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限りなく人っぽい何かと銀と金  作者: 美羽
銀色の当惑
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3-12*

Side:Joker




ルナは心配していたよりも買い物を楽しめている様だった。

そもそも今日はクイーンがルナと関わる日というものだったが、最近のルナの様子が気になり買い物を提案したのは妾だ。

エースと依頼を行ってから、ルナは挙動不審と言えばいいのか……弟子をどう扱うべきか悩んでいるように見えた。

弟子はあの依頼に見学として同行したらしいから原因はその時に起こった何かなのだろうが、さすがに妾もそこまで深く突っ込んで何が起きたのか知ることは出来ない。

分かるのは、弟子はルナを拒まなかったのだろうということだけだ。

だがそれだけでルナがああも動揺するものなのか、それが気がかりだった。

ルナは他人に執着しない。

妾達のこととて、必要であれば切り捨てるのだろう。

そんなルナが他人の行動で動揺するなど――有り得ないことだ。

これが“王国”の第二王子やルナの唯一の存在のことなら無理のない結果なのだが。


――弟子は、ルナにとって“大切”と言うことのできる存在なのだろうか。

もしそうなら、それは…


「ジョーカー?アイス溶けるよ?」


「……うむ、そうだな」


いかん。年を取ると自分の裡に入り込みやすくなるのが難点だ。

つい考えに浸り、外への注意が疎かになってしまう。

ルナに指摘された通り、手元の氷菓子は少し液状になってしまっている。


「ジョーカー、食べないなら僕が食べようか?」


「心配は無用だ。妾が食べるからな」


成長期というものなのか、エース程ではないが多くの食事を必要とするジャックに妾のおやつを渡すわけにはいかない。


「残念。じゃあ追加注文しよーっと。

他の皆は何かいる?」


「私も追加。次はケーキがいいな」


「あたくしは何も」


「おっけー。すいませーん、ケーキ二皿」


現在妾達はルナのための服を選ぶ会場である服飾店の正面に建つ店のオープンテラスで一休みの最中だ。

粗方闇市を歩き回ったので、ジャックの希望であるお菓子を食べている。

弟子の不在は自分の順番が回ってきたためだ。


「うーん、なかなかの味だね」


注文をとった直後、大急ぎで用意された(妾達闇ギルド幹部はこういった特別待遇が多いのだ)ケーキをつつくルナは弟子にやってもらったという髪の毛先を弄りながら頬杖をついた。

そう言えばルナの行動に余裕が出てきたのはそれより少し前、闇市に来てすぐの頃だったように思う。

勿論日々の生活から段々とルナの動揺は小さくなっていったのだが、それでも戸惑っていることが妾から見て明らかだった。

それが少しの時間で掻き消えたのだから、ルナの中で一体何が起きたのか気になるものだ。


「ルナまた髪いじってる。

そんなに気に入ったの?

クイーンがすごい顔してるよ」


「そんな顔をするものじゃないよクイーン」


「く、悔しいですわ……!」


ルナの今の髪型は、なるほど確かによく似合っていた。

妾もつい凝視してしまう程に。

それにそれが弟子の手によるものだという事実は妾達――中でも特にクイーンを驚かせ悔しがらせた。

弟子は勝ち誇ったような顔をしていたが。


「いいじゃないか、そんなに気にせずとも。

クイーンには他にいいところがたくさんあるよ」


「例えば?」


ニヤニヤ笑うジャックはこの状況を楽しんでいるらしい。

夜の精霊族の特性なのか、何でも面白がるその性格はどうにかして欲しいものだ。

それが原因でルナとあのようなことになったのだから。


「例えば、ねぇ……

少なくともシルヴァよりも強い」


「ルナ、誉め方それしか無いの?」


「ルナは強さを至上とするギルドの教えを作った張本人だからな。

そればかりを推すのは当然と言えば当然だろう」


ただまあ、クイーンは不満そうなのだが。


「へぇ、作ったのルナなんだ?

何か今もあんまりルナが闇ギルドの創始者って感じがしないから意外」


「まあ君は初期メンバーじゃないからねぇ…

私はこの世界で生き抜くには何よりも強さが必要だと思っているからそうしただけだよ。

気に入らないなら“ジョーカー”になって自分で決まりを変えればいいんだし」


「それ絶対無理でしょ」


「ジョーカーもルナ様も規格外てすものね」


そうは言われても、こちらから言わせれば妾達が強いのではなく周りが弱いのだ。


「妾達もやがては老いる。

その時に戦えばどうにかなるのではないか?」


「それ何年後?」


「………」


何年後なのだろう。

引きこもっていた時期が長すぎて、自分の正確な年齢など覚えていない。


「ジョーカーの場合は百年とちょっとくらいじゃないかな?

まだ四百歳まではいっていないはずだからね」


「む、そうか。そのくらいだそうだ」


「先に僕が使い物にならなくなるよ…」


それもそうかもしれない。

精霊族は人族と変わらない寿命しか持たぬため、仕方のないことではあるのだが。


「じゃあルナは今いくつなの?」


「そう言えばあたくしも知りませんわ、ルナ様のお年」


…………これは、どうするのだろうか。

妾はルナの事情を少しではあるが知っている。

その事情に年齢も関わってくるが…


「私かい?さぁ、どうだろうねぇ」


どうやら誤魔化すらしい。

意味深に微笑んで、ルナは空になった皿にフォークを置いた。


「女性に年を尋ねるのは失礼だと教わらなかったかい?」


「えー」


「それは、そうですわね…」


クイーンは納得したようだったが、やはりと言うか、ジャックは不満顔である。

そこへルナがふと顔を上げ、正面の服飾店を見上げた。


「あ、シルヴァが終わったみたいだね。

もう行かないと」


「うわ、そんなに分かりやすく話そらさなくてもいいじゃん」


「ふふっ、言いたくないからね」


ルナは弟子の単独行動に際して魔術をかけていた。

大まかな行動を知るもの、戦闘が始まった瞬間にそれをルナに知らせるものの二つ。

そのうちの前者が反応したのだろう。

席を立つルナに妾達も立ち上がって店を出る。

どうやらジャックも諦めたらしい。

あやつは引き際をよく知っている。


それにしても……ルナは誰の選んだ服を選びとるのだろうか。














「ルナ」


出入口付近で立っていた弟子はルナを目に留め、嬉しそうに目を細めた。

口角もほんの少し持ち上がった気がする。

弟子は基本的に表情を動かすことがなく、正確な感情や考えはルナにしか感じとることが出来ない。

そういった点が気に食わなくもあるが、きっとルナは妾の感情とて正確に読み取るのだろうと予想が出来るのだから、苦情を呈するほどではなかった。


「お疲れ様、シルヴァ」


「ん、頑張った。これでルナが俺のを選んでくれると嬉しい」


「ふん、ルナ様はあたくしのを選ぶに決まっていますわ」


「あはは、大穴狙って僕かもよ?」


「君達ねぇ…」


頭が痛い、とでも言うようにため息を吐いたルナには同情する。

この中の誰を選んだとして、後のフォローに苦労しそうだ。

そんなとき、ふとルナと目が合った。

ふ、と瞳が細められ、何かを企むような光が宿る。

何だろうか。


「……まあ、さっさと済ませようか。

食事の時間になってしまうからね」


言い置いて店員と弟子を引き連れ試着室へ向かうルナには、何か考えがあるらしい。

―――まさか、な。

浮かんだ考えに嘆息して、妾も残る二人と共にそれを追いかけた。


「じゃあまずは候補その一からいこうか」


試着室のカーテン越しに声がしたと同時に、素早くそれが開いた。

ちなみにまだルナが中に入ってから数秒しか経っていない。

だというのに既に着替えが終わっていた。


「お、似合うー」


「えぇ、お似合いです」


「ん」


………何となく先が心配になった。

と言うか、先が読めてきた。

ルナが今身に纏っているのはまるで精霊族が着るような(・・・・・・・・・)薄い布地を幾重にも重ねた若葉色のワンピースだ。

これは恐らくジャックの選んだものなのだろう。

反応(リアクション)こそ当たり障りのないものだったが、幹部といってもやはり子供ということなのだろうか。

選択(チョイス)でバレバレである。


「うん、綺麗な色だね。

……どこぞの森に生えている特別な木を思い出すよ」


少し遠くを見るような目をしながら(恐らく過去に一騒動あったのだろう)再びルナは試着室へ消え、また数秒で戻ってきた。

一体どのようにして着替えているのか。

度々気配がするため、魔術を使っていることは間違い無さそうなのだが。


「はい、二番目」


続いては薄桃のフリル状になったカットソーに白のカーディガンを重ね、下半身はグレイのショートパンツ。

可愛らしい雰囲気のチョイスである。


「……っ、お可愛らしいですわ!!」


「可愛い、けど……」


「僕は普通に可愛いと思うよ?」


クイーンは大喜び、弟子は微妙な表情。

それだけで誰のものか一目瞭然というものだ。

ルナも間違いなくそう思っているのだろう、笑みに少し呆れが混じっている。


「ありがとう。クイーンにそう言ってもらえると嬉しいよ。じゃあ次だね」


こうして何度も服を脱ぎ着してこちらとあちらを行き来するのは中々面倒そうだ。

もしも妾のことと思えば――ゾッとする。

やはり服は簡単に済ませられる落ち着いたものに限るな。


「はい、三着目」


カーテンが開いた瞬間、妾の斜め前にいた弟子から尾が生えた。

思わず凝視するが、それが難しいほどに勢いよく左右に振られている。

……どうしてこうも分かりやすいのか。ルナも苦笑いだ。


「薄紫のシャツワンピースか……大人っぽいね」


「ルナの目の色と一緒。似合ってる」


「ふん、まあまあですわね」


「これも可愛いよー」


どうにか尾を仕舞い込んだらしい弟子が崩れた相好でのたまう。

にしても、どうやら妾の選んだものが最後らしい。

適当、と言うわけではないが、あまり考えずに選んだものなのでどうだろうか。

クイーンや弟子ほど本気ではないのだが、どこか落ち着かない気分になるのも確かだ。


「じゃあ最後だね。はい、これ」


「うわー、美人」


「似合う」


「素敵ですわ」


……どうやら好意的に受け入れられたらしい。

妾本人が誉められたわけでもないのだが、やはり照れ臭いような気持ちになってしまうのはどういうことなのだろう。

そしてそんな妾に対して、黒のスカートを翻しくるりとその場で一回転したルナはそのまま爆弾を投げた。


「それじゃ、私はこのジョーカーの選んでくれた服が気に入ったから今日は二人でご飯を食べてくるよ」


「ル、ルナ、そなた……!!」


何故そんな言い方を。

まだどの服が誰のものかわかっていないはずの状態で名前を出すでない。


「!」


「まあ、ジョーカーのものだったんですの?」


「ジョーカーかぁ…」


やはり案の定の反応だ。


「ふふっ、でもどれも素敵だから全部買わせてもらうよ。

はい、お金はこれね。お釣りは興味ないからいらないや。」


傍に控えていた店員に無造作に手のひら大の袋を渡し(恐らく中身は全て金貨だろう)、ルナは試着室の中に置いてあった服の全てを亜空間へ仕舞いこんで妾の手をとった。

まさか、このまま転移するつもりなのだろうか。


「それじゃ、私達は行ってくるから。

二時間後にギルドから転移してきたところに集合しよう。

シルヴァには護身用の結界を張っているけれど、何かあったらいつでも念話をして。

クイーンはシルヴァと喧嘩をしないように。

ジャック、二人のこと宜しく頼んだよ。じゃあね」


予想通りだ。素早い流れるような説明に一同が(ジャックは違うようだ。暢気に手をふっている)呆気にとられている隙をついて、そのままルナは転移を発動させた。

ふわりとした浮遊感に最早呆れを通り越している。


「ここは……いつもの場所か」


転移後目の前に広がったのは明かりの灯された少し狭めの空間。

妾とルナで闇市に来た際によく利用する店である。

そして一気に個室まで転移したということは、ルナにとってこれは計画的なものだったということだ。

妾達はここに来るとき予約をする必要はないが、流石に無断で突然個室に転移したりはしない。


「うん、君と話をしようと思って。

他の三人は分かりやすいからね、助かったよ。

さ、座って座って。すぐに料理が来るから」


やはりあらかじめ店に来訪を知らせていたらしい。

恐らく試着室の中でだろうか。

ルナにそれらしき素振りは見られなかったし、試着の前の意味深な表情が気にかかったのだから。


「ふむ……色々と言いたいことがあるぞルナ。

妾が恨まれたらどうしてくれる」


「君が?まさか」


可笑しそうに笑うが、全く笑い事ではない。

不満で愚痴をこぼしている姿が簡単に思い浮かぶ。


「それに弟子を放っておいてよいのか?

クイーンもおるし、あそこは闇市だ」


「大丈夫、結界に迎撃システムもつけたから。

それにクイーンは何だかんだで私が言ったことを守ってくれるからね。

あんまり心配はしていないんだ」


「ふむ……」


まあ一理あるのだが、納得がいかないと言うか。

そもそも何故妾を選んだのか。

話をしようと思ったと言っておったが、何についてなのだろう。


「ふふふ、探るような目をしている。君を選んだ理由かい?」


「……わかっておるなら助かる」


「でも料理が並んでからね。

丁度来たようだし、教育が行き届いた店だから盗み聞きはされないだろうけどやっぱり二人きりが望ましい」


すぅ、と音もなく扉が開く。

カートを押してきた店員は無言で一礼し、そのまま静かに料理を並べ始める。

ここでの料理は一度に全てが運ばれてくる仕組みになっている。

正式なものは一つ一つの料理を客の食べるスピードに合わせて持ってくるものなのだが、この店は客の会話を邪魔しないようその方式がとられているのだ。

魔術で温度調節がなされているため料理が冷める心配もない。


「さて、君を選んだ理由だったか」


きっちりと扉を閉め店員が出ていったことを確認し、ルナはフォークをくるりと回す。

そのわりに使い方は完璧なのだから、行儀が良いのか悪いのかが全く分からぬものだ。


「だってジョーカー、私のことを気にしていただろう?

ちょくちょく視線を感じていたのは気のせいではないと思うのだけど」


「む……」


バレてしまっていたようだ。


「私だって自分がおかしかった自覚はあるから、仕方がないけれどね」


「ならば問うが、もうよいのか?」


「うん、着地点が上手く見つかったから」


それは恐らく、闇市に来てすぐの時のことなのだろう。


「シルヴァが私を拒まないのには驚いたし、もらった言葉にも戸惑ったけれど、彼はまだ子供だから」


「……それで、よいのか?」


妾が口出しすることでは無いだろうが、あまりにも弟子が憐れだった。

弟子なりの精一杯だったろうに、それを年で片付けられるとは。


「いいんだ。……そうに決まってる」


けれどルナの表情を見れば、それ以上その件について言及するのは憚られた。

うっそりと笑む姿からはむしろ感情が感じられない。

ギリギリの縁でようやく立っているような、そんな危うさが見られ――そんな自分の考えに驚く。

確かにルナは色々とおかしい(・・・・)が、そう思ったのは初めてのことだ。


それは弟子によるものなのか。

ならばやはり、弟子はルナにとって“大切”とはいかずとも、ある程度“特別”ということか。

――もしそうなら、それが羨ましくて堪らない。


「……後はまあ、今後についての話し合いかな」


黙する妾に対し気をとりなおすように笑い(話をそらした、そうとってしまう自分が憎らしい)、ルナが今度こそ感情をもって笑む。

猫のように目を細めた様子は何かを推し量るような、それでいて楽しむようなものだ。


「もう少ししたら、また闇ギルドに戻るよ。

正規もそろそろ面倒になってきた」


「……!まことか!」


ルナは闇ギルドを妾と共に作ってから、しばらくの間はこちらに居をおいていた。

勿論正規の依頼も片付けていたようだが、ほぼ毎日幹部部屋で寛いでいたと言っていい程だ。

だがそれもルナが“宵闇”として名を上げるまでのこと。

指名の依頼も増えていたらしく、段々とルナの姿はギルドから消え、弟子をとる数年前から一切の音沙汰がなくなっていた。


……妾から連絡すればよかったのだが、それは出来なかったのだ。

ルナは元は正規の人間。

愛想を尽かされたのかと思うと恐ろしかった。

――それは杞憂だったのだと、ジャックの件で分かったが。

その点ではあやつに感謝せねばならないかもしれぬ。

あの一件がなければ、ルナが今の時点で闇ギルドを訪れることはなかっただろうから。


「なんだか私、少し最低みたいだね。

音信不通から急にそっちに戻るなんて」


「構わぬ」


「あれ、否定してくれないんだ?」


「妾としても連絡がないのは辛い。反省するべき事であろう?」


そうかもしれない、とルナが楽しそうに笑う。


「つい忘れてしまっていたんだ。

それにトップが二人いるというのは決して良いことではないからね。

あまり顔を出さない方がいいかなと思い始めて正規の仕事を増やしていったんだけど、そのせいで指名依頼が増えたのは私としても誤算だったなぁ」


「別にその様なこと、気にせずともよい。

妾もそなたも他人の担ぎ上げた場所に上るような性格ではないからな」


そもそもそんなことは出来ないしさせないつもりだ。

下の者に実力差はしっかり示しているつもりであるし、ルナとの良好な関係も見せびらかしているつもりなのだから。

もしもそれで駄目なら妾がジョーカーの位階を返上してもよい。

元々ルナの方が強いのだから。


「それはそうだけどね。

闇ギルドはそういうところ、楽でいい。

実力主義が体に染み付いているから。

……そうさせたの私だけど」


「ふむ、正規が面倒とはそれに関係する事か?」


「うん。私がまあまあ親しくしてるギルマスがいるんだけど、もう年でね。

その後任が誰になるか、今揉めててさ。

ヘタな人間がなると私のこと利用してきそうでうんざりだ。

今からでもある程度それとなく打診があるしね」


自分に過ぎる力をもった他人(ルナ)を利用しようとするなど、愚行もいいところだ。

思わず呆れる。

確かに闇ギルドにはそんな者は存在しないだろう。

返ってくる報復を恐れ、考え付く事もないに違いない。

そもそも他人を利用するのは良いが、その力全てに頼るようではここで生き残っていけないのだから。


「いつでも戻ってきてよいぞ。妾の仕事も手伝ってもらいたい」


「事務作業ね…」


「だが、弟子はどうするのだ?

流石に連れてくるわけではあるまい?」


あの弟子は闇ギルドには向かぬ。

性根が真っ直ぐ過ぎるのだ。

その色が白なのか黒なのかはともかく。


「勿論。だからシルヴァが私のもとを巣立ってからだね」


「巣立ち、か」


一体いつになることやら。

ルナのみを映す黒の瞳を脳裏に浮かべ、つい憂鬱な気分になる。

あれはかなりルナに執着している。そう簡単に離れるだろうか。


「……のう、ルナ」


「うん?」


ふと、思い付いた考えを舌に乗せる。


「こちらに戻る土産に、妾が正規の者の首を求めると言ったらそなたはどうする?」


「首?何人か殺してこいってことかい?

まあ相手と程度によるかな。

SSだと抵抗されて面倒そうだし、流石に一応だけど何年も世話になったギルドの戦力を削ぐのは申し訳ない」


「A+の者の首、全てならどうだ?」


ルナは不思議そうに首を傾げた。


「シルヴァも含めて、ということかい?」


「そうだ」


ここでルナは、どのような答えを返してくるのだろう。

返答は了承か拒絶か。それにより少しくらいならば、ルナの中での弟子の位置付けが分かる気がする。


「そうだなぁ……

まあ、A+ならいいかもしれないけど……シルヴァは、どうだろう」


「……!」


「シルヴァは強くなるから、A+の時点で殺してしまうのは勿体ないんだ。

それに一応私の可愛い弟子だし。

でも殺すこと自体は躊躇しないはずだから、その時彼が私を止めるために向かってくれば殺すと思うよ」


「………そう、か」


ますます分からない。

弟子はルナにとって何なのだろう。

“王国”の第二王子のように、ルナの抱える事情の全てを知ればそれも分かるのだろうか。

きっと無理な話なのだろうが。


「別に、シルヴァは“大切”なんかじゃないよ?」


「む……顔に出ておったか?」


「流石にそこまでシルヴァに拘られたら分からない方がすごいと思うけれど」


それもそうかもしれない。

ルナは馬鹿ではないし、察しが悪いわけではないのだから。

ただルナ自身に向けられる好意的な感情だけに対しどこまでも無関心で無自覚なのは妾も不思議に思うところだが。


「私はシルヴァを利用しているんだ。

あぁ、逆に言えばその役目においては大切と言えば大切かもしれない。

ただそれを正しく表すなら、大切ではなくて必要、かな」


「必要………なるほど、覚えておこう」


「君のそういう、姿に反して大人なところ、すごく助かるな。

質問攻めにされるのはあまり好きじゃないから」


「姿に反しては余計だ。

妾とて好きでこの姿でいる訳ではないのだぞ?」


この幼子の姿は魔族の証でもある。

他の長命な種族は体が育ちきって最も戦闘に適した時期で成長が止まり、寿命の尽きる数年前になって体の成長が一気に再開し老いていくのだが、魔族は違う。

妾達の種族は無条件で齢十の頃に成長が止まってしまうのだ。

おかげでいつまでも幼いまま、行動するのに不便で仕方がない。

飛行の際にはこの小さく軽い体が重宝されるのだが、それでもやはり不満は残る。


「可愛らしくていいじゃないか。

私は君の外見、とても気に入っているよ」


「ふん、嫌みにしか聞こえぬ」


「ふふっ、本音なのだけどね。

話したかったことはこれで終わり。君は何かあるかい?」


「ルナが戻るのなら何も言うことはない」


「嬉しい言葉だね。なら……」


酒が注がれたグラスを、既に口をつけたというのに掲げ、示す。


「久しぶりの二人だけだ。

お互い積もる話もあるし、ゆっくりしていこうじゃないか。

約束の時間まで、存分にね。付き合ってくれるかな?」


片目まで瞑ってみせたルナに思わず妾も笑ってしまった。

同じ様に杯を掲げ、合わせる動作をする。

ルナのこういうところが、人を惹き付けるのだろう。

本人の望む望まぬに関わらず、その強さ、容姿、内から滲むすべて。

その引力によって引き寄せられたのが妾達だ。


「望むところだ」


この出会いに感謝を。

乾杯の言葉には、それが相応しい。




オマケ:精霊族に恩を売った話

(ちょっとルナがとんがってた頃の話)

Side:Luna


「はぁ、こんなのをどうにかしろって?」


目の前に聳え立つ大樹。

精霊族の村に伝わる大切な木だとかで、あんまり無下には扱えないらしい。


「頼みますぞ宵闇殿。どうにか御神木を救ってくだされ!」


遠くから声援を送ってくるのは昼の精霊族の長。

夜の精霊族の長は応援すらなく黙ってじっと見守っている。


「その神木をこういう状況にしたの、君達の癖に」


目の前の木は葉が枯れ、幹も少し傾いている。

この木は年中青々とした葉がついているのが特徴で、そこから降り注ぐ木漏れ日は精霊族の癒しスポットらしいが…


「仕方がないのですじゃ。皆が一斉に動くとは思わなかったのですから」

「誤算だ」

「あぁそう…。次からは注意をするようにね。ほんと、心の底から。と言うか少しくらい放っときなよ」


木がこうなったのは精霊族が村のこれからを話し合う会議の席で御神木の調子が最近悪い、という議題が出たためだ。

実際ここ最近雨が続いていて、光を浴びることが出来なかった木は元気がなくなっていたが……当然のことながら天気が回復すればそれで万事解決のはずだった。

そこへ何をどう勘違いしたのか全く理解できないが、魔術でどうにかしようという結論に至ったらしい。

しかもいい考えだ!ってなった途端、その場にいた全員が自分の思う一番いい魔術を提案しそれが見事に全員バラバラで、勿論議会は紛糾。

結果的に皆自棄になって一気に神木に魔術をかけたという、お前らガキか、と突っ込みたくなる事態が起こった。

その結果がこれである。しかも反省が薄い。

イラっとする私は間違っていないはずだ。


「まあ依頼だし、やるけど。本当に次はないからね。何が楽しくてこんな早朝にギルドからの念話で叩き起こされてわざわざ来たくもない“帝国”の隅までやって来てやりたくもない他人の尻拭いをしなきゃいけないのか、甚だ疑問だ」

「そう怒るとしわが増えますぞ」

「であるな」

「……喧嘩を売っているのかな?買うよ?地図上から精霊の村が消えるという覚悟があるならいつでも」

「もちろん冗談ですじゃ、実にすまなかった宵闇殿」

「反省している」

「わかればいいんだよ、わかれば」







そして、その数週間後。

私はひくつく口の端をおさえることもせずに、目の前に立つ二人を見ていた。


「………これは、どういうことかな?」


目の前には枯れかけたご神木。

私の独自に編んだ魔術で回復したはずのそれ。


「……いや、そのですな、宵闇殿の扱った術が実に素晴らしく、あれを体得すれば我等も有事の際宵闇殿に頼らずにご神木をどうにかできると…」

「それで練習をしていたのだ」

「その練習とやらで木を枯らす馬鹿がどこにいる、この愚図!大体あの術式を君らごときが扱えるか凡人が!あれは私という化け物級の存在しか扱えないんだと分からないのか!そもそもあれだけ言ったというのにまた早朝にやりやがって喧嘩売ってるのか?朝っぱらから仕事をするほど私にとって不快なことは無いんだと言わなければ分からないか、そうだな分からないらしいなお前達には!!くっそどうでもいいことで二度も呼び出しやがって!」

「い、いや、その、我等朝と夜の精霊族は黎明か黄昏かしか集まれんのですじゃ」

「仕方のない事」

「だったら夕暮れ時にしろそれも分からないか!?――いいや、夕暮れ時でも冗談じゃない。次やったらこの木消すからな、君らみたいなのが復讐で私に向かってきても何の障害にもならないし、せいぜい羽虫が飛んで不愉快程度だろ。そのまま滅べ」

「よ、宵闇殿キャラが崩れておりますぞ…!」

「ガラの悪いチンピラのようだ」

「き、み、ら、が!そうさせてんだよ屑!!」




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