ぷろろーぐ
前は鵺子さんだったけど今回どうしよ。
拝啓、
お父さん。
新生活が始まり早一年。
なんだかんだで私は元気にやっております。
ただ、なんといいますか問題が一つありまして、ええっと、なんつーかちょっと変わった恋人ができました。
とりあえず近々、彼女と一緒に挨拶に伺いたいと思います。
ただ、本当に、ちょっと人と変わったとこがある女の子なので、それなりの覚悟をしていただきたいなと思っております。
とにかく、詳しい話はまた、お会いした時にでもじっくりと。
それではお父さんも病気などないよう、体を大事にお過ごし下さい。
敬具。
■■
手紙を出したのは電話で伝えるのが怖かったからだ。
じゃ、メールでいいじゃんと言ったモロボシの呆れたような溜め息に下唇を噛んだ後、言い返せない自分から逃げるように今し方手紙を突っ込んだポストから踵を返して返事を寒風に流した。
「俺、パソコン使えねーし」
「ケータイでもできんぞ」
「持ってねーし」
「原始人か」
結論に行き着くまでにもっとなんかいい例えあったんじゃねえのかと思うんだが、どうなんだろう。
つか、原始人て……
「今時、というか今の世の中で連絡手段の一つもなしに外に出るとか原始人かよマジで」
「そんな、大袈裟な」
「いやいや、今の物騒すぎる世の中でいざという時ケータイもなしにどうすんのよ実際さ?」
「じゃ、逆に聞くけど、ケータイ持ってたらそういう『いざ』って時にどうなんのさ」
そう言ってみたらモロボシは珍しく真面目な顔を作って、わざとらしく指を立ててこう言った。
「メールで遺書が残せる」
「現代っ子か」
いや、今時の現代っ子がメールで遺書遺すのか知らんけども。
「まあ、遺書を遺せるってのはたしかに例えとして酷かったかもしれないけどさ。ないと不便じゃね? 連絡取りづらいし、何より人からのお誘いがなくなるじゃんか」
「いや、もとからあんまないし」
あ。モロボシがなんか可哀想なものと遭遇しましたって顔をアピールしてる。
「……それに、」ああ、なんかちょっと間ができてから言うと言い訳っぽいけど「今さら俺に声かけようなんてやつ、お前くらいしかいないし」
「シライシ、お前……」
ああ、うん、言ってて寂しいのは分かってるからそんな顔すんなと。
「俺にそんな趣味はねぇぞ?」
「うるせぇ死ね」
■■
大学生活において友人とは一種の装備アイテムみたいなものであると俺は考えてる。
基のスペックもとい、まったく休まず講義に出続ける体力と講義の内容をちゃんと理解できるそこそこの学力さえあればまったくなくてもテストという強制バトルイベントにも立ち向かえるのだから。
「そうゆう戯れ言はちゃんと講義に出て、人のノートや過去問に頼らないだけの勉強をしてから言いなさい」
「ごもっともです」
モロボシに引きずられて入ったサークルの、もう部室に住み着いてんじゃないかと無駄に美人と二つの意味で噂の先輩の「お前、友達いないの?」にモロボシの持論で答えたらこう言われ、こう応える。何これ?
テンプレ?
「つか、ついつい答えてしまいましたが俺の学力とか友達とかの話ってしてないですけど」
「いや、なんかあまり頭良さそうにないし。友達いなそうだし」
「あれ? 先輩と会話したのって今日が初めてでしたよね?」
「そうだっけ?」
名簿上ではたしかに後輩のはずだけど、たしか今年初めてどころかこの大学入ってからモロボシと教授連中以外ではほとんど他人としゃべった覚えもないから間違いない。
「ま。それはおいといて、だ」
おいとかれた。いや、どうでもいいけど。
「お前、可愛いから私と付き合え」
「お断りします」
安いラブコメ展開のフラグをへし折って部室から努めておかしい挙動にならないよう落ち着いて歩いて出た。
先輩の顔とか周りとかあんまり見なかったから相手が何を考えていたのか、どんな反応をしたのか分からなかった。
僕を追って部室を飛び出てきた先輩の姿とかそんなものを見ることもなかったのでもう気にしないことにした。多分からかわらたのだろう。きっとそうに違いない。
そう自分に言い聞かせて補講に出た。
教授のテストの平均点をあげるための一時間半はむなしく、俺のノートは真っ白だった。
自分で言うのも何だけど、意外と動揺してるのだ実際。
■■
「ただいまー」
補講が終わり、モロボシと別れて帰路についた。
リア充街道のド真ん中を歩んでいるモロボシに先輩の件を相談してみたとこ「白昼夢でもみたんだろ」とのこと。そうか。そうだったのか。きっとそうに違いない。
そういうことにして帰るなり、何故か勝手に上がり込んでいらっしゃるお隣のおっさんエルフはこう言った。
「なんか気持ち悪い顔してるよ」
「うるせぇ。黙れ。働けおっさん」
「ヒドい!?」
ガーンとか口で言いながら胡座かいたままの体勢で横に倒れる隣人。リアクションが昭和であることに自覚を持て。
「つーか、顔がまたカッコいいのがまたムカつくわー」
「嬉しいけどイタく傷付いたよ!?」
長身痩躯に年齢不詳に天然金髪ブロンドに蒼眼で透き通るような白い肌に特徴的な形の良い長い耳とかゆうエルフ族のテンプレがうわーんとか言いながら手足じたばたしてる。このエルフは顔は良いのに、日々の行動の痛々しさと根っからのニート体質とあと中身全般と残念なとこが多すぎるのだがいったいどの層に需要があるというのか。
これでもう御歳800歳超とエルフ族でもけっこうな歳らしいし。いや、見た目は若いしかなり良いんだが。
でも少なくとも俺はお隣でなければあまり付き合いを持ちたくない。
というか、できれば付き合いなど持ちたくなかった。
見た目だけのダメ人間もといダメエルフほど厄介なものはないとこのおっさんエルフの隣りの部屋に入居してつくづく思う。
「いい加減に生活保護の需給から卒業する努力をしろよ」
「しますー、明日からしますー」
嫌み言ったら頬を膨らませてこんな事を言いやがるおっさんへの対処ってどうしたらいいんだろうか。
なんかもう明日から頑張るとかダメ人間のテンプレじゃないか。
「つーか、そんな簡単に卒業できたらもっとまともな世の中になんじゃねーの?」
「ほんとだもーん」
だもーんときましたか。
「あとさ、シライシ君にゃまだ分からんかもだけど、簡単に卒業できても卒業しない方が楽だから今みたいな世の中になったんじゃないの?」
「そりゃあ、そうか」
律儀に生活保護が楽だと言っちゃうおっさんがへらへら笑いながら「そうだよー」なんて床を転がる。コイツ、本当に明日から働くのか?
ま、いっか。
俺にはきっと関係ないとこでだろうし。
「じゃ、明日から頑張れよ」
「うん。明日から頑張る」
なんてやりとりを最後に交わして部屋から追い出した。
「あれ? なんで!?」
外から扉をガチャガチャドンドンとドアノブが今にも外れそうな勢いで回されているが無視した。
もう大学はテスト勉強期間。
学生の本分は勉強であるとは言うが、実際はこの期間にどれだけ効率よく必要部分を詰め込めるかという要領の良さを究める事にあると思う。
あとは、一生の付き合いになるような友人を作る、とか?
「あ。なんか急に死にたくなった」
いや、俺にはモロボシがいるからいいけどさ。
「今なんか物騒なワードが聞こえてきたんだけど大丈夫!?」
「外から突っ込まれてよけいに死にたくなったわ!」
嘘だけど!
生きてやりますけど!
つかなんで聞こえたんだよ。どんな地獄耳してんだよ。あの長い耳は飾りじゃねーのかよ。
「あー……なんかもう、めんどくせー」
朝から色々と。
昨日できた生涯初の彼女のこととか、テストのこととか、バイト先のこととか、御近所の稲荷様に目ぇ付けられてたりとか、親父あれからどうしてんのかとか、あの手紙あれでちゃんと届くのかとか、あ、そういえば先輩のあれは冗談だよな童貞の俺としてはものすごく気になるんだかどとか──なんかもう色々と。
そんな事をかんがえていると、いきなりそいつは現れた。
「なーうー」
「おいコラ、人が黄昏てる時に窓から顔突っ込むな。心臓止まるかと思ったわ」
またどこかの轆轤首が酔っ払って部屋間違えたのかと思ったら昨日できた彼女だった。
ちなみに見た目のインパクトがなかなか間違った意味で扇情的過ぎて名前とか種族とか、そもそも会話ができるのかもよく分からない彼女である。
「昨日の今日であれなんですけど、なんで家分かったの?」
「うー」
やっべえ、笑顔かわいい。
目細めると毒々しい赤い複眼が気にならない。でも八重歯代わりにめっちゃ長い牙が左右の口角に二本づつ出てきてやっぱり怖い!
そんな複雑な胸の内をなかなか口に出せない沈黙を、彼女は家主の住居侵入許可ととったのか窓を全壊に開けて無理やり中へと入ってきた。
窓から覗かせていた彼女の奇っ怪な全容が、昨日と違って日当たりのいいマイルームではっきりと晒される。
そして俺から素直な感想を一言。
「ああ、くそ、やっぱり綺麗だなチクショウ」
昨日から付き合うことになったこの彼女は、やはりとんでもない美人である。
ただし、
竜の角と鬼の角がそれぞれ一本づつ頭に生えていて、
左瞼下の眼球がなぜか毒々しい赤色の複眼で、
腕が四本あって一本が人間、一本がゴリラ、一本がカマキリで、最後の一本がもはや人工物にしか見えない武器で、
下半身は巨大蜘蛛に大きな翼を四本も生やしていたり、と、
個性に尽きない美人である。
そして、
「おっぱいがいいんだよなアンタは、やっぱり大きい方が見栄えいいし」
「うー?」
ぐにぐに。
この感触、めっちゃ大きいこのおっぱいは最高だと思う。
でも、どうしようかな。
今日補講の時に教授が言ってたけど、異種族間異性交遊ってたしか法に触れるんじゃなかったっけ?