いてしまったらしい。
不思議そうにこっちを振り向いて首を傾げる彼女には首を振っておく。
きっと気のせいだから。
でもやっぱりどうしてか、泣くルナの姿は忘れたらいけないって、その思いは変わらなかった。
活動報告に小話を追加しました。
興味のある方は覗いてみて下さい。




