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限りなく人っぽい何かと銀と金  作者: 美羽
黒色の思慮
45/178

4-13

残酷描写があります。ご注意ください。

Side:Luna




それから剛毅との約束通り、まあシルヴァに似合うだろうと私が思った服を一揃え選んだ。

と言ってもシルヴァは先程も言った通り顔がいいので私がかなり酷いセンスでも持っていない限り大抵着こなす。

でも彼はそれを気に入ったらしく、剛毅が選んだ彼曰く悩殺モノの数着と一緒に購入していた。


「遅くなりましたね」


「構わないさ。今来たところだからね」


壁の上でやって来た煌炎と焔火、風音を迎える。

あれ、氷雨はもう来ているしシルヴァと剛毅は一緒に行動していたからいるのは当たり前だけど、一人足りなくないだろうか。

私の疑問に気づいたのか煌炎は疲れた顔をした。


「レンは置いてきました。

そのせいで随分と時間がかかりましたが、戦いの邪魔をされるよりはマシです」


「それはそれは、お疲れ様だね。

でも置いてきたってどこに?」


「軍の施設にです。元々そういう依頼でしたからね。

これで無事護衛依頼達成ですし、荷物が一つ減ったことになります」


成る程、ギルドだと他の人の迷惑だしね。

あぁでも軍も変わらないのだろうか。

一時間程前にギルドと“帝国”両名で避難の指示が出されたため、現在ここから見える街には人っ子一人見当たらない。

全住民がギルド又は軍に集合しているのだ。

もし魔物がこっちにやって来たら大変だしね。

無いとは思うけど、街の中での戦闘にもつれ込む可能性はゼロじゃない。


「それじゃあ彼女は軍に避難している住民の相手をしているということか」


「ええ。これで少しは上に立つ者としての意識を持てるようになればいいんですがね」


「どうだろうな、じゃじゃ馬っぽいし」


「じゃじゃ馬などというものではありませんよ」


それは確かに言えている。

つい笑ってしまいながら今度は剛毅と風音に目を向けた。


「ちなみにシルヴァと焔火はどうする予定なの?」


「シルヴァちゃんも焔火ちゃんもこの後は軍の施設に行ってもらうことになってるわん。

ギルドは一応今Aランクが所属してるパーティーがいるらしいから、そっちに任せることにしてあるの」


「それに何かあれば本部からの増援もすぐに転移できるだろうからな。

対して軍の方はあまり手が足りているとは言い難い。

俺と剛毅はここで壁の役割を果たさないといけないし、これが最善だ」


なるほどなるほど、いいんじゃないだろうか。

それに結局のところ私達が全部片付ければいいわけだし。


「じゃあそろそろ始めようか。

【展開、防御。条件付加:ルナ、煌炎、氷雨、剛毅、風音】」


詠唱とか久しぶり。

まあ周囲から言わせればこれは詠唱とは言わないらしいけど。

でも頭で考えるにも限度があるし、こうして口に出した方がしっかりとイメージを固めやすいのだ。

今回のように少しややこしい結界を張る場合には特にね。


「これでいいだろう。どうかな氷雨?」


「いいんじゃねぇの」


無事北要塞を覆うように囲ったドーム状の自作の結界を背に問いかける。

返ってきたのは嫌そうな答えだけど。


「酷いな、私の傑作なのに」


「ああそうかよ。俺としては自信無くすんだっつーの。

こういうのは俺の専売特許だろ。それをあんな短い単語ばっかで…」


「拗ねないでよ、センパイ」


「くっそムカつく」


まあわざとだし無理もない。

さて、置いてけぼりの残り四人に説明するとするかな。


「この結界は条件付けがしてあって、私達三人と剛毅と風音しか通り抜けができないようになっている。

でも残念ながらこの認証は血液でね。

だから魔物が私達のうち誰か一人のものでも血を体につけたら、その部分だけ通り抜けることが出来てしまうんだ。それだけ気をつけて。

後、私が死ぬか術の維持が不可能なほど重症を負った場合は勝手に解けちゃうから」


認証機能は剛毅と風音のためだ。

二人は基本的に今いる壁の上で周囲を警戒することになるんだけど、結界を張ってしまえばその対処の為に近づいてきた魔物のもとへ行くことが出来ない。

逆に剛毅達を結界の外に配置すれば、もし結界の中で緊急の事態が起こったりした時に何もできなくなってしまう。

そういうわけでこの様な個人を認証するシステムを結界につけることをSSだけの話し合いで決めたのだ。

まあどんな風に個人を認証させるかは直前まで考えていたことだから煌炎なんかは初めて知っただろうけど(氷雨は魔術が得意だから見れば解析できる)。

指紋認証とか虹彩認証とかと迷ったんだけど、この世界の人間とか魔物の指紋や虹彩は本当に全部違うのか、いまいち確証が持てなかったんだよね。

逆に血液なんかはそれこそ血液型とか血中の色んな成分とかが違ってくるし、今日食べた物とかでも血糖値だとか違うだろう。

それに決定的に言えることは、魔物の血と人間(獣人、竜族、亜人含む)の血は違う。何か匂いとかが。

だから少なくとも魔物を認証して結界への侵入を許可する心配はないのでこれが一番安全なはずだ。


「なるほど、分かりました。

つまり怪我をしないか、したとしてそれを負わせた魔物はきちんと処理すればいいんですね?」


「その通りだよ。単純だろう?」


「単純だけどかなり複雑な魔術よねん、これって…」


「煌炎は魔力がないからな…」


「そこ、聞こえてますよ」


ギロリと睨む彼にこそこそと話していた剛毅と風音はすぐさま姿勢を正した。

彼は下位の者に対しては教育的指導を惜しまない性質だから、二人はいくつか嫌な思い出がある。

最早条件反射だろう。可哀想に。


「おい、そろそろ行こうぜ?敵も見えてきたことだし」


呆れたようにその様を眺めて氷雨が言う。

彼の視力は普通の人間並みだから、姿を確認できるようになるのはこの辺りからだ。

雪が積もって真っ白な地平線に広がる黒いモヤモヤ。

なかなか大規模だね。千を超えるとは聞いていたけど。


「目算して七千程ですかね。ギルドの諜報部も情けない」


「そう言うものじゃないよ。

千以上ではあるから間違っていないし、彼等だって必死だからね。

それに新たに他の群れが加わった可能性もある」


諜報部は確かに腕利きだけど、それでも今回の仕事は荷が重かっただろう。


「ルナ……」


「ふふ、心配することは無いさ。

何ならここで少し減らしてしまおうか」


我が弟子は心配性だ。

別に千も七千も変わらないだろうに。

でもずっとその顔をされるのは辛気臭いからやめて欲しい。


片目をつぶり、真っ直ぐに右腕を伸ばす。

こういうことに左腕は向いていないのだ。

人差し指と親指を銃のようにして、ちょっとふざけてるように見えるかもしれないけど。


「バン」


口で言ってそれらしく指を跳ね上げればその先から伸びる光線。

それは文字通り光の速さで真っ直ぐに群れへと向かい―――直後に大きくドーム状の大爆発を起こす。

昔はこれで国一つをまるまる焼き払ったと言うか……その大地ごと消失させていたらしい。

昔のこの世界の人間達ってなかなかアグレッシブだよね。

結界で囲われているから余波は全くないし、うん、いい仕事した。


「……何をしているんですか、貴女は」


「え?数減らし?」


「余波で森が大変なことになっているんですが、どうしてくれるんですか。

しかも積もっていた雪が全て吹き飛ばされて地表が見えています」


「………後で直しておくよ」


確かに結界で守られた北要塞と違って森の木々は根こそぎ倒れているけれど、まあ細かい事を気にしてはいけない。

ドヤ顔でシルヴァを振り返れば、彼はぽかんとした顔で私と爆発が起こった辺りを見比べていた。

でもしばらくするとやっぱり心配そうな顔に戻ってしまう。


「まだ心配そうだね、君は」


「……ルナが、約束してくれなかったから」


「それは仕方がないさ。

私は意味のない嘘は吐かない主義だから。

さて、流石にそろそろ行こうか。

―――そうだ。シルヴァも焔火も、少し手伝ってくれるかな?」


問えばシルヴァはすぐに頷き、警戒するように少し離れた位置に立つ焔火は訝しげな顔をした。

そんなに離れなくてもいいのに。

今の私には明確な標的がいるのだから警戒する必要はない。

まあでも私にだけじゃないのかな。

平常通りに見せかけて煌炎も氷雨も戦闘に際して精神が昂ぶっているから、彼としてはあまり近づきたくないのかもしれない。

私と共にいて、何度か強い殺気をぶつけられているシルヴァはその辺りが麻痺しているらしく全然気づいていなさそうだが。

やっぱりシルヴァには野生の勘と言うか、獣の性というものがもう少しあればよかったのに。

そうすればとっくに私から離れていただろう。


「全力で私達の足場になるような、小さな箱状の結界を空中に浮かべて欲しいんだ」


ある程度先程の爆風で吹き飛ばされたとは言え、やはりかなり降り積もった雪は移動の邪魔になる。

だから群れへの接近はこうして結界を足場にした跳躍か魔術での飛行が望ましいのだ。


「ん、任せて」


「チッ……仕方ねぇ」


まったく相変わらずの答えだ。

苦笑しつつきちんと展開された結界に飛び乗り、何度か足で軽く踏んで強度を確かめた。

煌炎と氷雨も同様だ。

これで強度が足りないと大変だからね。

まあ合格ラインかな。


「まあまあか」


どうやら彼等の意見も私と同じらしかった。

本当にまあまあ。

可もなく不可もなくって程度だね。


「まだA+ですし、こんなものでしょう。

焔火も明星もお疲れ様でしたね。

俺達はこれで行きますので、剛毅と風音の指示に従いこの後はすぐに軍に向かうように」


彼等が頷いたことをしっかり確認して(例えそれがしぶしぶだったとしても)、煌炎は続いて残りのペアに目を向けた。


「剛毅と風音は、こちらの対応を頼みましたよ。

取りこぼしはなくすつもりですが、宵闇が減らしたと言ってもまだ五千はいます。

流石に一度に対処できるとは言えません」


「任せてん」


「全力を尽くす」


「いい返事だね。それじゃあ行こうか」


居残りメンバーに背を向けかけて、どうにも強い視線に私は苦笑した。

あのさ、気になるんだけど。


「シルヴァ、それ、止めてくれないかな?

そんな顔をするものじゃないと何度も言ったよね?」


「………ルナ」


「はいはい、何かな?」


「行ってらっしゃい」


ついシルヴァをまじまじと見つめる。

また愚痴じみたことを言われるかと思っていたけど、予想外だ。


「うん、行ってくるよ。君はただ私を待っておいで」


「待ってる」


「いい返事だ」


今度こそしっかり背を向け、私達三人はお互いタイミングを計った。

目を見交わして、一気に片足へ限界まで力を込める。


―――そのまま、跳んだ。

一瞬遅れて結界が負荷に耐え切れず弾け飛ぶ音が聞こえるけれど、その時には既に北要塞は遥か彼方。

気にする意味も無いだろう。よし、着替えよう。


「……こういった移動中に服を変えるのは貴女くらいのものでしょうね、宵闇」


「しかも毎回思うがどうやってんだ、それ?」


「魔法少女を参考にしつつ、きちんと周囲は布で覆うマジシャンの意気込みをプラスした結果だよ」


「全く分かりませんから」


それは知ってる。

苦笑して身軽になった体で再度跳ぶ。

少し寒いけれどこればかりは仕方がない。

弱い相手なら色々と着こんだ状態でもいいかもしれないが、今回ばかりはそうもいかないのだし。


「……真っ黒着てんの、初めて見たな」


「そうかい?まあ私は殆どが黒いからねぇ。

流石に陰気になってしまうと自覚しているから、普段は白とかが多いな」


でも今回は特別だ。

それに黒い服は以前神喰らいと戦った時だって纏っていた。

まああの時は途中で気づいた(・・・・)から、二日目の昼くらいからだけど。

これは言うなれば喪服だ。

アレを死へと見送るための正装。

でもそれを他人に知らせるつもりは無い。


「黒の方が血が目立たないだろう?

返り血をたくさん浴びてしまいそうだからね」


ただ黙っていることがあるだけでこれも嘘ではないし、いいだろう。

実際二人は納得したように頷いた。


「確かに言えていますね。

俺もそうすればよかったかもしれません」


「煌炎は白系統多いもんな。

その点俺は暗い色着てるし」


「オヤジだもんね」


「オヤジですからね」


「ヒデェ!!」


まあ確かに、煌炎の方が年上だろうにこれは酷い。


「氷雨、遊びはここまでですよ。

そろそろ始めますから」


「いや、俺で遊んでたのお前らだから」


「黙りなさい」


氷雨の文句を意にも返さず煌炎は剣を抜いた。

その様子に諦めたのか彼もため息を吐いて詠唱を始める。

――同時に二人は、平常通りのふりも止めた。

急激に膨らむ威圧感と殺気と、獰猛な戦いへの渇望。

それは群れの注意を惹くには十分すぎる程だ。


「では宵闇、まずは俺達であちらを呼び寄せますので」


「助かるね。しばらく経ったら私と神喰らいの周りを結界で封鎖するから」


「了解しました。

それでは、お互い武運を」


「うん」


その場で立ち止まった私と反対に、二人は更に加速して魔物達へと向かって行った。

もう群れは目と鼻の先だから私はしっかりとその様を目視することができる。


二人の力は対照的だ。

水氷と火炎。互いが互いを打ち消し合う力。

だからこそ二人が共に戦う時には背中合わせが多くなる。

そこから綺麗に半分は絶対零度、もう半分は灼熱の世界が形成されるのだ。


今のところ特に大物は見当たらなかった。

それこそ私達が怪我を負うようなものは、ね。

でもここは群れのほんの先頭。

神喰らいもまだ遠いし、弱いものしかいないのは仕方がないかな。

それに暴れれば暴れる程、魔物の血をまき散らし肉を削ぐ程、強い敵がこちらに呼び寄せられてくる。

だからこれが群れと戦う時に一番ベストなやり方だ。

少なくとも私達にとっては。


「……んふふっ、来たね」


こちらへ弾丸のような速さで向かってきた触手を握り潰す。

紛れもない、あの魔物のもの。

前に戦ったあれも、これと同じ触手を持っていた。

同じものを喰らったのか、それとも元が同一個体だったせいなのか。

やっぱり分からないな。

どうにも考察するのは難しい。


神喰らいはまだ遠かった。

距離としてはギリギリ普通の人間でも目で確認できる程度だろうか。

でもその瞳が確実に私を向いていることが分かる。

ねぇ、君も分かるのかな。私が同類だって。


そのまま敢えてゆっくりと足を進める。

私の存在に気づき向かってこようとする魔物がいても、それは炎か氷に必ず阻まれるから無駄だ。

私はこれで二人の力を買っている。

彼等が露払い役を申し出たのだから、きちんとその役目は果たしてくれるのだろう。

指を鳴らして強風を起こし、私と神喰らいの周囲を取り巻く魔物達を引き離す。


「【障壁】」


他のゴミのような存在に邪魔はさせない。

ある意味北要塞を覆ったそれよりも強い結界で私とそれを囲えば、もう準備は完璧だ。

誰にも、何があっても邪魔はさせない。


「ねぇ、神喰らい」


目の前の哀れで醜い化け物が唸る。


「君を殺すのは私だ。

他の誰だってそれは出来ないし、そんな権利も無い。

君を憐れんで殺すことが出来るのは私だけだから。

だから君にも権利をあげよう」


私だけがこれを殺す資格を持っていて、憐れむ権利を持っていて。

だから。


「君には私を殺す資格がある。憐れむ権利がある。

どっちが相手を殺せるだろうねぇ?」


首を傾げると同時に、私の体は敵へと向かった。

亜空間から取り出した長剣、かなりの重量だが私の今の体なら簡単に扱える。

左手で勢いよくそれを横に薙いだ。

そこから放たれる剣圧は神喰らいの魔術によって相殺され、同時に再び触手が蠢く。


「んふふふふっ、それじゃ私を殺せないよ。

ねぇ、ほら、理性のない化け物。

私を殺したいだろう?私を喰らいたいだろう?」


神喰らいは私の力を欲してる。

三人の中で私は比べ物にならない程の絶大な力を持っているのだから。

私を喰らい私の力を手にした神喰らいには、最早勝てるものなど存在しないだろう。

元々私とこれの持つ力は相性がいい(・・・・・)

きっとどんな魔物を喰らった時よりも力を得ることが出来て、得た力も万遍なく完璧に融和するに違いない。

そうしてこの世界を滅ぼすという結末に心惹かれない訳ではないでれど、今の私にはセイがいる。

彼を殺してしまうかもしれない未来は私にとって恐怖でしかないものだ。

それに彼に出会っていなかったとして、結局私はそれを選択できないだろう。

初めて神喰らいと戦い、その真実を知った時と同様に。


「ならもっと本気で来てよ!

私を殺して、骨を砕き血を啜って肉を咀嚼したい。

それが君の中にあるすべてだろう!?」


そう在れる君がいっそ羨ましい。

そう言ったら、君はどう思うのだろうね。

自我のない君に告げたとして、答えなど返ってこないことは分かっているけれど。


私の叫びに呼応するように魔力が結界内に満ちていく。

あぁ、化け物と呼ぶに相応しい力。

波長の似た、絶対的な汚らしいそれ。

堪らない。なんて心地いいのだろう。

口許が自然に歪み、私は我ながら狂った笑みを浮かべた。

正面から、私が先程壁の上から撃った魔術そのものが向かってくる。

―――それでこそ、だ。


「真似事なんて小賢しいね!」


剣を持たない右腕で受け止める。


「、ふふっ……!」


凄まじい圧力の全てがそこへと収着し、それに耐え切れず何か所からか肉が裂けた。

多少傷ついても仕方がない。

それにこちらもただで済ませるつもりは無いのだから。

背後で形成していた魔方陣から光の矢を放ち、視界を邪魔する触手を縫い止める。


獣のような金属音のような、形容しがたい絶叫が響いた。


「お相子だろう?

私も片腕が使えなくなってしまったんだから」


勿論動かすことは出来るけれど、神喰らい相手に有効な攻撃を放つことは出来ないだろう。

これからは防御の為に使うしかない。

なら状態としてはイーブンだ。


「【私を阻む総てを焼き尽くせ、神を灼く焔】」


詠唱なんてしたのは久しぶりだなんて暢気な思考と共に術を放つ。

本当にさ、これだから戦いは楽しい。

闇ギルドではエースの邪魔のせいで不発に終わった術式は今度こそきちんと発動し、結界内の全てを焼いた。

熱にのたうつ神喰らいは身体から翼を生やし上空へと飛び立つ。

無駄に上にもスペースを作ったのが間違いだったか。

だが結果的に縫い止められていた触手は全て根元から引き千切られ、神喰らいはボトボトと赤黒い血液で真白の雪を染めた。

化け物でも血は赤いなんて、どんな皮肉だろうね。


焔を操り神喰らいを追わせるが、どうにも速い。

あの巨体でここまで動けるのは意外だ。

前に戦った個体は動きが鈍かったから、変な先入観が入ってしまっている。

いけないな、そういうのは戦いで余計な隙を生む。


今の魔術は解除して、新しく身体に風を纏わせ同じく宙に浮かぶ。

ただでさえあちらの方が大きいのに、上から狙われたら面倒だ。

こちらは的が小さいという利点もあるけれど、同時に身体の大きなあちらの攻撃の直撃を受ければダメージが大きいという欠点も持っているのだから。


「邪魔な翼だね……斬り落としていいかい?」


否と言われたとして、私は実行するけれど。

剣を持ち神喰らいに接近する。

この羽は不死鳥のものだろうか。

仄かな火の気配と変色しているが所々輝く羽毛。

そう言えばあれは速さが売りの魔物だったっけ。

そして火を扱うからこそ、水気に弱い。


「【付加、水属性】」


剣に水を纏わせる。

出来るなら一撃で仕留めたいものだが、こちらの動きを制限するように展開される魔術が邪魔で確実にやれるかどうかは分からない。

――まず目を潰すか。

急転回して神喰らいの正面に回る。

翼に私が近づくのを感じていたからそちらばかり警戒していて、正面にくるという予測はしていなかったらしい。

僅かに見開かれた赤い瞳が容易く目前に迫る。


「片方もらう」


そこに剣を突き立てると同時に迸る絶叫。

近かったせいで少し耳が影響を受けた。

だが構っている暇はない。

その剣は刺したまま手離し神喰らいから少し距離をとった状態で水の刃を作り出す。

私の身の丈を優に超す大きさのそれを羽ばたく翼の片方へ向ければ容易に地に落ちていく巨体。

これで飛ぶことは出来なくなった。

片目も潰すことが出来たし、後はこうして滞空したまま何度か広範囲魔術をかければ終わるだろう。

そう大まかに計算して、再び体内で魔力を練った。


―――そして次の瞬間、身体を襲った衝撃に私は息を詰める。


あぁくそ、だから先入観を取り払わないといけなかったっていうのに。

神喰らいのそれと同様、私の赤が雪を汚す。


「……っ、………ぐ…」


グラついたが、どうにか飛行を維持し続けることが出来た。

せり上がってくる血を喉の奥で押し留める。

右の鎖骨付近を貫いた、拳程度の太さの先端の尖った触手。

もう全て本体から切り離したのだろうと、以前の個体は触手の自由な出し入れが出来ていなかったからそう思ってしまった。

その結果がこのザマだ。

恐らく隠し玉か何かなのだろう。忌々しい。

触手はすぐに私の体から離れたため、破壊することは敵わなかった。

しかも最悪な事にそれが障壁を破壊。

なにそれ、私の障壁破壊できるとか、どういうことだよ。

前の個体だってそんなことは出来なかったはずだ。


「っくそ………!」


更に障壁を破壊した触手があろうことか北要塞の方向に向かって行く。

根元から絶とうとした瞬間神喰らいの魔術で僅かに残った障壁の壁に叩きつけられた。

よそ見してるしてる暇はないって?全くだ。

おまけに障壁が一部分瓦解したせいで他の魔物が入ってこようとしている。


この個体、まさか北要塞を覆う結界の解析までしたんじゃないだろうな。

あの触手は私を貫いたのだ。

つまり私の血液をべったりと付着させているわけで。


恐らく、身体の回復の為に食料を求めたんだろう。

ここで神喰らいに更なる力をつけられると面倒なことになる。

それに北要塞にはシルヴァや剛毅、風音、焔火達がいるのだ。

全員を食した神喰らいの相手なんて、不可能ではないけれど面倒すぎて笑えない。

大体今から入ってくる魔物たちだって神喰らいの立派な栄養源だ。


「チッ」


亜空間から引っ張り出した式神を作りだす札を、そのままポッカリ開いた傷口に突っ込んだ。

あぁもう、痛いな。何が楽しくて自分で自分の傷を広げなきゃいけないんだか。

でもあれは触手の一部と言えど神喰らい。

下手な力しかない式神を放ったとして返り討ちにされるのが関の山だ。

―――だから、私と同等の力を持つそれが必要で。

それには普段の量じゃ足りない。


「私の代わりに、行け……!!」


取り出した札をそのまま転移させる。

目的地の座標は―――シルヴァだ。

位置座標なんてこの状況で考えてられないし、剛毅達の魔力の波長に沿わせている暇もない。

普段傍にいて念話などで慣れているシルヴァのそれに沿わせて転移させるのが一番迅速に事が運ぶ。

恐らく式神の方が早く着くだろう。

そこで剛毅達に連絡をとって、相手をさせないようにしないといけない。


破壊された障壁は全体の三分の一程。

派手な音がしたから煌炎と氷雨もこれに気づいただろう。

あちらは―――少し傷を負ってはいるが、それぞれ魔物に対処できなくなるほどの負傷ではない。

というか、どういうことだ?

神喰らいを除けばここにいる魔物たちはそこまで傷を負わされるような相手じゃない。

今までだって似たような討伐は何度も経験しているし、その時は皆怪我はしても全てかすり傷程度だった。

それがちゃんとした、傷と呼べるものを体に刻んでいる。


浮かんだ一つの仮説にゾッとした。

―――まさか、ね。


再び向かってくる神喰らいの魔術を阻む。

あまり深く考えてばかりもいられない。

敵はまだ目の前で牙を剥き、私を狙っているのだから。

それに、こうして深い傷を負わされてしまえば理性を保つことは困難だ。

もうすぐ私は本能のまま敵を蹂躙する化け物になる。


「君には私を殺す資格がある。

―――でもそうしたいなら、一撃でやらなければいけなかった」


もう体は私の意図しないところで動き始めているのだ。

目の前に立つ敵を、ただ殲滅せんと。


「ごめんね、神喰らい」


私だって何かが違えば―――きっとほんの些細な何かで、そちら側にいただろうに。

私はあれと同じ化け物で、だから本当はこんな風に、まるで私が正義であれが悪であるかのようなこの形は間違っている。

本当はどっちも変わらないんだ。でも、だからせめて。


「君を絶対に他の、この世界の人間の手にかけさせたくない」


君を殺すのが私であれるよう、私は持てる全ての力を振るおう。

君を殺してあげる。

私が渇望して止まない、自分以外の誰かの手による終焉を君に。




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