4-1
Side:Luna
『おい』
何だか声がする。
耳障りだ。まだ眠いのに。
『こらルナ!さては寝ておるじゃろう!起きろ!今すぐ!』
………くそ、五月蝿い老いぼれめ。
『おい、聞こえておるぞ!
老いぼれとはわしのことか!?
さっさと起きろと言っているじゃろう!』
ガンガンと頭の中に響くオルドのギルマス、ヒルルクの声。
それによって強制的に起こされた私は、仕方なく彼の声に答えることにした。
ちなみにまだ目は開けていない。
せめて少しでも寝ている気分を味わいたいし。
――それで、何の用さ。
わざわざ君から念話をしてきたんだ、よっぽど私にとって面倒なことがあるんだろうね?――
念話は相手から術をかけられれば言葉を口に出さなくても構わない。
思っていることがそのまま伝わる危険性もあるけど、深層心理ではなく表層の、本当に言葉として思ったことだけが伝わるから便利だ。
例えるなら、テレパシー?
『仕事だ』
――そんなこと分かるよ。
どんな内容かを聞いているのさ。――
『お前はそうやっていつも人をくったような物言いを…』
――文句が多いなぁ。それで、内容は?――
さっさと二度寝したい。
『くそっ、覚えておれよ!
ルナ、お前今“帝国”におるじゃろう。
そこで護衛の仕事をしろ。依頼が入った』
ギルド員は首に下げるギルド証にかけられた魔術によって、いつでもギルド本部に位置情報を把握される。
そして依頼があった各所のギルドから本部へと問い合わせれば、それが伝えられる仕組みになっているのだ。
どこに誰がいるかを知ることでその依頼に迅速に対応できる人員を把握することもできるから便利な仕組みである。
まあ私は色々とヤバイこともあるので(だって闇ギルド本部に位置情報あるとか笑えない)その魔術をいじってあるんだけど。
あ、今は勿論正常に戻している。
いじっていることがバレたら処罰ものだし、本当に正規ギルドに知られるとマズイ場所に行くときだけだ。
――えー、やだよ面倒臭い。
それに今私は忙しいんだ。
“帝国”の北にあるかもしれないシルヴァの故郷を探しに行かなくちゃいけない。
そういうわけで暫く依頼は受け付けない。他のSSに回して。――
さて、寝よう。
『待て!待たんか!』
だが再びヒルルクによって眠りに落ちかけた意識が回復してしまう。
ああくそ、本当に面倒だ。
『お前今北と言ったな!?
なら丁度いい。依頼主も北へ行きたいそうじゃ。
北までの道のりの護衛だけで構わんからやれ』
――……同じ北と言っても北東か北西かで違ってくるだろう。――
『北東でも北西でもない。真北じゃ』
――チッ。――
何てことだ。どちらと言っても方向が違うと言いたかったのに、まさに私達が向かうドンピシャじゃないか。
頭に愉快そうな笑い声が響くのもまた、私の悔しさを増長させる。
『よし、決まりじゃ。
“帝国”の北、北要塞まで“帝国”国軍のお偉いを運べ』
しかも何だそのきな臭さ。
軍人なら一人で行け。
『それと、今回はお前達の他にもう一組護衛につく』
――もう一組?いらないんだけど。――
『そう言うな。必要だとこちらが判断した』
――ふーん、SSとA+に、ねぇ。……――
何かありそうな、嫌な予感。
『いや、今回はむしろお前達が付き添いのようなものだ。
この依頼は煌炎を指名したものだからな」
……煌炎を、“帝国”が?
なるほどなるほど、それなら今回のことには納得がいく。
私達はさしずめ、お目付け役ということか。
――氷雨はまだ依頼の最中なんだっけ?――
『その通りだ。あいつは一々時間をかけるからな』
――私以上の面倒くさがり屋だからね。
まあ依頼は仕方ないし受けるよ。私以外に適任がいないんじゃ仕方がない。
シルヴァにはまぁ……上手く言っておこう。――
『そうか、助かる。
お前達がいるのは丁度帝都だな?
そのまま宮殿に向かえ。話は通してある』
――やれやれ、人使いの荒いギルドだ。
わかった。君の指示に従おう。それじゃ、煌炎と合流出来たらまた知らせるよ――
『よろしく頼むぞ』
ふつりと魔力が切れる。
それを合図に私も目を開き、ベッドから起き上がって部屋を見回した。
寝ている間にシルヴァは出かけたらしい。
ベッド脇の台に買い物をしてくる旨を伝える置手紙があった。
こういう風に、彼が自分で私から離れているのは少し新鮮な気分だ。
勿論始終引っ付いている訳ではないけれど、昔の記憶がそう思わせるのだろうか。
拾ったばかりの頃、彼は片時も私から離れようとはせず少し離れるのにもそれがどうしてなのか、どれくらいかかる物なのかを説明しなければいけなかった。
当然彼がそのようなことを口に出して聞いてくるわけはない。
ただぎゅっと口を引き結んで、今にも泣きそうな瞳で私を見つめるのだ。
それこそ正に、捨てられる寸前の子犬のように。
だからこんな私でも色々と気を遣うことができて、彼の不安を消してやろうと行動することが出来た。
今思えばなかなか有り得ないことだ。
私はあまり、こちらの世界の人間にそういうことをしたいとは思わないから。
「そう言えば、文字も私が教えてあげたんだっけ」
こちらの人間ではない私がこちらの人間であるシルヴァにこちらの文字を教えるなんてなんて皮肉だろうと思いながら、それでも夜な夜な教えてあげた。
彼は頭がよかったから、それもすぐに必要なくなったんだけど。
ただ私のせいなのかシルヴァ自身の問題なのか、字に私と同じ癖がついてしまったのは想定外だったかな。
少し右上がりの字。私に似ていて、それでも私が書いたものではない文字は、今はもう遠い彼を思い出させて寂しくなる。
それでなくともシルヴァは黒に近い瞳を持っているから、どうにもあちらと近く感じてしまって困るのだ。
「……さて、シルヴァを探しに行くか」
ここで過去を懐かしみ後悔し悲しんでも仕方がない。
依頼を達成して、また一つ望みを叶えなければ。
そしてこの“帝国”でシルヴァの故郷が見つかれば更に望みを叶えられたことになる。
……“聖国”だったらやっぱり少し嫌だから、この国にあることを祈っているけど。
窓から宿の屋根の上にのぼって周囲を万遍なく見回す。
目は良い方だから、こうするだけで十分だ。
それに歩いて探すよりも余程早いし。
「どこにいるかな……買い物と書いてあったから、市場の方だと思うんだけど」
だとしたら方向は限られてくるのだが、そちらには銀色は見当たらない。
シルヴァの髪は陽の光を受けると綺麗に輝くから、今日のような日にはとても探しやすいのだ。
……ちなみに、今は昼近くだ。
昨日の夕方に闇ギルドから“帝国”に転移して、宿に入って私はすぐに寝てしまった。
そのままこの時間まで起きなかった私はダメ人間まっしぐらである。
シルヴァはきっと普通に夕食をとって夜になってから寝て、きちんと朝に起きたんだろうなぁ。
早朝に修行でもして汗を流したのか、浴室は濡れていたし。
これも私の影響か、彼は汗をかいたらシャワーを浴びるという習慣がついてしまっている。
普通のこちらの人間はあまりそういう事を気にしないから、シャワーすら二日に一回浴びればいい方という状態なのに。
……あ、そういえば私、昨日の夕食も今日の朝食も食べていない。二食も食い逃した…
「いないなら仕方ない……念話するしかないか」
さて、既に五分ほど探し続けているが一向に見当たらない。
どこかの店の中に入ってしまっているなら流石に肉眼では壁の透視などできないから、魔術に頼るしかあるまい。
シルヴァの魔力の波長を思い出して自分の魔力をそれに沿わせ……あ、合った合った。
繋がった感覚がするから見つけられたみたいだ。
「シルヴァ?聞こえているかな?」
『ルナ。おはよう』
「おはよう」
……いや、行儀がよくて何よりだけど、少し気が抜ける。
『部屋に書置きを残しておいたけど、何かあった?
ルナが連絡してくるなんて珍しい』
「まあ普段の私なら部屋でぐうたらしているか、同じく買い物の為に外に出ているからね。
実はヒルルクに寝ていたところを起こされて、そのまま依頼を命じられたんだ。
要人の護衛をしなければいけなくなってしまった」
『また、護衛……?』
我が弟子は相当対人の依頼が嫌いらしい。
声だけでも不満そうな雰囲気が伝わってくる。
「どうしてもこれは断れないもので、すまないね。
でも護衛の目的地は私達の目指す北だし、私達はオマケのようなものだから比較的自由だと思うよ」
『オマケ……?ルナが?』
まあ一応SSだしね。彼の疑問も無理はない。
「私達の他にもう一組、やっぱり二人組のチームが依頼に入ってるんだ。
元々は彼等への指名依頼だったんだけど、そこに私達も追加されたという訳」
『……もっとよく分からない』
「詳しくは直接説明するよ。
その前にまずは依頼主とその一緒に組む二人に合流しなければいけない。
彼等はもう同じ場所にいるからね」
『ん……。わかった。どこに行けばいい?』
分からないことが多いだろうに、いい子だ。
成長したと言うべきか。
昔はよくこういう場面でたくさん質問をぶつけられた。
それにきちんと答えたのは数える程だけど。
「宮殿の門の前においで。きちんと戦える格好でね」
『なめられる?』
「うーん、どうだろう。依頼主は軍の要人ということしか知らないんだ」
これが戦いなど全く知らない、ただ後ろでふんぞり返っているだけの人間ならなめられるだろう。
何しろ外見が外見だ。特に私。
日本人は人種的に幼く見えるし、女だし、もう最悪。
一番酷い時には十五歳とか言われた。
だが逆に本当に戦える人間ならそれはないはずだ。
だからある意味、なめられるかなめられないかでこちらの対応も変わってくるということ。
『ルナを馬鹿にする奴は、嫌い』
「おやおや、嬉しい事を言ってくれるね。
でもそれは困ったな…」
依頼主はいっそどうでもいいけれど、それだと一緒に仕事をするメンバーが…
『?』
おっと、まあいいや。どうにかなるだろう。
「いや、こっちの話だよ。それじゃあ宮殿の門の前で待っているから、急がずにゆっくりおいで。
それ程急いでもいないからね。買い物が途中なら続けてもいい。
昼になるまでならきっと依頼主も文句は言わないだろう」
『……ルナはすぐに転移する?』
「私かい?そうだねぇ……とりあえず水を一杯飲んでから転移しようかな。
昨日の夜から何も食べていないし」
『……わかった。じゃあ用を済ませたら門の前に行く』
「うん、それじゃあね」
『ん』
念話を切って部屋へと戻る(勿論窓からだ)。
まだ買い残しでもあるのだろう。
ならシルヴァが焦るといけないし、少しゆっくりめに行こうかな。
……ああでも水を飲むくらいすぐだった。
事実もう終わってしまったし。
かと言って食べるようなものも無いし、わざわざ何かを食べなければいけない訳でもないしなぁ。
チート特性と言う訳でもないけれど、私の今の体はあまり食事を必要とはしないから。
ただ食べることは嫌いではないし、食べないと周りがうるさいから(セイとかシルヴァとか)出来るだけ毎日三食摂る様にはしている。
「まあ待つことは苦ではないし、もう行くか」
これでも気は長い方だ。色々と人生経験豊富だから、ね。
今は周囲に人もいないからわざわざ詠唱とか指を鳴らしたりとかの動作も必要ない。
一歩踏み出すと同時に魔術を発動させて門の前に飛ぶ。
……うん、久しぶりに来たけど、あんまり変わってないな。
と言ってもころころ宮殿の装飾を変えていても問題だけど。
“帝国”の宮殿はまあ私から言わせれば……中国の城、といった感じだろうか。
この国は米を主食にするし、箸とか着物っぽい服とかチャイナ服とか、少しあちらに近い。
だから結構落ち着くんだよね。逆に寂しくもなるんだけど。
金で装飾がされた門の左右には衛兵。
出来れば門のところに座って待ちたかったけど、流石に怒られそうだ。
どこにいようかな……なるべく分かりやすくて目立つ場所にいたい。
その方がシルヴァも私を発見しやすいだろうし。
「ルナ!」
…って、あれ?
「……シルヴァ。早かったね。
というか、走ってきたのかい?
急がなくていいと言っただろう?」
少し息が上がっているということはかなりの距離を走ったか、彼の出せる最高速度で走ってきたということだ。
そうでなければ鍛えている彼が息をあげるはずがない。
「ルナの匂いがしたから、もう来てると思って。
そんなに急いでない」
「そんなにって、君ねぇ……」
「本当の事。あと、これ」
そう言って彼が差し出してきたのは……おにぎりではないか。
笹(っぽい葉っぱ的なもの)に包まれた三角のそれを見つめる。
あ、つい受け取ってしまった。
「どうしたんだい、これ」
「買った。ルナ、ご飯食べてないって言ってたから」
「もしかして君の言っていた用って、これのこと?」
「そう。一日三食食べないと体に悪いって、ルナが言ってた事」
……確かにそんな事を言った気がする。
やっぱり彼を拾ったばかりの頃、なかなか食事をとろうとしない彼をどうにか説得するために色々と言葉を尽くしたんだよね。
今となっては逆に諭されてしまっているけど。
「……じゃあいただくよ。ありがとう、シルヴァ」
「ん。……めしあが、れ?」
「そうだね。こういう時には召し上がれだ」
あまりシルヴァから食べ物をもらうことがないから、言いなれていないんだろうな。
私からお菓子だとかをあげることはよくあるんだけど。
おにぎりに口をつけながらシルヴァを観察すれば、彼は少し照れたように微笑んだ。
可愛らしい事だ。まあこの微笑みが大変分かりづらく、他人からは無表情にしか見えないのがたまに傷だけど。
きっと他人に彼の無表情が崩れたと感じられるのは、シルヴァが満面の笑みを浮かべた時くらいだろう。
「ん、ごちそうさま。美味しかったよ」
おにぎりの具は鮭だった。
正に日本人の心、なんてね。
「よかった。おにぎりは前にルナが作ってくれたから、鮭の味は分かる。
後ルナは梅干しが嫌い」
「……よく覚えているね、本当に」
まさか具の好き嫌いまで覚えていてくれるとは。
確かに私は梅干しが苦手だ。
別に食べられない訳じゃないんだけど……こちらの梅干しって、はちみつ漬けが無いんだよね。
はちみつ漬けなら食べられるんだけどなぁ。
「ルナの事は何でも覚えたい」
「そんなにしなくてもいいんだけどねぇ。
さて、私の腹もふくれたし、中に入ろうか」
「ん」
さっきはスルーしたというか……怪しい人間に見られそうで敢えて遠ざかった衛兵に近づく。
確かヒルルクは話は通してあると言っていたけど、こんな末端にまで伝わっているのかな。
「すみません。少しいいですか?」
「……もしや、ギルドの方ですか?」
「…うん、まぁ。依頼を受けた……“宵闇”と」
少し驚いた。伝わってたよ、末端にまで。
にしても相変わらず自分の名前を言うのはとんでもない羞恥プレイだ…
「ようこそ“帝国”へ。
あなた方の事は伝わっております。
宵闇様、明星様ですね」
「その通りだよ」
「こちらへ。案内いたします」
話が早くて助かるけど、なんだかなぁ。
やはり驚いているらしいシルヴァと目を見合わせつつ、案内してくれるという衛兵に続く。
連れて行かれたのは――よかった、謁見の間とかじゃなく離れの建物だ。
さすが、私の事をよく分かっていると言うか。
「私はここで失礼します。中へお入りください」
「ありがとう。そうさせてもらうよ」
わざわざ扉を開けてくれるなんて、衛兵なのに教育が行き届いてるなぁ。
こういうことが出来る衛兵って、他国にはなかなかいないと思うんだよね。
「あぁ、来ましたね。お久しぶりです宵闇」
一歩室内に踏み入れた瞬間こちらに声がかかる。
「君もね、煌炎。相変わらずみたいだ」
私を出迎え穏やかに笑ってみせた外見だけは二十代の綺麗な顔の男。
私と同じギルドランクSS、通り名を“煌炎”という。
彼は私からシルヴァへと視線を移すと、小さく首を傾げる。
ああ、シルヴァと会うのは初めてだっけ。
「そちらは噂の、貴女の弟子ですか?」
「その通りだよ。五年前から私の弟子をしている――この場合、明星と言った方がいいのかな?」
彼は通り名で人を呼ぶから。
「よろしくお願いします、明星。
俺はランクSSをギルドから頂いています、煌炎という者です。
今回は俺達への指名依頼に巻き込んでしまって、申し訳ありませんね」
良く言う。大方彼の仕組んだことだろうに。
この煌炎は人畜無害そうな顔をして、実際腹の中は真っ黒だ。
他人を使うのが上手いから、私も、残るもう一人のSSである氷雨も苦労させられている。
「よろしく。ルナの弟子で、本名はシルヴァ」
「噂通り、宵闇になついているようですね」
「ルナは俺の師匠だから」
「羨ましい限りですね。俺にも弟子はいますが、君のように素直な子ではありませんから」
まあ彼はそうだろうな…
煌炎の弟子はある意味シルヴァとは正反対と言える。
「ところで煌炎、依頼主と君の弟子は?」
この部屋には煌炎しかいない。
一緒にいると思っていたのだけど。
「ああ、彼等なら今体を動かしたいと外に出ていますよ」
「ん?となると今回の護衛対象は戦える人間なのかな?」
体を動かしたいって、そういう事だよね?
「ええ、俺と同じ直系竜族の者ですからね。
実力はそれなりに保証します」
「ふーん、なら楽でいいかな」
「……?」
納得する私の横で、シルヴァは不思議そうに首を傾げた。
あ、シルヴァはその辺りの事よく知らないんだっけ。
「この国の皇帝が竜族ということは知っているよね?」
シルヴァを連れて何度か茶を飲んだこともある。
彼の事ならシルヴァも分かるだろう。
実際彼は私の問いに頷いた。
うん、少し前の事だけどちゃんと覚えていたらしい。
「皇帝の血筋は他の種族の血が一切混ざっていない、竜族の直系なんだ。
そして竜族の血が濃ければ濃い程、力も強い。
実際ここにいる煌炎も皇帝の血族――まあ従弟なんだけど、だから血が濃くて強い。
その彼が保証する直系なんだ、なかなか期待できると思うよ。
少なくとも邪魔にしかならないというのは有り得ないはずだ」
「じゃあ今回の護衛対象は王族?」
ああ、確かにその可能性があるのか。
そこには気が付かなかったな。
確認の意味を込めて煌炎を見やれば、彼は微妙に頷いた。
なんだ、その反応は。
「王族、と言えばそうでしょう…
ですが彼女は少々型破りでして」
「彼女?軍の要人って、女なのかい?」
意外だな。男だとばかり思っていた。
でも“帝国”は他国と比べて男女平等な社会が出来ているから、別に不自然ではないかもしれない。
その男女平等の思想が結婚観にも影響して、一夫多妻どころか一妻多夫まで許されるお国なわけだし。
「ええ、俺の――そうですね、まあ遠い姪、のようなものです。
現皇帝の母違いの娘の孫の――」
「あ、そういう説明はいいから」
長くなりそうだし。
竜族は長命だから、そういうの多いんだよね。孫ってなんだ、孫って。
「えーっと、じゃあ私達はどうすればいいのかな?
あんまり詳しい話は聞いていないんだ。
出来れば説明をして欲しいんだけど」
あまりにも眠かったのと、あんまり話しているとヒルルクの血管が切れそうな気がしたから遠慮したんだよね。嘘だけど。
というかただ聞くのを忘れていただけだ。
いつ帝都を出発するのかとか、どういう風に目的地まで行くのかとか、聞かなければいけないことが山ほどある。
「それは残りの二人が戻ってからにしましょう。
恐らくそろそろ戻ってくるはずです」
「そう。ならそれまでゆっくりさせてもらおうかな。
シルヴァも、立っているのは疲れるよ。座らせてもらおう」
「ん」
シルヴァと並んでソファに座り、首を回したりしてストレッチ。
寝起きって少し体が硬くなっているような気がするから、ついこういう動作をしてしまうんだよね。
「そういえばガイオスはどうしているんだい?
彼にはここ最近会っていないから、よく分からないんだよね」
ガイオスというのは“帝国”皇帝の名前だ。
外見は老人で、勿論中身も何百歳の超高齢者。
私とは茶飲み友達的な仲である。
緑茶が飲めるのってこの国だけなんだよね。
「会っていないのはルナが面白半分に逃げているからだと思う…」
「やだなシルヴァ、面白半分なんかじゃないよ?
ただたまにはそういう予想外の出来事と言うか、まあ予定調和にないようなことをしたくなるものだろう?」
「そう……?」
どうやらまだシルヴァには分からない気持ちらしい。
うん、いつか君もわかるようになるよ。
「宵闇は相変わらずですね…
そのせいで今、彼は不在なんですが」
「そのせい?どういうことだい?」
「貴女があまりに逃げるので、使いの者には任せていられないと今回自分で帝都に行ってしまったんです。
弟子である明星が市場で買い物をしたのは暗部の者が掴んでいましたので、貴女もいると踏んだのでしょう」
……その読みは間違ってはいないが、合ってもいない。
何と言うか、運が悪いとしか…
「と言うか、そうやって店に間者置くのやめなよ。
君達にはプライバシーというものが無いのか」
「ぷらいばしー?」
あ、通じないんだった。
「えーっと、慎み、みたいな?
行動を逐一誰かに報告されるなんて恥ずかしいじゃないか」
「仕方ありませんよ。ガイオスにとって貴女は数少ない気を遣わずに済む相手ですから、色々と話したいことがあるんでしょう。
ですが貴女は例え“帝国”に立ち寄ったとしても宮殿に来ることは少ない。
そうなるとこの手段を使うしかありません。
俺達竜族は魔術が使えませんからね」
「うーん、納得がいかない…」
大体魔術が使えたとしてもそれで他人の動向を把握しようとするな。
「仕方がないのでは?
それだけ貴女と親しくしたいというガイオスの意志でもありますから」
「だからと言って魔術とか間者で行動把握されてもなぁ…
君もそう思わないかい、シルヴァ?」
「え…」
あれ、ビクッと肩が跳ねたんだけど、これはどういうことかな。
もしかしてガイオスの気持ち分かるの?
「明星も共感できる考えのようですし、ね」
「そうなのかい?
うーん、君もそういう感覚なのか…」
「いや、その…」
シルヴァは言いにくそうに目をそらした。
少し否定的なことを言いすぎたかな。
シルヴァもそういう考えの持ち主だとは思わなかったからなぁ。
「……俺は、そういうのは、するとしても一人だけ」
「一人だけ?行動を把握したい対象のこと?」
「そう。やっぱり大切な人の事は心配。それに不安」
どういう事だろう。
いまいち私が理解できていないことを悟ったのか、シルヴァは考えるように眉を寄せて言葉を続けた。
「大切な人の事は、色々知りたい。
一緒にいられるならいいけど、離れているなら何をしているかとか、危険な目に遭っていないかとか心配になる。
だからガイオスのそういう所は分からないでもない」
つまり過度な心配性ということか。
あれだな、お母さんが子供に安心ケータイ持たせるような感覚のやつ。
確かあれ、GPSで位置情報確認できたはずだし。
「うん、何となくわかったよ。
でもそういう事はやるならちゃんと本人に確認をとってやった方がいいと思うな。
そういう事をされるのが嫌いな人もいるだろうしね」
「……大丈夫。もう分かってる」
「うん?直接聞いたことがあるの?」
それはそれで大変勇気のある行動だ。尊敬する。
下手をすれば今からストーカーしていいですか?っていう質問にとられかねないし。
少し肩を落とした様子のシルヴァを見るに、それは断られてしまったらしい。
まあそれでも諦めているならいいよね。
うん、ちゃんと我慢ができるいい子だ。
「……思っていたよりも、色々と面白い様ですね。
流石は一部の高ランクとギルド関係者間で噂になっているだけはあります」
そして煌炎のこの言葉はどういう意味だ。




