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有料彼氏  作者: 真澄
7/19

7☆

ドアを開けたら、汗だくのソウタくんが息を切らせていた。



「いらっしゃい。どうしたのその汗」


「早くカナさんに会いたくて、超走ってきた」



まあこの子ったら…。破壊力が一週間でパワーアップしている。



「つーか、カナさんひどい」


「? 何かした?」


「先週は“おかえり”だったのに、今日は“いらっしゃい”?」



そうだったっけ? 首をひねりながら部屋へ戻ると、「つれねー」と言いながら彼がついてくる。Tシャツの胸元をバサバサ扇ぎながら。



「シャワー浴びる?」


「えっ…!」



バサバサの音が止まった。ふり返ると、真っ赤な顔に半笑いを浮かべている。目がマジだ。



「違う! そうじゃない!」



即座に牽制を加えながら、バスタオルを渡してやる。それと…ちょっと、引かれるかもだけど、これ。



「サイズ合わなかったらごめん。部屋着あるといいかなと思って」



そう。ついうっかり、彼用のTシャツと短パンを買ってしまったのだ。



「これ、俺用?」


「ひ、引いた?」


「俺のために用意してくれたんだよね? 元カレのお古とかじゃなくて」



いやさすがにそれは! つーか、



「引かれるのが怖くて前はこんなことできなかったよ」


「へー俺だけ、かあ…やべ。シャワーよりよっぽど照れる」



やべーやべーと言いながら、ソウタくんは風呂場に入って行く。若い子の「やべー」はいい意味なんだか悪い意味なんだかよくわからない。けど。



そっか。ああいうことしても嫌がられはしないのか。ひとつ覚えた。



一週間会わなかった間、ソウタくんは毎日メールをくれた。私は、朝の通勤電車と、帰りの電車、そして夜寝る前に返信をする。日に日に甘さを増していく彼からの文面に、ニヤけながら、はにかみながら。



いい買い物したな。



まだそんなふうに彼を見ていた。



汗を流したソウタくんは、かわりに色気をまとって戻ってきた。ガシガシと髪を拭くその姿、いいねえ。目の保養だ。



「なに?」


「見とれた。かっこよくて」


「…マジヤバいからやめて」



その“ヤバい”はどっちだろう。まあいいや。



「カナさん、明日はずっと一緒にいられる?」


「あー…昼までだなあ。夕方から友だちの結婚パーティーがあってさ、美容院予約してるから」



そっか。とあんまりさみしそうにつぶやくものだから。思わず手を伸ばしてしまった。会いたいと言われて断るなんて、いつものわたしなら考えられない。そんなの怖くてできない。彼の腕に手をかけて、言い足した。



「あの、けど、夜はまた泊まりに来てくれる?」


「……カナさんそれサイン?」


「何の?」


「これぐらいならしてもいい?」



……あっ。



抵抗はしなかった。わたしも期待していたのかもしれない。彼に、ふんわりと抱きしめられる。



これは、ヤバい、ね。



でもいっか。そのままおでこを預けると、背中に回った腕がギュッとしまった。どうしよう。どうしよう。わたしは彼のTシャツの胸元をくしゃりと掴む。



「…それも、サイン?」



えーっと…違うような、違わないような。けど、



「まだ、もうちょっと待って」


「うん。待ってる」


「でも」


「ん?」


「もう少し、こうしててくれる?」



喜んで。そんな優しい声が聞こえて、わたしはそっと目を閉じた。なんのことはない。ただ、人肌が恋しかっただけだ。



だけだ、と思う。けど。



相手を憎からず思っているのでなけれぱ、説明できなかった。このドキドキと、不思議なほどの安心感は。

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