15☆
読んでくださっていた皆さま、間がものすごく空いてしまって申し訳ありませんでした(間が空きすぎて投稿の仕方が思い出せませんでした…!)。最終話まであと少しおつきあいください。
「原田さんって、彼氏いるんですかぁ?」
会社で後輩に聞かれたその質問に、否とも是とも答えられなかった。だって2週間前にできた彼とは、あと2週間で別れますから。
夏休みの旅先で大胆にもとんでもない告白をしてしまったわたし。ソウタくんの本音がどうであっても、年頃の男子だもの。よほど嫌いでなければ、拒まれることはないのではないかと、どこか甘く考えていたのは事実だ。だから、次の週末にはきっとそういうコトになるんだと思ってた。
けれどソウタくんは、今週に限ってうちに泊まりに来ない。実家に顔出せって言われちゃってさ。なんて言われてしまったら反対なんてできない。できないけれど。もしかして先週のわたしの行動に引いたりしたんだろうか。呆れた? 面倒くさくなった? 避けられた? 久しぶりに一人で過ごす土曜の夜。ソウタくんが言うところの「不幸思考」に、わたしの頭は支配されていた。
急にいつもの臆病に戻ってしまったのは紛れもなく。ソウタくんに恋をしてしまった証拠だ。何も音のしない部屋で、一人寝転がる。天井を見る。これが日常だったはずなのに。
「ソウタくん…」
つぶやくと、寂しさがどっと押し寄せた。猛烈に、会いたくて会いたくてたまらない。今すぐ来て、不意に抱きしめてくれないかな。さみしい。さみしい。さみしい。どうしたっていうの、わたし。
「慣れなきゃ…」
そう。あと2週間したら、わたしはまた一人に戻るのだもの。けど待って。一カ月の期間限定。それなのに別れたあとの孤独の練習するなんておかしくない? わたしは今から彼に電話して、会いに来い!と言ったって構わないはずだ。
…なんて。できもしない会話を想像していると、ケータイがちりりと鳴った。
「ソウタくん!」
「よ。一人で寂しがってんじゃないかと思ってさ」
わかってんなら一人にしないでよ。聞きたかった声が耳元で聞こえて、涙が出そうになる。ほんと、どうかしてる。今日のわたし。
「けど家族は大事だし…」
「サンキュ。親父の墓参りに行ってきたよ。新しい父親も一緒に、みんなで」
「そう。よかった」
「ほんとは今からでもそっち行けないことないんだけどさ…たまには泊まってけってうるさくてさ。けど、やっぱりカナさん寂しそうだ」
「……」
「なんで無言?」
「寂しいとも寂しくないとも言えないから、なんて言っていいのか」
「寂しいって言えないのはどうして?」
「…家族と過ごしてるときにそんなわがまま言いたくないし」
「寂しくないってのは? どうして言えないの?」
「嘘は、つけない」
一瞬の、空白。電話の向こうで、ソウタくんが少し笑ったような息を漏らした。
「カナさん?」
「ん?」
「すっげえ熱烈な告白、ありがとう」
「え、え!?」
わたしがいつ? 何をもってそんなことを! 慌てるわたしにソウタくんは、「明日会いに行っていい?」なんて、わたしが言いたくて言えないことをさらりと言ってくれる。じゃあ、わたしも言っていい?
「…会いたい。ごめん、ソウタくん。会いたい」
ごめんは不要だけどね、と笑って、ソウタくんは「今日だけがまんして」と言った。わたしの願いを簡単に叶えてしまう人だったら、いつかわたしは遠慮でわがままを言えなくなっただろう。わがまま言うな、と叱るような人でも、やっぱり怖くて何も言えなくなる。ソウタくんは甘やかすでもなく、無下にもしないでくれるから。わたしは安心して吐き出せるのだ。
「ごめん、ほんとは寂しくてたまらない。ソウタくんいなくて寂しい。ごめん」
だから「ごめん」はいらないって。そう言ってソウタくんは笑う。そして、うれしい、とつぶやいた。
「うれしい? 何が?」
「わがまま言いたくない、っての。カナさんにとっては俺を好きな印だもんな」
「そっ…」
「けど。やっぱりそうやって素直な気持ちを聞かせてくれるほうがうれしいよ」
はじめの頃の軽い気持ちだったときは、素直に疑似恋愛を楽しめていたのに。もっと欲しくなってしまった今は、これ以上進むのが怖い。終わったあとに残る傷はあまり大きくしたくない。けれど彼が欲しい。気持ちにブレーキをかける自分と、アクセルを踏みこんでしまえと逸る自分と。
ソウタくんのいない一人の部屋で、心とカラダをもて余す。壁のカレンダーを、残された日を、目でなぞり。答えの出ない問いかけをくり返した。