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限りなく人っぽい何かと銀と金  作者: 美羽
黒色の思慮
42/178

4-10*

Side:Silva



昨日の夜は色々と大変で、色々と……本当に、大変だった。

まさかあんなに泣いてしまうとは思わなかったのだ。

これはただの討伐で、別に今生の別れでも何でもないもので。

でも同時にルナが俺とは別に依頼を受けるなんて初めての事だったから、自分でも思った以上に動揺したのだと思う。


今まで俺はルナから言われて一人で依頼を片付けることが何度かあった。

それらは全て一日で終わるもので、何よりルナはそんな俺を仕事にも行かずただギルドで待っていてくれた。

だから安心だったし、俺だって早く依頼を終わらせてしまおうと気合が入った。

でも、今回はその逆なのだ。

俺はただ彼女の帰りを待つことしか出来なくて、もしかしたら俺が知らないその瞬間に彼女が傷つくかもしれなくて。

――なにより、そんなことは有り得ないのだろうけど、もしルナがそのままどこかへふらりと俺を置いて行ってしまったら。

そんな不安が俺の胸に蔓延るから。

待つことは俺にとってとても我慢ならない、苦しいことだ。


「シルヴァ、落ち着いたのかい?」


じっと寝転びながら俺を見つめるルナと目が合って、そして自然と彼女の唇へと――その奥に隠れた舌へと向かってしまうのは、俺のせいだけじゃない。

ルナが、あんなことするから。


「……ん。平気」


「そう。それじゃあ食事にしよう。

他の面子もそろそろ待ちわびているだろうから」


彼女にとっては全然大したことではなくても、俺にとっては違うのだ。

何でもないように過ごす彼女が少し恨めしいけれど、ルナは何も分かっていないから仕方がない。

彼女は俺の想いに全然気づかないから。

大体、獣人がああして泣いている相手の涙を舌で拭うのは相手が幼子――それも乳飲み子の頃だけだ。

勿論そうではない場合もあるけど、それこそ…………恋人同士とか、それくらいなのに。

そうやって本人にそんなつもりもなく俺を動揺させて困惑させて、今までよりもっと夢中にさせようとするのだから、ルナは酷い。

それにこれから泣いたときにはこうすればいいって、そんなの………俺に、どうしろって言うんだ。

一応俺も男だから、好きな人に泣くところを見られたくはない。

でもあんな風に涙を拭ってくれるのならそれでも―――なんて、そんな馬鹿みたいな考えが浮かんでしまう。

それもこれも、絶対ルナのせい。


「………?どうかしたのかな?

何だかこう……不満そうな、拗ねているような顔をしているけど」


「気のせいだと思う。

もう行こう?俺もルナも空腹」


そしてそんな思いも不思議そうに首を傾げられてしまえば霧散する。

だって昨日もそうだけど、こうしてほぼ無表情に近い俺の表情を読み取って問いかけてくれるのはルナだけで。

彼女はいくらか一緒にいればそれも当然だと言うけれど、俺はそうじゃないと思うから。

だから結局、俺の中には彼女への恋しさだけが残るのだ。

やっぱり、ルナは酷い。


「うん、そう、だね…?」


まだ不思議そうに首を捻る彼女の手を引いて部屋から出る。

ルナは鈍いから仕方ない。

気づいてもらえなくとも俺が言えばいいだけだけど、それは俺がもっと強くなってから。

ルナの弟子じゃなくなる時に、言いたい。


「遅かったですね、二人とも」


「待ちくたびれたぜ」


用意された食事のための個室に入れば、すぐさまそんな声がとんできた。

煌炎と氷雨。どちらも昨晩、ルナに対する恐れを見せなかった者達。


「すまないね。ちょっと準備に時間がかかったんだ」


ルナも特に昨日の事を気にする様子もなくそれに答える。

すこしだけ羨ましく、憎らしい。

あの二人はルナに近い実力を持っていて、負けることはあっても恐れを示すことはなくて。

俺だってもうすぐそうなってみせるから、いいけれど。


「構いませんよ。どうせまた明星と色々あったのでしょう」


「うん、まあ当たっているね」


煌炎の言葉に肯定を示し、ルナは手をほどいて席につく。

俺もその隣に腰掛け、目の前に座る黙ったままの焔火とその隣の護衛対象を観察した。

どうやら焔火が今日攻撃を仕掛けてくることはなさそうだ。

昨日の昼に話した通りならそれも無理は無い。

昨晩ルナの機嫌を損ねてしまったのだから、今日手出しをすれば下手をすれば消されるとふんだのだろう。

そして同様に護衛対象も。

明確な殺意をぶつけられ、隠されていたルナの力を目の当たりにして。

それでやっと、周囲の今までの忠告が真実だったのだと知った。

今はただルナに怯え、息をひそめるようにしている。

まるで捕食される側の小動物か何かのようだ。


「ところで煌炎、今日はどうやって移動するんだい?

討伐は今日の日暮れ時から。

それまでに彼等を北要塞まで送り届けなければならないだろう?」


ルナは黙った二人に欠片も意識を向けていないようだった。

興味が無い、ありありとそんな感情が伝わってくる。

きっと俺も昨日何もしなければこんな風にされていたのだろう。

それを思えば危険な賭けだったけれど、あの時彼女を止めて良かった。


「そうですね……もう目的地までは近いですし、少し急ぎますか。

かと言って今貴女達に魔術を使わせるのも魔力の無駄遣いでしょうから、地道に歩きます」


「そう。じゃあ木の上か。シルヴァは平気だけれど、そっちの二人は?」


「問題ありませんよ。それくらいは躾けてあります」


どうやら今日の移動は木々の枝を足場に進むことになるらしい。

確かに地上を歩くよりも素早く、魔物に遭遇する確率も減って一番いいだろう。

それに木の上なら護衛対象と並ばなくとも文句は言われない。

昨日もあれは横で色々と煩かった。


「なら安心だね。早めにあちらに行って、辺りを見ておこうか」


「お、ルナにしては珍しく慎重だな。

いつもはそんな事しないで突っ込んでくくせに」


「仕方ないだろう?

相手が相手だからね。今回の依頼は特別だ」


肩を竦める彼女の言葉に引っかかる。

今回の相手はそれほどまでに強い魔物なのだろうか。


「……ルナ、今回の群れのリーダーは、何の魔物?」


「うん?それは内緒」


「………」


内緒だなんて。でも逆にこれで確信できた。

今回はたぶん、俺達のことを気にしていられないような相手なのだ。

だからこそ煌炎や氷雨もこぞって俺達を討伐の場に来させないように指示している。

そして昨夜怪我をしないでと望んだ俺に、ルナも頷かなかった。


「ルナ…」


「教えないよ。これはSSの依頼だから。

君には関係のない事だろう、シルヴァ?」


「うわぁ、ヒデェ物言い」


「氷雨、茶化さないでくれないかな」


彼女は頬杖をついて嘆息した。

面倒さを隠しもせずに氷雨と、俺を見つめる。


「本当に君は困った子だね」


「でも昔、それでいいってルナは言った」


「………まあ、そうだけれど。

でもこればかりは困った子では困るよ。

いいから君は何も気にせずに北要塞で待っておいで。

そうすれば私も昨夜君が望んだ通りのことを叶えよう。

――勿論、私が頷いたことだけだけれど」


つまり怪我をしないと言うのは叶えてくれないということだ。

不満ではあるけれど、同時にあまり深入りしていい訳ではないというのも理解している。

ギルドの決まりは守らなければならないルールだ。

それを破っては俺もルナも除名されることに繋がる。

結局は俺の実力が伴っていないことが原因なのだし、何よりルナはなるべく怪我をしないように努めると約束してくれた。

これはきっと彼女にとって最大限の俺への譲歩。

護衛対象を殺すことを止めてもらって、そんな我儘まできいてもらった。

ならこれ以上あまり多くを望んではいけないことも分かっている。

俺はルナにずっと望み続けると決めたけれど、だからと言って望み過ぎることはよくないから。


「……わかった。我慢する」


渋々ではあったけれど頷けば、ルナは一瞬意外そうな顔をして笑みを深めた。

怪しい雰囲気が漂い、唇が弧を描く。


「いい選択だね、シルヴァ。

君は本当に答えを選び取るのが上手い」


「………ありが、とう?」


これは褒められているのだろうか。

よく分からないけれど、でも何となくそう言ってしまう。

言われた側であるルナはそれに対しても愉快そうに喉の奥で笑みを漏らしたけれど。


「話は纏まりましたね?

では食後準備をしてすぐにここを出ます。

北要塞の周囲の状況を探るだけでなく、そちらに到着しているであろうランクSとも色々と連携をとっていかねばなりませんから」


「あ、そういうのもあったんだっけ」


「忘れてたのかよ。総代にドヤされるぜ?」


「仕方ないだろう?ああもどうでもいいオヤジ達と酒の席を共にしなければならない状態で、色々億劫でたまらなかったんだ。

皆酒を注げ注げうるさいし。

何で接待される側の私が接待しなければいけないのか、今も納得がいかないね」


やっぱり本部に行った夜は酒宴を催されたらしい。

ルナにそんな風に接待されたなんてうらやまし……ではない、迷惑な年寄り共だ。

おかげで帰ってくるのが遅くなったし、氷雨などといういらないオマケがついてきて一緒に寝られなかった。

昨日の事で忘れていたけれど、一昨日はかなり最悪だった。


「でもまぁ、確かSのあの二人が両方来るんだよね?

なら楽しみだな、久しぶりだし」


「そう言われれば俺も最近は顔を見ていませんね」


「俺は一年前ぐらいに会ったぜ?

相変わらずだったがな」


「へぇ、ますます会うのが楽しみじゃないか」


「それは貴女だけでしょう……」


「そう?――さて、私はそろそろ部屋に戻ろう。

北要塞に向けて出発する前にそっちの空気になっちゃってる二人をどうにかしておいてよ。

そんな状態じゃちゃんと歩けるのかすら不安になる」


にっこり笑んだルナはそう言って最後に残していたらしい果物を咀嚼してから立ち上がった。

俺も彼女に合わせて食事を進めていたから同時に食べ終わってそれに続く。

焔火にも護衛対象にも、俺は興味が無い。

だからルナの言ったことは煌炎と氷雨がすればいい。

というか、そもそも煌炎の管轄だろう。

同じくそう思ったのか氷雨もいそいそと全ての料理を口に含んで席を立つ。


「じゃあ俺も。ルナ、ちょっと頼みあるから少し時間いいか?」


「うん、構わない。それじゃあ煌炎、頑張ってね」


「ちょっ……貴女達は揃いも揃って…!」


面倒そうに顔をしかめる彼の事は見ないふりをするらしい。

そちらを振り返らずに簡単に手をふる彼女に続いて俺も氷雨も部屋を出た。

それにしても、氷雨の頼みごととは何だろう。











結局氷雨の頼みごとが何だったのか、教えてもらうことは出来なかった。

後で分かるから楽しみにしているといいと言ってルナに追い出されてしまったのだ。

仕方なく先に準備を済ませて宿の外で待っているけれど、正直納得がいかない。

我ながらぶすくれた顔をしているだろう状態で木に寄りかかりながら他の面々を待つ。

そうしていれば足音と声が聞こえて、俺は自然と顔を上げた。

その時にはもう不満気な表情も鳴りを潜めているのだから俺も単純だと思う。


「ルナ」


「ふふっ、お待たせシルヴァ。

見てごらんよ、氷雨のこと」


ルナは愉快そうに笑って背後にいた彼を示した。

それに従い視線を向けて―――思わず首を捻る。

目の前にいるのは匂いから言って確かに氷雨だろうが、けれど顔が違う。


「顔、変わってる」


「……っ、あっはははは!

顔変わってるって、ふふっ、本当、正直だね、君ってやつは!!」


俺の言葉のどの辺りがおかしかったのかは分からないけれど、ルナはとても面白そうに爆笑した。

氷雨はかなり渋い顔で眉間に皺をよせている。

顔が変わっている、というのは確かに言い過ぎかもしれない。

彼の正確な変化を言葉にするなら、顔が変わったと言うより――


「若返ったって言え、ったく」


そう、それだ。

先程まで確かに四十代程度の外見だったはずの彼は、今や二十代――つまりルナと同程度の年頃に見えるような体になっている。髭もないし。

これがルナに対する頼みごとだったのだろうか。

でも、人を若返らせるなんてどうやったのだろう。


「ふふっ、氷雨は河童のようなやつだからね」


「かっぱ?」


「おい、何度も言ってるけどそれ意味わからねぇからな」


「あぁそっか、ごめんごめん。

シルヴァはどうやって私が氷雨を若返らせてあげたか知りたいんだろう?」


「そう」


どうにか笑いをおさめたらしい彼女は未だ苦しそうに噴きだすのを我慢している。

相当ツボに入ったらしい。

そして何かを企むような眼差しをひとつ、氷雨と俺に向けた。


「実はね、人魚の亜人というのはある条件を満たすと体が最も能力の優れている時期のものに変化するんだ。

つまり今の氷雨の状態だね。

今日はSSの討伐があるから特別に私が協力してやったのさ。ね、氷雨?」


「まあそうだな」


「条件というのは?」


ルナに頼むという事は、ルナにしか出来ないことなのではないのだろうか。

そう思い問いかければルナはうーん、と小首を傾げた。


「本当はあまり他人に知らせるものでもないのだろうけど、まあ君だし仕方がない。

人魚は異性からの口付けで体が変化するんだよ。

ここにいる女は私かレンだろう?

でも流石に何も知らない彼女にキスを求めるのは氷雨としても――あれ、どうかした、シルヴァ?」


口付け。異性からの。キス。

今氷雨は若返っていて、それは条件を満たしたからで、その条件はさっきも言われたそれで。

つまり、この目の前の男は、ルナから、キスを


「いやいやいやいやいやいや!!

冗談だぞこれ本当にルナの趣味の悪い冗談だって!

ルナも何か言えよシルヴァが本気に取ったじゃねぇかどうすんだよ俺剣向けられそうになってる!!」


「……うーん?おかしいなぁ、私なりのジョークだったのに。

ごめんねシルヴァ、そこまで信じるとは思わなかった。

さっきのは冗談だよ。だから剣を向けるのはやめてあげて」


「…………本当?」


自分でも思ったより低い声が出た。

ルナの言葉を聞きながら、目線は氷雨から外さない。

だってルナがこれを庇ってる可能性だってある。


「うっわ怖」


「ごめんね、怒ってしまった?

うーん、驚く反応が見たかったんだけど、行き過ぎてしまったか。

本当の条件は綺麗な真水を体に浴びることだよ。

河童みたいだって、さっきも言ったろう?

水を浴びると元気になるんだ」


そう言ってルナは躊躇なく剣の前に出て俺の頭を宥めるように何度か撫でた。

そうされると、不思議と黒くてドロリとした感情がおさまる。

どうやら彼女の口ぶりからいって本当の事らしい。

確かにルナは綺麗な真水を用意できるし。

闇ギルドで水鏡の魔術を扱う時にやっていた手法を用いれば簡単な事だろう。


「………うん」


「よかった。機嫌は直った?

おかしな冗談を言って悪かったね」


「別に、いい。でもこういう冗談はあんまり好きじゃない」


ルナが誰かとそういう事をするなんて、冗談でも絶対に聞きたくない。


「わかった、今度から気をつけよう」


たぶんその意図はルナ本人には伝わっていないのだろうが。


「俺、単純に巻き込まれただけじゃねぇか……」


氷雨はそう言ってため息を吐くけれど、そもそもが意味深に二人っきりになるからいけないのだ。

つまり当然の報い。

でもルナにああ言われたし、一先ず剣はおさめなければいけない。

それにやっとルナが来たんだから、剣を持っていたら両手がふさがって触れられない。


「………こうすることに意味があるのかい?」


「ある。俺はああいう冗談があまり好きじゃないから、言われて傷ついた。

だからこうやって心を癒してる」


「君は相変わらずよく分からない子だねぇ」


「俺はお前らがわからねぇよ…

てか心理的にも肉体的にも疲れてるのは俺だろ」


それは氷雨も俺のようにルナを抱きしめたいということだろうか。

なら氷雨は目下のところの敵だ。

再び睨みつける俺に、氷雨は否定を返しつつため息を吐いた。


「煌炎達早く来い…」


俺としてはゆっくりでいい。

その間こうやってルナに触れていられるから。











それから煌炎達もやって来て、俺達はすぐに街を出発した。

少し速いペースで北要塞に向かい、昼にはあちらに着く予定だ。

今日は木々の上を通るためきちんとした隊列を組むことはしない。

だからこそルナの近くに堂々といられる。


「魔物はいないようだね」


「まあ、近くに群れが発生していますから。

それにしても氷雨まで嫌にやる気ですね。

既にその姿になっているとは思いませんでしたよ」


「おかげで俺はシルヴァに剣を向けられたけどな…」


「は?」


その場に居合わせなかった煌炎としては意味不明だろう。

まあ俺も特に語る気はないが。


「ふふっ、少し冗談で羽目を外し過ぎてしまったんだ。

にしてもそんなに楽しみかい?

群れのリーダーの肉を食べることが」


「……肉を食べる?」


つい聞きなれない言葉が耳に入り思わず聞き返す。

同じく聞こえていたのだろう焔火も嫌そうな顔で口を開いた。


「まだそんな悪趣味なものを続けているのか」


「なんだよ、美味いんだぞ?

それに悪趣味じゃなく、未知への探求心だ」


「うーん、それに対しては私も何も言えないな。

魔物の肉には当たり外れがあるからね。

前に食べたワイバーンの肉は固くて噛むのが大変だった」


……ルナもたびたび付き合っているらしい。

そう言えばドラゴンの肉でバーベキューをしたこともあるし、それは氷雨の趣味に付き合わされたことで影響を受けているのかもしれない。


「なんだよ、ルナだって一応良い思い出もあるだろ?

特に不死鳥の肉は最高だったなぁ……」


「あぁ、あれは確かにかなり美味しかった」


「そうですか?俺としてはああいうものよりも雷獣などの方が口に合いますね。

不死鳥は少し肉が持つ甘みが強すぎます」


「雷獣のは少しスパイスが効きすぎていたじゃないか。

雷の名の通りピリピリしたよ。

私はマイルドな味が好きだから、それで言ったら光竜の肉の方がまだいいかな」


「まあ確かに、あれは万人受けしやすい味ですね。

その代わり個として味の面白みがありませんが。

面白みで言ったらアラクニーなどでしょうか。

あれは何とも言い難い食感と味でしたし」


「……虫を食べるのは、生理的に無理。絶対嫌だ」


「そう言えば貴女は頑として口にしませんでしたね。

意外なところで繊細と言うか」


「だって気持ち悪いじゃないか!」


「俺はどれも好きだ」


「………」


やはりランクSSともなると、どこか他とはズレた感性を持っているようだ。

魔物の肉についてこうして語り合うなどと、他はまずしないだろう。

しかもそのどれもがギルドランクA以上の魔物に分類されるものなのだから、やはりSSは違う。

でもルナがそんなに美味しいと言っているなら、今度一緒に不死鳥の討伐に行ってもいいかもしれない。

美味しいものを食べて嬉しそうに相好を崩す彼女はとても可愛いから。

そして虫を食べられないことも覚えておこう。

でも討伐自体は平気そうだった。

近寄ることも怖がってくれたらすごく役得………いや、苦手なものが少ない事は、ルナにとって良いことだ。


「ふふっ、慣れていない君達にとっては少し戸惑いの方が大きいかな。

今日の魔物の群れのリーダーも、倒したら食べるつもりなんだ。

そうしたら一緒に食べよう。

Sの二人も呼ぶ予定だし、皆で宴会だね」


「ん。楽しみ?…にしてる」


果たしてそれが美味いのか不味いのか。

味が全く予想できない以上何とも言えないが、せっかくルナが誘ってくれたのだから頷かない手は無い。


「……でももしかしたら、それも出来ないくらい…」


にこにこと微笑んでいた彼女が急に表情を消し、進行方向の空を見つめる。

じっと視線をそらさず向ける先には、何かが見えているのだろうか。


「ルナ……?」


「……あぁ、何でもないよ。

少し考え事をしていてね。……煌炎、氷雨」


ルナの呼びかけに前を進んでいた二人が反応する。

その様は今まで軽口を叩いていた時とはうって変わって、真剣な表情を宿しつつ戦意でギラギラと瞳を輝かせていた。


「どうやら彼等の予測は当たっていたようだ。

んふふっ、まさかまた会えるなんて、思わなかったなぁ」


「それは、それは。

あんなものを貴女と並んで相手取るなど、光栄ですね宵闇」


「俺ら単体でいけんのか?

実際やったことあんのお前だけだし、いまいち読めねぇ。

まあ存在感は相当だがなぁ」


「さあねぇ。私としてもあの時のアレとどれだけ違うのか、予測できないな。

でも私がやったものよりは弱いんじゃない?

あんまりゾクゾクしないし」


「貴女にそう言われては、あちらも形無しでしょうね」


「だろうな。じゃあ俺らでもどうにかなるわけだ」


俺達三人には分からない、主語のない会話。

視界の端で滲み出る威圧に怯えたのか、護衛対象は顔色を悪くした。

だがそれにかまけている暇はない。


「ルナ、急ぐ?」


「………」


俺の問いかけに、愉悦と狂気に瞳を染めていた彼女は未だ微かにその色を残したまま不思議そうに瞬いた。

けれど直にうっそりと笑み、瞳を細める。


「いいや、構わないさ。

楽しみは後にとっておくものだって、いつか君にも教えたろう?」





昨夜活動報告に小話:文化の日を追加しました。

お時間のある方は覗いて下さると嬉しいです。

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