4-11
Side:Luna
感じる独特の気配。
少し前の時点では私と煌炎、氷雨しかそれに気づいてはいないかったようだけど、今ではこの場にいる全員が感じとることの出来る程濃く密度の高いそれだ。
気配だけでスイッチが入りかけるくらいには、ね。
シルヴァにはさっきああ言ったけれど、やっぱり心は逸ってしまうらしい。
私も二人もさっきから少しずつ速度が上がっているから。
私達は大概とても面倒臭がりで、なかなか自分から進んで依頼を受けようとはしない。
でも同時にやっぱり体が強すぎる力を解放したいと望んでいるから、こうしてそれに適う相手を察知すれば我慢などしていられないのだ。
今だってほら、六つの瞳がギラギラと彼方の獲物を見つめてる。
「……ははっ、いけませんね、どうにも」
「君はそういう人だよね。
いいじゃないか、本能に忠実で」
竜族は普段は温厚だけど、自らの敵に出会えばすぐに本能のまま相手を蹂躙する。
だから一度彼が敵と認識した気配を感じるだけでただの歩く災害の出来上がりだ。
「危ない奴だなー」
「そう言う君も顔が恍惚としちゃって。
舌舐めずりくらい我慢してよ」
この異様な食欲、本当に何なんだろうね。
量的なものじゃなく質――ただ魔物にだけ反応するらしいけど、氷雨もかなり異常者だ。
私が言えたことじゃないけど。
「やっぱ駄目だな、どうもこれは。
そっちの三人には悪いけど、色々抑えんのが難しくなってくる」
「数日前に討伐を終わらせてきたばかりの癖にねぇ」
「だよなぁ。でもあれは何度も食ったことあるやつが相手だったし、やる気出なかったんだよ。
それに比べて今日は………想像だけでもたまんねぇ」
イッちゃってる。
と言うかこれから戦う相手より氷雨の方が“神喰らい”の名に相応しいんじゃないだろうか。
「おい、見えてきたぞ」
先頭を走っていた焔火が声を上げた。
やっぱりスピードを出し過ぎたかもしれない。
予定より大分早く着いてしまったし。
にしても……
「……このまま行ってしまいたいなぁ」
「だよなぁ…」
「そこ、流石に許しませんよ。
迷惑をこうむるのは俺と下のランクの二人なんですから」
ピシャリと叱られた私と氷雨は、一緒にじっとりとした目で煌炎を見つめた。
そんな常識ぶったこと言っちゃってさ。
「戦いたくてうずうずしてるくせに」
「剣から手を離して言えよ」
「………余計な、お世話です!」
にしても話の最中他の三人がドン引きしたような顔でこっちを見ていたんだけど、一体どこにそんなに反応したんだろう。
北要塞には大きなギルド支部がある。
だから魔物の襲来を防ぐための壁を抜け都市の中に入った私達は後ろ髪を引かれつつ(だってやる気スイッチ入っちゃったし)そこへ向かった。
ランクSを持つ今回の増援もそこで待っているだろうし。
「にしても、君達は着いてくる必要はないんじゃないかい?」
しっかりと同行しているシルヴァと焔火、そしてレンを見つめる。
目が合えばシルヴァ以外からは即座にそらされたけど。傷つくなぁ。
「その通りですよ、まったく。
軍の施設にでも行けばいいでしょう。
造りも丈夫で万が一魔物がやって来ても安全ですし、元々そこまでレンを送り届けることが依頼内容なんですからね。
それをギルド支部まで着いてくるなどと…」
「ギルド員がギルドに行って何が悪い」
「まあ正論だな、こういう時でなければ」
焔火も懲りないと言うか、でもまあ普段の調子を取り戻してきたならよかったかな。
だって怯えられて縮こまられてもつまらないし。
「それに俺達も行って少しでも話を聞いておいた方が、緊急の対処とかがしやすいはず。
昨日の夜、ここの人間の相手――つまりSランクでは間に合わなくなった場合の警護をと言われた」
「おや、よく覚えていたね、そんなこと」
私の横から小さく意見した弟子を見つめる。
再び目が合えば駄目だろうか、とでも言うように小首を傾げられた。
うーん、段ボール。
「確かに言いました。
言いましたが、実際のところ俺達としては貴方達を関わらせる気は殆どありません。
警護もS二人で足りるでしょうしね」
「そんな、叔父上…!」
「なんです?」
反論でもしようとしたのだろう、声をあげたレンは問い返す煌炎の声にぐっと押し黙る。
その瞳は煌炎と私を交互に見つめた。
まあ今回は彼にも私にも怒られてばかりだからさすがの彼女でも学習したんだろう。
うんうん、いいことだ。
「まあもう向かってることだし、ここは折衷案でいいんじゃねえか?
お前ら三人はギルドに着いてくるだけ。
後は一階の公共スペースで待機だ。
俺達の話し合いは二階の部屋使うつもりだし」
焔火とレンは恨みがましげに氷雨を睨んだ。
私としてはいい案だと思うけどなぁ。
煌炎も納得しているようだし。
まああちらは二人に任せよう。
私はやっぱり自分の弟子の相手をしなければいけないようだし。
「ルナ………」
「私も氷雨の案に賛成かな」
「………」
「ふふっ、そんな顔をしたって駄目だよ」
今回は私にとっても特別な相手だから、正直なところ他人にかまけている暇なんてないのだ。
話なんて聞かせたらまた面倒なことになるに決まってる。
「少しだけ」
「駄目」
「ちょっとでいい」
「却下だね」
「……は、話を聞かないで突然の魔物の襲来に巻き込まれたら、もしかしたら俺、死ぬかもしれない」
苦し紛れの策なのだろう、少し躊躇するように紡がれた言葉。
でも私がそんなことには動揺するはずないじゃないか。
「おや、私の可愛い弟子はそんな簡単に死んでしまうほど弱かったのかな?
ということは君を育てたこの五年間はすべて無駄だったと言うことか。
それは残念だね、とても」
「違う、平気!
負けないし、死ぬなんてあり得ない」
「そう。なら話を聞かずとも問題ないね」
にっこり告げてやればしまったと愕然とする顔。
ふふ、本当にこういうところは子供だ。
少しそれらしいことを言えばすぐにムキになる。
「それにまあ、私達と一緒に聞かずとも追々Sの二人から話があるだろう。
彼らが必要と判断した部分を君達に話すだろうから、それだけ聞いておけば大丈夫だよ。
だから少しの間待っておいで」
「………」
悪いと思いつつ、面白くてつい笑いが漏れる。だってさ。
「あははっ、膨れっ面」
「仕方ないことは、分かってる…
俺が我が儘を言っていることも」
分かっているなら諦めればいいのに。
まあそれができれば苦労はしないんだろうけど。
下を向いてしまった彼は、本当にどうしようか。
まったく手のかかる子供だ。
「そんな顔をするものじゃないよ」
少し背伸びをして彼の頭を一度撫でる。
それでもまだ元通りとはいかなくて、しょんぼりした顔で見つめられてしまったけれど。
「君は私を待っていればいいさ。
説明も何もいらない、とても簡単な事だろう?
それに私は昨日最大限の譲歩をしたし、今だって氷雨達が譲っている。
あまり多くをねだるようなら、私にも考えがあるけれど?」
力付くでとか、いっそのこと師弟関係の消去とかね。
言いたいことが伝わったのだろう、シルヴァは固い表情で首を縦にふる。
うんうん、分かってくれたようで何より。
「それ要は脅迫じゃねぇか」
失礼な。れっきとした説得だ。
本当に、こういうところに柔軟性を持っていかないと色々駄目だと思う。
そんな駄目な氷雨にため息を尽きつつ歩いていればようやくギルドが見えてくる。
これから話し合い、か。
そういうのあんまり得意じゃないんだよね。
何も考えずに突撃しても殆ど怪我すらしないで終わってしまうから、そういう計画性とかが皆無なのだ。
威張れるようなことでは決してないのだけど。
「さて、あの二人はいるのかな?」
「もっちろん!到着済みに決まってるじゃなーい」
出入り口を開けながら発した私の一人言(のつもりだった言葉)に答えた特徴的な声。
隣のシルヴァがぎょっとした。
まあ彼は初めてあの二人に会うからそれも無理はない。
「お久しぶりですね、剛毀に風音」
「お三方ともおひさねぇ」
「元気そうでなによりだ」
「……!?………!!?」
シルヴァはどうやら初めて出会う人種に混乱しているようだ。
私も最初に彼等に会った時には少し驚いたなぁ…あ、こっちにもいるんだ、って。
「あらん?こっちのコがルナちゃんの弟子?
やだ、超イケメン!アタシ狙っちゃおうかしら」
「私としてはそれも構わないけれど、まずは自己紹介とかをした方がいいと思うよ。
彼――シルヴァは人見知りな上、君達のような相手に初めて遭遇したからね」
「やぁねぇ、遭遇、だなんて」
「オレ達をなんだと思ってるんだ?」
いや、でも何の心の準備もしていない人から見たら結構衝撃だと思うんだよね。
オネエとオレっ娘の組み合わせなんてさ。
剛毅の二つ名を持つ彼は正真正銘ランクSの人族で、外見はゴツめの男、なのに口調はオネエという難しい人物だ。
対してその相方で同様にランクSである風音は外見可憐な少女、口調はオレっ娘というこれまた外見と口調が全く一致していない鳥の獣人である。
ちなみに二人とも心は身体の性別と一緒らしい。
でも両方ともバイらしくて、恋愛の対象には男も女もいけるそうだ。
「シルヴァ、こっちの……うん、こっちのが剛毅といって、とにかくまぁ……なにこれ説明超難しいんだけど。
ともかくこっちが剛毅、こっちが風音。
ふたりともすごく自由人でね、さっき彼自身がそう言ったように男も女もそういう対象だから、まあ頑張って」
「!?」
「頑張って、とは何事だ。
ルナさんは相変わらず自然に失礼な事を言う」
風音はそう言って頬を膨らませた。
まあ違和感はない。
少なくとも剛毅がやるよりかは、全然。
実際オレっ娘くらいは結構普通にいるだろうし。
「悪気はないのだけれど」
「だがそんなところも愛おしいと思う。
何度も言うが、オレと付き合ってみないか?」
「!!?」
「ふふ、私も何度も言うけれど、少なくとも私にとって女の子はそういう対象じゃないんだ。
恋愛の対象じゃなく、ただ愛でていたいような感覚だからね」
「残念だ。煌炎さんと氷雨さんはどうだろうか?」
「遠慮しておきますよ」
「俺も貧乳は範囲外だからな」
「煌炎さんはともかく……氷雨さんは失礼だぞ、毎回」
「元気出して風音ちゃん。貧乳にも需要はあるわよ」
「……」
うーん、収拾がつかなくなってきた。
さっきから蚊帳の外な焔火とレンもそうだし(焔火の場合は自分からそうしているんだろうけど。彼はあの二人が苦手だから)、シルヴァもショックが強すぎるのか硬直。
残りは好き勝手に話を始めてしまっているし、誰かどうにかしてくれないかな。
「無駄話は後でいいでしょう。
それよりさっさと話し合いを始めますよ。
剛毅、部屋はとってありますね?」
そう思っていたところに丁度煌炎が区切りをつくってくれた。
流石は最年長と言ったところだろうか。
「もっちろんよん。
でもアタシ達五人だけだと思ってたから、少し狭いかも」
「それは問題ないぜ。
こっちの三人にはここで待っててもらうからな」
「そうか。ならば部屋に案内しよう。着いて来てくれ」
うんうん、スムーズに進んで何よりだ。
風音の先導で歩き出す前に煌炎がこちらを振り向き、視線を居残り組の三人に向けた。
……ああそう。働けってことね。
踵で床を一度踏み鳴らす。
そこから魔力が伸びシルヴァ達を包めばまあ、煌炎の意図した通りの結果になっているんじゃないかな。
戸惑った様子の三人には苦笑するしかないけれど、必要な措置ではある。
「守護とこの建物から出られなくする魔術をかけておいた。
悪いけど色々制限させてもらったから。
少なくとも私達が戻るまで戦い禁止、外出禁止ね」
「随分信用されてねぇんだな、俺達は」
焔火が皮肉げに笑う。
まあ実際その通りなんだけどね。
「だって君達、口ごたえが多すぎるんだから仕方ないだろう?」
「それは、そう、だけど…
別に俺はルナから言われたことなら守る」
「ふふ、君はね」
確かにシルヴァだけならばそんな心配は無用だけれど、そこに焔火とレンが加わるとそうもいかない。
彼はなかなか排他的な面も持ち合わせているから衝突する恐れもあるし、二人が勝手な行動をとり始めればそれをシルヴァだけで止めると言うのも無理な話だろう。
だから必要な措置なのだ。
「二人の為に必要なのさ。
シルヴァにはまあ……おまけのようなものだから。
それじゃあ行ってくるから、いい子で待っていてね、三人とも」
先に進もうとしている四人に追いつこうと手を振れば、予想通り二人からは反応が無いけれどシルヴァだけはこくりと頷き応えてくれた。
うんうん、良い弟子を持ったものだね。
「ルナ……行って、らっしゃい」
「ふふ、君にそう言われるのは何だか新鮮だ。行ってくるよ」
今までは大概私がそう言う側だったからそう感じるのだろうけど。
用意された部屋でそれぞれ席につく。
面倒だとは思うけれど、一応しっかりやろうという気はあるのだ。
それは私だけじゃなく不真面目な氷雨も同様で、私達は先程までのだらけた態度を改めた。
まあ空気感も大事だしね、こういうのは。
きちんと話がどこかの誰かに聞かれることのない様、結界などの対策もバッチリ。
「さて、今回の討伐ですが……二人の方は群れについて既にある程度情報を受け取っていますね?」
「あぁ。千を超す魔物の大群なんだろう?」
「種類も様々なんですってねん?
それも、リーダーがあの伝説級かもしれないんでしょう?」
どうやら私達が本部で受け取った情報そのままを聞いているらしい。
ならある程度話は早いかな。
「それですが、訂正がひとつ。
群れのリーダーは神喰らいです」
断定を示した煌炎に、二対の目が見開かれた。
「宵闇が一度神喰らいとの戦闘を経験しているという話は知っているでしょう。
その彼女が言ったことですから、まず間違いはありません。
こういったことに関する宵闇の感覚は異常なほどですから」
「おや、酷いね煌炎」
「事実でしょう」
まあ結構敏感なのは自覚があるけど、それとはまた別なんじゃない?
「神喰らい、か。まさかまた現れるなんてな。
ルナさんが倒した事すらあまり信じられていないことなのに、二体目か」
「でもアタシ達は実際に対峙しないんでしょ?
三人ともすっごくやる気だもの。
ギルドで待ってる間気配を感じて、思わず鳥肌立っちゃったわよ」
「わりぃな。つい」
どうやらここまで伝わる程、私達は色々と垂れ流し状態だったらしい。
揃って肩を竦める剛毅と風音に苦笑を返す。
だって、ねぇ?そういう生き物だし?
「まあ結局のところ、オレ達はこの群れから離れた魔物が北要塞に侵入する前に対処するだけでいいんだろう?」
「そうですね。本部から通達されているでしょうが、群れに向かうのは俺達だけです」
「そうしないと巻き添えにしてしまいそうだしね」
神喰らいがいて、それが率いる千以上の魔物の群れを相手取るとなると私達も大技を使う。
それにあたっても問題が無かったり、攻撃をきちんと避けることが出来るなら別だけど、流石の二人でもそう簡単にはいかないだろう。
「それに私の戦いのデータを見たなら分かると思うけど、神喰らいは広範囲攻撃が可能だ」
それは喰らった魔物やその他の生き物の能力を取り込んだことで可能になる事だろう。
私が前に戦った個体は体に何本もの触手を持っていたし、魔術を使うことも出来ていた。
それを避けつつ他の魔物の相手をして、更に自分以外の仲間の攻撃から身を守るのだ。
流石にSSじゃないと荷が重い。
「わかってるわん。
アタシ達もそこに入りたくないもの」
「そうだな。大人しく後衛に徹しよう」
「それならば何よりです。それと、懸念要素がひとつ。
あなた達も馬鹿ではありませんから気づいているでしょうが、俺と宵闇の弟子、それと俺の姪がこの件に首を突っ込みたがっていましてね」
あぁ、それもあったんだっけ。
もうすっかり終わりの気持ちでいたけれど、確かにそれは注意が必要だな。
ただ氷雨が自分は関係ないとばかりにそっぽを向いているのが気に食わない。
「なんだ、ここに来たのはそういう事か。
確か護衛の依頼を今日まですると聞いていたけど、護衛対象はさっきの女?」
「そうです。レンといいまして、“帝国”軍第十番部隊長を務めています」
「それが煌炎ちゃんの姪なのね。
シルヴァちゃんと焔火ちゃんは確かランクA+だったかしらん?」
「そうだよ。ランクだけ見れば君達の一個下になるけど、実力的にはまだまだかな。
A+の中で真ん中くらいって感じだと思う」
A+は全部で七人だから、シルヴァと焔火の上には更に二人の実力者がいることになる。
でもその二人も剛毅達にはまだまだ及ばない。
「じゃああんまり使えないのねん。
そうなるとちょっと邪魔かも」
「そうだな。正直引っ込んでいてくれるのが一番の協力だ」
やはり二人が出す結論も私達のものと同じようだ。
でもあの三人、変な風に頑固だからそれで納得するかなぁ。
「それで納得しないから懸念事項なんですよ…」
あ、煌炎もまったく同じことを思っていたようだ。
そこで面倒そうに氷雨が口を開く。
どうやら飽きたらしい。
「まあ基本は手出しさせないで北要塞の中に置いておけばいいんじゃねえか?
もし街の中に魔物が入ったならそこで対応してもらう、とでも伝えておいて。
お前らが魔物を取りこぼさなきゃそれも防げる事だしな。出来るか?」
確かにそれが一番の良策だろう。
ある程度三人も納得するし、剛毅と風音がいて魔物を取りこぼすこともなさそうだ。
にしてもわざわざ挑発するような言い方しちゃって。
「あら、誰に言ってるのよ氷雨ちゃん」
「まったくだな。
三人には及ばないが、これでもオレ達はマシな力を持っている」
「あははっ、マシって。
そんなに自分を低く見積もらなくてもいいよ」
つい笑ってしまった。
だって言うに事欠いてマシって。
これでもこの二人はギルドで五本の指に入る実力者なのに。
「その通りですね。
あなた達二人が揃えばその辺の実力者は束になっても敵わないでしょう」
「お前らが言うと皮肉っぽいぞ」
「そう言う氷雨さんの言葉も皮肉っぽくオレ達には感じる」
あれ、そうかな?
私としては感じたままを言っているのだけど、二人としてはそう感じるのだろうか。
でも事実のはずだ。特に二人の時は、ね。
「盾と矛が揃っているんだから、何も問題はないだろう?」
私の言葉に二人は互いを見合って笑みを浮かべた。
この二人は互いを至上のパートナーとしていて、パーティー登録だってしている。
元々二人で強くなってランクSに上がってきたようなものなのだ。
攻守をそれぞれが担った二人のコンビネーションはかなりのもので、他の追随を許さない。
剛毅は守り、風音が攻撃を行うため、二人合わせて矛盾ペアだとか呼ばれている。
「宵闇ちゃんにそこまで言われちゃミスるわけにはいかないわねん」
「そうだな。それにオレ達のペアとしての力量に関わってくる」
「ふふ、期待しているよ」
これで話し合いも終わりだ。
なんだ、十分くらいしか経っていないし、結構速く済んだな。
しかしうんと伸びをして立ち上がりかけた私を煌炎が留めた。
「宵闇、貴女は俺達と群れへの攻撃について話し合いです。
氷雨も、そういう事ですからきちんとするように」
「え」
「まだあんのか?」
「当然です。
そちらの二人は先に戻って、下の三人を見ていて下さい。
ついでに説明も済ませておいてくれるとありがたいです」
てきぱきと指示をする煌炎だけど、私と氷雨のテンションは急下降だ。
もう話し合うことも無いと思ったのに。
「それと、三人には今回の相手が神喰らいであることを伏せるようにして下さい。
騒がれたらかないませんからね」
「わかった。それじゃあオレ達は先に下りている。一階にいるから」
「ルナちゃんも氷雨ちゃんも、頑張ってねん」
軽く、本当に軽いノリで応援されて私達はじっとりと立ち去る背中を見つめた。
他人事だと思って簡単に言うが、私だってもう終わりにしたい。
討伐の決行は夕方からで、今はギリギリ午前中だから昼食だって摂りたいのに。
「そんな顔をしても無駄ですよ、宵闇」
「なんだい、私はいつも通りの顔だろう」
「どこがですか。
それにこの話し合いは貴女のためでもあるんですよ?」
「うん?どういうこと?」
私のためって、私のためを思うならそれこそ話し合い自体やめて欲しい。
けれどそう思った私とは対照的に氷雨には通じるようで、彼はわざとらしく手を叩き納得の声を上げた。
「あぁ、なるほどな。確かに必要だわ」
「意味不明だ。分かるように説明してよ」
「いえ、どうにも貴女は一人で神喰らいの相手をしたいように感じたので」
急に遠慮がちになった煌炎の言葉に思わず瞬く。
「……よくわかったね」
これは本音だ。
だってこの二人が気配に聡くなったのは分かっていたけど、まさかそんなことまで気づかれるとは思っていなかったから。
確かにまあ、それは当たっている。
神喰らいは私にとって良くも悪くも特別だ。
だから出来れば一人で戦いたいとは思っていた。
「何となく、ですが。
神喰らいに対して、なにやら思い入れがあるように感じたので」
「ちょっといつものルナって感じじゃなかったからな。
まあお前がそうしたいなら俺は露払いに回るぜ?」
氷雨の提案に煌炎も構わないと頷く。
うーん、察しのいいと言うか空気の読めるセンパイをもって私はなかなかの幸運だ。
「じゃあお願いしようかな。
実のところどうしようか考えていたんだ。
事前に言っておくべきか、何も言わずに結界で遮断するか」
どちらでもいいと思っていたし、だからこそそれ自体を忘れていたのだけど。
ここで言われなかったらたぶん直前になって言うか、戦いが始まってから結界を張って誰にも手出しできないようにしていただろう。
二人は呆れ顔でこちらを見つめているが。
「事前に言って下さい、まったく」
「急にそんなことされるのは絶対御免だぜ。
別に反対はしないっつうの。
反対したらこっちが痛い目見そうだし」
「最後の氷雨の言葉はどういう意味かな」
別に問答無用で攻撃とかはしない。
ただちょっと話し合いするだけだ。
「じゃあセンパイ達のお言葉に甘えさせてもらうよ。
何があっても手出しはしないでね?
まあ私と神喰らいを囲む結界を張るつもりだからどっちみち無理だろうけど」
結界は手出しを防ぐためのものでもあるけど、同時に神喰らいの攻撃が私以外に行かないようにするためのものでもある。
うん、私ってば気遣いも出来る良い後輩だな。
「その呼び方ヤメロって言っただろ」
「本当に貴女という人はこういうところが…」
二人はかなり渋い顔をしているけど。
そんなに嫌がらなくてもいいのに。




