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限りなく人っぽい何かと銀と金  作者: 美羽
黒色の思慮
41/178

4-9

Side:Luna



部屋に戻ってお互い寝る準備も済ませて、それでもシルヴァの表情は変わらず何とも言えないそれのままだった。

一体どうしてそんな顔をしているんだか。

彼の望みはきちんと叶っただろうに、そう不満そうにされてはまだ何かあるのかと気になってしまう。


「……どうしてそうしかめっ面をしているんだい?」


もう先程までの憎悪もおさまって、私の心は普段の通り平静だ。

仕方なく眠るため明かりを消した室内でベッドに寝転びながらそう問えば、身体に回る腕が一瞬ピクリと反応する。

けれどシルヴァ本人は何でも、と口にするばかりで答える気はなさそうだった。

やれやれ、この子供はまったく手がかかる。


「何か怒っている……いや、不満そうな、拗ねている顔だね。

それと少し何かを不安に思っているみたいだ。

そうも分かりやすい表情をつくられて気にするなと言う方が無理だろう?」


「……俺の顔は、無表情」


「ふふ、まあ大体はね。

でも案外君の表情は分かりやすいよ。

コツを掴んでしまえば簡単だ」


例えば目の動きとか、そういう感じ。

こんな風に弟子の感情を簡単なものなら察することが出来るようになるなんて、私も師匠らしくなったなぁ。

少し自慢するような響きを込めてそう言えば、彼の腕の力が強まり更に体が密着した。

胸に顔を埋めるような感じ。でもシルヴァは女じゃないから胸で窒息することも無い。

うん、助かったと言えば助かった。


「そう言うのはルナだけ。周りは分かりにくいと言う」


「そりゃあ私は君とはそれなりに長い付き合いだ。

当然と言えば当然だろう?

周りの人間もずっと一緒にいれば分かるようになるんじゃないかな」


「周りは別に、どうでもいい」


「自分から言い出したくせに、おかしな子だね」


つい笑えばやはり拗ねたような空気が伝わってくる。


「それで?君は何が不満なの?

別に怒ったりはしないから話してごらんよ」


そのためにこうして時間をとっているのだ。

私としても明日もいつも通り早いし、何より討伐があるのだから早めに寝て体を休めないといけない。

まあ負けることは無いだろうし、寧ろ眠りが必要なのは戦いが終わってからになるのだけれど。


「……分かっているし、納得していることだけど」


シルヴァはどうしてか縋るように私の頭頂部に顔を押し付けた。

声の振動が直接伝わってきて何だか変な感じ。


「明日、やっぱり俺も一緒に行きたい」


「それは駄目だね」


「……」


「ふふっ、拗ねないでよ。

仕方がないだろう?だって君は――」


「弱い」


分かっているじゃないか。

なのにそれでも着いてきたいと言うなんて、我儘な弟子だ。


「どうしてそんなに皆、討伐に参加したがるのかな?

私としてはそれが不思議でたまらない。

何もしなくていいなんて楽でいいじゃないか」


実際今回の依頼とて、もしも群れに神喰らいらしき魔物がいるという報告が無ければどうにか理由をつけて断っていただろう。

煌炎も氷雨もいるのだから、わざわざ私まで出る必要はないと分かっている。

それに戦うたびに破壊衝動が起きて我ながら面倒なことになるんだから。

……まあ、ある意味ではギルドの依頼での討伐はいい体慣らしでありストレス発散であり、そして衝動を逃がす場であるのだから助かってはいるのだけれど。

でもそれはつい二日前にもしたばかりだから、今は必要ないのだ。

だからこそ本当は高みの見物でもしていたかった。

なのに三人は自分も自分もと五月蠅いし。

弱い奴ほどそういうのは多い。

何故か実力に合わない腕試しとかしたがるんだよね、雑魚って。


煌炎も氷雨も私と同じで、やっぱりそこまで依頼に熱意をもって挑んでいない。

何て言うか、稼ぐために最低限、みたいな感じだろうか。

まあ自分の信念や目的と一致しているならそれは別だけれど(氷雨で言うならまだ食べたことのない魔物を食べるためとか)、やっぱり変に一生懸命になれないと言うか、ともかくそういうところがあるんだよね。

この間煌炎が言っていた力を持ちすぎているというのも関係あるのかな。

確かに本気を出すような出来事も無いし、それも当然なのかもしれないけれど。


「俺だって、ルナが参加しないならそんな依頼どうだっていい。

でもルナが参加するなら別。

怪我をしないか心配だし、無理をしないか心配だし、途中で眠ってしまわないか心配だし…」


「……最後の心配は別にいらないよ。

流石に私も戦っている最中には寝たりしないから」


大体そんな馬鹿みたいな心配事があってたまるか。


「ともかく、とっても心配」


「何だかここ最近とてもよく言う言葉になってしまっているけど、私これでも君達の中で一番強いからね?」


「それでも心配なのは変わらない。

傍にいられないなら、余計に」


うーん、難しいな。

確かに大切な人の傍にいられないときにその人が戦いに赴くのは不安だ。

その気持ちは理解できるし共感できる。

でもだからと言ってシルヴァを討伐に参加させるわけにはいかない。

だって間違いなく足手まといだ。

まったく、どうしろと言うんだか。


「じゃあどうすれば君の不満と不安は小さくなるのかな?

私に出来ることならどうにか頑張ってみるけれど」


ずっと傍でそんな顔をされていたんじゃ辛気臭くて堪らない。

そう告げればシルヴァは少し体を離し、体勢を変えた。何故か私ごと。

仰向けになった私の上に覆いかぶさるように、けれど体重をかけて私を潰さないよう肘と膝を立てた彼は真剣でいて同時に迷子の子供のような顔で私に望む。


「ちゃんと、帰ってきて」


「……」


つい、何も言えずに黙って彼を見つめる。


「怪我をしないで。無理をしないで。

それで、何もなかったみたいに帰ってきて欲しい。

そう、約束して欲しい」


可笑しな望みだ。

そうすることで一体彼は何が得られると言うのだろう。

そんなものただの口約束でしかない、曖昧なものなのに。


「無理をしない、というのは叶えられる望みだ」


ともかくそう返せば、シルヴァの眉がよった。


「……きちんと君の所に戻るというのも、約束できる」


そう付け足しても彼の眉間によったしわはとれる様子が無い。


「怪我をしないで」


「どうだろうね」


「ルナ」


「君も知っているだろう?

私は意味のない嘘はつかない主義なんだ」


「ルナ」


「……」


そんな目で見られても、私にはどうすることも出来ない。

だって今回の相手はまだしっかりと確定している訳ではないけれど、神喰らいなのだ。

シルヴァに言う気はないけど。


「ルナ……嘘でもいいから、怪我しないって言って欲しい」


「君はおかしなことを言う。

嘘だと分かっていて告げられる約束に意味なんてないと思うのだけど」


だってどう考えても無意味だ。

嘘だと分かるそれはどんな慰めにもならない。

ただの無価値な音でしかないのに。


「でも、俺は言って欲しい。ただ俺が安心したいから」


「嘘で安心なんかできるはずないじゃないか」


「俺は出来る。ルナの言ったことなら嘘でも信じられる」


「それこそ嘘だろう」


「ルナ」


せがむ彼に諦める気配は見られない。

強情な子だ。変に張り合ってこだわってしまう私も悪いのだけど。


――本当は、ここですぐに頷いて彼の望みの通りにしてしまうのが一番いい。

楽で、すぐに終わって、きっとシルヴァも満足するのだろう。

でも嘘と分かる慰めなんか無意味だ。

私はそれを知っているから、どうしても言いたくなくて。


「……残念だけど、君の望みは叶えられない。

それは私にとっての悪だから」


「どうして。どこが悪い?」


「そんなの全部に決まってる」


だってそうだろう?

例えば死の淵に瀕している人間に大丈夫だと言ったとして、そこに何が残る?

死にゆく人の安堵?

いいや。本人すらもう死ぬと分かっている状況で、それはただの薄っぺらい自己満足だ。

送る自分への慰め?

馬鹿らしい。後でそれより大きな虚無感が襲うだけなのに。

それらを知っている私は、だったら口を噤む。


「……ルナ、お願いだから…」


「嫌だ」


「……」


再び目の前の瞳が涙の膜で覆われ始める。

暗闇で見るそれは普段より格段に漆黒に近くて、でも今度は揺らいだりしない。

むしろ私の思いを更に強固にするだけだ。


「……」


「君を泣かせてしまうのは久しぶりだ」


「…………」


苦笑した私に何も答えず、シルヴァはギュッと私の胸元に縋り付いた。

たまに忘れてしまいそうになるけれど、彼は十三歳なのだっけ。

嘆息しつつ髪を梳くように撫でればいつの間にか腰に回っていた腕に力が籠る。


「……ルナは、酷い…ただ頷いてくれれば、それで、いい、のに」


「それも私の中では悪に分類されてしまうからね。

にしても、嘘を言わない私はむしろ褒められて然るべきなのに酷いだなんて。

そっちの方がよほど酷くないかい?」


「全然……だって、ルナが…」


「あぁ、はいはい。そうだね。

悪いのはきっと私なんだろう」


「………違う、…ほんとは、俺が…我儘、言う、から」


「あはははは、どっちなのさ」


久しぶりにシルヴァの年相応な面を見た気がする。

こういう風に彼が甘えてくることは無くなってきていたから。

途切れ途切れの言葉は彼自身も支離滅裂だと自覚しているのだろう、でもそれで構わなかった。

胸元にいよいよ濡れた感覚がする。

あぁ、本当に泣かせてしまったみたいだ。

シルヴァは案外泣き虫だ。

昔からよく、私にとっては何でもないようなことでもこうして泣いてたっけ。


「ほら、泣かないで。悪かったね」


「ルナは……悪く、ない…」


「はいはい」


「ほ、んとうの、こと」


「分かったってば。いいよ、もう」


困ったことだ。

顔を上げさせ指でその涙を拭っても、後から後から流れてきてしまう。

これはきちんと布を持ってきた方がいいな。


「……どこ、いく…?いかないで…」


「うん?心配しなくても、何かやわらかい布を持ってくるだけだよ。

後は温かなタオルかな。泣いたまま寝たら目が腫れてしまう」


「嫌…」


「え?でもねぇ…」


「いやだ…」


うーん、本当に困った。

そう言えばやっぱり昔、何かの折に彼を泣かせてしまった時もこうして離れることを嫌がっていたっけ。

久しぶりだからだろう、シルヴァの涙は止まらない。

指で拭うにも限界があるんだけどなぁ。


「分かった分かった、行かないよ。

だから泣き止んでくれないかい?

私は悪くないし、君も勿論悪くない。

あと、絶対とは言わないけれどなるべく怪我をしないようにもするから。ね?」


「……っ、ぅ…」


「え、何で更に泣くのさ」


どういう事だ。どう考えてもそこは泣き止んで笑顔で頷くところだろう。

おかしい。と言うか私は本当に年下男子を泣かす才能があるのか。

昔も何度も慰めようとして失敗したしなぁ…

今回は周囲に人がいないからよかったけれど、もし誰かに見られていたら最悪だ。


「もう、どうしたら泣き止んでくれるのかな、君は」


後から後から零れてくる涙が私にまで降ってくる。

ぽたりと頬に落ちたそれを、何故かシルヴァの指が拭った。


「ふふっ、まるで私が泣いて、君が慰めてくれているみたいだね」


「……ルナは、俺の前で、泣いて、くれ、ない…」


「おや、痛いところをつかれてしまった。

まあその通りだ。泣く程の出来事も無いしね」


それに昔、約束したから。

他の人間の前では泣かないって。


「にしても…うーん、本当に泣きやまないな、君は」


「……ごめ、なさい…」


「いやいや、責めている訳ではないんだよ」


何だか私がいじめているみたいな空気になるから本当にやめて欲しい。

でもこのままじゃ一向に寝れる気がしないし、本当にどうしたものか。

………あ、そうだ。


「シルヴァ」


呼びかけて、こちらを見た彼の顔を引き寄せる。

その眦に唇をよせ、縁に溜まった涙を舐めとった。

うん、しょっぱい。


「…………………………………」


シルヴァは声も無くこちらをガン見。

涙も無事止まっているし、やっぱりこれだ。

そのまま反対側の目も同じようにして、うん、完璧に泣き止んだな。


「ふふっ、驚いた?

涙を止めるのは驚かすのがいいんだよ。

まあやりすぎたり相手が幼すぎたりすると更に泣かれてしまうけれど。

それに獣人はこうして相手の涙を拭うものだと本で読んだことがある。

どうだい?きちんと君は泣き止んだし、効果抜群だろう?」


よし、これで年下男子を泣かせまくるという汚名は少しは遠ざかったと……そう、思いたい。

せめて慰めて更に泣かすという真逆の結果ぐらいどうにかしたいし。


「シルヴァ?聞いてる?」


「………き、いて、る」


「そう?ならいいけれど。

ともかく私は明日君のもとに戻るし、元がぐうたらな気質だから無理もしないし、まあ出来る限り怪我をしない様につとめるよ。

それで君の所に普段通り現れてあげる。

だから今日はもう寝よう?

明日はいつもより少し早起きして君の目をどうにかしなければいけない。

きっと腫れているだろうから。ね?いいかな?」


「……い、い。それで、構わない」


「そう。よかった。それじゃ、おやすみシルヴァ」


「おやす、み………」


未だ真上に乗ったままのシルヴァをどうにか横に倒してその体にすり寄る。

うん、相変わらずいい温度だ。

にしても何だかシルヴァの様子が変な気がするけど気のせいだろうか。

………久しぶりだったし、泣き疲れたのかな?











で、翌朝。

やはりと言うか何と言うか、シルヴァの瞼はすっかり腫れてしまっていた。

目も充血してしまっているし、泣いたのが周囲にモロバレである。


「ふふ、やっぱりこうなってしまったか。

だからあの時温かいタオルを持ってくると言ったのだけどね」


「……だって、ルナが、離れようとするから」


「そりゃあ君を引き摺って行くほどの筋力は私にはないから当然だ」


そう返せば彼は黙り込んだ。

どうやら泣いてしまったことを恥ずかしく思っているらしい。

まあそこは彼も男の子だし、そういうものなんだろう。


「ほら、こっちを向いて目を閉じて」


「ん…」


素直に指示に従う彼の外見は成人したそれなのに、昨日の事があるから少し幼く感じられる。

差し詰め身体は大人、頭脳は子供と言ったところかな。

あぁでも彼の場合知識は大人と大差ないか。


「ルナ?」


じっとシルヴァの顔を見つめながら至極どうでもいい物思いに耽っていると、不思議に思ったらしい彼が片目だけ開けてこっちを窺ってくる。

あぁそうだ、治療をするんだっけ。

瞼の腫れや充血は泣いたことによる生理現象だけれど、病気や怪我と分類して魔術で治すことが可能だ。

私としてはあまり好まないから出来るだけしないようにしているんだけど。

昨日の夜のうちにどうにかしようとしたのもそういう理由。

でもこうなってしまったからには仕方がないし、今回は魔術に頼るしかない。


「何でもないよ。それじゃあ始めようか」


そっと覆うように手を当てれば、その下でぴくりと目蓋が震えた。

何だか微笑ましい。


「【癒せ】」


こういうのは本当に僅かな魔力を流すだけでいい。

手を離せば彼の綺麗な顔はすっかり元通りになっている。

ぱちりと目を開いたシルヴァは気恥ずかしそうにそれを伏せつつ私の手を握った。


「……その…ルナ、ありがとう…

今も、昨日の夜も、約束も…昨日言えなかったから、だから」


「ううん、構わないさ。

私としても君の年相応な面を見られて、君にしたらあんまりな言葉かもしれないけれど少し嬉しかったからね。

ただまあなかなか泣き止んでくれないのには困ったけれど」


「う……ごめん、なさい…」


からかえば恥ずかしいのか目線がうろうろと地面を彷徨った。

可愛らしいことだ。ついもっとからかいたくなってしまう。


「別にいいよ。それに昨日、君の上手い泣き止ませ方を見つけることが出来た。

あれで泣き止むならこれからはいつ君が泣いても問題ないだろう」


「そ、れは、その…というか、やっぱり、夢じゃ、なか、ったと…」


「夢?」


「ルナ、昨日、その……舐め、た…?」


「うん、舐めたよ」


「!!!!」


どうやら夢だと思っていたらしい。

私が肯定すればシルヴァは顔を真っ赤にさせた。

別に夢と勘違いしたことをそんなに恥ずかしがる必要はないと思うのだけど。


「さて、腫れも充血も引いたし朝食を摂ろうか。行くよシルヴァ」


「ま、待って……いや、先に行っていて。

すこし、その、心を、落ち着けてから、行く」


「そうかい?

にしてもいつになく顔が赤いね。

そんなに恥ずかしがらなくても…」


「ルナの、せい」


「えぇ?」


どうして私のせいになるのだろう。

夢と思ったことぐらい自己責任じゃないだろうか。


「昨日は違うって言ったけど、やっぱりルナは酷い」


「おや、君こそ酷いな。

どう考えても私はとても良い事をしたはずだし、君だってさっき感謝の言葉をくれたじゃないか」


「それは、だって……夢だと、思ってた、から」


「うーん、君の理屈はよくわからない……

まあいいや。君の顔の赤さが引くまでここで待っているよ。

どうせ皆揃わなければ食事はとれないし、あの場の空気が今日と言う日にどうなっているのか全く予想できないからね」


昨日あれだけ脅したし、たぶんレンが私に対して変に突っかかってくることはないのだろう。

あと焔火の方も今日は手出ししてくることは無いはずだ。

ただそうだとしても気まずい雰囲気が流れていたりするとご飯が不味いんだよね。

煌炎と氷雨は何も変わらないんだろうけどさ。

だから出来ればギリギリまで部屋に籠っていたいのが本音。

その状態でシルヴァが遅れると言うのなら絶対にこっちにいたいのだ。


「え…」


けれど頷いてくれるかと思っていた彼は困ったように視線を揺らした。

駄目なのだろうか。


「駄目かな?」


「………嬉しいけど、なかなか落ち着けそうにない」


「相変わらず君はよく分からない事を言う」


私がいるかいないかで落ち着けるか落ち着けないかが変わるはずも無いだろうに。

元より私は夢と思っていたこととは完全に無関係だろう。

けれど首を傾げる私に対して、シルヴァは先程までのしおらしい態度はどこへ行ったのか拗ねたような表情を浮かべた。


「分からないのは、ルナだから。

きっと普通ならずっと前から分かる。

たまに俺は、ルナが実は全部分かっていて、その上で分からないふりをしているんじゃないかと思う。

それくらい、絶対に分かりやすいはずなのに」


「………?

落ち着けるかどうかの話だよね?」


「………そしてこういう時、本当に分かってないって実感する」


「失礼だね、君」


どうしてそうまでガッカリした顔をされなければいけないのか。

意味不明である。




オマケ:泣き虫な君


①出会った初日、森の中で


「君の望みを叶えてあげるよ。さあ、望みはないかい?」

「助けて………!!」 →その後数分泣き続ける



②出会った初日、ギルドからの帰り道で


私は腕に抱えた子供――シルヴァを見つめた。

彼はとても軽く、私でも片腕で簡単に抱き上げることが出来ている。

いくらなんでも、これはねぇ。


「ねぇシルヴァ、君はとってもガリガリだね」

「がり……?」

「痩せているねってこと。お腹は減ってないかい?」

「………減って、ない」


あ、間違いなく嘘だなこれ。

だって耳と尻尾が垂れてるし。


「そうかい?」

「ん」


シルヴァは空腹を認める気はなさそうだ。

私にはよく分からない遠慮の仕方。

でも見ていてこのやせ細り方は良い気分じゃないし…こうなったら無理矢理食べさせるか。

……でもここ路上だし、ご飯はなぁ。

お菓子…キャラメルでいいよね。


「ちょっとこっちを向いて」


不思議そうに私を見上げた子供の小さな口に、バレないようにそっと亜空間から取り出したキャラメルを半ば無理矢理放り込む。


「……むぐっ」

「ふふっ、美味しい?」

「……………」


シルヴァは黙ったままだ。

私としては子供が舐める飴と言えばキャラメルだからそうしたのだけど、他の物の方が良かったのだろうか。


「あれ?口に合わなかっ―――


問いかける私の口は途中でぽかんと開け放たれる。

いや、だってさ。


「…………うっ、うえ…」


この子供、泣いてるんですけど。


「え、何で!?」 →その後数十分泣き続ける


③出会ったその日、宿の一室にて


まったく疲れた…

食事をとらせてお風呂に入れて、着替えを用意してって……子供の世話は大変だ。

全国のお母さん尊敬します。

そんな思いを抱きつつ背後で所在なく立ち尽くすシルヴァを振り返る。


「さて、もう遅いしそろそろ寝よう。君も色々あって疲れたろう?」


けれどそれに返ってきたのは戸惑いの視線だった。


「……あの、俺、どこで…」

「うん?あ、寝る場所?そっか……」


と言うか今日寒いんだよね。

湯たんぽ…駄目かな…?

よし、嫌がったら諦めよう。


「じゃあこっちにおいで」

「…………」


ベッドに座って呼び寄せれば、子供はあからさまにビクついた。

その後俯きながら足を動かし始めるんだけど…何故にそんな恐る恐る?

…って、あー、もしかして奴隷として貴族に買われたことあるのかな。

まあ可愛い顔立ちしてるしそういう趣味の人間に躾けられたと考えられなくもない…

でも私ショタコンじゃないから別に襲ったりしないんだけど。

……まあ、モノは試しだよね。

手が届く範囲に近づいた彼の襟首を掴み、そのまま両腕で抱きしめる。

うん、やっぱり子供の体温は高いからぬくい。


「っ!!」


悦に入った私と逆に、シルヴァは恐怖から身を縮めたが。

まずはこの状況の説明をした方がいいのだろうか。


「別に何かしようとは思ってないよ。でもベットは二個ないし、私寒がりなんだ。出来ればこうしていてもらいたいんだけど、駄目?」


それに子供って心臓の鼓動で安心するんだよね?

何かの本でそう読んだんだけど。


「……」

「君が嫌ならまあ、私は今夜くらい起きていよう。たぶんどうにかなるだろうし」


ホントは魔術が発動し始めて超眠いけど、それくらいの譲歩は出来る。


「ほら、どうする?」


顔を覗き込み最後の確認の意味で小首を傾げて見せ―――私はそのまま固まった。

え、ちょ、まじでか、え、何故に?

また泣いているんだが。


「………~~~っ」

「え!?あぁほら、泣き止んでよ。もう寝よう?一緒に寝るのは構わないのかい?」

「か、まわ、なっ……」

「うんうん分かった分かった、ほら、じゃあ落ち着いて」


何故私が申し訳なく思わないといけないのだろう。

自問自答しつつぶっちゃけかなり眠いため彼を早く泣き止ませようと頭を撫でる。

泣いている子供にはこういう事をすべきだよね?


「ふえっ…」


なのに何故更に泣く。


「えぇぇぇぇ…」 →その後一時間泣き続ける



④出会って数日、とある街の路上


「……ねぇ、シルヴァ」


私の声に、隣を歩いていた彼は不思議そうに顔を上げた。


「…?何か、用、ある?」

「いや、そうじゃないんだけど……」


うーん、問いただしていいものか。

でもこのままだと私がやりにくいんだよなぁ。

ほら、元がぐうたらで適当な性格だし。


「何か君、無理してない?ずっと思ってたけど行動が固いって言うか何と言うか…」

「そんな、ことは」


こりゃ駄目だ。

表情を硬くさせたシルヴァについため息が漏れる。


「……まったく、君ってやつは困った子だね」

「!!」


立ち止まって彼と目線を合わせるようにしゃがみこめば、シルヴァは縋るように私の服を小さな手で掴んだ。


「ごめ、なさい……お願い、捨てないで…」

「こらこら、人聞きが悪いことを言わないでくれないかな」


私が言いたいのはそういう事じゃないんだって。

そんな勘違いをされると周囲にも誤解される恐れがあるだろう。

彼を宥める意味も含めてその頭に手を置き、私は安心させるようににっこり微笑んでやった。


「別に困った子でいいんだよ。子供と言うのはそういうものだ。失敗は成功の母という言葉が私の故郷にはあってね?失敗しないと人も獣人も大人にはなれないものさ。それに少しくらい失敗することがあった方が可愛いよ」

「………」


あれ、反応が無い。


「シルヴァ?あのさ、私の言いたいこと伝わった?出来ないことは出来ないと言っていいんだよ?そうすれば私が出来るようになるまで教えてあげるから。師弟とはそういうものだろう?だからまあ簡単に言えば、別に私は君が駄目な子でも捨てたりはしないっていうのが言いたいんだけど………って、え…」


目の前の大きな薄墨の瞳に涙が盛り上がり始め、眉はキュッとより、頬は赤く――おい、これは、まさか…


「っ、ふぅ……う、うぇ…、…」


やっぱりかー!


「何で泣くのさ、え、本当に何で!?私今いいこと言ったよね?なのに泣くの!?あぁもう泣き止んでよ、後で目が腫れて痛くなるだろう?ほら、ね?」


この間は頭を撫でて宥めるのに失敗した。

なら今度は背中だ。

撫でさすったり、ポンポン軽く叩いたり。

よく親が泣いてる子供にする仕草だよね?


「……ふ、……、ん、うぅぅ……りゅ、な…」


なのに何故更に泣くんだ、この子供は!


「うんうん、何かごめん本当にごめん。もう戻ろうか、うん、今すぐにさ!帰ったらお菓子をあげよう、ね?この間あげたやつ!」


周囲の視線が痛くて堪らないんだよ。

今も私にガンガン突き刺さってくるんだよ!!


「か、かえ、るっ……!るなと、かえ、る……」

「うんうん、そうだね、よし、【転移】!」


他に人のいない室内にシルヴァを抱き上げたまま戻って、やっと私は安堵の息をついた。 →その後数時間は泣いたり泣き止んだりまた泣いたりを繰り返す






季節ものの小話を始めることにしてみました。

活動報告に10/31ということでハロウィン小話をおいてあります。

他にも何かの行事だとかイベントごとに小話をあげていくつもりなので、気が向いたら読んでいただけると嬉しいです。


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