2★
中学時代の仲間と久しぶりに飲んだ。
起業したやつがひとり、大企業でバリバリ働いてるやつがふたり。いまだにアルバイト待遇の自分の飲み代は、3人がおごってくれた。うれしくは、ない。
あー金がほしい。
本当に求めるべきものはそこではなくて、仕事、だったり目標、だったりするのだろうけれど。いちばん手っ取り早くてわかりやすいのが金だったのだ。今の自分に自信をもたせてくれそうなものは。
金もないのに入ったコンビニで、金を下ろしている女性が目に入った。万札を数枚、いとも簡単に手にしている。
理由はわからない。なんとなく後をつけて行って。ああ、酒のせいかな。なんとなく、声をかけてしまった。
「おねえさん」
返事はない。あれ? 年上じゃなかったかな。気にするのはそんなところではないのだが、酔った頭ではわからない。
「おねえさんてば」
「…わたし?」
ふり返った人は、自分より少しオトナの女性。ほら、やっぱりおねえさんでいいんじゃんか。自分の当て推量が当たったことに満足して、とんでもないことを口にしていた。
「そう、おねえさん。悪いんだけどさ、金貸してくんない?」
「……」
女性に無表情で射すくめられ、頭が冷えた。
やっべ…これ、ケーサツ呼ばれたらアウトじゃね? 何やってんだ俺。大声を出される前に、酔っ払いの戯れ言のフリをしてとっとと逃げよう。
しかし、女性の意外な返事に、体の動きが止まった。
「いいよ、あげる。その代わり私の恋人になってくれない?」
…なんて言った? やっぱ酔ってんだな、俺。
「いくら必要なの?」
「…何言ってンの」
ああ、この人も酔っ払いか。そう考えれば納得がいく。とたんに気がラクになり、今聞かれたことに答えを返す。
「いくらってそりゃあ、あればあるだけいいっしょ」
「なんだ。明確な用途があるわけじゃないのか」
つまらなさそうにつぶやかれ、今夜同級生に言われた言葉を思い出す。──お前には明確な将来ビジョンはないのかよ──ねえよ、そんなもん。劣等感と苛立ちがよみがえる。
「まあ、いいわ。じゃあ30万でどう? 1カ月30万」
目の前で指を三本立てている女性は、まるでやおやで大根を値切っているかのような自然な笑顔で。ヘンなのに引っかかっちまった──そう思った。
「ホント何言ってんの?」
金持ちの酔狂かよ。しかし当の本人はまじめな顔で、
「少ない? 私の月給より高いけど…こういうのしたことないから、相場とかわかんないんだよね」
相場なんてあるかっての。アタマおかしいんじゃねえの? ああそれとも──
「こういうこと?」
「わ、なに──」
腕をつかみ、暗がりに連れ込む。公園のフェンスに体を押しつけ、頬に手を添える。至近距離で顔を覗き込み、ささやく。
「要するにこういうこと、したいんだろ?」
「ちち、違う! ちょっと待って!」
必死に体を押し返してくるので、あっさり離してやる。
「俺のカラダを買いたいってことじゃないの?」
しかしそう問うと、真っ赤になって否定された。
「違う! そういうんじゃないって…いや、違わない、けど、でも違うってば」
そして俺は三度目のせりふ。
「何言ってんの?」
「えーと、だからぁ。そりゃいずれはそういうのもナシではないけどさ。そんな、出会ったその日にシたりとか、普通はないでしょう?」
いや、あるでしょう。
「じゃあ30万も払って1カ月も俺に何してほしいの?」
「えー…っとぉ…」
別に知りたいわけではなかった。適当にあしらって帰るつもりだったんだけど。予想外の回答に、不意をつかれてしまったのだった。
「わたしを好きになってほしい」