3-1
Side:Luna
騒ぎに乗じて上手く城を抜け出した私達は、取り敢えずまったりと道を歩いている。
立太子式はまだ続いているから道はかなり閑散としていて、逆に城とは反対方向に向かう私達が珍しいのかすれ違う人間達からよく戸惑いの目線を投げ掛けられた。
さて、それにしてもどうやって切り出すかなぁ。
「ルナ」
「……うん?どうかした?」
迷っていたところを逆にシルヴァから話しかけられてしまった。
いやまあ、助かるけど。
彼は前を向きつつちらちらとこちらを気にしている。
「これからどうする?
依頼は達成したし、依頼金も受け取った。
またギルドで何か依頼を取る?それともしばらくは旅?」
まあ、シルヴァとしても今後は気になるよね。
毎回私の気分で予定は決めてるし。
あれ?そう考えると私、すごい身勝手な人間やってたな。
「うーん、そうだねぇ。
実をいうと私も悩んでいたんだ。
シルヴァ、君、しばらくの間一人で依頼を受けたり……あ、しないよね。
うん、わかったから。だから手を離してもらって構わないかな?」
「嫌だ」
ぎゅうぎゅうとまるで拘束するように右手を掴む手は外してもらえそうにない。
でもねぇ。出来れば留守番してもらいたいんだよ。
今から行くの、仮にも闇ギルドだから。
「……困ったね。実はこの後旧友と会う約束があるんだ」
「なら俺も着いていく」
「うーん、それが困るから一人で依頼を、って言ったんだけれど。
あはは、そんな泣きそうな顔しなくたっていいじゃないか」
大体今までもあっただろう。
一人で依頼を片付けたことくらい。
そう思っていれば顔に出ていたのか、シルヴァはじとりとこちらを見つめた。
「今までは一日ですんだ。
それにルナはどこにも行かないでギルドで待っていてくれた」
「あれ、長期の依頼を受けろって私言ったっけ?」
「しばらくの間と言ったから」
変なところで鋭いなぁ。
「でもね、私がこれから行くところは危険な場所で……あぁいや、私にとっては危険じゃないんだよ」
ピンとたった耳に言葉を重ねる。
我が弟子はなかなかに心配性だからね。
「君を連れていくと君の身が危険になるんだ。
なにしろいるのは信者とマッドサイエンティストだから……あ、こっちの話」
思わず遠い目になってしまった。
シルヴァを連れていって彼らを仲裁しながらとか……面倒すぎる。
シルヴァが彼らに対抗できるくらいの実力を持っていればそんな心配もなかったんだけど、残念ながらジャックにも及ばなかったしなぁ…
「別にいい。俺が自分でどうにかする」
「どうにかできそうにないから言ってるんだよ。
……いや、だから泣きそうな顔しなくたっていいじゃないか。
私がいじめてるみたいになるんだよ、君がその顔をすると」
「なら連れていって」
「…………」
思わず私がため息を吐いたの、仕方がないと思うんだ。
だってまずは闇ギルドに行くことから説明しないといけないわけだし。
闇ギルドは一応シルヴァの所属する(まあ私も所属してるけど)正規ギルドとは敵対っぽい関係にあるから、その辺りもねぇ。
仮にあいつらは悪いやつだから関わるのはやめろ、とか正義感バリバリの言葉をかけられたりしたら、私苛ついて暴力ふるっちゃいそうだしさぁ。
――あ、これいいかも。
「? ル―――!」
ひらめいて立ち止まった私に首を傾げ、何事かを言いかけたシルヴァに微笑む。
いくらかの威圧もプラスして。
でもそこまでじゃないよ。十分の一くらい。
「決めた。君に、選択肢を与えよう」
私の言葉に目の前の彼が息を呑むのがわかった。
うん、きちんとあの晩の話を覚えているみたいだね。感心だな。
「私はこれから闇ギルドに行くんだ。
闇ギルドについては前に説明したことがあったよね?」
言ってごらん、と促せば、シルヴァはぎこちなく唇を開く。
「実力主義の、身分や罪歴を問わないギルド。
幹部は上からエース、キング、クイーン、ジャック。
マスターはジョーカーと呼ばれてる。あと、この間襲ってきた…」
「うん、正解だ。そしてこの間君が全く対抗できなかったのは幹部の最下位、しかもなりたてホヤホヤのジャックだね。
それでね、教えていなかったんだけどジョーカーは二人いて、そのうちの一人って私なんだ」
流石にこの発言にはシルヴァも動揺したようだった。
瞳はこれでもかというほど見開かれてるし、言葉にならないのか口が開いたり閉じたりしている。
まあ驚くのも無理はないか。
仮にも正規ギルドの頂点に立つランクSSが闇に通じてるなんて、裏切りもいいところだし。
「君はこれを知ってどうする?
私を裏切り者として正規ギルドに通報するかい?
それとも私を説得する?闇ギルドに関わってはいけないって。
もしくは今の話を聞いていなかったことにして、大人しく私を待っていてくれるのかな?」
君が何を選ぶのか、見物だね。
こうやってシルヴァに何かを選ばせるのは案外楽しい。
少しは素が出せて楽だし、動揺している姿を見ると愉悦が滲む。
「……俺は、」
どうやら答えが出たようだ。
恐る恐る口を開く様を目を眇めて見守る。
答えによっては、彼をどうにかしないといけないし。
「それでも俺は、ルナについていきたい」
「…通報も知らんぷりもせずに?」
「そう」
「君はジャックにも歯が立たない程弱いのに?」
「………ん」
ふーん。
ナニソレ、って感じだけど、まあいいかな。
「……まあ、及第点かな。
わかったよ、一緒にいこうか。元々君の事だしね」
威圧を解いてため息を吐けば、シルヴァは怪訝そうに眉を寄せた。
「俺のこと…?」
「あぁ、君は覚えていないんだっけ。
ジャックの魔術にかかっている間、君はいつもより強くてね。
どういうことか聞いてみたら潜在能力が全部解放されてどうのこうの…
で、ついでに銀狼についての新しい情報が入って、それが関係してるらしいから聞きに行こうと思って」
「……新しい情報ということは、ルナは前から銀狼のこと、闇ギルドに?」
「そうだよ。キングが獣人に詳しくてね。
……まあそのせいで君の身が危ういんだけど」
研究とか人体実験とか標本とか。
「?」
「あはは、いやなんでも。
それじゃあまあ行ってみようか。
死にそうになったら助けるけど、着いてきたいと言ったのは君だから少しのことは放っておくよ。だから気を抜かないようにね」
「ん。頑張る」
「期待しないで見守っているよ。さて、それじゃあ【行こうか】」
瞬時に魔法陣を展開させる。
――あ、そう言えば行くって連絡してないけど……まぁ、いいか。
「到着だね。ここが闇ギルドだよ」
「………豪華」
お互い第一声がそれはどうなんだと言われるようなものだけど、まあ間違ってはいないし。
にしても嬉しいことを言ってくれるね。
「ふふっ、この建物は私がつくったんだ。
誉められると照れてしまうね」
「ルナが!?」
そんなに驚く程のものかな?
まあ闇ギルドっぽい雰囲気を出すためにわざわざ奥深い森のなか(しかも年中霧がかかっていて視界が悪い)に建てたり、色とかデザインに凝ってみたり(ゴシック調にした。ドラキュラ伯爵邸みたいな)したけど。
「……ルナは何でも出来すぎて、逆に何が出来ないのか知りたい」
「私にできないこと?幾つかあるよ」
「幾つもある、じゃない…」
まあ意味のない嘘はつかない主義だし。
にしてもそんなに落ち込まなくてもいいんじゃないかな。
そんな師匠がいるなんて便利でいいじゃないか。
自分で言うのもなんだけど。
「さて、まあ幹部メンバーについては会ったとき紹介するよ。中に入ろうか」
「ルナ、このまま正面から入る?」
シルヴァの心配も尤もだ。
私はともかく彼は顔が売れてるから、急に入ったら道場破り……じゃなくて、正規ギルドが攻めてきたかと勘違いされそうだし。
「いや、大丈夫だよ。実はこの建物、鍵がないと扉が開かなくてね。
だからギルド員は全員鍵を支給されるんだけど、幹部の鍵は特別なんだ」
「特別?」
亜空間から鍵をとりだし、シルヴァに見せてやる。
平のギルド員は大体金属でできた鍵なんだけど、幹部に支給されるのは魔導結石を加工したものだ。
まあやっぱり私が作ったんだけど。
「これは魔導結石でできているから鍵自体が魔力を持ってる。
これを鍵穴にさしてどこに行きたいか言えば、自動的にギルド内の扉の全てがそこへ繋がるんだ」
実は私が一番拘ったのがここである。
だってこの建物、実は空間を弄っているから見た目よりかなり広いのだ。
そんなところで呼ばれでもしたら、すごい距離を移動しなければいけない。
私は面倒くさがりなのだ。
「それじゃあ君にとってはドキドキの初めての闇ギルドだね」
鍵を鍵穴にさしこみくるりと回す。
「幹部部屋に行きたいな」
一言唱えれば一瞬鍵が輝いて錠が開く感触がした。
さあ、これで繋がった。
鍵を抜いて再び亜空間に放り込み扉を開け――直後、巨乳に顔面アタックされた。
「ぶっ…」
「ルナ!?」
背後から焦ったシルヴァの声が聞こえる。
まあそうだろうね、おかしな光景だろうと思うよ、私も。
私が男だったらこのぱふぱふした感触も楽しめるんだろうけど、残念ながら女なので息苦しさしか感じない。
巨乳って頑張れば人殺せる。
「あぁん、お待ちしておりましたわ!
あたくしお帰りを今か今かと待ちわびて……!
これほど毎日が長く退屈に感じられたのはいつぶりでしょうか。
長旅でお疲れではありませんこと?湯の準備もしてありますの!
あぁ、でもその前に軽いものでもお召し上がりに?
なんでも仰ってくださいな、あたくしに出来ることならば何でも、ルナ様のために働きますわ…!」
「……久しぶりだね、クイーン。
君も相変わらずみたいだ。
取り敢えず離してもらってもいいかな?」
今私がしてほしいことはそれしかない。
名残惜しいですわぁ…という言葉と共に渋々解放されて、空気を存分に吸う。
あぁ、酸素って大事だ。
「こんなところではなんですから、中にお入りになって。
――そこの犬も、仕方がありませんから入室を許しますわ」
私が深呼吸している間に、既にクイーンはシルヴァに目を留めていたらしい。
こらこら、そんなに威嚇しなくてもいいだろう。
「犬じゃない。狼だ」
「あら、そうでしたの?
けれど第五位のジャックにすら太刀打ちできないケモノ、犬で十分ではありませんこと?」
「………」
「二人とも喧嘩しない。クイーン、中に連れていってくれるんだろう?」
やれやれ、手のかかる。
だからシルヴァを連れてくると大変なんだ。
何が切欠なのかさっぱりだけど、クイーンは私の信者だから。
「シルヴァも唸らない。また犬と言われてしまうよ?」
手招きしてシルヴァを呼び寄せる。
……あぁでも、確かに犬っぽい。
「ルナがそう言うなら我慢する」
「ふん、仕方ありませんわ。
他の皆も待ちわびていますもの、どうぞこちらへ」
お互い一瞬だけ睨み合い火花を散らして、すぐに顔を背ける。
案外似た者同士と思うのは私だけだろうか。
クイーンに促され幹部部屋に入れば、中にはジョーカー含め懐かしい顔ぶれが勢揃いしていた。
闇ギルドを作ったときからいる、初期メンバーの四人。
そんなに歓迎してくれなくていいんだけどね。
「久しぶり、みんな。
どうやら誰も死んでないみたいで安心したよ」
このギルドは下剋上的なシステムがあるから、その位階を持つ者を殺せばその地位に成り代わることができる。
ある意味ギルド内でも気が抜けないのだ。
まあこの面子の内ではそういう地位争いは皆無なのだけど。
茶化すようにそう言えば、ジョーカーから真面目な顔で返答が返ってくる。
「弱者に負けたとあっては幹部の名が廃る。当然のことであろう。
戻りが遅く、クイーンではないが妾も待ちわびた。久しいな、ルナ」
「ふふっ、君とはこの間会ったばかりだろう?
ただまあ、何年も音信不通だったのは反省しているよ。
さて、私の座る席はまだ残っているのかな?」
「当然であろう。早く座れ。
そなたが座らねば皆が立ったまま話を聞かねばならぬ」
「嬉しいことだね」
この部屋ではそれぞれ座る席が決まっている。
ジョーカーの位階を持つ私と彼女は部屋の最奥、正面の二人がけソファー。
第二位であるエースはそのすぐ右、赤いアームチェアで、キングは足が悪いから私特性の車椅子で左側を陣取る。
クイーンは部屋の右端、背の高いカウンターに合わせたスツールで、ジャックは……うーん?
「そこの弟子はどうする?
流石に他に座らせる訳にはいかぬが」
「ん?あぁ、そうだね…シルヴァ、おいで」
幸いにして私の席はソファーの右側、つまりエースに近い方だ。
取り敢えず彼なら無闇にちょっかいを出してくることも無いだろう。
「シルヴァ、君はどうしたい?
取り敢えず私の後ろにいてもらうことになるけれど、椅子を出そうか」
「別にいい。ルナの後ろで立ってるから」
「疲れるよ?」
「ルナが近くて、見える位置ならあとは何でもいい。それに気を抜くなと言われた」
「君は素直な子だねぇ…」
もうピュアすぎて本当に眩しい。
つい撫でていると、ゴホン、と苛立たしげな咳払いが飛んできた。
クイーンだ。彼女もどうにかならないものか。
嫁の貰い手がなくなってしまう。
「……じゃあシルヴァはそこにいて」
何だかこれ以上構うと危なそうだし。
やれやれと肩を竦めながら私が懐かしい席に腰かければ、ようやく他の面々も着席する。
この仕組み、毎回思うけど面倒じゃないのかなぁ。
「……さて、久方ぶりに皆が揃った。
ルナ、まずは改めて謝罪を。ジャックがすまぬことをした」
「うん、別にもう怒ってないよ。
と言うか、彼の姿が見えないけれど」
そう、部屋の左端に席はあるのに本人はいない。
仕事にでも行っているのだろうか。
でもジョーカーはしっかりした子だからこういう謝罪の場に本人がいないとか、許せないタイプだと思うんだけど。
「ジャックなら今は罰掃除中。
姫さんが帰ってくるまで毎日、このギルド全部の掃除させられてんだぜ?」
クツクツと喉の奥で笑ったのはエースだ。
にしてもその姫さん呼び、いい加減どうにかならないのかな。
“宵闇”程ではないにしろ恥ずかしいんだけど。
「可哀想に。どうせ新人教育は君なんだろう?
私のことを教えなかった先輩のせいで私に殺されかけるし罰掃除はさせられるし……ジャックには同情するよ」
そしてそんなエースは私の言葉に分かりやすく固まった。
やっぱり君か。
「あれ、ジョーカー、黙っててくれるって…」
「妾は言っておらぬ」
「しかも口止めまでしていたのか。
私は悲しいよエース。君がこんな小狡い手を使うようになるなんてね」
大袈裟に呆れた仕草をすれば、エースは情けなく眉を下げて私を見つめた。
本当に、最近特に思うけど大の男がそんな顔をしたって可愛くもなんともない。
「姫さん怒ってる?」
「いや、もう怒ってはいないよ。
あの後色々ストレスも発散できたしね」
その言葉で、あからさまにシルヴァを睨んでいたクイーンまでもが彼に同情の目線を送った。
そう言えばここの皆は魔術であの現場を見ていたんだっけ。
ジョーカーとジャックが去ってからも覗き見されてるのは気づいてたけど、別に見られて困ることでもないから放置してたんだよね。
同情された本人はあの時のことを覚えていないから、かなり戸惑っているみたいだけど。
「さて、それじゃあ紹介でもしようか。
皆は知っていると思うけれど、五年前から私の弟子になったシルヴァだよ。
無理にとは言わないけれど最低限は仲良くしてあげて。
ほら、シルヴァも挨拶するといい」
「……よろしく」
何だか転校生を紹介する教師にでもなった気分だ。
案外大変だな。ちょっと空気とか読まなきゃいけないし。
こういうのは私よりもセイの方が向いているんだけどね。
「うん、それじゃあ次は闇ギルドの幹部の番だね。
私の隣に座っている彼女が、私と同じジョーカーの位階を持つギルドマスターだよ。
因みに魔族なんだ。このことを外に漏らしたら殺されるから、気をつけてね」
「うむ、妾に名はない。ジョーカーと呼んでくれ」
ぺこりと軽く頭を下げる仕草はとても可愛らしい。可愛いは正義だ。
「で、ジョーカーとは反対側、こっちの彼がエース。
幹部では一番強い序列第二位だね。
魔術はからきしだけど、剣とか拳とか暗器の扱いはピカ一だよ」
「よろしくな、弟子。
ジョーカーも言ってたけど俺も名前はねぇから。
つか、この場にいるやつらは皆そうな。
だから遠慮なく地位で呼んでくれ」
エースの言葉にこくりと頷くシルヴァだけど、弟子呼ばわりでいいのだろうか。
まあ本人が何も言わないからいいんだろうけど。
「キングはジョーカーの隣に座っている彼だよ。
君は特にキングに気を付けた方がいいと思う。
マッドサイエンティストだから、人体実験とかされそうだし」
「まっど……?」
あぁ、通じないんだっけ。
「自分の研究のためなら何でもする人のこと。
彼は獣人とか魔物とかについて研究していてね。
だから銀狼のことを色々聞けるんだけど、その分珍しい種族の君を解剖したくて堪らないみたいなんだ」
「何を言うか嬢、残る銀狼はそこの一匹のみ。
それを解剖し使い物にならなくするなどという馬鹿げたこと、儂はせん。
せいぜいが血と体毛、体液とその他のデータ採取程度よ」
「………」
うん、黙ってしまったシルヴァの気持ちはわかる。
今までこんな変人と接してこなかったから戸惑っているんだろう。心なしか顔色悪いし。
「そういうのは却下。
それかまあ、シルヴァの許可をとってからね。
無理矢理やるなら君の研究所を木っ端微塵にするよ?」
「わかっておる」
「それならいいよ。
後、あそこで睨んでいるのがクイーン。彼女は魔術が得意なんだ。
どういうわけか私にとてもなついてくれていて、もしかしたらキング以上に君は身の危険かもしれないな」
思わず苦笑すれば、クイーンからは当然ですわ、と返答が返ってくる。
「ルナ様はあたくし達に居場所を下さいましたもの。
いつどこにいても、どんな貴女様でも、あたくし達のジョーカーでしてよ。
……それをこんな、弱い駄犬が独り占めだなんて。許しがたいですわ」
「要はルナが俺ばかり構うから嫉妬か」
「なんですって!?」
「ルナがすぐに感情を出すのは弱い証拠だと言ってた。情けないな」
「………っ、この犬が!
殺してさしあげましてよ」
あぁもう、どうしてこうなるんだか。
隣でジョーカーも疲れたように顔を手で覆っている。
うん、保護者って大変。
でも流石にここで戦われても困るし、止めないとな。
「ん?姫さん、あれ止めるか?」
「エース、君がやってくれるのかい?」
「いや、そろそろ残りの一人が来てたぶん流れそうだから」
「あぁ、なるほど」
確かに気配がするな。
立ち上がりかけた体を再びソファーに預け、扉を見守る。
背後のシルヴァと部屋の隅のクイーンは未だ睨みあったままだ。
何が切欠になってその膠着状態が解けるか分かったものではない。
そして、独特な重い空気を裂くように。
「ふー、やっと終わった。このギルド広すぎでしょ。
僕一人でやるのに何時間……っ、わあぁぁぁぁぁああ!!」
愚痴を言いながら扉を開いたジャックは、私を見るなり激しく悲鳴をあげて再び勢いよく扉を閉めた。
………私を何だと思ってるんだ。
「………興が削がれましたわ」
「うるさい」
ただまあ、エースの読み通り部屋を漂っていた独特の緊張感は解かれ、二人とも構えをといたから良しとしよう。
「くっ、はは!今の怯え方あり得ねぇ。
しかも見るまで気づいてなかったとか、気配に鈍すぎ…くくっ」
「まあ確かに、私としてもそんなに驚くことかと思いはしたけれど。
シルヴァ、君も一度戦ったことがあるからわかると思うけど、さっきのがジャックだよ。
といっても私も彼のことはよく知らないんだ」
そう言えばシルヴァは不思議そうに首を傾げた。
「ここにいる四人は知ってるのに?」
まあ疑問も尤もかな。
横で未だ笑い続けるエースを軽く小突き(彼はかなりの笑い上戸だ)、私は肩を竦めた。
「ジャックの地位は長年空席でね。
と言うか、色んな人間がなっては成り代わられなっては成り代わられ…
すぐに変わってしまっていたから、一々覚えていないんだ。
第五の位階に値する実力者がいなかったんだよね」
「だが、あの者はなかなかの逸材であろう?
ジャックの名を受けてまだ一月ではあるが、下の者に討たれるそぶりは見られぬ。
妾達も一応は期待しておるのだ」
「初仕事は嬢への不敬で散々な結果だったがな。
あれは少し調子に乗りすぎる嫌いがある。
嬢のことはいい灸になった」
「………」
シルヴァはじっと扉の向こうを見つめている。
一体何を考えているんだか。
にしても、いい加減ジャックは部屋に入ってきていいんじゃないかな。
「ジャック、ルナ様をいつまでお待たせする気ですの?
長旅で疲れていらっしゃるのですから、早くなさいな」
うーん、相変わらずクイーンは滅茶苦茶気を遣ってくれている。
でも転移で王都からここまできたから、長旅をしたわけではないんだけど。
「し、失礼、します…!」
彼女の呼び掛けにようやく中に入ってきたジャックは、何だか同情してしまうほどガチガチに固まっていた。
なんだろう、就活で受けたとこ全部に不採用くらわせられて、最後の会社の面接に社長が出てきちゃって何も考えられないことしか考えられなくなっちゃった人、みたいな。
「数日ぶりだね、ジャック」
「は、い」
「ふふっ、そんなに固くならなくてもいいよ?
もう怒っていないからね。
そうだ、私も自己紹介しておこうか。
前はお互いのことを知らなかったからああいうことが起こってしまったわけだし」
「えっ、いや、その…」
戸惑う様が何だか昔のシルヴァを見ているようで懐かしい。
思わず笑みが深くなった。
「私はルナ。ここではジョーカーの位をあずかる者だよ。
正規ギルドでは“宵闇”という名前をもらってる。ランクは一応SSだね。
うーん、他に何かあったかな…」
顎に手をあて考えていると、隣から茶々が入れられる。
「色々あるだろ?闇ギルド創設の立役者で、俺らの姫さんで、肉弾戦も魔術勝負も負けなしの絶対王者とか」
「ふむ、他にもその知識、創造、生産のための技能は随一。
なにせこの建物や鍵、転移陣や仕事の受理のためのシステムを作ったのも嬢だからな」
「あら、お力もそうですがその優美な立ち居振舞い、珍しい黒髪の艶やかなこと。
戦う姿は目を奪われる程でしてよ」
なにこの羞恥プレイ。
耐えきれなくて思わず目をそらす。
そんなべた褒めされるほどのことしてないし。
「そなたら、ルナが困っておるぞ。
ルナは誉められることが苦手なのだから、手加減してやれ」
「そうやって私の味方でいてくれるのはジョーカーくらいだよ……」
ため息を吐いていれば、背後から髪が軽く引っ張られる。シルヴァだ。
「ルナ、俺もいる」
「あぁ、そうだったね。
君も確かに私の味方をしてくれる。
……と、そう言えばシルヴァのことを紹介していなかった。
ジャック、私の弟子のシルヴァだよ。
先の戦いの通りまだ君には勝てそうにもない程度の実力しかないけれど。
たぶん君と同い年くらいだと思うから、まあ仲良くしてやって」
「同い年!?僕と、そいつが!?」
「ふふっ、シルヴァはこう見えて十三歳なんだ。君は?」
「しかも年下!僕は十四だよ……」
まあ彼の見た目は種族によるものだから、そんなに悔しがらなくてもいいと思う。
それともジャックは可愛らしい外見にコンプレックスでもあるのだろうか。
「年相応で私は可愛らしいと思うけれど」
「ルナ、俺は?」
「ルナ様、あたくしは?」
「………」
私もジョーカーも再び頭を抱えた。
本当に似た者同士だ。
というか、こんなところで張り合わないで欲しい。
ジャックもちょっと引いてるし。
「君達は系統が違うだろう。
シルヴァは格好いいと言うんじゃないかい?
まあ…耳が出ている時は可愛いかな。
クイーンは美人だしね。
でも今日出迎えてくれた時のような笑顔は可愛らしいと私も思うよ。
……まったく、いつもそうしていれば二人とも恋人の一人や二人や三人簡単に出来るだろうに」
相好を崩していた二人は最後の言葉に揃って不満そうにする。
こんなところも似ている。いっそ二人とも付き合ったらどうかな。
「くくっ、姫さん流石。上げて落とすの、ホント得意だよな」
「どこが落としたんだい?」
「そして相変わらずのド天然」
「えーっと……」
困惑した様子のジャックにようやく気づく。
あ、そう言えば彼と話していたんだったっけ。
他の面子が濃すぎてどうも忘れてしまうな。
「すまないね、放置してしまっていたみたいだ。
それじゃあ君も自己紹介してもらえるかな?」
「あ。えっと、一月前ジャックになったばっかりの新米だけど、よろしく。
……僕さ、アンタのこと、なんて呼べばいい?」
確かにジョーカーとは呼べないしね。
「うーん、皆好きに呼んでくれているからねぇ。
でも姫さん、とかは恥ずかしいから出来れば遠慮したいな」
「えー、恥ずかしいとか酷。
俺なりの敬意と愛情が詰まった呼び方だぜ?」
エースの言葉はこの際無視だ。
面白半分で呼んでるくせに、よく言うよまったく。
「ただのルナと呼んでくれると嬉しいのだけど」
「え、でも皆呼んでないし…」
「皆が呼んでくれないんだよ。
私はルナでいいと言っているのに、強情だからね。
――うん、決めた。ジャック、君は私のことをルナと呼ぶように」
「え!?」
動揺する彼に私は殊更にっこりと微笑んだ。
これ以上恥ずかしい呼ばれ方をされるのは真っ平だ。
「このギルドの決まり、なんだったかな?」
「……強者に絶対服従、デス」
「うん、そうだね。
ふふっ、仲良くして欲しいのはシルヴァとだけじゃなくて、私ともなんだ。
だからこれからしばらくの間よろしくね、ジャック」
返答を求めるように小首を傾げてみせれば、彼は少し詰まった後、ぶっきらぼうに顔を背けて小さく呟いた。
「………よろしく、ルナ」
同時に横で、小さく声がする。
「またルナが幹部を篭絡したか」
「……ジョーカー、どういう意味だい?」
「妾は感じたままを言っただけのことよ」
・ジョーカー 女 (367)
魔族のただ一人の生き残り。
長命で年を取っても変わらない容姿、そして普段は隠されているが感情が高ぶると出てくる漆黒の翼や鋭い牙、そして体を覆う紋様を気味悪がった人間達に迫害され、彼女一人が生き残る。
人目をさけて暮らしていた洞窟に雨宿りのためルナが立ち寄ったのが出会った切欠。
最初は人間が大嫌いでルナとも即座に戦闘になったが敗北、とどめをささない彼女に怒りつつ色々話している間に和解した。
その後は洞窟を出て一緒に人間の世界を見て回り、闇ギルドの初期メンバー達と出会う。
長く(百年くらい。魔族の寿命は約五百年)引きこもりだったため古い話し方をする。
外見は金髪美少女。ツインテール。(=ロリッ娘)
ルナの事情は詳しくは知らないが、人間ではあり得ない力とか、ちょっとイッちゃってる思考とか、あ、こいつただの人間じゃないな、てか人間?とは思っている。
色々あるんだろう、とそっとしておいてくれる大人。
・エース 男 (40)
藍色の髪の毛と目。
優男と見せかけ肉弾戦超得意なイケメン。
実は竜族と人間のハーフなので寿命は普通の人間よりちょっと長めの百五十歳くらいまで(純粋な竜族は八百年程)。
従って外見は人間でいう二十代後半。
藍色は暗めで黒に近いので、密かにルナはお気に入り。
元は罪人で、この世界での刑務所的な所から脱獄してきたところをルナとジョーカーに会った。
女二人連れだししめしめ騙せるぞと思っていたのにそんなはずもなく片手間で地に伏せられる。
でもそれを機に二人のこと尊敬して、事情話しても刑務所につきだしたりとか嫌悪の目線投げたりとか同情の素振りとか全くないことが嬉しかった。
こんなやつら、他にいねぇ!ってなって二人に同行、今は第二の位階をもつエースとして活躍中。
ルナに特別扱いされてるっぽいセイルートが気に食わない。
ちょっとキャラ被ってる気もするし、更に気に食わない。
シルヴァはどうでもいい。だって弱いし。
障害にすらならないと思っているのでどうこうしようという気がおきないだけ。
・キング 男 (84)
幹部の中では最年長。丸くて小さい鼻眼鏡が似合うご老人。種族はただの人間。
足が悪いのでルナお手製の車椅子に乗っている。
自分でも動くけど、大抵クイーンが押してくれる。
元々はとある町の浮浪児達のまとめ役だったところをルナ、ジョーカー、エースの三人にスカウトされる。
こやつら(キングを親代わりに慕っていた浮浪児達)を置いていけるか、て断ったら、じゃあ全部まとめてご案内って感じで強制転移、え?え?ってなってるうちに外堀埋められた。
最初は勝手すぎる!って怒ってたけど今では結構この暮らしを気に入ってる。
自分のしたいこと(研究)に没頭できるし。
クイーンがルナ好きすぎて婚期逃したらどうしようって案外本気で心配している人。
・クイーン 女 (32)
大人の色気漂う外見女王様、中身ルナの僕のギャップ満載の子。人間。
緑のうねりが強い長髪にショッキングピンクの瞳。溢れる色気。
キングを親代わりにとある町で浮浪児していた子。
急にめっちゃ美人さん来てポケーってしてたら見たこともない場所、指鳴らすだけで急に建物建つしナニコレすごくね?ってなっていつの間にかルナ信者。
キングのことを今でも父親のように思っていてよく世話を焼く。
同じ浮浪児仲間がギルドにいるけど、他は殆どしたっぱ。
彼女がクイーンの位階を得られたのはたゆまぬ努力と才能、そしてルナの「君は女王様みたいに色っぽいね。うん?女王様?あぁ、何と言うか……うん、すごく強くて色気ムンムンで男を足蹴にできるような女性だよ。そう言えば英語でクイーンだし、君がクイーンの位階をとったらとても似合うかもね」という言葉による後押しに他ならない。
他にも彼女は女王様についてルナに色々と聞き、そのイメージを保つためすごい高さのヒールを履いたり(元々彼女は長身で167センチ)、タイトな服を着たり、言葉遣いに気を付けたりと涙ぐましい努力を続けている。
・ジャック 男 (14)
最近ジャックになったばかり、ギルドに入ったのは7年前というひよっこ君。
精霊族。精霊には朝の精霊と夜の精霊という区分けがあり、ジャックは夜の精霊に区分される。
なのでナイトメアなどの精神干渉系の魔術が得意。
色々あって精霊族から追放された身。
ちなみに精霊族は寿命も人間と変わらないので年相応。
ヤンチャめ意地っ張り少年。だけど外見はキュート。
髪ふわふわの癖毛で色ピンクだし目はパッチリ二重の胡桃色。
全体的に甘くて美味しそうなイメージ。
適当な教育係のせいでルナをキレさせ危うく命の危機だった。
そしてギルドに戻っても笑われるし罰掃除させられるし踏んだり蹴ったり。
でも再会してあんな怖かったのに超美人だし笑顔優しいし、え、なにこれ、なんかドキドキする……という感じで篭絡される。そしてツンデレ。
最初に印象最悪、その後一気にいいところを見せ心を掴む、という高等テクニックを無意識でルナにされた結果がこれである。
闇ギルドメンバーは基本的にルナが自分達のことある程度好きでいてくれてるの分かってるけど、同時にやっぱりその辺の簡単に切り捨てられる草としか思ってないことも理解しているため、いつか自分達のこと個人として見てくれて、本当の意味で好きになってくれる時をただ待っている。
つまりは何だかんだ皆ルナを健気に好いているということで、そこが正規ギルドとか、“王国”メンバー(セイルート除く)との違い。
彼等はルナの異常性を理解しておらず、草みたく思われてることとか必要なら殺されるとか夢にも思ってない。




