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限りなく人っぽい何かと銀と金  作者: 美羽
黒色の思慮
34/178

4-2

Side:Luna




煌炎とシルヴァ、三人で待つ部屋の前に二人分の気配が現れたのはそれから暫くしてのことだった。

やれやれ、煌炎の弟子と護衛対象が来たらしい。

ここから先が面倒なんだよなぁ。

シルヴァがどんな顔をすることか。

――なんて考えている間に、向こうも私達の存在に気づいたらしい。


勢いよく扉が開かれ、そこから私に向かってナイフが飛んでくる。

当たる直前で取ろうかと思っていたけれど、その前にシルヴァがそれを素早く叩き落とした。

その一瞬後には攻撃の第二陣として本人が登場。

手に持っているのはご丁寧に一番よく扱う得物の九環刀だ。

やる気満々で何よりだね、まったく。

しかし大きく振りかぶったその刃先が私に届く前に、またしても私と刃の間にシルヴァが滑り込んだ。

九環刀と剣、それぞれの刃が交わって高い音が響く。

彼は本当に速い。

さっきまで隣に座っていたのに、もうソファの後ろ側に立っているし。

ちらりと背後を振り返れば、シルヴァの後ろ姿と獰猛に笑う男の表情が同時に目に入る。


「……よぉ、何だよ化け物女。

いつの間にこんな番犬飼った?」


「これ、ルナを攻撃した。殺そうとした。

ルナ、これ、殺していい?」


………頭が痛くなるな。


「久し振りだね焔火(ほむらび)

私も弟子をとったって、煌炎から聞いていなかったかな?」


「あぁ、そういやそうだったかもな。

――で?この番犬を倒せばお前に行っていいってことか?」


「あはは、駄目に決まっているだろう。

私は早く依頼の内容を聞きたい。

一日一度までという約束なんだ、さっさと座れ」


おっといけない、口調が雑になってしまった。

でも会うのが久し振りだから、彼のテンションに追いつけないって言うか。

まあ言葉での説得で案外簡単に諦めて、今みたいに闘志を鎮めることができるのはいいことだと思うけれど。

ただこのままだとシルヴァがむしろ危険人物になるな…


「シルヴァ、おいで」


「………」


「シールーヴァー?」


「………でも、これが」


お、反応した。


「んー、いいからいいから。

あとさっきの言葉への答えだけど、殺すのは駄目。

当然痛め付けるのもね。

ほら、早く戻っておいで。

私もずっと後ろを向いているのは首が疲れる」


「ルナが、そう言うなら……」


しぶしぶ剣をおさめてこちらへ戻ってきた彼は、それでも不満そうな空気を隠そうともしていない。

今も焔火の方に注意を向けているし、あぁまったく、厄介だ。


「明星もなかなかの使い手のようですね」


「君さ、空気読もうよ…

それで?あちらにいる方が今回の護衛対象ということでいいのかな?」


もう一度首を捻って後ろを振り返る。

開いたままの扉の傍に立っている、外見だけ見れば十代後半の少し性格のキツそうな印象の少女。

だが直系竜族だ、外見通りの年のはずがない。

というか煌炎もそうだけど、焔火のこと止めなよ。


「その通りです。

彼女の名はレン。現在“帝国”軍の部隊長をつとめています」


へぇ、部隊長。

“帝国”の軍は十五の部隊とそれをまとめる部隊長、そしてその部隊長達の上に立つ総隊長で編成されているから、地位だけで見れば事実上二番目に偉いことになる。

ただまあ部隊が十五もありその中でも数字が若いほど強く立場が強いということになるため、その実力は彼女が何番目の部隊長なのかにもよるが。

紹介をうけた当の本人は無表情でこちらに近づき、申し訳程度に頭を下げた。


「今回は依頼を引き受けてくれたこと、感謝する。

だがあなた達は何もしなくていい。

自分の身くらい、自分で守れる」


……うわー、なにこれ超面倒臭そうな予感。


「……それは、助かりますね」


まあなにも言わないけどさ。

うん、何となく分かった。

この子、まだ若いわ。と言うか青い。

こんな風にいきがってるようじゃ、まだまだだなぁ。


「そんな素っ気ない態度をとるものではありませんね、レン」


「……叔父上には関係のないことかと」


……叔父上。

いけない、ついふき出しそうになってしまった。

まあ間違いではないんだろうけど。

ふん、ざまあみろ。


「レン……まあいいでしょう。

ただしあまり、私達に迷惑をかけないように。

では私と宵闇の弟子に、互いを紹介しておきますか」


「そうだね。見たところ既に関係は最悪だ。

シルヴァ、目の前の彼は煌炎の弟子でランクA+の、通り名は焔火。

匂いで分かるのかもしれないけど獅子の獣人だよ。

これから暫くの間、仲良くね」


ただライオンだからなのかは知らないけどやけにプライドが高いんだよねぇ。


「焔火、あちらの彼は宵闇の弟子で貴方と同じくランクA+の明星です。

今回の依頼は宵闇と明星の二人も参加しますから、あまりちょっかいは出さないように」


……うん、私と煌炎が言っていることがあまり意味を成しそうにないのは何となく確信している。

だって今の時点でお互い威嚇しあっているし…やっぱりお互い獣の性みたいなものがあって反発しあうのだろうか。

何と言うか、マーキングとかそんな感じのやつが。


「これはルナを攻撃した。親しくする義理はない」


「あぁ?さっきからルナルナルナルナうるせぇ奴だな…

化け物女がそんなに好きなら精々引っ付いてろ犬」


「……化け物という言葉、さっきから耳障り。

その口、二度と喋れなくさせる」


「ハッ、やってみろよ」


あぁもう、だから嫌なんだよ、シルヴァと焔火を会わせるの。

絶対に性格とかその他もろもろが合わないって、会う前から確信していたし。

というか大体今はその話じゃないだろう。


「二人とも少し落ち着きなよ。

今はまだ依頼についての話の最中だ。

ほら、黙って話を聞く」


指を鳴らしてシルヴァと焔火、二人の口を強制的に閉じさせる。

焔火には殺意を込めて睨まれ、シルヴァには不満そうに見つめられたがその程度どうという事はない。

自業自得だよ、まったく。


「助かりますよ宵闇。焔火は私の言うこともなかなか聞きませんから」


「君の場合は聞かせる気がないことが殆どなんだろう。

それで、レンさん。依頼の内容を改めて聞かせてもらっても?」


水を向ければ彼女は相変わらず無表情でこちらを見やり一つ頷いた。


「今回私が――というか、皇帝陛下が依頼したのは我が国の最北にある関所までの私の護衛だ。

まあ関所と言っても現在は全く機能しておらず、“聖国”との国境を守る要塞と化しているが」


「なるほど。今回の依頼は煌炎・焔火の二人を指名したもので私達はあくまで助手と監視としての役割を果たすだけの存在であるつもりです。

ですが有事の際は私達も武器をとるようにはしますので」


「……先ほども言ったが、私は守られるほど弱くはない」


「確かに言っておられましたね。耳にしたことは覚えています」


ただそれが信じられないというか……まあ、意味は分かるだろう。

レンはピクリと眉を寄せ、私を睨みつける。


「その上でその発言を口に出すというのは、私が守られるような弱い存在だと言いたいのか?」


「いえ、そこまでは。こちらも仕事ですのでお気になさらず」


こんなところで駄々をこねないでほしい。

確かに私は彼女を心底なめきっているけれど、別に戦闘で使えないと断じている訳ではない。

ただ調子のってるなと思う程度だ。なんだろう、井の中の蛙?

それを一応は口に出さずに、私は私のギルド員としての仕事上必要不可欠な説明を行っただけなのだから苛立たれても困るというものだ。

本当に、これだから子供の相手は面倒だ。


「宵闇、北の要塞までは各地の情勢を探るためにも徒歩と馬を使って行くつもりです。

貴女にとっては少し時間がかかる面倒な旅程でしょうが、構いませんか?」


「ああ、問題ないよ。私達も北に用があってね。

ある意味この依頼はタイミングが良かった。

だけどその分、目的地に着いてギルド上で必要な手続きを終えたらすぐに私とシルヴァはその用事の方に行くことになるけど、いいだろう?」


「ええ、ギルドからそういった内容の通達が既に来ています。

では出発は明日の早朝に厩の前ということで」


「わかったよ」


「それと」


……まだ何かあるのか。

正直あまりここで長話をしていたくないんだけど。

シルヴァと焔火はまだ色々ギスギスして空気が重いし、レンも私を地味に睨んでくるし、本当に私が何をしたというんだ。

ただ本当で正当な事を言っていただけなのに、不公平だと思う。


「ガイオスと茶を飲んでやってください。

あれで本当に寂しがっているんですよ。

宮殿に戻ってきたら知らせをやりますから」


「んー。まあいいよ、それでも。

最近は緑茶を飲んでいないからね。

でもその分お茶菓子は良いものを頼みたいところだな」


「伝えておきましょう。では部屋に案内しますので。

貴女と明星は同室でいいんでしたか?」


「よく知ってるね」


これもギルドの高ランクと関係者の間で流れている噂というやつで知ったことなのだろうか。

そう思いつつ頷けば、何故かレンが顔を真っ赤にして立ち上がった。


「と、年頃の男女が同衾など、破廉恥だと思わないのか!?」


……え、なにこの純情っ子。


「煌炎、本当に彼女はいくつだ」


「レンは今年丁度百になりますね」


「それだけ生きていてこれか…」


何て残念なのか。

そういう思いを込めて見つめつつ、ため息を吐く。


「何かを誤解しているようですが、シルヴァはこれで十三です。

まだまだ人肌が恋しい年頃なんですよ」


「十三!?冗談だろう!?」


「本当の事です。彼はそういう種族なので。

では私達はこれで。また明日お会いしましょう」


これ以上話しているとどうにも完全に彼女の事を馬鹿にしきってしまいそうだ。

どうにもああいう手合いは苦手なんだよね、私。

苦笑を浮かべる煌炎に目配せをしながら、シルヴァを連れて部屋を出る。

待ち構えていたのか侍従が廊下に立っていた。


「部屋に案内してもらえるかな?」


「はい。既に用意させていただいております。こちらへ」


「ありがとう」


うーん、こういう使用人達は完璧なんだけどな。











ちょくちょく茶を飲みに来てはいるが、実のところ“帝国”の宮殿に泊まるのは初めてだ。

私の場合“王国”のセイのところによく入り浸るので他の国の中枢に入るのを避けているというのもある。

“王国”としてもその他の国としても、少し心配になると思うんだよね。機密の漏洩とか。

なので全くなじみのない中国風な寝台に寝転がりながら、そのチャイナ感を楽しんでいる最中である。

私がごろごろしている寝台に腰を下ろすシルヴァはまだ機嫌が悪そうだけれど。


「シルヴァ、いい加減その顔はやめた方がいいんじゃないかな?

そのまま固まってしまったら大変だよ?」


「……別に、平気」


「そうかい?まあ君がそう言うなら構わないけれどね」


うーん、どうしたものかな。

考えていたよりもすごく機嫌が悪い。

近年まれに見る不機嫌さだ。

あ、でも“王国”でもこういうことがあったか。

やっぱり城についてすぐの夜、あの時も彼はこんな風に機嫌を悪くしていた。

ただ今のような分かりやすい感じではなくて、あの時のものはもっといろいろな感情がごちゃ混ぜになっていたような気がするけれど。


「焔火のことがそんなに嫌いになってしまったのかな?」


「だって、ルナの事を攻撃した。殺気だってあった」


「まあ君の言っていることは事実だね。

焔火は私の事を殺したいと思っているらしいから」


私の言葉にシルヴァは顔をしかめて上体を少し倒し、私の両脇に手を突き覆いかぶさるような形になって顔を近づけた。

その表情はとても怒っているような悲しんでいるような悔しそうな……まあそういった感情が混ざり合ってとても複雑そうだ。


「……どうして?」


「うん?理由の事かい?」


「それもある。でも、それ以上にどうしてルナはそれをそんな風に受け入れてる?」


受け入れている、か。

私としては少し違うつもりだけれど、確かに似たようなものかもしれない。


「受け入れている訳ではないよ。

実際今日だって君が何もしなければ対応していたし、今までだってそうしていた。

私は私を殺したいと望まれても、残念ながらそれを叶えてあげることが出来ないからね」


死んでしまったらそれ以上望みを叶えることが出来ない。

それは私にとって避けたいことだ。


「でも、反撃はしない?」


「おや、よく分かったね」


「そうじゃないとあれは今生きていない」


まあ確かにそうだ。私は基本的に私に牙を剥く相手に対してあまり容赦はしない。


「ふふっ、そこまで私の事を分かって来たなんて、君も大概私と長くいるんだね。

……そうだな、私が案外好き嫌いが激しい事は知っているだろう?」


私の問いに頷いたシルヴァに笑みが漏れる。

そのまま彼を撫でれば、目の前にある表情も少し緩んだ。


「焔火の事、私はこれで案外気に入っているんだ。

ああして真正面から私を否定して拒む人間はなかなかいないから。

あそこまで嫌われると、逆に私は好きになってしまうんだよ」


「……それは、どういう意味、の」


「うん?」


ゆるんでいたはずの表情がいつの間にか強張っている。

どういう意味、とは逆にどういう意味だろう。

私がよく分かっていないことが分かったのか、彼は真剣な顔をして至近距離にある顔を更に近づけた。


「……ルナは、焔火が好き?」


「……?うん、まあ、好きか嫌いかで言えばそうだね。

あぁ、もしかして私が彼に恋愛感情を抱いていると思ったのかい?

あはは、それは有り得ないよ」


大体自分を殺したがっている相手に恋するなんて、どういうドMだ。

私はそういう性癖持ってないし。

笑いながら首を振れば、シルヴァは目に見えてホッとした顔をした。

もしかして彼に自分の師匠はドMなんじゃないかという心配をかけてしまったのかな。

それは申し訳ない事をした。

今後は特に、言葉の綾には気をつけよう。

そんな不名誉絶対に御免だし。


「よかった。もしそうだったらどうしようと思った」


とうとうシルヴァはぎゅっと抱きつき、そのまま私の首筋にすり寄る。

うーん、そんなに心配になったのか。

……つまり、私って普段から変な性癖を持っている様に見えるということ?

普段の生活も色々見直した方が良かったりして。


「君はよく分からないところで不安がるね。

まあそういう訳で、私は焔火の事を気に入っているから反撃はしないよ。防御はするけれど。

それにいつどんな時にも命を狙われたらかなわないから、ああいうことは一日一度と彼に約束させてある。

さっきのことも私にとってはいつも通りの事だから、君が怒る必要はない」


「……でも俺は、ルナを嫌うやつは嫌い」


「そう。私は君の思考を私の思うがままにしたいとは思わないから、それでも構わない。

ただこれはちゃんとした依頼だ。そういう公私だけはきちんと分けるようにね」


いがみ合うせいでお互い怪我を負ったり敵に負けたり、最悪死んだりなんていう結果は最悪だ。


「ん。わかった。でもルナ、またあれが攻撃してきたら、俺が相手をしてもいい?」


「君が?」


「ルナが戦うのは、あんまり好きじゃない。そう望んだ。

それにあれは俺と同じランクらしいから、いい修行にもなる。

俺からは攻撃しないし、反撃もしない。

ルナを攻撃から守るだけ。だから、駄目?」


じっと私の肩口から顔を上げたシルヴァがこちらを見上げる。

……その上目づかい、計算なんだろうか。


「……まあ、反撃しないのならいいよ。

でも怪我をしそうになったら止めないといけない。

君が無理をして怪我をする必要はないからね」


「ん。嬉しい。ありがとう、ルナ」


パッと表情を明るくしたシルヴァは再び強く抱きついてくる。

最早私は抱き枕状態だ。やれやれ。


―――ん?何かが高スピードで部屋に近づいてくる気配と足音が…

シルヴァも気が付いたのか、上体を起こし警戒しつつ扉の方向を見つめる。

こんな時でも私に戦わせるつもりはないのか、彼の両手は私の体の両脇を囲っていて起きられそうになかった。

でもこの気配って、ガイオスのものじゃないかな。


「ルナ!お前宮殿に来るなら来ると俺に一言………」


スパーン、と扉を開き室内に滑り込んだ“帝国”皇帝ガイオスは、勢いづいていた言葉尻をか細く小さくフェードアウトさせていった。

正に目が点、といった体で私達を凝視している。どうした。


「……俺、邪魔だったか…」


「すごく邪魔。空気を読め」


「こらこらシルヴァ、可哀想だろう。

私が言うことじゃ無いけれど。

久しぶりだねガイオス。

まあ一先ず私に美味しい緑茶を淹れてくれると嬉しいな」











「ほら、飲め」


私達の目の前に薫り高い緑茶の入った茶碗を置き、ガイオスは彼自身も自らのそれを呷った。


「……まあ、あまり邪魔では無かったらしいな。

シルヴァは相変わらずというか」


「もう少しルナと部屋でゆっくりしていたかった」


うんうん頷くガイオスに対し、シルヴァは少しむくれている。

そんなに休みたかったのだろうか。

ちなみにガイオスは私と同じで堅苦しいのがあまり好きではないし、私の性格もある程度分かっているため色々と仰々しい事はしない。

それもあってシルヴァに対しても公の場以外では敬語を使わなくていいと言ってくれていた。


「五月蠅いぞ。お前はいつでも一緒にいるんだろうが。

それに比べて俺は全く訪ねてきてもくれないし、間者を置いても逃げられるし、ならばと自分で帝都におりれば行き違うし……」


「最後のは自分のせいじゃないか」


少し冷ましてから同じく茶を啜れば、懐かしい味と香りが咥内に広がった。

うん、やっぱり緑茶は美味しい。自然と顔がゆるんでしまうくらい。


「ルナ、これ気に入った?

ならガイオス、この茶葉が欲しい。明日の朝までに」


「何と言うか、本当に相変わらずだな。

これは案外結構高価な品なんだが」


「皇帝にとっては端金だろう」


「……そしてルナ以外にそういう態度なのも相変わらずか」


「いや、実はシルヴァに同年代の友人が出来たんだよ。

知っているかな?“王国”の王太子の側近で、ジークというのだけど」


彼の事は友人と言って間違いではないだろう。

もう一人ジャックもそうと言えるかもしれないけれど、まあ闇ギルドのメンバーなので秘密だ。


「ああ、知ってるぞ。あの性悪王子の側近とは思えないような真面目で性格のいい奴だろう?」


「そう。合ってる。正解」


どれだけセイを嫌っているんだい…

なんだろう、決定的に相性が悪いのかな。


「まあ友人と呼べるような奴ができて良かったな。

じゃあその祝いもかねて、茶葉は用意しといてやる。茶菓子もいくつか見繕っておこう」


「……!ありがとう」


「……お前は礼だけはきちんと言えるよな」


「ルナが感謝の言葉は大事だって」


「ああそうかよ…」


ガイオスが半眼で私を見てきた。

なんだその目は。別に教育方針として間違ってはいないだろう。


「そういや依頼の件、感謝する。

煌炎と、特に焔火がいるから正直面倒がられると思っていたが…」


「まあ私以外に適役がいなかったからね。

氷雨は今依頼を受けている最中だから動けないんだ」


「そうか…まあギルドが心配しているような目的はないから安心しろ」


「知っているよ。君は争いごとがあまり好きな性質ではないから」


かなり強い力を持っているけれど、ガイオスは温和だ。

きっと本気になれば私の腕くらいは持っていけるのにな。

なんて考えていれば、隣のシルヴァが私の服の裾を引く。


「ルナ、どういう……?

そう言えばさっきも監視と言っていた」


「あぁ、そっか。君には説明していなかったね」


これはギルドとしても結構重要な事情だからどうしようかとも思っていたけれど、まあゆくゆくシルヴァもSSランクになるだろうしいいか。


「私達SSは他とは比べ物にならない力を有しているだろう?

だからギルドから制限されていることがいくつかある」


「知ってる。婚姻などの場合を除いてどこかの国に永住することと、国の軍隊に所属すること、依頼の受理に私情を挟むこと」


「うん、その通りだね」


本当に物覚えがいい子だ。

褒める意味も込めて頭を撫でれば、途端に彼の頭から耳が生える。


「お前らな……まあいい。

それでギルドは中立の立場を対外的に保っている。

後、各国の戦争の事前阻止の役割も持っているんだが……俺の従弟の煌炎はあれで“帝国”の王族だからな。

いくらギルド員といっても王族ともなれば国に領地を持つことになるし、永住の自由は許されている。

血筋的にも状況的にも、煌炎は“帝国”に肩入れしやすいってことだ」


「そんな彼が“帝国”の軍の要人と共に国境に向かう。

一応護衛という依頼を介しての形だけれど……もしかしたら“帝国”が“聖国”に戦を仕掛けるための布石かもしれないだろう?

その場合SSの煌炎を止められるのは同じくSSの私か氷雨しかいない。

だから私達はもしものための“監視”の役割を担っているんだよ。

――まあ、戦争なんてガイオスは起こさないから、名前だけのものなんだけどね」


この話は煌炎もガイオスも含めた“帝国”上層部全てが知っていて、同時に了解している事実だ。

ギルドも事前に話しておけば“帝国”の怒りは買わないと思ったのだろう。

実際それは大正解の選択と言える。

もしも何も言わずにそんな真似をしたらガイオスは相当怒っただろうし。

彼は温和だけれど、騙すようなことは大嫌いだから。


「だがまあ、それでルナとシルヴァが宮殿に来たんだから役に立つ名目だ。

前に会ってから一年半程経っているからな」


「ふふっ、一年半なんて君にとっては一瞬のような出来事だろうに」


竜族の寿命は八百年程。

その中でもガイオスは純潔の直系竜族なので更に長く千年は生きるだろう。

現在彼は七百を少し過ぎたくらいだが、その力は見たところ全く衰える様子が無い。


「俺は案外寂しがり屋で気が短いんだ」


「はいはい、こんな老人が言っても可愛くないよ。ねぇシルヴァ?」


「ん。全然。気持ち悪い。

ルナが言えばすごく可愛いはずなのに、不思議」


「……お前ら、俺は一応皇帝だからな?」


そんなことわかってるよ。当たり前じゃないか。




・煌炎 男 (367)

白っぽい髪に青い目。長髪。上品そうな顔。

ルナと同様ギルドランクSS。

ギルドに入った瞬間“帝国”の王族であることに頼らないと決意したため、以来二つ名である煌炎を名乗る。

腹黒。他人をそうとは気づかせずに自分の思い通りに動かすのが上手い。

案外面倒くさがりで、自分にとって条件の悪そうな依頼が回って来そうになるとルナやもう一人のSSである氷雨に回させたり手伝わせたりする。

竜族は魔力を持たないがその代わり火を吹くので雨が嫌い。

強力な炎を操ることからその二つ名がつけられた。

焔火を弟子にとったのは、あ、こいつ単純だから使いやすそうと思ったことが一因。



・焔火 男 (21)

獅子の獣人。ワイルド系。煌炎の弟子で、“帝国”国民。

ルナの事が嫌い。大嫌い。

正直自分の師匠であるはずの煌炎のこともあんまり好きじゃない。

というか自分よりも強い相手の事が好きじゃない。

けれどルナへの嫌悪は別格。

煌炎の弟子になった切欠は彼に勝とうとしてコテンパンに負け、その時に煌炎が勝手に弟子にしたこと。

正直少しそのことを今でも恨みつつ、確実に強くはなっているため文句は言えない。



・ガイオス 男 (731)

“帝国”皇帝。ルナとは彼女がランクAの時に出会った。

その時ルナは色々事情が重なって苛々しており、その力の片鱗が僅かに露出、当時自分に並び立つ、もしくは上を行くような力の持ち主は一人としておらず、自分を超す力の持ち主に一気に興味がわいた。

そしてそのまま突撃、なんだかんだと親しくなって茶飲み友達になる。

ルナがシルヴァを弟子にとってからも会っているため、シルヴァとも結構親しい。

だがシルヴァの修行の事情やルナ本人の面倒臭がりが原因となって最近は共に茶を飲むことも無く会うのは約一年半ぶりだった。

その期間が寂しすぎたため、一年前から彼は帝都の米と緑茶を取り扱う店に間者を置くようにしている。



・レン 女 (99)

直系竜族。“帝国”軍第十番部隊長。

きつめの顔立ちの美人さん。

性格もけっこうキツイ。…というか意地っ張りで少し自信過剰。

自分は強いのに何故こんなに護衛がついたのか全く納得がいかない。

理由は実戦経験が圧倒的に少ない事、その性格によるものなのだが、本人はそれに気づいていない。



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