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限りなく人っぽい何かと銀と金  作者: 美羽
黒色の思慮
39/178

4-7*

Side:Silva




ルナが行ってしまった。しかも、煌炎と二人で。

後を追いかけたいのに彼女が待っていてくれと言ったからそれも出来ない。

それに煌炎の威圧に恐れを抱いた時点で、その資格はないようなものだ。

やっぱり俺はまだまだルナのいる場所までいけない。


「……くそっ、煌炎のやつ本気でやりやがった」


焔火はそう悪態を吐き一度大きく頭を振った。

恐らく状態としては俺と同じだろう。

強者の威圧による体の一時的な硬直と精神面での恐れ。

それを振り払うためにはどうにかして意識をそらすしかない。


「おい、お前は大丈夫か」


「…………」


そしてその状態にありながらもきちんと護衛対象に声をかける彼は、案外依頼をきちんとこなす性質のようだ。

声をかけられた本人は呼吸をすることで精一杯の様子だが。

仕方なく近くから椅子を持ってきて護衛対象の側に置く。

文句を言うことも無く素直にそれに腰かけたことから言って、かなりのダメージを受けたらしい。

きっとルナの本気の威圧を浴びれば俺もそうなるのだろう。

闇ギルドで彼女がジョーカーと戦った時には壁を通してでさえ息がしづらい感覚がした。

あれで本気ではないのだから、もしかしたらこんなものでは済まされないかもしれない。


「どう思う、さっきの念話」


暫く大人しくなりそうな護衛対象は放置して焔火に問う。

同じことを考えていたのだろう、彼もギラギラと戦意で輝く金茶の瞳をこちらに向けた。

俺が言えたことではないが、煌炎にあれだけのものをぶつけられても全く懲りた様子がないのは如何なものなのだろう。


「決まってんだろ。ランクSSの、それもかなり大掛かりな討伐だ。

わざわざ詳細を念話で知らせずに本部にまであいつらを呼んだんだからな」


「けどそれに俺達が参加するのを、たぶんルナ達は許さない」


ただ何も言わずに待てとだけ指示したのがその証拠だ。

恐らく二人とも、俺達を関わらせるつもりは無いのだろう。

その理由は俺達が弱いから。足手まといだから。

それは確かに正論で、正面からそう告げられてしまえば反論の余地はなくなる。

だがそれは焔火にとっては意味のないことらしい。


「だからどうした。ならお前は指咥えて待ってるのか?

戦いたいと思うのは獣の性だろ。

理性持った人間ぶるんじゃねぇよ」


「お前のように本能だけの獣になりたいとは思わない。

けど、討伐に参加したいと思うのは確かにそうだ」


「それでも化け物女に否と言われれば従うってか?

ハッ、大した忠犬だな」


せせら笑う声が俺の理性を刺激する。本当に、気に食わない奴だ。

ルナを化け物と呼ぶこと。それが一番、癪に障る。


「そう呼ぶなと何度言えば分かる」


「化け物は化け物だろ?

本当の事を言って何が悪い」


「……殺すぞ」


「……やってみろよ」


殺気を込めて睨めば同じ感情を孕んだ瞳が見つめ返してくる。

焔火は苛立ったように牙を剥き出しにした。


「大体お前は獣人として狂ってやがる」


「……?何が言いたい」


「俺達は獣だ。獣は本能で自分より強い奴を嗅ぎ分ける。

なのにお前は知らねぇフリをしてんだよ、あの女の異常性にな」


ルナの異常性。

それは時折混じる狂気。そしてその身に宿る力。

分からないふりなどしていない。

俺は分かって、彼女の傍にいる。


「別に知ってる。ルナの力も、他人に何の価値も感じていないことも」


「分かってねぇっつってんだろ。

お前だってそうだぜレン」


どうにか呼吸も落ち着き、ただ交わされる俺達の口論を黙って見ているだけだった護衛対象は水を向けられ瞳を揺らした。

コレが今の話に何の関係があるというのか。

眉を顰め見つめても俺への応えは返らず、焔火はただ護衛対象に向けて言葉を発し続けている。


「お前も大概竜族の出来損ないだな。

あの女の力にも異常性にも気づかねぇで変に関心を買う。

それでお前が死のうと知ったことじゃねぇが、巻き込まれるのだけは御免だ。

怒りを買うなら自分だけ、そして一人で殺されろ」


「なっ、私が、あんな女に負けると言うのか!?」


「それが分かってねぇって言ってんだろ馬鹿女。いい加減にしろよ。

お前のせいでこっちは変に気ぃ張ってなきゃいけねぇんだよ。

煌炎程度でそんな情けねぇ状態になる奴が規格外の化け物相手どろうとしてんだぞ。

……まあ、向こうからは相手にもされちゃいねぇがな」


彼は鼻で笑って座る護衛対象を見下ろす。

確かにコレの言動は俺としても目障りにしか感じないものだが、ルナは真実何の感情も抱いていない。

精々が面倒だからあまり関わりたくない、といった所だろうか。

しかしそれにしても、焔火の発言はいくつか矛盾している様に感じる。


「……今の言葉、つまりお前はルナを恐れているように感じる。

でもそれなら何故攻撃するのか。

その行為も関心を買うもので、同時に怒りを買う恐れがあるものだろう」


そう、彼の発言の通りなら、焔火はルナの怒りを買いたくないと思っているはずだ。

なのに執拗に攻撃をして彼女を煩わせている。

いくらルナが彼を(気に食わないけど)気に入っていたとして、何かの拍子に逆鱗に触れるかもしれないのに。


「あぁ?この女と一緒にすんじゃねぇ。

俺がああやって攻撃するのは、俺が少しは力を持っていることを示すためだ。

何もしねぇでただ存在してるだけなら木偶の坊と同じだからな。

簡単に殺せるわけじゃなく、殺すことを少し面倒だと感じさせること。

そのためにしている示威行為なんだよ。

それに比べてこいつがやってるのはただの考えなしの行動だろ」


焔火は心底蔑んだ顔で護衛対象を見ていた。

そうさせるのは彼の血に宿る獣の性なのだろう。


「なぁレン、分かるか?

お前がやってんのはお前に分かりやすく言うなら、脆弱な人が武器も魔力も持たずに皇帝に戦いを挑むような事だ。

お前はちっとも理解してねぇけどな。

皇帝の怒りは凄まじい。一度力を振るえば辺り一帯焼野原だ。

……だがな、化け物の怒りはそんな比じゃねぇんだよ。

焼野原なんて生易しいモンじゃねぇ。

何もなくなる。いいか?何一つだ。

そんなモンに俺を巻き込むなって言ってんだ。

俺はまだ死ぬ気はねぇんだからな」


そしてその獣の性は、俺にも宿っている。

護衛対象がルナに対して挑発するような行為を続けていた事に怒りを感じたのはルナが俺にとって大切な人だというのもあるけれど、それによって彼女の怒りを呼び起こすことを厭うからこそでもあった。

護衛対象はあまりにも無知だ。

ルナの実力を分かろうともしない。

コレも竜族なのだ。恐らく本能では分かっているだろうに、それを認めないのならそれは分かっていないのと同じこと。

そしてそんな護衛対象にこうして警告する焔火は、ある意味本当にルナの力を理解していると言えるのだろう。

毎日の攻撃の意味を知れば、それは想像に難くない。

真にルナを恐れているからこそ負けると分かっている戦いを挑み続け、同時に別の存在が彼女を煩わせ怒りを買うことを恐れている。

一度彼女が本気の力を振るえば、自分達は塵も残らずに消えると分かっているから。


その考えは、理解できない訳ではない。

恐らく俺もルナに拾われずに成長して、彼のようにルナと出会えば同じような考えを抱くか遠巻きにするかのどちらかだろう。

――でも、俺はルナに拾われて、知ってしまったから。


「お前の言い分は分かった。

でもルナを化け物と呼ぶことはやっぱり気に食わない。

それにルナはこんな事に関心を抱かない。

だから怒ることも無い」


彼女の無関心な優しさと、触れる手のあたたかさを知ってしまった。

ルナが誰にどんな敵意を向けられ、どう扱われても相手にしないのはその優しさのためだ。

彼女は自分の力をきちんと理解して、それがもたらすであろう結果を把握している。

だからこそすべてに無関心で、同時に優しい。

そう在ることは彼女程の力を持つ者にとっては避けられない生き方で、でもだからこそ孤独だと思う。

これは俺の勝手な解釈だから、もしかしたらルナとしては別の意図があり、そしてその状況を孤独とも思っていないのかもしれない。

でも、俺はそう感じるから。


彼女は身勝手でいいと言った。

ならこの俺が持つ考えは許されるものだ。

ただそれにルナ自身がどんな感情を抱くかは分からないけれど。

でもそれだって彼女の俺に向ける微笑みと髪を撫でる手があるから、大丈夫だと思える。

ここにいる二人はそれを知らない。だから分からない。

それは強い優越感を俺にもたらしてくれるけれど、その無知によって彼女が化け物と呼ばれるのは不快だ。

そんな思いと共に告げた言葉は、焔火に一蹴された。


「そんな事知るか。

ただあの力を持つからあの女は化け物なんだよ。

お前には分からねぇだろうがな。

化け物女に牙を抜かれたお前には」


「本当に気に食わない。でも、まあいい。

ルナには夜まで留守を頼むと言われた。

ここで争えばそれに反するし、宿にも迷惑がかかる」


結局分からない者には永遠に分からないのだろう。

俺はそれを憐れみこそすれ、何度も言い聞かせるつもりは無い。

ルナの優しい面は分かる人間だけが知っていればいいものだ。

それに彼女の言いつけは守らなければ。

ここで破ってしまえば、帰ってきてからの部屋での二人っきりの時間が説教の時間に変わってしまう。

俺は今日、色々我慢した。煌炎も移動中部屋で俺へのフォローをするようにルナに言っていたから、今夜はたくさん甘えられる。


「……チッ。だが討伐の件はどうするつもりだ?

本当に指を咥えて待ってるだけのつもりじゃねぇだろうな?」


「分からない。ルナに聞く」


きっと彼女は許してはくれないだろうけど、何事も確認をとるのは大切だ。

もしかしたら頼み込めばその場に一緒に行くことくらいは許してくれるかもしれないし。

そう考えていると先程から焔火に気圧され黙って話を聞いていることしか出来なくなっていた護衛対象が急に口を開き始めた。


「わ、私は、あんな女などに負けない…!」


正直、面倒くさい。

間違いなく同じことを思っているのだろう、焔火も小さく顔をしかめている。


「おいテメェ、俺の話を聞いてたか?」


「大体おかしいだろう!!

どうしてそうあの女ばかり特別扱いされる!?

あれはただの脆弱な人間で、なのに叔父上とも皇帝陛下とも対等で、戦いもしないのに一目置かれて、何をしても許されて……!!」


勢いよく立ち上がった護衛対象はそう言って俺達を睨んだ。

その瞳には涙が滲み、睨んでいると言うのに縋るような光を伴っている。


「私は“帝国”の王族で、直系竜族だ!

幼い頃に母を殺され、それでも今まで自分の力でどうにかやってきた!!

なのに何故あの女ばかり大切にされる?優遇される?」


「ハッ、簡単だろ。圧倒的な強者だからだ」


答える焔火の声はどこまでも平坦で、全く興味を持っていなかった。

俺もどうでもいい。護衛対象の事情など知らないし、知ったことではない。


恐らくコレは、同情されたいのだろう。

ルナは同情されることを酷く嫌い、自分にその感情を向ける存在を全て消し去るであろう程の激しい感情を持っているが、コレはそれと正反対だ。

少しでも周囲の関心が自分に向いていなければ気が済まない。

自分が一番大切で、一番世界で不幸だと思っている。

だから同情されて優しくされることを当然と思っていて、それに歯止めなどないのだろう。

思っていたよりもそれは、俺を苛立たせるようだ。

まるで幼い頃買われたどこぞの貴族のような選民主義の思考が癪に障る。


「……っ、そんな言葉、信じられるものか!」


それ以外の反論など持たないのだろう子供のような捨て台詞を投げつけ、護衛対象は用意された自室へと駆け込んだ。

あれでもうじき百に達するというのだから信じられない。

だが部屋に閉じこもられたことはありがたかった。

そのまま魔術を行使して部屋から一歩も出られなくすれば、少なくともこれから夕食の時間まで煩わせられる事は無い。

きちんと魔術が発動したことを確認して焔火に向き直る。


「アレは夕食まであのままにしておく。

俺は部屋にいる。お前は好きにすればいい。

ただ夕食は三人で食べなければいけないだろう」


「ふん、言われなくても分かってる。

俺は街へおりる。夕食には戻るからな、その間あの女を逃がすなよ」


「誰に言ってる」


「牙のねぇ狼にだ。決まってんだろ」


本当に、気に食わない獣だ。

苛立ち紛れに舌打ちして、俺は用意されているルナとの部屋に向かった。











あれから数時間後に夕食をとったが、最悪だった。

確かに高級な宿だけあって味はよかったが、ルナが隣にいないのではそれも半減だ。

その上一緒に食べる面子があれなのだから全く手が進まない。

出された食べ物を残すのはとても贅沢な事だから、体調が悪い時以外は完食するものだと常々ルナが言っているから一応全て口に入れたけれど、もうあの三人での食事など絶対に御免だ。


今は夜の十時頃。ルナはまだ帰ってこない。

夜までには必ず戻ると言ったからたぶん日付が変わる前には戻ってくるのだろうけど、やっぱり寂しい。

ギルド本部は俺もまだ数回しか訪れたことがない場所だが、あそこにいる総代は食えない老人だった。

たぶん夕食を食べた後もギルドの上層部との無駄話に付き合わされているのではないだろうか。

そういう時は必ず酒の席になるから、帰ってくるルナは酒と煙草の香りを纏っている。

あんまりそういうのは好きじゃないからすぐにシャワーを浴びてもらって匂いを落としてもらうけど、今日もそうなのだろうか。


そう考えていた丁度その時、宿の外に見知った魔力の波動を感じる。ルナだ。

―――でも、気配がひとつ多い。

俺の知らない、水と男の匂い。

煌炎ではない。彼は竜族の独特の匂いがあるし、水とは無縁だ。一体誰だろう。


……また、ルナの周囲に男が増えるなんて。

嫌な気持ちのまま部屋を出て階下へ急ぐ。

護衛対象の部屋には変わらず部屋から出さないための結界を張ってあるから心配はない。

同じく魔力と匂いでルナ達が帰ってきたこと知ったらしい焔火も部屋から出てきた。


「おや、シルヴァに焔火。

出迎えてくれるとは嬉しいね。ただいま」


丁度一階のロビーで行き会ったルナはそう言ってにっこり微笑んだ。

やっぱり酒の席を用意されたのだろう、彼女の甘い香りに混ざって酒と煙草が香る。


「おかえりなさい、ルナ。

ちゃんと言われた通り大人しく留守番していた」


「そう。お疲れ様。

焔火やレンとは口論だとか実力行使の戦いをしなかった?」


「……戦っては、いない」


つい、目をそらす。

けれどそれだけで彼女には伝わってしまったらしい。


「つまり口論はしたということだね。

まあ、それで我慢できたことを褒めるべきか」


「なんだよルナ、こいつがお前の弟子ってやつか?」


苦笑したルナの肩をゆさゆさ揺すって、煌炎に肩を借りていた見知らぬ男は俺を見つめた。

自然と眉間に皺が寄る。一体誰だ、この男は。

無精ひげを生やしてはいるが綺麗な顔をしていて、ルナの隣にいても見劣りはしない。

と言うか、ルナの周囲は見目のいい男が多かった。

だからこそいつも油断などしていられない。

今のところその最たる存在はセイルートだが、いつ他が現れて横からかっさらっていくか、分かったものではないから。


それに顔がよくて力もある存在は揃ってルナの事をある程度理解している。

煌炎なども結局は竜族だ。

昔ルナに簡単に倒されたことがあるようだし、いつその力に本能が惹かれてそれを行動に移すか。

これだから他人との依頼も、護衛も嫌いだ。

いつも俺と彼女の二人っきりで行うような何かの討伐ならこんな心配も少ないのに。


「もう、酔っぱらいは黙っててくれないかな」


「んだよ、つれないな」


「だからもう止めておけってあんなに言ったのに。

ベロベロに酔ったオヤジにからまれる事ほど面倒なものはないね」


「いいから紹介しろって」


そして目の前の男もルナと親しげだ。

きっと彼女の言う、旧友の括りに入っている昔馴染みなのだろう。

俺の知らない頃のルナを知っている存在。


「はいはい、君は会うの初めてだね。

獣人のシルヴァだ。今はランクA+。五年前から私の弟子をやっている」


「ふーん、我慢強いんだな」


「ちょっとそれどういう事かな?

君を今すぐ砂漠に転移させても私は構わないんだよ?」


「いやいや冗談だって。俺今酔ってるんだぜ?

酒飲みの戯言ってことで流すのが大人だろ」


「よし、君を今すぐ転移させる。動かずにそこに立っているんだ」


「いやだから冗談冗談!!」


両手を上げた男にルナは胡乱気な目を返し、次いで俺を見つめた。

戸惑っていることが十分伝わっているのだろう。

にっこり戸惑いを根こそぎ奪い取るような笑みを浮かべて、彼女は口を開く。


「それでシルヴァ、こっちは氷雨。

私と煌炎と同じランクSSの冒険者だよ。こんなんでも」


やっぱり。昔から親交があって、力がある男。また増えた。


「おいちょっとこんなんでもって聞こえたんだが」


「本当の事だろう駄目オヤジ」


「ヒデェ!……まぁ、よろしくなシルヴァ。つっても数日の事だけど」


ニィッと笑う氷雨だが、それはどういう意味だろう。


「よろしく、というのは……?」


「ん?あぁ、知らないんだったか。

俺とルナと煌炎で二日後に依頼することになってな。

だからそれまで俺も同行することにしたから。な、ルナ」


ポン、と肩に置かれた手にため息を吐きルナが仕方なさそうに微笑む。


「まあそういう事なんだ。

で、君も分かったかな、焔火?

確か君は氷雨とは顔見知りだろう?

今更紹介も必要ないよね?」


「まぁな。そんな事より、だ。

SSが全員揃って、何をおっぱじめる気だよ。

そんだけデカい討伐って事か?」


「そうだね。少なくとも君達じゃ生きては帰れない内容だ。ねぇ氷雨?」


笑みを深めたルナが視線を焔火から氷雨へと向ける。

彼も先程までのふざけた態度を一変させて苦笑した。


「まあそうだろうな。いても邪魔そうだし」


「ふふっ、同意見で助かるよ。

これで意見が違えば君とは話し合いをしなければいけなかったからね」


「それただの脅しって事じゃ…」


「氷雨」


ボヤいた彼を黙らせるように受付に立っていた煌炎が声をかける。

彼が今回の依頼に同行するという事は今日の宿を改めて一部屋借りなければならない。

恐らく煌炎はその手続きをしていたのだろう。


「部屋ですが、どうにも満員らしいので諦めてください」


「え、野宿?」


「そうです」


笑ったままそう言ってのける煌炎はすごいと思う。

こんな北国で野宿など凍死確実だ。

まあ腐ってもランクSS、そんな心配はするだけ無駄なのだろうが。


「冗談です。今後の話し合いもありますし、今夜は俺達SSで一部屋、焔火には明星と同室になってもらいましょう」


―――なんだって?


「おいこら煌炎どういう事だ。

何で俺がこんな狼と一緒に寝なきゃならねぇ」


「俺も嫌だ。それにルナを男と同室にするなんてありえない」


「……明星、貴方は男だった気がしますが。

それに仕方がないでしょう。俺達は仕事の話し合いがあるんです。

公私混同するつもりはありませんよ。

明日はきちんと四部屋用意するので今晩だけ従ってもらいます。

従えないのなら依頼遂行の責任者として貴方達を今回の依頼から外しますが?」


そう言われてしまえば俺達も黙る他はない。

何より昼間の彼の威圧に対する恐怖が未だ尾を引いているのだ。

でも、折角待っていたのにルナと寝られないなんて。

つい縋るように彼女を見つめれば、困ったような苦笑が返ってくる。

手がこちらに伸び、条件反射で自然と少し屈めばくしゃりと髪を細い手が撫でた。


「シルヴァ、待っていてくれたのにすまないね。

今日の所は焔火とどうにかやってくれる?」


「……ルナが言うなら、仕方ないけど、本当に、仕方ないけど我慢する…」


「ふふっ、我慢強い弟子を持って助かるよ。

お詫びと言ったらなんだけど、これ。お土産」


亜空間から何かの包みを取り出して俺の手にのせる。

中身はキャラメルが数個入った小瓶と料理の詰め合わせだった。

恐らく料理はギルド本部で出されたものなのだろう。

今日宿で出されたものより数倍美味しそうに見えるのは、ルナが俺の為に用意してくれたからだろうか。


「焔火と一緒に食べるといい。

今日はレンの世話が大変だっただろうし、遅くまで待たせて小腹がすいただろうからね。

焔火、君にはこれもあげよう」


そちらへと放られたものを受け取り、焔火は顔をしかめた。

ルナから物をもらったのにその態度、なんて偉そうなのだろう。


「おい化け物女、何だこれは」


「うん?マタタビ。君、好きだろう?」


「ふざけるな、誰がお前からの施しなんぞ…」


「あはは、施しなんかじゃないよ。

君が今夜シルヴァと同じ部屋で寝ることに対する正当な報酬だ。

でも君がいいと言うなら無償でいいんだろうね。

さて、それじゃあそれを返してもらっても…」


「ふん、そういう事なら受け取ってやる」


「おやそうかい?ありがたいな」


一連のやり取りを見ていた煌炎と氷雨は顔を見合わせる。

そして小さく呟いた。

焔火はマタタビに夢中になっていて聞こえていなかったようだけど、俺はそうではないからバッチリ耳に入っている。

曰く―――


「獣人使いか」


確かにルナは、俺達の扱いが上手い、かもしれない。

でも俺の場合それはルナが好きだからで、別に彼女にいいように扱われている訳では決してない……と、出来れば主張したい。





ルナの正規ギルド内旧友一覧


ヒルルク(オルド支部ギルマス)、レイラ(オルド支部高ランク専門受付嬢)、煌炎(ランクSS)、氷雨(ランクSS)、まだ名前の出ていないランクS数名。

シルヴァ君は一切敵わないストロングな方々ばかりです。


またギルド外でも闇ギルド幹部一同、“王国”国王一家、“帝国”皇帝、またシルヴァは知らないが“教国”教主とも知り合い。

ロイヤリティな方々と強いつながり持ってます。

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