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限りなく人っぽい何かと銀と金  作者: 美羽
黒色の思慮
47/178

4-15

Side:Luna




北要塞へと送った式神との魔力による繋がりが不意にふつりと途切れて、私は一瞬目を眇めた。

同時に勢いよく左腕を薙ぎ向かってくる魔術攻撃を相殺する。

神喰らいの痛みに啼く声が響いた。

―――どうやら式神はきちんと任せた仕事を済ませたようだ。

私の体に新たに繋がる魔力の道がしっかりと北要塞の方向に向かっているのを感じる。


ただやはり式神に触手の一本とは言え神喰らいの相手は難しかったようだ。

魔力や筋力、思考や感情は全く同じもの。

けれど私の体にある化け物たる所以とも言える術式ばかりは式神に転写することは出来ない。

だから結果的にどうやったって式神の能力は本体(わたし)に劣る。


式神に指示したのは神喰らいの触手を破壊すること、街を条件付けのない純粋な結界で囲う事の二点だ。

私が経験したこと、考えたことなどは式神に随時伝わるけれど、逆に式神のものは私には伝わらない。

だから式神がきちんと全てを終えたのか分かるのは、こうして式神が施した術の魔力の供給源が私へと向かった時や式神自体が消失した時だ。

その辺りが少し不便なところだけれど、こればかりは仕方がない。

あまりに情報量が多すぎれば脳が処理できなくなってしまうし。


『ルナ、聞こえてるか』


絶えず向けられる攻撃をかわし、いなし、相殺し、こちらも同じように攻撃しながらの攻防。

その最中に水をさすように声が響く。

氷雨からの念話だ。


――聞こえているよ。どうかしたのかい?――


『そっち、障壁破れたろ。

それにもう見当たらねぇが、触手が伸びてんのが見えた』


――そうだね。触手の方は解決済みだ。

あと事後報告になるけど北要塞を結界で覆い直した。

出入りは不可能だ。そうしないと剛毅と風音、どっちかが死ぬ。――


『ははっ、違いねぇな』


戸惑うことなく私の言葉に肯定を示した氷雨も、やはり異変を感じ取っているらしい。

ある意味彼の方が私よりも当事者と言えるのだから無理もない事だけど。


『……見て分かると思うが、魔物がおかしい』


――その様だね。君達がそんなに怪我をしているところを見ると。――


さっき一度見たきりだけど、なかなかのものだった。

少なくとも普段じゃ有り得ないくらいには。


『そうだな。それで、障壁が破られて俺達も神喰らいの気配をかなり近くで感じて思ったが――どうにも、混ざってる気がするんだ』


彼の言葉に私は口の端をつり上げた。


――私も、そう思うよ。――


こちらへ攻撃をしかけてきた恐らく単体でランクSS相当の魔物の首を落とす。

それを確実に魔術の火で灰にして、こちらを見つめ唸る神喰らいを見上げた。

普通なら精々がランクA+程度であろう種族の魔物。

それがここまで異常に力を持っているのは、恐らく神喰らいによるものだ。


――たぶん、何体かの魔物に自分を喰わせた(・・・・・・・)んだろうね。――


『………やっぱり、お前もそう思うか?』


――こうして実際に両方と戦うとよく分かる。

微かに神喰らいの力の波動を感じるんだ。

……それに、この神喰らいは力こそ前に私が倒したものより弱いけれど、僅かに知性らしきものを持っているんじゃないかな。――


それは隠していた触手や北要塞に張っていた結界の認証システムの隙をついてきたこと、そして今私達が直面している魔物がおかしいくらい力を増しているという事実から私が考えたことだ。

けれどだとしたら厄介すぎる。

知性とはまだ呼べない程度のそれでも、本能のままに動くだけのものよりは余程。


――そっちの状況は今どうなってる?――


『俺と煌炎は怪我はあるがまだまだやれる。

こっちに残ってんのは後二千から千ってとこか』


――なるほど。こっちは触手をたぶん全部千切りとって片目を潰した。

けどやっぱり障壁を破られたのは厄介かな。

結構魔物がこっちに雪崩れ込んで――氷雨、結界張れ。――


『分かった』


突然の指示にも戸惑うことなく彼は短く答えた。

私も魔力を練り込み一点に込めて放出する。

まるで津波のように神喰らいを中心として出現する炎。

本当に、なかなかやってくれる。


「残ってた障壁の壁まで破壊するとはね……」


しかも最大級の広範囲攻撃。

一応結界を張るようには言えたけど、氷雨達は無事だろうか。

確認しようにも下手に意識をそらせばそれが重傷につながるこの状況下ではそれも難しい。

また念話がこちらへかかってくるのを待つしかないが…


『おい、何だ今の。死ぬかと思った』


――無事だったか。神喰らいの広範囲魔術だよ。煌炎は生きてる?――


再び繋がった魔力に小さく息を漏らしつつ問えば舌打ちが返ってくる。


『生きてる。てか巻き込まれたはずの魔物には一切ダメージがねぇんだが、どういう事だ』


――私に言わないでくれ。

私も君も出来ることなんだから、あちらに言わせれば出来て当然なんじゃないかい?――


『笑えねぇな。そっちの魔術に対処しながら雑魚も片付けろってか』


――そうなるね。――


『仕方ねぇ、なら………あぁ、いや、煌炎に案があるらしい』


――どんな?――


段々会話も口数が少なくなってきてしまう。

身体はもう半分自動で動いているようなものだから構わないけれど、意識まで破壊への衝動に持って行かれるのは不味いな。

にしても、煌炎の提案、ね。


『一度集まって全部が確認できる状況(・・・・・・・・・・)でやろうってよ』


言われた内容を頭の中で反復する。

でも私としてはその案に対する懸念事項は一つだけだ。


――それ、君達はきちんと対応が追いつくのかい?――


全てが確認できる状況というのは、私達三人が集まって群れ全体を相手取るということだろう。

けれど同時に三人が集まると言うことは、私を追って神喰らいもそこへやってくると言うことで。

私はそれでも別に問題はない。

今だって神喰らいと障壁(もう完璧に壊されてしまったけれど)内に入ってきた魔物を同時に対処しているし。

ただ煌炎と氷雨にそれが出来るのかと考えると、どうだろうと思ってしまう。

ここで下手に対応が追い付かずもし神喰らいに殺され、更に悪いことに喰われでもしたら――それこそ今までの私の苦労が水の泡だ。

今は言うなればボス戦で半分以上相手のHPを削ったような状態なのだから。

なのにそこで回復を許せばまたゲージがマックスのところから始め直さなければいけないわけだし。

しかし私の尤もな疑問に氷雨は著しく気分を害したようだ。


『おいコラ酷えな。あんまなめるな』


――おや、自信満々だね。

さっきの魔術攻撃で死ぬかと思ったとか言っていたくせに。――


『……言葉の綾だ、言葉の!

ともかくお前がいいんなら合流するぞ』


ヤケクソの様に叫ぶ声に耳鳴りがした。

ボリュームが大きすぎるだろう。

……だが、彼がそこまで言うのなら従ってやろうじゃないか。

恐らく傍にいるであろう煌炎も同意見なのだろうし。


――わかった。じゃあ今からそっちに行く。――


「【貫け】」


一度距離をとるために、右腕を無理矢理動かして魔術を発動させた。

氷の柱が神喰らいの周囲に展開しその身を地に留めようと夕闇に輝く。


「……チッ、やっぱり無駄か」


だが大きく身震いする動作だけで払われてしまった。

まあ元々成功するとは思っていなかったから構わないけど。

欲しかったのはその一瞬だ。


「【轟雷】」


天から降り注ぐ白く輝く雷。

私がしたかったのは神喰らいから距離をとって氷雨達のもとへ合流しやすくすること、そして神喰らい以外のオマケをこの場で排除することだ。

神喰らいだけでもあの二人にとっては少し大変な事なのに、他の魔物を連れていけば更に負担が増える。

合流したところで彼らが担う役割は露払いであり、私は基本的に神喰らいだけの相手をするのだから。

元々あちらにも多く見積もって二千程度の神喰らいの血肉によって強化された魔物がいるのだし、そういった面から言ってもこの場での不安要因の除外は大切だ。

全体が最早形を留めないまでに雷で焼かれた魔物を更に念を押すように腐敗させる。

こうしておかなければ神喰らいの食事になってしまうのだから。


「さて、少しこっちに来てくれるかな、神喰らい。

私の友人達が待っているのでね」


見せつけるように笑んで、私は全力で駆ける。

確かに神喰らいが私を追ってきているのが地を揺らす振動で分かった。

こういうのも中々スリルがあってゾクゾクするな。

追いかけられることはあまりないから。

背後から向かってくる爪による斬撃や魔術攻撃の全てを避けながら視線を巡らせる。

さて、気配としてはこの辺りだけど、二人はどこに―――あぁ、見つけた。

一息で跳んですぐ傍に着地する。

間近で見るとなかなか二人は重傷だ。

煌炎は左腕が全体的に酷い凍傷のようになっているし、氷雨は指が何本か取れかけている。


「二人とも本当に大丈夫なのかい?

まだまだやれるとか氷雨は言っていたけど、不安だな」


「体に風穴空いてる奴に言われたくねぇ」


「まったく同感です」


まあそれもそうか。

でもちょっと向こう側が見えてるだけだし、まあアレだ、おしゃれみたいな。

そう言えば即座に二人から反論が返ってきた。


「どこが!?」


「宵闇、頼みますから真面目にやって下さい…」


「あはははは、悪いね。少し君達の顔を見たら気が抜けてしまった。

二人とも傷の回復はいいのかい?

必要なら魔術をかけるけれど」


私が言うことでもないかもしれないが、化け物の私と違って二人はれっきとした人間(竜族と亜人だけど)だ。

今もすごく痛いんじゃないかな。


「貴女にそんな心配をされたくありません。

戦う上で大して問題はないのであしからず」


「俺もまあ魔術だから指くらいはなぁ…

それに今くっつけてもどうせまた怪我するんだし二度手間だろ」


「うん、こういう時、君達も相当イッちゃってるなって実感するよ」


私じゃなかったらドン引きだ。

いや、私もちょっと引いた。

でもまあ本人達がそう言うのなら本当にそれでいいということなのだろう。

それにこれ以上とやかく言う資格はない。―――ならば。


「じゃあ私はまた神喰らいの方に戻るから」


「おう。他はたぶん任せろ」


「なるべくこちらに余波が来ないようにして下さいね」


「……それが伝説級に挑む後輩に向ける言葉かな?」


何だか納得がいかない。ちょっと軽過ぎだろう。

肩を竦めながら飛翔し、先程からこちらに攻撃を加え続けている同種のもとへ。

静かな状況で会話するため私達を囲わせていた結界を解けばすぐさま紅蓮の炎が襲う。

この対処は氷雨に任せても構わないだろう。

私はそれより神喰らいに接近しなければならない。

神喰らいの周囲を取り囲む魔物は風で私の背後、煌炎達の方へ。

できれば二人きりで楽しみたいし、ね。


「もう右手は使えない、か。

君のせいだよ神喰らい。どうしてくれる」


二人にああ言いはしたが、右手が使えないのは少し痛い。

防御のための盾にもできないってただの足手まといじゃないか。

正直ちょっと指を動かすだけでも結構な激痛が走るしさぁ。


「……あぁ、目を潰した奴に言われたくないって?」


咆哮を上げつつ突進してくるそれに納得だと笑みを零す。

目を潰したり触手を引き千切ったり、あっちはよっぽどいいモノを喰わない限り再生不能な状態なのだから、確かに私の方が状況としては断然有利かもしれない。

それに僅かな知性があるのにはちょっとだけ驚いたし焦ったけれど、神喰らい自体の力は最初に感じ取った通り以前戦った個体よりも弱いものだから私が負ける可能性は余程の不測の事態でもないか、私自身が相当馬鹿な事をやらかさない限りゼロに等しい。


「さて、【氷―――」


魔術を紡ごうとして、視界を過ぎった不快なものに顔をしかめた。

最悪だ。積もっているだけでも嫌だったのに。

しかもそれに気をとられた一瞬の隙をついて神喰らいが突進。

結果的に飛んだばかりだった私はすぐにまた地面へと落とされた。

そのまま叩きつけられた衝撃で周囲の白が舞う。


「雪か……」


道理で、こんなに寒い訳だ。

気が付けば既に太陽はどこにも見当たらず漆黒の闇が支配する夜の世界が広がっている。

気温は一段と下がって、ついに雪が降り始めたらしい。

雪原に転がったまま周囲を見回してみても、曇っているためか月も星も見当たらない。


身体を侵食する冷えた感触。

じわりじわりと緋色に染まる真白。

雪で覆われたあの場所が目蓋の裏にチラついた。

今日は色々と思い出してばかりだ。


喪われた彼の事。

雪崩のように襲った惨劇。

代わりだとでも言うように与えられた痛みと憎しみ。


けほ、と咳き込んだ瞬間に口許から血の塊が零れ落ちた。

あぁそっか、さっき我慢したんだっけ。

弱った獲物に止めを刺そうと向かってくる神喰らいが視界の端に映り込む。


なんだかこうしていると、自分が馬鹿みたいだ。

でも――――こんな私を、“皆”はどう思うんだろう。

ふとそう思った。

今までにも何度も何度も考えて、それでも答えの出ない問い。


私が死なないことは正解なのかどうか。

正解もなにも、私を殺してくれるような存在がいないのだからどうしようもない事だけれど。

一人だけ生き残って今もこうしてのうのうと生きて、そんな私を、皆はどう思うのか。

私が誰かの望みを叶えるのはもういない皆のためで、でも同時に、いいや、それ以上に私自身の自己満足のためで。

つまりこれは同胞達から見ればただの偽善に過ぎない事で、そんなことで一人生き残った私の罪が消えたり薄らいだりするはずもなく。


「これだけ、たくさん望みを叶えているのに……私は本当に叶えたい望みの内容すらわからない…」


ううん、本当は知ってる。

みんなみんな、あの時望んでいた。

それは今も私の耳に目に脳に身体に魂に刻まれている。


―――生きたい、と。


みんな、そう言って泣きながら殺されたんだから。


「望みは、叶えないといけない……」


私の存在意義。何をおいても成し遂げなければならないすべて。

生きたいと望んだ皆の言葉が私を生かす。

だってそうしていなければ彼等の望みは叶えられない。

だからどんなに痛くても悲しくても苦しくても寂しくても憎くても羨ましくても、私は死んだらいけないんだ。

それに今の私は一人じゃない。

いつかは結局一人きりになってしまうけれど、それでも今だけは大丈夫だから。

だからまだもう暫く、私はこの世界で生きていける。

そして望みを叶えて叶えて叶えて叶えて叶えて、それで、いつか、みんなの。


「望みを叶える。それで皆に、また、会うんだ…」


私を喰らおうと開かれた真っ赤な咥内。

そこへ動かない右腕を突き入れて、私は私の考える夢のような結末にうっとりと笑んだ。
















「これで終わりですね」


響いた声に地に落としていた視線をその主へと向ける。

怠そうに肉塊を引き摺ってきた煌炎はそれを放り投げ地面に直接腰を下ろした。

周囲を見回っていた氷雨も既に戻って来ていたから、これで確かに彼の言う通り終わりなのだろう。

目の前に山のように積まれた腐臭を放つ肉塊を見つめる。


「そう。それじゃあ燃やすのも君に任せていいのかな?」


「何をふざけたことを言っているんですか。

それは貴女がやるという話になっていたでしょう。

俺ではここにある全てを灰にするまでに半日はかかりますよ」


「それは勘弁。ただでさえ二日間ぶっ通しでやってたてのに、まだあと半日とか冗談じゃないぜ。

しかも結局肉はくえねぇとか………俺の唯一の楽しみが…」


ずっと名残惜しげに血と内容物で醜く染まった肉片を見つめていた氷雨が反応する。

確かに私もそろそろいい加減寝たい。

恐らく今回倒した神喰らいは人間を喰らったかしたのだろう、人を殺したいだとか全てを破壊しつくしたいだとかの衝動を抑えるための体内の魔術は働いていないが、生理的にとてつもなく眠かった。

なにせ不眠不休で一昨日の夕方から今日(つまり二日後。ちなみに今は夜なので正確には二日と数時間になる)まで魔物の群れと戦っていたのだ。


私が神喰らいを完全に消滅させたのがつい半日程前。

それからは何体も残っていた神喰らいの血肉を喰ったらしき魔物の対応に追われ、全てが終わっても後処理の為に全然帰れていない。

シャワー浴びたいしふかふかのあったかい布団で寝たいって言うのに。


そして氷雨の戦いの後の楽しみであった神喰らいの肉を用いたバーベキューだが、残念ながら中止になった。

それは冷静になって考えれば当然の判断だ。だって―――


「仕方がないでしょう。

神喰らいの血肉を啜った魔物があんな状態になったんです、俺達が食ってどんな影響が出るか分かりません」


「それにもし肉の一片からでも再生出来たら不味いしねぇ。

君の腹におさまってから触手が皮膚を裂いて出てくるとか、そんなスプラッタ笑えないよ。

だから食べるのは諦めて、さっさとそこから離れてくれないかい?

全然後処理が進まないじゃないか」


つまりはそういう事。

恐らくだが魔物を強化する力があるらしい今回の神喰らいの肉を食べることで、人体に悪影響が出るかもしれないから止めたのだ。

単純に人(竜族と亜人と人っぽい何かだけど)がそれを食べても強くなるだけならいいけど、もしかしたら死ぬとか、魔物化しちゃうとか、体内におさまった肉がその人間(竜ぞ……以下略)自身の血肉を栄養として吸収し復活を遂げ腹を自発的に掻っ捌いて現れるとか、考えられる嫌な結末はいくつもある。

それらを無視して自分達も強くなる、あるいは人体には影響がないという二つしかない可能性に賭けるにはあまりに分が悪かった。

更にこの強化された魔物や神喰らい本体の血肉をこのまま放置もできないという問題もある。

もし通りすがりの魔物がやっぱりこれを喰ったら強化される訳だし、ちょっと殺したくらいでは神喰らいがもう復活しないと言う確実な証明にはならないのだ。

だからこそここで必要なのが私達もさっきから話している後処理。


「分かってるよ。灰になるまで焼くんだろ?

……くそ、俺のミディアムステーキが…………」


「全然分かってないじゃないか」


喰らえもしないくらい、それこそ骨まできっちり灰にする。

それが私達がしようとしている後処理だ。

そうすればもう復活の心配も他の魔物の強化の心配もなくなるしね。

神喰らいに対しては倒した直後に私が済ませてあるから、残っているのは五千以上に渡る群れを構成していた魔物のみ。

これを全部一か所に集めるだけでも苦労した。

と言うかそれだけで半日使ったようなものだし。


「宵闇、氷雨は俺がおさえていますのでさっさとやってしまって下さい」


「あ、おい何すんだ煌炎!!」


「五月蠅いですよ。千切れかけた指を千切って捨ててやりましょうか」


「鬼の所業だなおい」


「流石にそれは私も氷雨に同情するよ…」


気持ち悪いから心底やめて欲しい。

にしても私が後処理をすることは決定か。

まあ確かにその方が早く済むけど。

面倒くさいという思いが全身から滲み出ているだろうと自覚できるようなのろのろとした動きでじっくりと上から下まで、魔物の肉の山を見つめる。

高さと幅は――あぁうん、どうにか入りそうだ。


「【全てを灰にするような熱量の炎。

形状火柱、半径五十メートル高さ三百メートル以上】」


頭で想像しつつなるべく細かく設定を口に出す。

そうすれば思い描いた通りの真っ青な炎の柱が天を貫き、半径五十メートルの範囲だけを灼いた。


「おい何だその適当な詠唱」


「と言うか詠唱なんですか?

そこから俺としては疑問です」


灰どころか最早溶けたり砂になったりしている魔物の肉を尻目に二人はゴチャゴチャと文句をつけてくる。

酷くないだろうか、これ。

だって私間違いなく今回一番貢献してるのに、最後の最後でこんな文句言われるとかさ。


「いいじゃないか、もう疲れてるんだよ。

もう夜だし後処理も終わったし、北要塞にとっとと戻って寝たい」


「……まあ、確かにな」


「そうですね、俺も流石に今回は疲れました」


本当に今回の依頼のキツさは異常だ。

私は身体に穴、右腕の裂傷に全身打撲と何本かの骨の骨折。

煌炎は片腕の壊死寸前の凍傷と脇腹が抉れてる。

氷雨については指が両手で三本ほど取れかかっていて首を深く切ったらしく今も流血中、後詠唱し過ぎで喉がガラガラしている。

そしてオマケのように、三人とも細かな切り傷だとか擦り傷だとか痣とかが数えきれない程できた。あーぁ、治すの大変だ。


「何だっけ、本部の医療部来るんだっけ?」


「えぇ、確か一日目から待機しているはずですよ」


「要はそいつら二日間ずっと暇だったんだな」


医療部は依頼終わりのギルド員の治療を専門にする部門で、依頼に対する情報収集の役目を担う諜報部とともに重宝されている。

他にも広報部とか学校の部活か、と言いたいような部門もあったり、案外ギルドはサービスがいいのだ。

その質は私達SSが個人でやるそれに及ばないけど。

普通はギルド本部や各ギルド支部に設置されている医療室に常駐している医療部の人員に世話になるものなのだが、こういう風に非常事態とか異常事態とかの場合は腕利きの本部の者が出張したりする。

医療室とか今まで使ったこと無かったけど、今回はお世話にならないわけにはいかない惨状だ。


「どんな感じなんだろうね、医療部の治癒魔術」


「宵闇もやはり経験がありませんか。

あなた達は自分で治癒ができるという強みがありますから無理もありませんがね」


「てかそもそも世話になるような大怪我とか魔力不足にならないだろ。

それは煌炎だってそうじゃねぇの?」


「そうそう。自分だけ違うみたいな空気出さないでよ」


私なんかは最初からチートを持っていたし、煌炎は直系竜族で皇帝ガイオスの近い血縁であったからやはりギルドに入る前からかなりの実力を持っていて大怪我などしようがない。

氷雨は本当にコツコツ強くなっていった派らしいけど、初期から自分で治癒魔術を使えたためやはり医療部に世話になったことは無いようだった。


「さて、それじゃあ街に戻ろうか。

さっきは私が魔術を使って後処理をしたんだし、転移はやっぱり偉大なセンパイがしてくれるんだよね?」


「げっ」


「やはり魔術を扱える者がいると助かりますね。

頼みますよ氷雨。疲れているんですから、うだうだ言わずさっさと転移してください」


「そして煌炎は北要塞の周囲に魔物がいたら相手してね」


「……なんですか、それは。聞いていませんよ」


私の言葉にイイ笑顔だった煌炎の表情が一瞬にして嫌そうなそれに変わる。

だって仕方がない。

北要塞を完璧に囲った今、剛毅と風音は街に寄ってきた魔物の対処が出来ない状態。

私達が気づいていない間に何体か魔物がそちらに向かっていれば今この時もそれらは北要塞の周囲を徘徊しているということになるのだ。

私は後処理したし結界解くし、氷雨は転移担当だし、つまりこの時点で何もしてないのは煌炎だけなんだよね。

魔物の肉片の回収は皆でやったからカウントされないし。

それらの事柄を懇切丁寧に威圧込みで語れば、彼はしぶしぶ頷いた。

まあたぶん魔物いないしね。

いくら私達が疲れていたとしてもこの程度の距離なら魔物の気配を感知できる。

だから現時点で何も感じていないということは魔物の残党はいないということだ。

それも分かっていて戦うことになる確率が限りなくゼロに近いから煌炎も頷いたんだろう。

後は竜族特有の本能からっていうのもあるかな。


「話纏まったな?行くぞ?

【我等を運べ、願う場所へ。揺蕩う水の流れに沿って】」


うーん、折角の詠唱もガラガラでカッサカサの声じゃ残念感しかない。

後で氷雨にはのど飴をあげよう。

そう思いつつ体を引く魔力に身を任せる。

瞬き一つの間に私達の姿は北要塞の結界の真ん前にあって、氷雨が気を遣ってくれたのか魔力による浮遊状態でぷかぷか宙に浮いていた。




昨夜勤労感謝の日小話を活動報告に追加しました。

よろしければ見てみてください。

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