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限りなく人っぽい何かと銀と金  作者: 美羽
黒色の本当
13/178

2-11*

Side:Seilute




色々と準備を重ねてやってきた夜会の当日、俺の機嫌は鰻登りだった。

午前の政務でもジークににやにやして気持ち悪いって言われるくらい。

いやでも、我慢しようとしてもつい顔に出ちゃうんだよね。

だって月と初めて公の場所に、パートナーとして出られるんだから。


月は昔のこともあって身分とか権力とか、そういうものが大嫌い。

だからどんなに親父が招待したり強制したり脅迫したり泣きわめいたり宥めすかしたりしても、今まで一度だってそういう社交の場に出ることはなかった。

――と言うか、こういう親父のしつこさにはさすがに引く。

最初の二つはまあギリギリ許容範囲として、後三つは何なの?

一国の王がすることか。


まあともかく、そういうのもあって月が世に名高い“宵闇”だって伝わってないと思うんだよね。

俺としては寂しさ半分共感半分。

だってさぁ。まぁああいう場所がとんでもなく面倒なのはわかる。わかるけどさぁ。

ちょっとは俺に付き合ってくれてもいいじゃん?

俺がこんな自由なのって今だけだし、きっとゆくゆくは奥さんと同伴して……あーヤダヤダ。

貴族は自慢話ばっかだし、その辺のどうでもいい女はピーチクパーチクうるさいし。

だから少しだけ、思い出づくりっていうか。

月と出てみたかったんだよね。


「……そのだらしない顔をどうにかしろ。すごく不愉快だ」


だから今の俺は隣のシルヴァ君に心底嫌そうに見られても全然問題ない。

全くテンションが下がらない。


「あ、シルヴァ君羨ましいんだ?そうなんだ?そうだよね!」


「……」


あ、ゴミ見るみたいな目で見られた。

彼もなんか、一皮剥けたよね。

まあ剥いてあげたの俺だけど。

あと月か。まあシルヴァ君は殆ど月のおかげって言うんだろうけどさ。


あの日俺がちょっと本性出して威嚇したら、シルヴァ君は簡単に動揺して崩れた。

で、そこに月を投入したら案外すぐに浮上した。

次の日の朝、わざわざ俺とまた二人っきりになって宣言したくらいだもん。

俺はルナに望み続ける、って。

彼は俺がものすごく怒ると思ってたらしく少しの間ビクビクしてたけど、しばらくしても俺から何の反応もないから滅茶苦茶不思議そうにしてて、つい笑った。


まあ確かにその考え方に持っていくとは思わなかったけど、俺としてはそこはどうでもよかったんだよね。

ただ何て言うか、中途半端な気持ちで月の周りうろつかれるのが気に食わなかっただけだから。

それ言ったらシルヴァ君怒りそうだから言わないけど。

だって中途半端なのが一番目障りだと思うんだ。

もうさ、全部を捨てるような覚悟で来てくれないと、俺としても殺意しかわかないし。


彼のなかで確固たる信念が出来て、それが月に向いているなら今のところ俺からの不満はない。

あの晩脅したのも、覚悟を決めるか月の元を離れさせるかしたかっただけだし。

それにもしその信念の結果が月に害のあるものだったとして、殺せば良いだけだからね。

シルヴァ君もあの件以来俺に対して遠慮がなくなってきて、俺としては過ごしやすいばかりだ。


と言うわけで今のところ俺はこの結果にとっても満足してる。


「お二人とも、ルナ様の準備が整いました」


隣の部屋から聞こえたジークの声に、俺もシルヴァ君もすぐに立ち上がってそちらへ向かった。

同時に自分と会場の準備のためジークが入れ違いに部屋を出ていく。

女の支度っていうのは時間がかかるから、俺とシルヴァ君の準備が終わっても月はまだだったのだ。

ジークは手伝いで隣の部屋に行ってたんだけど、そのジークにお楽しみは後ってことで部屋に入れてもらえなかったんだよね。

俺も支度の手伝いしたかったんだけどな。

服脱がせたり着させたり脱がせたり、さ。


「ルナ支度に時間かかりすぎ。

待ちくたびれたよ……ってわぉ。

凄い似合ってる。さすが俺のセンス」


俺の目の色であり彼女の髪の色である漆黒のドレス。

縁取りや刺繍は全部金。俺と兄貴の色だ。

最近流行の五角形の襟ぐりから出る真っ白い肌とか谷間とか、滅茶苦茶色っぽいんですけど何この人。

なのに下品にならないで大人の優雅な色気?みたいな感じにこのドレスを着こなせるって、流石だよね。

レナードの店にわざわざ“月のための”ドレスだって言って注文した甲斐もあった。

相手役の俺と兄貴の分も含め、怒濤の勢いで作ってくれたし。

ちなみにお揃いのデザインなので俺と兄貴の衣装も基本は黒。

ただこっちは刺繍やタイが紫になっている。

言わずもがな、月の瞳の色だ。

後はそれぞれのイメージに合わせて少しずつ違ってるらしいけど、兄貴にはまだ会ってないから細かいことはわからない。


「……それは私を誉めているのかい?

それとも自分のセンスを讃えているのかな?」


月が軽く唇を尖らせて睨む。

や、そういう訳じゃないんだけど。

て言うか、月って俺には案外子供っぽいことしてくるんだよね。

そんな風に唇尖らせたりさ。

それは全然悪いことじゃない。むしろすっごい優越感を感じる。

でも他人に見せびらかしたいような絶対見せたくないような、微妙な気持ちになるんだよ。


「やだな、冗談だよ。すごく綺麗だし可愛い」


「……ふん、どうだか」


またそうやって、意地っ張りなんだから。

誉められて嬉しいくせに。

シルヴァ君なんて純情よろしくさっきから一言もリアクションとれないでガン見なのに、ほんと鈍感。


「シルヴァはどう思う?

城に来たときの紫のドレスは似合うと言ってくれただろう?

こっちはどうかな?」


あーあ、わざわざ近づいて上目遣いで小首傾げたりしちゃって。

無意識なんだろうけど、シルヴァ君真っ赤。


「前のも、似合っていたけど…こっちの方がもっと似合う。

……ただ、金が気に入らない」


それ、俺に対する悪口だよね?

ただの嫉妬だよね?


「君は金色があまり好きじゃないのかい?

まあ、銀の反対だし納得と言えば納得だけれど」


でも月は全くその意図に気づかずにころころと笑った。

思わず同情的な目線を送ってしまう。

睨み返されたけど。

でもまあ、今日の俺はめげません。


「あ、そうだ。ルナ、ちょっとこっち来て」


彼女を呼び寄せて椅子に座らせ、自分はその背後に立つ。

実は、ドレスとはまた別にレナードの店に注文していたものがあるのだ。


「何をするんだい?」


「んー、髪しばってあげる。たまにはいいでしょ?」


月が黒髪を大切にしているのは知ってる。

でもだからこそコレ、つけたいんだよね。

懐から取り出したのは金色のリボン。

月と俺の意向で宝飾品は一切つけてないから、このままだと寂しいしね。

それをじっと眺めた後、月は疑わしそうな目で俺を見た。


「……君、しばれるの?」


失礼な。

けれどその返答は、髪をしばってもいいということ。


「うわー、疑いの目がつらい。俺だってそれくらい出来るよ。

ほんとはポニテっぽくしようと思ってたけど、それだと胸強調しすぎで皆ガン見してきてウザそうだからゆるくサイドで結ぶね?」


「うん、任せる。ふふっ、これ、君の髪の色だね」


………うん、あの、ほんとさ。

そういうの心臓に悪いからヤメテ。

そしてそういう、とびっきりの笑顔禁止。

鈍感のくせに油断してるとこ突いてくるんだから。

シルヴァ君からの視線で俺消えそう。

まあ幸せすぎて消えないけど。


俺と兄貴の髪の色は、母親が違うせいか若干異なる。

兄貴の方が色味が薄くて、俺のは濃いめ。

例えるなら水仙の白いのと黄色いの。

そして今彼女の髪を飾ろうとしているのは濃い金のリボンだ。

だからといって素材がシフォンのような薄いさらっとしたものだから、あまり重い感じはしないようになってる。


「はい、完成!うん、俺のパートナーの出来上がりだね」


「今日だけだ」


「シルヴァ君さ、悔しいからって即行で水差すのやめてくれない…?」


一秒もかからなかったよ。


「ふふっ、確かに今日だけだけれど、とても気に入ったよ。

ありがとう、セイ。特にこのリボンはこれからも使わせてもらうね」


「ほんと?それすっごい嬉しい」


だって髪をしばるためのものだよ?

月が自分の体のなかで、何よりも大切にしている部分を飾るもの。

それを気に入ってくれたって、一番の誉め言葉だ。


「それにしても、案外考えていることは変わらないのかな」


顔には出さずに(出来るだけ、っていう話だけど)浮かれていると、月も四次元ポケッ……亜空間をごそごそとあさり出した。

そこから引っ張り出してきたのは漆黒からほんのり紫に綺麗なグラデーションを見せているサテン地のリボン。

明らかに誰が持つ色なのかを表している。

え、まさかそれって。


「さてセイ、座ろうか」


「……なんか、恥ずかしい」


俺の髪は肩について少しハネる程度には長い。

要は、しばれるということだ。

彼女の色で下の方に一つに纏められた金髪を見て、なんだかこそばゆくなる。


「おや、気に入らなかったかな?ならすぐにほどくけれど」


「え、違うって!絶対ほどかなくていいから!」


「そうかい?それは嬉しいな」


可笑しそうに笑う彼女が恨めしい。

でも同じくらい心が弾んでいるから文句も言えやしない。

相反する感情にむずむずとした表情を浮かべる俺の顔をひとしきり楽しんで、月は今度は部屋の隅で不貞腐れるシルヴァ君の元へ近づいた。

あー、若干空気だったもんね。


「シルヴァ、なんだか不満そうだね?」


「……別に、そんなことない」


「そう?君のためにも用意していたんだけど、なら必要ないかな」


「いる!」


ああ、手のひらの上で転がされてる。

シルヴァ君、君さ、今遊ばれてるよ。

反応楽しまれてるよ。気づいてないでしょ。


「君は髪はしばれないから、代わりにこうしよう」


微笑む彼女は息苦しいからと二つ程開けられたシルヴァ君の襟元にリボンを通した。

元々そこにはタイがあったのだが、彼はあまりきっちりした服装が好きではないらしく外していたのだ。

開けたボタンはそのままに、ゆるく結ばれたそれにとても嬉しそうにシルヴァ君の表情がほころぶ。

やー、ほんと真っ直ぐ。

ちょっとひねくれた大人の俺には直視できない。


「嬉しい……ありがとうルナ。

俺も今度、ルナにリボンを贈る。銀色の。……つけてくれる?」


「ふふっ、勿論。楽しみにしていよう」


うーん、超ほのぼの。

でもちょっと気に入らないかも。

だってほら、今日だけだとしても俺のだし?


「るーな、そろそろ兄貴のとこ行こ?

たぶん準備終わってるから」


「うん?……あぁ、確かにそろそろだろうね。

この後の打ち合わせや対策もあるし、行ってみようか」


「うん、じゃあはい、手」


「はいはい」


ふっふっふ、羨ましいでしょシルヴァ君。

今日だけは月にどれだけ触れても問題ない。

ただまあ、行きすぎてこの間の侯爵の時みたくなっちゃったら大変だから程々にするけど。

ギュッと指を絡めて手を繋いで(つまり恋人繋ぎ) 彼女の隣に並ぶ。

護衛役のシルヴァ君はそんな俺達の一歩後ろを歩かなければいけない。

だって護衛ですから。

時折後ろを振り返ってドヤ顔を向けつつ、俺は兄貴の元へ向かった。






「何と言うか……二人の外見的なキャラが滲み出る服装だね。

流石はレナード、かな。随分と乙女心をくすぐるデザインじゃないか」


兄貴の部屋で俺達を交互に見つめた月はクスクスと楽しそうに笑う。

乙女心って。まあ言いたいことはわかるけど。

要は、萌えるってことでしょ。


俺と月、そして兄貴の服装は並んでみるとなるほど確かに“お揃い”と呼べるものだった。

俺達のどっちが彼女の隣にいても違和感がないし、三人でいても誰もがお似合い、と言ってくれる出来だろう。

月が優雅な綺麗系の服装だから、それに合わせて俺達の服もシックなデザイン。

それに使う色が黒と紫だから、派手になりようがないしね。


俺の服は軍服っぽい。

たて襟だし、なんか所々ゴツめだし、上着長めだし。

あ、でもちゃんと王子っぽさもある。

俺と兄貴なら間違いなく俺のが武闘派だし、まあ間違ってはいないか。

それに店の方にも動きやすい服って頼んだし。


兄貴はそれとは逆にこれぞ王子、という一品。

なにしろ顔が儚げだもん。

俺にはひっくり返ってもあんな表情できない。中身残念だけど。

まあそんな兄貴が着ている服は正統派で、簡単に言えば燕尾服だ。

ただそこは異世界、地球で着られている生真面目なものとは違って華やかな装飾とか、結構デザインは洗練されてる。


あ、余談だけどシルヴァ君も軍服っぽいデザイン。

ただ彼の場合護衛だから、主役の俺達より目立たないように使われている布地の殆どが真っ黒だ。

後は髪の色に合わせて銀かな。

ここで彼まで紫を使っていると、もう月がどんだけ男を誑かしてんのってなるからその二色にした。

別にシルヴァ君まで紫使うのが気に入らなかった訳じゃないよ?うん、ほんとに。

でも結局月がリボン結んであげちゃったから、ささやかな嫌がらせも意味なかったんだけど。


「さて、それじゃあこれからの行動の確認をしようか」


眺めるだけ眺めて満足したのか、月はそう言って魔術で出した椅子に座った。

まあヒールかなり高いし(9センチヒールだよ。女子って大変だよね)、立ってるのも疲れるだろう。

因みに月は身長160センチ。

俺が179で兄貴が181だから目線が同じになることはない。

シルヴァ君は見た感じ俺と同じくらいかな。十三歳のくせに。

同時に俺と兄貴も彼女に向かい合うようにしてソファーに座る。

シルヴァ君は月の後ろだ。一体誰の護衛なんだか。


「確かこの夜会で黒幕を捕らえるんだったな。

今更だが、そんな大きな騒ぎを起こして大丈夫なのか?」


「その辺りは心配要らないよ。

タイミングをみて私とセイは建物の外に出るつもりだから。

向こうもたぶんそこに刺客を放ってくると思う。

そこを上手く利用していくさ」


「まあ俺らだしね。負けることはないよ。

だから兄貴も心配しないで早めに抜けてルシルとイチャついてて?」


こういう行事のとき、大抵兄貴は早々に会場から出ていく。

周りの貴族たちは体が弱いからだと思っているけど(実際間違いではない)、本当のところはルシルの所に忍んでいるのだ。

全く、お袋も行事に出てて侍女のルシルが暇だからってずるいよねぇ。

俺なんていない兄貴の分まで五月蝿い女達に囲まれてるのに。


「別にお前のことは心配していない。ルナもついていることだしな。

ただ建物を壊さないか、誰かを巻き込まないかだけが心配だ。

弁償したり慰謝料を払う場合、全て公費から捻出しなければならないのだから」


「それが曲がりなりにも血の繋がった弟に向ける言葉……?」


「まあ間違ってはいないかもしれないね。自業自得だよ、セイ」


月はそう言うけどさ。


「……言っとくけどルナも同罪だからね?

俺が物壊したりするの、大抵ルナとじゃれてる時じゃん」


「おや、心外だな。

私はいつもその被害額の半分を私財から出しているんだよ?」


「え、なにそれ初耳」


しかも半分って。

一回二人で国宝の離宮ぶっ壊したことあったよね?


「まあ、私は君と違って大人だからね。

自分の行動の責任くらいとれるさ。

シルヴァとの修行だとか、依頼の最中もそうしているよ。ね、シルヴァ?」


「ん。ルナはそういうの、いつもしっかりしてる。

俺には絶対に払わせてくれない」


「そりゃあね、私はこれで君の師匠という立場だから弟子の責任はとるさ」


「俺だってルナには及ばないけど稼いでるのに……」


「出世払いを期待しているよ」


不満そうにするシルヴァ君を撫でる月を見つめてから、兄貴は呆れをのせた目線を俺に向けた。

うっ、言いたいことはわかるけどさ。


「……それに比べて我が弟は」


「今度から自分の懐から出します」


俺も一応王子という身分だから直轄領というものがある。

それに俺って身体能力もだけど、元々は内政チートだから基本的に領地は滅茶苦茶潤っているのだ。

従って俺の懐もこれで結構あたたかい。


「……そうではなく、壊さない努力をしろと私は言っているんだ」


キリッ、とした顔で言ったのに返ってきたのはそんな言葉だった。

ごもっともです。


「あ、忘れるところだった。

たぶん無いとは思うけど、もしも向こうが君を狙ってきたときのためにお守りを用意したんだ」


叱られる俺を放置していた月は、きりのいいところで兄貴に声をかける。

助けてくれないなんて酷い。

彼女が差し出したのはタイピンだ。

飾りに小ぶりの紫の石がついている。

それを無造作に兄貴に投げてよこして、にっこりと微笑む彼女。

こんなちっさい目立たないやつだけど、月のことだからすんごい機能つけてるんだろうなぁ。


「一応毒の察知、物理攻撃防御、魔法攻撃防御、状態異常変化無効をつけておいたから。

実際自分で使ってみたんだけど、物理は十回の斬撃に耐えられて魔法は五回分かな。その大きさだとこれが限界だったんだ」


「……貴女にしては案外弱めの効果だな」


少し意外そうに言うけど、それ誤解。騙されてるから。


「兄貴、ルナは自分で試したって言ったじゃん。

たぶんあの数字、全部ルナの攻撃での計算だよ。

だから実際その辺の人間の攻撃なら全く問題ないから」


「………これだからお前達のような者は」


「同類扱い!?」


「君達、あまり調子にのっているとその口を塞ぐよ…?」


月はひきつった笑顔で俺達を見つめた。

いや、だって仕方ないじゃん。

まあ同類ってことで間違ってはいないけど。


「そしてセイは魔法防御、いるかな?

一応用意はしてあるんだけど」


「えー、別にいいよ。ルナいるし」


「……セイルートは魔術がそんなに駄目なのか?」


シルヴァ君が訝しげに聞いてくる。

まああの威圧の後じゃそんな弱点あるとは思わないだろうね。

「セイは魔力が少ないんだ。大体一般人レベルかな。

だから結構魔術の罠に簡単にかかって、毎回面倒なんだよ」


「面倒って。俺すごい傷ついた」


「因みに彼の剣は君のものと一緒で魔術への耐性があるから、魔法自体を斬ることができる。

それで普通の魔術攻撃や相手の防御魔術なら対処できるんだけどね」


「しかもスルー!!」


「セイルート、さっきからうるさい」


聞いてきたのはシルヴァ君のくせに、うるさいって酷くない?


「はいはい、君達は仲がいいんだか悪いんだか、まったくよくわからないな。

ともかくセイは魔法防御はいらないんだね?」


「うん、平気でしょ。

ルナなら俺が危なかったら絶対助けてくれるじゃん?」


「それは勿論。愚問だね」


「ならなんも心配いらないって。

代わりに物理系は俺に任せてくれていいからさ」


俺達が一緒に戦うときは大体そういうスタイルだから、今更こんな確認の言葉も必要ないんだけどね。

俺が剣で、月が魔術で戦って同時に相手からのそれを対処する。

月はオールマイティーだから剣でもなんでもいけるんだけど、俺はそうもいかないし。

やっぱりそこは気を遣ってもらわないと。


「別にいいけれど、ジークと組むんじゃないのかい?」


「うーん、ジークとはいつもやってるんだもん。

たまにだからこそルナとがいいんじゃん。

ね、五年ぶりだしさ、いいでしょ?」


五年ぶり、その言葉に月が弱いのは今回の滞在で分かっている。

どうも申し訳なく思ってるらしいんだよね。

あと月本人が無意識下でも意識下でも寂しがってる感じ。

まあ俺としてもかなり寂しかったから、今回のことを教訓にしてくれればそれでいいんだけど。

――それでもやっぱり今回くらい、弱みに付け込んでもいいでしょ?


「……それもそうだね。わかった、そうしよう?

本当はシルヴァと組もうと思っていたけれど、君のその言葉は断れないな」


ほら、ね。

ただその月の答えに反応したのは彼女の背後に立つシルヴァ君だ。


「ルナ、セイルートと組む?」


「すまないね、私も久しぶりだから…

そして今回は君の戦わないで欲しいという望みは叶えられない」


「………」


む、とシルヴァ君が月を睨む。

でも子供が駄々こねてるようにしか見えないんだよな。


「駄目かな?」


そしてそれも駄目押しのように月が彼を見上げて言えば、すぐに跡形もなく消えてしまった。

うん、あのアングルは俺もヤバイと思うよ。

だって上目づかいになるし、たぶん胸の谷間とかがさ……

男って単純。俺もだけど。


「だ、めじゃない……」


「本当かい?ありがとうシルヴァ」


「………俺の馬鹿」


珍しくはしゃぐ月の声に隠れてそんな声まで聞こえて、なんだかシルヴァ君に同情した。

いやまあ、俺のせいだけど。











「皆様、お待たせ致しました。会場の準備が整いました。

招待者は皆会場に入っていますし、陛下と妃殿下も既に入場しています」


しばらくその部屋で雑談していれば、ようやくジークがやって来た。

俺が言うことじゃないけど、側近業務も大変だ。

こんな風に行事のたびに駆り出されるし。


「おつかれジーク。

んじゃシルヴァ君連れてってあげて。

さすがに一緒には入れないから」


俺達は王族用の通路から会場に入る。

そういう風に目立つのってあんま好きじゃないんだけど、他人から見られるのも王族業務のひとつだから仕方ない。

そしてそこからの入場はパートナーならともかく、城の騎士でもないシルヴァ君には許可が下りないのだ。


「はい。シルヴァ様、参りましょう」


「ん……」


ジークに頷いて、彼は月の前にまわりこみ片膝をついた。

じっと、真摯な薄墨色の瞳が月を見つめる。

とても真剣な雰囲気だけれど、月は慣れているのか変わらず微笑みを浮かべたままだ。

いやもう君達さ、どんな二人旅してんの?


「ルナ、先に行ってる。

ルナが向こうに着いたら、すぐそばにいくから」


「知っているよ。

君はいつもそうしてくれているからね。

君のことをちゃんと待っているから、いっておいで」


「ん。いってきます」


そっと頬を撫でた月の手をとってそこに口づけ、シルヴァ君は一度やわらかく微笑んだ。

向けられた言葉への喜びを一身に表して、彼はそのまま部屋を出ていく。


「……ほんっと、どんな二人旅してるのさ」


なに、手の甲にちゅーって。

どこの王子サマですか。

どこの騎士サマですか。

………俺も月にやったことあるけどさ。


「なかなかキザな少年だな」


「フレイ、少年呼びは続行なのかい…?」


「兄貴もルナも突っ込みどころそこじゃないから!」


あーもう鈍感二人に挟まれるとほんと疲れる。

突っ込みが俺しかいないってどういうこと。


「そんなことよりセイル、先程から気になっていたんだが」


「ん?何?」


「いつからルナのことを呼び捨てに?何かあったのか?」


………なんでこういうのは突っ込んでくるんだよ。


「えー、や、なんていうか、流れで」


「流れ?そんなはずはないだろう。

特にお前とルナはな。何かしらあったのではないか?」


「ふふっ、セイもやっぱり兄には敵わないね」


愉快そうに笑ってるけど、月だって当事者のくせに。


「まあ、五年ぶりだからな。

それにお前ももう成人だし、色々とあるんだろう」


肩を竦めた兄貴は、月に聞こえないように本当に小さな声で俺に囁く。


「ルナと結ばれたいのなら、俺もルシルも協力は惜しまん」


「………っ、」


ちっがーう!!!

俺にそんな気はないの!ないったらない!


叫ばなかった自分を誉めてやりたい。

なに、結ばれたいなら協力惜しまないって。

ほんと、ナニ。


…月を国に縛るなんてできるはずないじゃん。

王妃だなんてそんなガッツリ権力とかしがらみにがんじがらめになる立場、俺の我儘で月を縛りつけたくない。



………そりゃ、さ。

月が誰かとくっつくの、必要だってわかっててもやっぱり嫌だけど。

シルヴァ君の味方をやめたのだって、月が俺のことをこの世界で唯一大切な存在だって言ってくれたことや彼自身の未熟さだけが要因じゃなくて、俺が嫌だなって……そう、嫉妬したからっていう心の狭い男だよ、俺は。

所詮そんなもんなんだって。

月のため、っていう建前で俺の我儘を通したんだ。

狡くて心狭くて性格悪いですから。


でもやっぱりさ、王様になる俺じゃ駄目なんだよ…


それが俺にとっての最後の砦。

“王国”国王になる存在は月に相応しくない。

その座を捨てて月の傍にいることも出来る。

だけどどうしたって俺は、月をおいて逝くから。

ずっと一緒にいることは彼女に一瞬の幸せしか与えられなくて、結局最後には孤独と絶望の底に追い落とすことにしかならなくて。

それが分かってるから、俺は俺が死んだ後も残る“王国”をあげたいんだ。

例え最後には俺が望んだ形とは違うものにこの国が変容しても構わない。

それでも“王国”は残って、同時にそれが俺からもらったものだって、月はきっと忘れないでいてくれるから。

そういうのが例えほんの少しだったとしても月の支えになってくれるって、俺はがむしゃらに信じてるんだ。


だから俺は国王になって、月の隣を手放す。

でも、心は。ずっとずっと、貴女の傍にいたいって、本当は――


「せーいー?聞いてるかい?」


「我が弟は案外精神攻撃には弱いようだな。

まあ特定の攻撃しか通らないが。

ルナ、セイルは聞いていないし先に行くか?」


「って、ちょ、聞いてる聞いてる!」


嘘だけど。全然聞いてなかった。

でも兄貴が悪いんじゃん。

急にそういうこと言うから。

あーもう止め止め!こういうことって、考えるからいけないんだよね。


「正気に戻ったようだな。

それで、どうする?私かセイルか」


「うーん、迷うな。

君でもセイでも向こうの怒りを買えそうだ」


うーん、何の話してるんだろう。

取り敢えず月が俺か兄貴かを選んでるのはわかるけど。


「でも、君は早く退場するし……やっぱり君の方がいいかな。

それで君がいなくなったらセイに乗りかえるよ」


わぉ、悪女。

でも何となく話わかった。

たぶん入場のときどっちのリードで入るかだ。

選ばれた兄貴はそうか、と笑って俺に目を向ける。


「ならば、弟には悪いが私にリードさせてもらおう」


うわ、なんかムカつく。なにそのどや顔。


「別にいいですー。俺らは兄貴が消えてから思う存分イチャつくんで」


「ほう、それはよかった」


…………って、のせられてどうすんの俺!

あぁ、今ならさっきのシルヴァ君の気持ちがわかる。


「俺の馬鹿……」


ほんと、男ってやつは単純なんだから。







オマケ:ルナとセイルートによる国宝破壊事件



「……うーん、困ったねぇ」


「だよねー」



俺達の視界には崩れた瓦礫の山。

これ、数時間前はめっちゃ綺麗でお洒落で贅を凝らした離宮だったんだけどなー。


「どうしてこうなってしまったのか、全く原因不明だね」

「やっぱあれじゃん?月さんが意気揚々と魔法ぶっぱなすから…」

「何言ってるんだい君だって嬉々として剣を振り回していたじゃないか」

「それはほら、月さんの大地抉っちゃう魔法に対抗するために」

「君の斬撃はまず離宮の屋根と壁をさようならさせていたように思うね」

「その後離宮を縦に真っ二つにしたの月さんじゃん」

「その二分の一を六分の一にしたのは君だ」


「「…………」」


罪の擦り付けあいをしてももう状況は変わらない。

どちらか一人が犠牲になることは、これからの関係性にも響く。

―――じゃあさ、もう答えはひとつだよね。


「俺達は国宝を壊してなんかない」

「私達は国宝を壊してなんかない」


………うん。


「俺達がそう言ってるんだもんね、じゃあそういうことだよね」

「そうだね。ギルドランクSSと第二王子が言ってるんだ、間違いないよ」


「「…………」」


「………いくらぐらいするのかな」

「考えたくもないね」


とりあえず、二人で親父にごめーんて謝ろう。




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