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有料彼氏  作者: 真澄
2/19

2★

中学時代の仲間と久しぶりに飲んだ。



起業したやつがひとり、大企業でバリバリ働いてるやつがふたり。いまだにアルバイト待遇の自分の飲み代は、3人がおごってくれた。うれしくは、ない。



あー金がほしい。



本当に求めるべきものはそこではなくて、仕事、だったり目標、だったりするのだろうけれど。いちばん手っ取り早くてわかりやすいのが金だったのだ。今の自分に自信をもたせてくれそうなものは。



金もないのに入ったコンビニで、金を下ろしている女性が目に入った。万札を数枚、いとも簡単に手にしている。



理由はわからない。なんとなく後をつけて行って。ああ、酒のせいかな。なんとなく、声をかけてしまった。


「おねえさん」



返事はない。あれ? 年上じゃなかったかな。気にするのはそんなところではないのだが、酔った頭ではわからない。



「おねえさんてば」



「…わたし?」



ふり返った人は、自分より少しオトナの女性。ほら、やっぱりおねえさんでいいんじゃんか。自分の当て推量が当たったことに満足して、とんでもないことを口にしていた。



「そう、おねえさん。悪いんだけどさ、金貸してくんない?」



「……」



女性に無表情で射すくめられ、頭が冷えた。



やっべ…これ、ケーサツ呼ばれたらアウトじゃね? 何やってんだ俺。大声を出される前に、酔っ払いの戯れ言のフリをしてとっとと逃げよう。

しかし、女性の意外な返事に、体の動きが止まった。



「いいよ、あげる。その代わり私の恋人になってくれない?」



…なんて言った? やっぱ酔ってんだな、俺。



「いくら必要なの?」


「…何言ってンの」



ああ、この人も酔っ払いか。そう考えれば納得がいく。とたんに気がラクになり、今聞かれたことに答えを返す。



「いくらってそりゃあ、あればあるだけいいっしょ」


「なんだ。明確な用途があるわけじゃないのか」



つまらなさそうにつぶやかれ、今夜同級生に言われた言葉を思い出す。──お前には明確な将来ビジョンはないのかよ──ねえよ、そんなもん。劣等感と苛立ちがよみがえる。



「まあ、いいわ。じゃあ30万でどう? 1カ月30万」



目の前で指を三本立てている女性は、まるでやおやで大根を値切っているかのような自然な笑顔で。ヘンなのに引っかかっちまった──そう思った。



「ホント何言ってんの?」



金持ちの酔狂かよ。しかし当の本人はまじめな顔で、



「少ない? 私の月給より高いけど…こういうのしたことないから、相場とかわかんないんだよね」



相場なんてあるかっての。アタマおかしいんじゃねえの? ああそれとも──



「こういうこと?」


「わ、なに──」



腕をつかみ、暗がりに連れ込む。公園のフェンスに体を押しつけ、頬に手を添える。至近距離で顔を覗き込み、ささやく。



「要するにこういうこと、したいんだろ?」


「ちち、違う! ちょっと待って!」



必死に体を押し返してくるので、あっさり離してやる。



「俺のカラダを買いたいってことじゃないの?」



しかしそう問うと、真っ赤になって否定された。



「違う! そういうんじゃないって…いや、違わない、けど、でも違うってば」



そして俺は三度目のせりふ。



「何言ってんの?」


「えーと、だからぁ。そりゃいずれはそういうのもナシではないけどさ。そんな、出会ったその日にシたりとか、普通はないでしょう?」



いや、あるでしょう。



「じゃあ30万も払って1カ月も俺に何してほしいの?」


「えー…っとぉ…」



別に知りたいわけではなかった。適当にあしらって帰るつもりだったんだけど。予想外の回答に、不意をつかれてしまったのだった。



「わたしを好きになってほしい」




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