6-6
Side:Luna
扉をノックする前に一拍置いて脳内整理。
――よし、知らないふり知らないふり。
「お待たせシルヴァ」
扉を開いて室内に入った瞬間、思い詰めた顔の弟子と目が合ってどうやら知らないふりは無理そうだとすぐに思いはしたけれど。
「………おや、どうしたんだい?
何だかこの世の終わりみたいな顔をしているよ」
ともかく微笑みを持続したまま、椅子に力なく座り込む彼のもとへ。
傍に立って顔を覗き込めば迷うように薄墨の瞳が揺れた。
「ルナ………」
先程あったばかりの事を話すかどうかという躊躇。
自分はどうすべきなのかという混乱。
それらが複雑に入り交じった声だった。
こうなると困ってしまう。
既に私は事実を知っていることを言った方がいいのか。
けれどそれを言えばシルヴァは私に答えを求めるだろう。
それに対して私が何か意見を言えば彼はそれに従うはず。
それでは彼という個が潰れてしまう。
「……そんな顔をするものじゃないよ」
けれど結局のところ私に正解などわかるはずもないのだから、こうして誤魔化してしまう。
知っていることを言うのも知らないふりをするのもせずに、ただ弟子の心配をする。
我ながらタチの悪い大人だ。
シルヴァはそんな私の触れる手に自身のそれを重ね、縋るように頬をすりよせてきたけれど。
「ルナ……………俺は、ルナの弟子」
「うん?どうしたんだい、いきなり」
「だから、ルナのことを裏切りたくない」
「…………」
シルヴァは先程の念話の内容を語ろうとしているのだろうか。
黙り込む私に構わず彼は口を動かし続けるのだから、思考を纏めるのが難しい。
「でも、俺がルナを裏切らないことでルナが大変なことになるのは、嫌」
「………別に大変なことになんてならないよ。
ギルドはまだ私を必要としている。だから君は君の好きにしていい」
「………!」
結局私に知らないふりは無理だったらしい。
こうして目の前で思い悩む彼を見ていると、どうにも罪悪感がわいてしまって。
「すまないね、君への念話、聞かせてもらっていたんだ。
本部から私の監視をしろと言われたんだろう?」
「……ん。そう」
そして私の言葉にどこか重い荷物を下ろしたように、安心しきったようにシルヴァが息を吐くのだからこれで正解なのだろうと思える。
「ルナがギルドに不利益をもたらすかもしれないからって、さっき、本部から通達があった。
断ろうとしたけど、そうなったら俺もルナも困ることになるって」
「そのようだね」
まったくこんな子供に脅しをかけるだなんて大人げない。
「俺はいいけど、ルナが嫌な思いをするのは嫌。
だから断りきれなくて、明日本部に来いって。
たぶん詳しい話はそっちでされる」
「まあ、そうだろうね。
シルヴァ、別に監視の話は受けても構わないんだよ?
さっきも言ったように私は困らないんだから」
「……嫌」
おや。強く否を返されて瞬けば、少しだけ拗ねたような瞳がこちらを見上げる。
頬に触れていた手は離されて彼に握り込まれた。
「俺は、例え嘘でもルナのことを裏切りたくない。
だからそれだけは絶対に嫌だ」
ただ、そうするとルナが困る。
そんな言葉が後から少し情けなく続いたけれど、あまり気にはならなかった。
何だかむず痒いようなくすぐったいような心境だ。
彼はとてもまっすぐ。
まっすぐに私を見つめ、裏切らないという。
「うん、その………ありがとう、ね」
それが何だか恥ずかしくて、私には眩しくて――少し悲しくて後ろめたくて、目を伏せた。
私は彼のことをちっとも信用していないし、大切だとも思っていない。
なのに絶対に裏切らないだなんて。
もっと私を疑えばいい。
疑って、信頼も信用もしないで、化け物だって思えばいいのに。
「……ルナ、もしかして、照れている?」
「………いや、それは、うん…まぁ、少しは」
照れ臭いのと腹立たしいのと物悲しいのとで複雑な感覚だけれど、確かに向けられる信頼がくすぐったくはある。
だからそこ少しの同意を示したのだが、シルヴァはそんなこちらの心情も知らずに(当然と言えばそうだけど)ぐいと勢いよく私の手を引いた。
勿論十分反応はしたけれど、それに逆らう気もおきずにされるがまま彼の腕の中に入る。
我が弟子の感情の表し方は外国式なのだ。
「……嬉しい。ルナが、照れた」
「…そんなことが嬉しいの?
君、そういうとこは本当に変な子だよね」
「変じゃない。普通。
ルナ、ルナは怒るかもしれないけど、聞いてもいい?」
「うん?」
改めて問われて首を傾げる。
シルヴァを見つめれば思いの外緊張したような面持ち。
「……ルナは、俺がルナのこと裏切らないって言って、嬉しい?」
なんだ、何かと思ったらそんなことか。
「ふふっ、君は変なことを気にするね。
別にそんな質問されたって怒らないよ」
どれだけ気分屋か、心が狭いと思われているんだろうか。
……うん、まあ今までの行いを振り返ると無理もないのかもしれないけど。
さて、質問は嬉しいかどうかだったか。
私とギルドの思惑だとかを入れずに感じたままを答えるなら――
「うん、嬉しかったよ」
後ろめたく、そして理由は私自身分からずに悲しいと思いはしても、それでも嬉しいと感じたことは真実だろう。
そして一度目を見開き、ついで本当に嬉しそうに――彼にしては珍しく明らかにその顔に笑みを浮かべるシルヴァを見れば少しだけ心が暖かくなるのだから、やはり私はなんだかんだ嬉しかったのだ。
「……どうしよう、俺の方が嬉しい」
「そう。君が嬉しいならよかった。
……シルヴァ、ともかく明日、本部へ行ってごらん」
嬉しいのはいいけれど、まずは当面の問題を解決しなければならない。
話を元に戻せばシルヴァもゆるんでいた表情をすぐに引き締め、けれど私の言葉に迷うように視線を揺らした。
「でも、俺は…」
「うん、君がしたいようにして構わない。
断りたいなら正々堂々と断っておいで。
それによって不利益を被ることになるとあちらは言うけれど、私は特に困らないし、君のことも困らせる気はないよ」
そもそもギルド側は私に手出し出来るはずがないのだ。
実力的にも、状況的にも。
今や私の唯一の弱味であったセイも完全に自らの能力をものにし、煌炎と氷雨の二人も勝つことは出来ない。
つまり最早私の弱味は存在しないのだから、そう簡単にあちらも戦をしかけるわけにはいかないだろう。
それに私が予想したようにギルドとて神喰らいがまだ他にも生存もしくは作り出されているのではないかという懸念を持っているはず。
その討伐の際私がいないのでは心許ない。
今回の討伐でさえ私達SSが三人がかりであれだけの時間をかけあれだけの傷を負った。
もしこれで私を欠けばどうなるかは分からないのだから。
従って私には何の心配事もなく、問題はむしろシルヴァの方なのだが――それも勿論考えている。
だから私としてはきちんと彼に意思表示をさせた方がいいと思うのだ。
こうして権力で抑圧されるのは、私が嫌いなことのひとつだし。
「………」
しかし我が弟子はまだ迷っているらしい。
彼もかなりの心配性というかなんというか。
「うーん、じゃあギルドを破壊するかい?
そうすれば君を脅してくる輩もいなくなるし、安心だよね?」
しかしこの発言には流石にぎょっとしたようだ。
「ルナ!?破壊って、ギルド本部?」
「うん。と言うかギルドという組織そのもの?
無職になっちゃうけど、まあ貯金はたくさんあるし私闇ギルドのマスターでもあるし、どうにかなるだろう?」
「だ、だめ!そこまでしなくて平気!
あの、ちゃんと行って、断ってくる」
「そうかい?」
この案でも別にいいんだけどな。
まあ本人がこう言っているのだからいいのだろう。
さて、なら問題は解決したわけだ。
シルヴァの腕から抜け出し彼の手をさっきとは逆、私が強く引いて立ち上がらせる。
「なら心配いらないね。
頑固爺とその五月蝿い小型犬二匹にガツンと言っておいで。
それじゃあ王都に行こう」
「が、頑張る……?それよりルナ、昼食は?」
「そっか、言ってなかったね」
複雑そうに頷いたシルヴァに対してセイから受けた説明をして今日の昼は外で食べる旨を伝えれば、彼は少しいつもより嬉しそうに表情をゆるめた。
そんなに外食が嬉しいのだろうかと見つめていればそれがわかったらしく、一言。
「ルナと二人だけは、ひさしぶり」
確かにそうかもしれない。
思えば前回この城での依頼を片付けてから今日まで、依頼主とその側近や闇ギルドメンバー、どこぞの皇帝やその従弟と弟子と魚、まあ色々な面々と共に過ごしてきた。
部屋は大抵二人で一部屋を使っていたからまったくコミュニケーションがとれていないわけではないけれど、食事というのは大切な交流の場だ。
人見知りなシルヴァは他人がいては思うように出来なかったかもしれないし。
「本当に久しぶりだね。数ヵ月、かな。
………それじゃあ今日は二人っきりで、なにか特別美味しいものを食べよう。
それにこれからはそういう所にも気を付けるよ。
やっぱり弟子とのそういった時間も必要なものだからね」
「ん。嬉しい。……弟子との、じゃなくてシルヴァとの、の方がもっと嬉しかったけど」
「うん?なにか変わるのかい?」
「俺の受け取り方と心境の問題」
「君は案外難しいね。
うん、シルヴァとのそういった時間も必要だ。これでどうかな?」
「………嬉しすぎて、困る」
我が弟子は本当に変わっている。
けれど本当に嬉しそうだから、たぶんこれでいいんだろう。
食事はとても快適だった。
何故って慣れているからだ。二人での食事の空気に。
私もシルヴァも食事中はそこまで饒舌ではないタイプだから静かに落ち着いてゆっくり食べることができたし、“王国”の城や闇ギルドはともかく“帝国”での護衛依頼中はこうはいかなかった。
それもあって自分でも自覚できるくらいには気分がいい。
何故か手を繋いで隣を歩くシルヴァも分かりにくいが上機嫌だ。
「レナードは元気にしているかな」
「ん。だいたい三年ぶり」
「三年か。前の十年よりはきっとマシなはずだから、今回は文句を言われないよね」
「………それは、微妙」
そうなのだろうか。難しい。
そしてそれでいったら三年ほどシルヴァは同じ剣を打ち直しもせずに使っていたことになる。
十歳で成人の体を手にいれると言っても全く成長がないわけではあるまい。
少し扱いにくく感じていたりしたんじゃないかな。
「ねぇシルヴァ、剣の使い心地はどうだい?
作った時よりも筋力だってついただろう?
少し軽すぎるように感じられたりとかはない?」
「……よく、分からない。
確かに軽いけど、ずっと使い続けてきたからそういう意味では扱いやすい」
「なるほど」
確かにそれはあるかもしれない。
こうなってくるともう一度レナードの店で彼にとって最適な重さを一から測り直した方がいいかな。
剣のリーチ自体はこのままでいいかもしれないけれど、重さはやはり重要だ
「そう言えばルナは剣を打ち直してもらったりはしない?
この間の討伐では剣を使っていた」
「あれ?君、見ていたっけ?」
「式神が」
「なるほど」
式神の使う武器は私と共用だ。
あれは私の写し身だから同じ空間魔法が使えるわけで、従って亜空間から自由に物を取り出せる。
いくら色々な付加効果をつけてあったとしても相手は神喰らいだったわけで、剣がダメージを受けていないとは間違っても言えないから確かに少し手入れした方がいいかもしれない。
そもそも大分昔のものだからなぁ…
最新式に打ち直すというのも手だ。
「そうだね、少し手を加えようかな」
「手を加える……?」
「うん、昔の剣だから少し性能が悪いだろう?
それに新しい素材を混ぜてみたりとか、付加を色々増やしたりとか」
何だか考えるとテンションが上がってきた。
図工は久しぶりだ。それかレナードにやらせてもいいかもしれない。
そう不思議そうにするシルヴァを置いてうきうきしていたら店はもう目の前だった。
うーん、何だか懐かしい。
「久しぶり」
「君もそう思った?
以前はここで少しレナードの弟子に迷惑をかけてしまったよね。
……あ、そう言えば今回も予約してない」
前回予約があるかどうか聞かれたんだった。
今更のように思いだしたが横のシルヴァは前とは違いその辺りの心配はしていないようだ。
「ルナなら平気。入ろう?」
「まあ今更どうにも出来ないしね」
シルヴァのこれは私の教育のせいなのだろうか…
少し反省しつつも後悔はしていないので改善するつもりはない。
別に困るようなことには今のところなっていないしね。
「こんにちは。レナードはいるかな?」
「いらっしゃいませ、ルーンへようこ………よ、宵闇様!?」
おや、すぐバレた。
いやまあ隠すつもりはなかったんだけどさ。
シルヴァに開けてもらった扉をくぐればすぐに店員がやって来て一度頭を下げ――る直前に凄い顔で反応された。
しかもその店員は少々お待ちを、とだけ言ってどこかへ走り去ってしまうのだから、ついシルヴァと顔を見合わせて首を傾げる。
「凄い反応だね。私、前回そんなに印象悪かったかな?」
「ルナはいつも愛想がいいからそんなことない。
むしろ俺としては最初の店員の態度の方が最悪だった。
ルナが笑って流してなかったら暴れていたくらい」
それはちょっとどうかと思う。
ただその動機が私だったために口に出すことはしなかったが。
それにしてもお客がいないな、この店。
見る限り人気がなくなって廃れたという感じではなさそうだけど、どうしたんだろう。
前回はまあ私達以外に来店者がいなかった理由はつく。
三十分後に王家の依頼が控えていたのだ、プライバシーや安全、そして接客面から他の客を店に入れるわけにはいかなかったのだろう(まあ直前に私達が入店してしまった訳だけど)。
でも今回は王家の注文はないし(事前に聞いておいた)、なんだ、今度は“帝国”か?“教国”か?
………流石に毎回それはないか。
「ルナ、来る」
「うん?あ、そうだったね」
あの店員はたぶんレナードを呼んできてくれたんだろう。
ドタドタと騒がしい足音がするし。
騒々しくはあるけれど、早く彼が来てくれるのは助かる。
先程の店員を除いた、入店時に店内にいた店員(と言うかレナードの弟子?)がすごく遠巻きにこっちを見てきて、ちょっと居心地悪いんだよね。
この辺りも私の印象悪いのかなと思った一因だ。
「宵闇の噂が悪いのかな?
あまり意識したことがないけど、残虐非道とかそういう噂でも出回ってる?」
「そんな噂ない。
宵闇はギルド最強の存在で、不可能なんて何もない望みを叶える者だって有名」
「やだな、不可能なことは私にもいくつかあるよ」
「前も言ったけど、いくつも、じゃなくていくつか、というのが……」
うーん、微妙な言い回しを気にする子だ。
まあその指摘は間違ってないけど。
「ふふ、いいじゃないか。
だからこそ私は君の師匠でいられる訳だしね」
「俺はルナに出来ないことがたくさんあってもいい」
「そう?君は変わってる。
私は困るな、出来ないことがたくさんあるのは。
だって望みを叶えられなくなってしまうかもしれない」
シルヴァは分かりやすく(少なくとも私にとっては)拗ねたような顔をした。
「ルナは、望みのことばかり気にしすぎる。
俺のことももっと気にして」
「おや心外だ、気にしているとも。
なんと言っても君は私の可愛い弟子なんだからね」
「本当?」
「うん、これで少し反省しているんだ。
最近依頼が多くて、食事もそうだけど君との時間を作れていない。
だからそういう面で少し気遣いが足りないかな、とかね。
……そうだな、次から気を付けるにしろ、埋め合わせとして一日君に付き合うよ」
こればかりは改善していこう。
私はシルヴァの望みを叶えるため、彼の師匠としてきちんと在るべきだ。
「本当!?」
「うん。……明日は君が本部へ行かないといけないし、四日後は私の方に先約がある。
だから明後日か明明後日かそれとも六日目以降かになるんだけど」
「じゃあ、明後日。早い方がいい。
……ところで、五日目の約束は、セイルートと?」
最後だけ探るような視線。
まるで警察の取り調べだ。
残念ながらその予想は外れているけれど。
「いいや、フレイの婚約者のルシルが仕事休みらしいから買い物をしようかと思って」
「なら、いい。じゃあその日は俺も出掛ける」
「おや、珍しいね、君が着いてきたいと言わないなんて。
前は着いてくると言い張っていたのに」
前というのは闇ギルドでのことだ。
流石にこんな場所では堂々と口に出すことが出来なかったからボカしたのだが、察しのいい彼はきちんと私の言わんとしたところに気づいたらしい。
少し気まずげに視線が泳いでいる。
「あれは、だって……」
「ふふっ、難しい男心というやつなのかな?
そういうものがあるってセイが言っていた」
「またセイルート…」
「違った?」
「………悔しいけど、合ってる」
「あはは、可愛いねシルヴァ?」
「う……ルナ、俺のことからかってる」
「そんなことはない」
「……どう見ても、からかってる」
「――――ルナ!」
ぽんぽんと続いていた些細な、それでいて愉快な会話は勢いのある声によって中断を余儀なくされた。
それに再び少し拗ねたような顔をシルヴァが浮かべて、それがまた可愛らしく宥めるように繋いだままの手の甲を指で撫でる。
繋ぐ手の力が強くなったのは彼なりの甘えの表現なのだろう。
「少しは落ち着きなよレナード。
久しぶり。元気だったかい、と言いたいけれど……あまり元気じゃなさそうだね」
店内に縺れるように転がり込んできた彼は右腕に包帯を巻いて首から吊っていた。
分かりやすい怪我をしました感だ。
シルヴァも心配そうにそれを見つめ、ついで私に視線を移している。
いやいや、私はもう心配いらないって。
「そっちは元気そうだな。
ルナもそうだが――シルヴァ、だったよな?
……おいお前ら、椅子ぐらい勧めとけ!
二人ともまあ座ってくれ。今茶とかも出させるからな」
いつかのようにレナードに促され店内に置かれた席につく。
怒鳴られたためか弟子達は直ぐ様散り散りになって動き、少ししたら目の前には前回と同じ茶と茶菓子が用意されるというサービスの良さだ。
ただまあ、相変わらず言われたことが済んだらレナードの後ろに並んで立つ感じはどうかと思うけど。
これ妙に威圧感あるよね。
昔のシルヴァはすごく居心地悪そうだったし。
「やっと落ち着きやがった。
……三年ぶりか。ルナ、お前また音信不通だったな。
前来たとき用がなくても訪ねてくれって言ったってのに…」
「あはは、ごめんごめん。
忙しかったんだよね、色々と」
うーん、シルヴァの予想通り三年ぶりの恨み言はやはりあるらしい。
流石我が弟子、こういう予想もバッチリだ。
笑って軽く謝ることで誤魔化した私に対してレナードはふんと鼻を鳴らしこちらを睨む。
前回は大泣きして素直な反応を見せたって言うのに、今日はどうにもそうはいかなそう。
「第二王子の護衛かなんかしてたんだろ?
それに立太子式であんなド派手な登場しやがって、見てた俺は目玉が飛び出るかと思ったぞ」
「あ、いたんだ」
「当然だろ!これでも王家御用達ってことで良い席貰ってたんだからな」
なるほど、それは納得だ。
しかしこのままいくと永遠に愚痴が続いてきそうで、私としてはそんな長話は嫌だ。
この辺りで話題を変えていかなければ。
「ところでさっきから気になっていたのだけど、その腕はどうしたんだい?ハンマーで間違って叩いたとか?」
「んな訳あるか!」
「ちょっとした冗談じゃないか。ねぇシルヴァ?」
「ルナは冗談が冗談に聞こえない」
あれ、シルヴァまで。
まあ彼にも何度も私の冗談を信じて騙された覚えがあるんだろうから仕方ないけど。
「まあ仕事中の事故っつったら間違ってねぇけどな。
素材集めに行ったら珍しく大物がいてこのザマだ」
「それは不運だったね。
と言うか今も自分で素材を集めているの?
そこにいる弟子達や、それこそギルドに依頼すれば良いじゃないか」
そういうことをするのはまだあまり有名でもなく、注文も少なかった昔くらいかと思っていた。
「勿論こいつらにも行かせてはいるがな。
いつだって初心は大事なモンなんだって言ったのはお前だろ」
「おや、私?……確かにそんな気がしなくもないけれど。
でもそれで怪我をしたら意味がないしねぇ。
君からの指命依頼なら私もちゃんと請け負うよ?」
「音信不通がよく言うな。それより、今日はどうしたんだ?」
全く相手にされなかった。
それっぽくウインクまでして言ったのに。
不満な表情をわざとらしく浮かべそっぽを向けば慌てたように隣のシルヴァが手を引く。
「ルナ。……その、今日は剣を打ち直してもらいに来た。
三年間手入れはしてきたけど他は全くいじっていないし、そろそろってルナが。
あとルナもこの間大きな討伐があって剣を使ったから色々して欲しいみたい。
……でも、その怪我だと難しい?」
「まぁな、俺は右が利き腕だから今は……
かと言ってギルドランクA+の武器を任せられるほどこいつらは育っちゃいねぇし…」
そこでレナードは不審そうに私とシルヴァを見比べた。
「……つか、シルヴァの剣もルナが打ってやればいいじゃねぇか」




