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限りなく人っぽい何かと銀と金  作者: 美羽
銀色の喪失
101/178

9-6*

The 2nd year

Side:Joker





気に入らぬ。何もかもが。


「ルナ、ルナルナっ、ルナ……!!」


「黙れ、煩わしい。妾は決してそなたをルナに近づけはせぬ」


ルナが去った後もその名を叫び続ける口を無理矢理に塞ぎ、妾はそのまま転移を実行した。

いくら闇ギルドの長たるこの身だとて、闇市で事を荒立てれば今後に関わる。

なればこそ拓けた他の場所への転移が必要だ。

無事に辿り着いた湖畔は妾にとっては懐かしい場所。

同行者がこんな子供ではなくルナならばどれだけ良かっただろうか。


「今度ルナをぴくにっくとやらに誘ってみるか」


最近のルナは望みのことばかりで、今日の外出とて数ヵ月ぶり。

いくらなんでも無理をし過ぎであろう。

恐らくこちらから誘えば彼女が否を返すことはない。

そうひとりごちて頷けば、足元から衝撃が伝わり妾の身体は宙に投げ出された。


「ルナをどこにやった…!」


「成る程。確かにそなた、なかなかの力を手に入れたようだな」


動揺することなく着地しもう一度頷く。

何のことはない、魔術で縛ったその身体の上に妾は乗っていたのだが、それを解かれ振りほどかれたのだ。


「どこだ、ルナ、ルナは…」


「見苦しいぞ弟子よ。

……いや、これも可笑しな呼び名か。

そなたは最早ルナの弟子ではない。

かと言って妾は名を呼ぶ気にもならぬ……ふむ、銀狼と呼ぶことにするか」


本当は今でもこやつを皆が弟子と呼ぶことが気にいらなんだ。

既にこの男とルナは無関係。

勿論互いに向かう感情はあれど――それは考えることすら苛立たしいものだ。

闇ギルドに戻った折りには皆に銀狼呼びを定着させるとしよう。


「五月蝿い!ジョーカー、ルナをどこにやった!?」


「吠えるな。妾はルナをどこにもやっておらぬ。

そなたも見ていた通り、ルナがそなたの前から去ったのだ。

そもそもそなた達はそのような約定を交わしたのであろう」


「………」


ギリ、と歯噛みする様が滑稽でつい笑む。

いい様だ。妾はこやつが気に食わぬ。

なればこそ全力でルナへの道を阻もうというもの。


「どうした銀狼よ。そなたは情けなく名を呼ぶことしかできぬか」


「………っ、お前、邪魔だ」


「奇遇だな。妾もそなたが邪魔でたまらぬ。

我がジョーカーを悩ませる存在など、制止さえなければ今すぐに斬って捨てるものを」


「五月蠅い!お前を黙らせて、ルナを追う……!」


告げられた言葉に口の端がつり上がった。


「よう言った!ならば戦だ、銀狼よ!

手に入れたという真なる力、妾に示してみせよ!!」


言葉を吐き出すと同時に身の裡の力を開放する。

ルナへ告げた通り殺しはせぬ。その心を壊すことも。

けれど争い傷を負わせ痛めつける、それくらいは許されるであろう?

妾はもう、我慢の限界なのだ。


「【引き裂け】!」


風の渦が何重にもなって周囲を渦巻く。

逃れられないようにと強固に固められたそれは、けれど妾にとって逃れる必要性すら感じさせない。


「邪魔な風だ」


魔力を灯し腕を払えば渦はすぐにそよ風と変わって髪をなびかせた。

魔族を表わす翼をはためかせ宙に浮き、紋様の浮かんだ手をゆっくりとさし伸ばす。


「【妾を阻むな、地の獣が】」


瞬間降り注ぐ雷は迷いなく銀狼を穿った。

だがすぐにそれは払われ、銀狼は強い跳躍と飛行の魔術でこちらへと迫る。

振るう刃はルナの力を纏ったもの。

どこまでも癪に障る。


「落ちろ!」


「ほざけ!」


刃を伸ばした爪で弾けばピシリと空間に破裂音が響く。

成程、確かに取り戻したという力はかなりのもの。

地力だけであればすべての獣人族の頂点に立つような身体能力、そして魔族たる妾には及ばぬが精霊族を容易に凌ぐ魔力である。

これは全ての銀狼族に与えられて良いものではないだろう。

もしも徒に強い力を半端者が持てば世界が揺らぐ。


「【百雷】!」


「ルナの真似事か。力は及びもせぬようだが、小癪な」


降り注ぐ百の雷を弾き飛ばす。

ルナと妾がどれだけ長い間互いを磨いてきたか、こやつは知らぬのだろう。

ルナの扱う術は殆ど全て知り尽くしている。

それは妾の術も同じことだが、それはいい。

つまりルナのそれと同じもので威力が劣る猿真似程度、妾にとってどうということも無いのだ。


「【妾は魔の血統。呼びかけに応えよ】」


詠唱と共に暗黒の竜を模した力の塊を銀狼へと向ける。

いとも容易く払われた自らの攻撃に精神的な衝撃を受けでもしたのか、数瞬放心していた銀狼は慌ててそれを相殺した。

いいや、相殺とは呼べぬ。余計な力の入りすぎた魔術で無理矢理消し去ったのだ。

本来ならばその何分目かの力で事足りるというのに、それは力の配分が出来ぬからか。いいや。


「ふん、力を得たとしてそれに振り回されているようでは話にならぬな」


この男は手にした力の全てを未だ満足に扱えぬのだ。

未だこの者がルナの弟子であった頃、彼女も言っていた。

弟子を儀式を受けたとして、それにより得た力を真に扱えるようになるのはずっと先のことであろうと。

ルナは年数に数えて一年と言っていたが、それは彼女自身が弟子を教え導いた場合の話。

導きがない状態で銀狼一匹が足掻こうともすぐに実現するものではないのだろう。


「情けないことよ。そなた、以前はジャックと対等に戦うこともできていたようだが今はそれ以下だな」


「………」


まあ、この挑発にのらぬことは評価してもよい。

無言でただ刃と魔術を閃かせる銀狼だが、次の言は果たして。


「ジャックは今、ルナに教えを乞うておる。

今では名実ともに闇ギルドの真のジャックの位を持つ者として名を馳せておるぞ。

空間術も幻惑術も、最早精霊族の村の者とてあれに敵う者はおるまい」


「………っ!」


増幅した殺気、荒くなる剣筋にそれみたことかと笑う。

未だ童のままの銀の獣。

些細な挑発にすぐにのるような愚かしさをもつこの者を、容易くルナに近づけはせぬ。


「そなた、本当に強くなったのか?

妾にはそうは思えぬがなぁ?

んはははは、ほんに脆弱な稚児のままではないか!」


確かこやつはこの一年でギルドランクがA+からSへと上がったはず。

それでこの程度とは、未だ正規ギルドは我等の脅威ではないということだ。

ふむ、こちらを苛立たせることしかできぬ狼だと思っていたが、このような収穫があるのならば重畳。


「お前に何が分かる!俺が、この一年間どんな思いでいたか…!!」


「分かるわけがなかろう。

そなたの抱く感情や不相応な望みなど、知りたくもないわ」


「そんなことを言いながら、自分だってルナに望みを叶えてもらってるんじゃないのか!?

そうじゃなきゃルナが同じところに留まるわけがない!」


「………気に食わぬな」


嗚呼、苛立たしい。前言は撤回しよう。

ルナの気持ちもあり程々で済まそうと思っていたが、それも止めだ。

自らがどれほど身に余るものを望んでいるのか、妾が直々に教えてやろうではないか。











「……終わりか?」


襤褸雑巾のように地に打ち捨てられたその姿を見下ろし、その戦意を確認するため翼を仕舞い地に降りる。

こやつが気に食わぬ。ルナを奪おうとするこやつが。

“王国”の王太子とは根本的に異なるその在り方。

銀狼の想いにルナが応え、銀狼が賭けに勝ったとき。

その時ルナは恐らく、他の殆どすべてを捨て銀狼の傍にいるだろう。

銀狼の命が尽きるまで。

それがこやつの望みなのだから。


理由はわからぬがルナを縛ろうとはしない王太子とは違うのだ。

この狼は全身全霊を以ってルナを望み、その身を縛り付けるだろう。


――私が君の事、君が死ぬまで見ていてあげるよ。――


そうなればあの約束は果たされない。

いいや、恐らくルナは望みを叶えようと妾に意識を向けることもするのだろうが、それは妾の望むものではない。


「のう銀狼。妾はそなたがルナを縛り付けようとするのが憎い。

そしてそれをルナが厭わず、その望みを肯定したことが恨めしい」


己はどこまでも自分本意で残酷なのだと自覚する。

望みを叶えると微笑んだルナの、その言葉の重さが分かっていて尚。

妾は恐ろしいのだ。


再びあの孤独に立ち返ること。

気が遠くなるような終焉を待ち望むこと。

どれだけ終わりを望んでいたとして、最期の瞬間に独りなのだと自覚すること。


そのすべてがこの上なく恐ろしく、だからこそ妾はルナに望んだ。

ルナは浅ましいその望みに頷いた。

あまつさえこの手を引き、妾に“仲間”と“家”まで与えてくれた。

残る望みはたったひとつだけ。

けれど銀狼の存在はそれを揺るがす。


ルナの孤独を無くしたく無いわけでは決してない。

妾と同種の、そしてそれ以上の孤独に苛まれるその背を支えることは妾には叶わない。

そして王太子一人の手にも、それは余るのだろう。

もしかすれば目の前で弱々しく吠える銀狼が、ルナの孤独を払う存在になるのかもしれないという可能性もある。


いつの日か妾は、自身の望みとルナ、この二つを天秤にかけどちらかを選びとることになるのかも知れぬが――


「これでは問題外ではないか。無様な」


このような存在、妾の足元にも及ばぬ。

傷だらけになりつつこちらを睨み付ける様は威勢がいいと言えば聞こえがいいが、つまりは向こう見ずの愚か者ということだ。

脆弱な存在はルナの傍に相応しくはない。

このような状態では天秤に乗せる必要すら感じられぬ。


「そのような力でルナを望むとは、恥を知れ。

よいか銀狼。妾はそなたがルナを手に入れることを阻む。

手に持つ力さえ満足に扱えぬような犬に、我がジョーカーを得られるなどと努々思うでないぞ」


「……っ、お前になんか、負けない…!」


「ほう?今何と言った?もう一度吠えてみよ」


「がっ……!」


その顎を蹴りあげ身体を吹き飛ばし問いかける。

負けないなどと、口で言うのは至極容易。


「……よいか?妾はルナの言葉があればこそそなたをこの程度で許しておるのだぞ?

口の聞き方に気を付けよ、銀狼。

戯れ言はもう少しましなものにするのだな」


「……………俺は、絶対に、ルナを捕まえる!

それで、ずっとずっと、一緒にいる…!」


「……渡さぬ。ルナは妾の、闇ギルドのジョーカー。

ルナの帰る場所は闇ギルドだ。そちら側ではない。

最早そなたはルナと何の関わりも持たぬ小さき存在だということを知れ」


「おーい、ジョーカー落ち着けって」


その口から放たれる言葉のすべてが煩わしく、力付くで喋れなくしてやろうと動かしかけた身体を寸でのところで止められる。


「………邪魔をするか、エース」


怒りも収まらずに背後を睨めば、エースは肩を竦め空を指差した。


「もう夕方だぜ?

皆来てるし、俺も腹へった。

これから砂埃落として服着替えなきゃなんねぇのに、熱中しすぎだ。

姫さんも首長くしてジョーカーのこと待ってるしな」


「む……」


こやつはそう言われると妾が弱いことを分かっていて言っているに違いない。

確かに言われてみれば既に日がかなり傾き夕暮れ時。

血や砂で僅かながら汚れただけの衣服だが、折角の食事の席には似つかわしくないだろう。

何より今日はルナが妾達を特別だと言ってくれた善き日。

このような些事で台無しにしてしまいたくはない。


「わかった、では一度闇ギルドに戻り身綺麗にしてから参ろう。

と言うかそなたどうやってここへ来たのだ?」


エースは魔術が扱えない。

誰かが手引きをしたのだろうが、ジャックは未だ妾達の居場所を突き止めその場に転移させる程の技量は持ち得ないはずであるし、そもそも妾の怒りを恐れそのようなことは実行しまい。


「そりゃ姫さんに。

水晶で覗きながら困ってたぜ?

ジョーカーの愛がすごいって」


「当然であろう。同じジョーカーなのだぞ?」


「はいはい、羨ましいことで」


「そなた真面目に聞かぬか。

……まあいい、ではエース、ギルドに付き合え。

これけらそなただけあちらに送るのは手間だ。

それにあそこな銀狼に解析でもされては妾の行いが水の泡だからな」


ちらりと視線を向ければ銀狼は地に這いつくばったまま起き上がることもできず、けれどその瞳だけは未だギラギラとこちらを射るように見つめていた。

相変わらず、威勢だけはいいことだ。


「そのつもりだぜ。あ、それと弟子、」


「弟子ではない。銀狼だ」


「………本当に羨ましいことで」


「む?そなたも竜族と呼ばれたいのか?」


「いや、全然違うからな?」


では何が羨ましいのだ。

分からずに首を捻る妾の身体を肩に座らせ、まあ気にすんな、とエースは苦笑いした。


「で、まあ銀狼。お前もうちょい食ったり寝たりしろよ。

そんなんじゃ強くなれねぇぞ?」


「エース、何を助言しておる」


「や、だって姫さんいつもすげー心配そうに見てんだもん。

ジョーカーだって気に入らねぇだろ?」


それは確かにその通りである。

ルナはああ見えて銀狼のことを心配している。

ただ銀狼がこうなっている原因は彼女にあるため本人としては複雑なようだ。

妾達にそれを悟られたくなさそうにしている様子からもそれは窺えた。

まあ、ある意味バレバレなのだが。

ルナはこういったところは抜けていると言うか何と言うか、けれどそれも彼女の魅力なのだから致し方ないことである。


「ともかく姫さんに心配かけてんなよ、捨てられた分際で。

もうちょっとマシになんねぇなら俺が無理矢理お前のことどうにかするかんな」


「………」


銀狼は未だ黙ったまま。

けれどその瞳が悔しそうに、そして切なそうに伏せられた。

それがまた妾の苛立ちを煽る。


「よいか銀狼よ、ルナはただ優しいからそなたを気にしているのだ。

別にそなたが特別なわけではないのだ」


「……ルナは、俺が好き。俺はルナの特別」


「ふん、妾とてルナから特別だと言われたぞ。

それにルナと妾は何を隠そう三十年の付き合いで仲良しなのだ」


どうだ、とばかりに胸を張って言い放った言葉は腹立たしいことに鼻で笑われた。

未だ地に伏せたままのぼろぼろの狼風情に、である。


「俺は愛しいと言われた。年数が問題じゃないけど、出会って五年で」


「………わ、妾は今日、あーんをしてもらったのだ」


「そんなの俺はしょっちゅう。羨ましがることなんて欠片もない」


「しょっちゅう、だった!、であろう!

間違いは修正した方がよいのではないか?」


「………もう少ししたらまたしょっちゅうになる」


「それを妾が阻むと言っておろうが」


「俺は強くなれるってルナが言ってくれた。

だから最終的に俺が絶対勝つ」


「負け犬はよく吠えるとはまさにこのことだな」


「おいおいジョーカー、レベルが同じになってんぜ?」


呆れたようにエースに言われようやく我に返る。

いかん、つい子供のようなことをしてしまった。


「………ふん!よいか銀狼よ!

我等闇ギルドはらすぼすへと続く中ぼすと四天王なのだ!」


「またそれか?てか結局どういう意味なんだよ」


「……お前達をどうにかしないとルナを捕まえられないということか。わかった。なら話は簡単」


「って、弟子にも通じてるし」


ふん、曲がりなりにもルナと五年間ともに過ごしていただけのことはあるということか。

だがそのようなことは些事だ。

何やら納得がいかなそうにぶつくさ言っているエースも然り。


「わかったようならばそれで良い。

ではな、銀狼。此度の戦はそなたの負けだ。

ここから妾達を追うことは許されぬ。

まあ、追うこともできぬだろうが。――ゆくぞエース」


「はいよ。我がジョーカーの命じるままに。じゃあな、銀狼」


倒れたままの銀狼は、まあ自力の転移程度は可能であろう。

ならばこちらが情けをかけどこかに送り届ける必要もない。

それに無駄な話を続けた分、時間が迫っているのだ。

早く準備を整え食事に向かわなければ。だが……


「ジョーカー、またしょうもない事考えてるだろ?」


「む。何を言う、今後に関わることだ」


今宵の食事は、すべてルナにあーんをしてもらうとしよう。




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