表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
有料彼氏  作者: 真澄
3/19

3☆

遊び慣れてそうな、イマドキの若い子。だと思った。暗がりに連れ込まれたときには驚いたけれど──この反応にはもっと驚いた。



「わたしを好きになってほしい」



自分でも、何言ってんだかと呆れるので、自然と上目遣いになる。愛されるより愛したい。けどやっぱり愛されたい。誰かね、わたしを好いてくれる人がほしいんだよ。そんなつもりで言ったら、目の前の彼が動きを止めた。薄暗くてよくわからないけれど、チャラ男のはずのこの人は。



「…照れてる?」


「…ねえよ」



この日のことは、あとからとても叱られた。無防備もいいところだと。けれどなんとなく、この人はいい人なんじゃないかなって、思ってしまったのだ。



「で? どうする?」


「…つまり、1カ月間恋愛ゴッコしてたら30万くれるってわけ?」


「そう、かな? ゴッコっていうか…できれば本気がいいけど」


「オッケ、受けるよその話。なんかアンタ面白そうだし」



…本当に乗ってくるとは思わなかった。どうしよう、釣れちゃった。



「えっ。あ、そう、ですか。ハイ…よろしくお願いしまス…」


「よろしくお願いします」



打って変わって余裕の笑みで返される。攻守逆転。えーと、具体的に何すりゃいいんだろ。お金がからむことだから、とりあえず契約書でも交わしとく? あ、そうだ。



わたしは慌てて時計を確認する。



「それって明日からでいい? “今日”ってあと一時間ちょいしかないし」



そんなことを言ったら、大笑いされてしまった。アンタの金銭感覚どうなってんの?と。ま、たしかにそうだな。見ず知らずの男にポンと30万払うかと思うと、そんな些細な出費を気にするのだから。けどわたしの中ではどちらも違和感はない。



「あーじゃ、お金もっかい下ろしてくるよ」


「最初に払うつもり? 最後でいいよ。俺がもらい逃げするとか考えないの?」


「…するの?」



そんなこと、考えもしなかった。だってほら、「しないけど…」と、頬をかいてるじゃない。



じゃ、まあとりあえず、と、私たちはケータイの番号とアドレスを交換しあった。


「ふーん。カナさんっていうんだ」


「あなたも…カナタ?」



ケータイの画面には「奏太」の文字。しかし彼は笑って「ソウタだよ」と言った。



明日から1カ月間。ちょうど8月1日から31日までを、私たちは恋人として過ごすことになった。



…てのはいいとして。で、何しよう? なんにも考えずに始めてしまったのだ。えーと、とりあえず、でえと? 明日っから? いや明日は家でダラダラしたいんだけどな。けど毎日なんかしないとお金がもったいないか。ああノープランにも程がある。



「で、何しよっか…?」



提案者のくせにソウタくんにフッてみる。



「ちょうどいいや。カナさんさ、今日泊めてくんない?」



…っ



えーーっ、いきなり!?



「俺いま住む所なくてさ、友だちんとこ転々としてんだけど。今日行こうと思ってたやつ──この近くなんだけど、最近オンナできたんだよね。アポ無しだから、彼女連れ込んでたら困るなあって思ってたんだ」



「はァ…そうですか」



「なんなら12時回るまで外で待ってるけど。12時すぎたら泊めてくれてもおかしくないっしょ? 彼氏なんだから」



「…今日はまだ、手は出さないでよ?」



念を押してみると、両手を挙げられた。



「なんでも言うこと聞きますよ? お金もらうんだから。カナさん好みの彼氏になるよ」



まあ…いいか。帰るとこなくて困ってんなら。



「そしたら…部屋片づけるから、30分くらい待っててくれる?」


「別に“恋人”なんだから取り繕わなくていいじゃん」


「恋人だから、よく見せたいんじゃん」



泊めてもらうから、1時間サービス。そう言って彼はさっそく優しい笑顔になった。



「部屋が片づいてなくったって、カナさんへの気持ちは変わんないよ? むしろ、普段のカナさんの生活を知りたいな」



…うっわ…すごい破壊力。これは、なかなか費用対効果の高い恋愛ができそうだ。



「部屋、散らかってても?」


「うん」


「新聞が散乱してても?」


「へえ、新聞取ってるんだ」


「洗濯物が干しっぱなしでも?」


「うん…」


「洗い物、流しに置きっぱなしでも?」


「……うん」


「たまったゴミが…」


「も、いいから…」



困った顔で止められる。やりすぎたか。けれどその顔がなかなかかわいくて、思わず笑ってしまう。



「恋人でもそうでなくても、とりあえず人様をお招きできるくらいの体裁は整えさせて」



そうお願いして、彼を置いてひと足先に家へ帰った。今週はずっと残業続きだったものだから、家の中はほんとにヤバイ状態だったのだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ