第60話:『銀河皇帝の戴冠。 ―溝掃除(デス・クリーニング)の前では王冠も塵―』
全宇宙がパパを「皇帝」として望む中、お母さんの一言で「ドブさらい」が優先されます。
皇帝の椅子より、田中さんの目が気になる九条家。
パパが放った「一斉休戦(お掃除推奨)」により、全銀河が突如として大掃除モードに突入。
宇宙の平和は、意外にも「近所付き合い」から保たれていました。
「閣下! ついに準備が整いました! 全銀河連邦、及び次元警察、さらには暗黒星団の代表までが、パパ様を『全宇宙至高皇帝』として奉るべく、式典会場にてお待ちしております!」
土曜日の朝。九条家の玄関前には、金糸で刺繍されたマントを羽織った魔王サトウと、儀礼用の剣を掲げた次元警察長官が、膝をついてパパを迎えに来ていた。
空には、パパを迎えに来た黄金の御座船(次元戦艦)が、太陽を遮るほど巨大な影を落としている。
「あ、おはよう。……リィナ、今日の新聞取ってきて。……さて、サトウくん。申し訳ないが、今日のその『戴冠式』とやらは、欠席させてもらうよ」
パパがいつものように寝癖を直し、パジャマ姿で歯を磨きながら答えた。
「な、何故ですか! 閣下が座れば、宇宙の争いはすべて消えるのですぞ!?」
「いや……今日、土曜日だからね」
パパが指差したのは、キッチンで戦闘服(割烹着)に身を包み、長靴を履いて巨大な軍手(神具)を装着しているお母さんだった。
「……パパ! 何してるの、早く準備しなさい! 今日は年に一度の『町内会・一斉溝掃除』の日よ! 出席しないと、お向かいの田中さんに何を言われるか分かったもんじゃないわ!」
お母さんの背後から立ち昇る「主婦の執念」という名のプレッシャーは、銀河皇帝の威厳を軽く上書きしていた。
「……というわけなんだ。……(印:戴冠式の無期限延期)×(印:全宇宙への一斉休戦)×(投げ銭:銀河市民へのカップ麺配布)。……よし。これで、みんな今日は溝掃除に専念できるはずだよ」
パパが指を鳴らした瞬間。
全宇宙のモニターに「本日の宇宙統治は、町内会の都合により休止します。各自、自宅周辺の掃除に励むように」というテロップが流れ、銀河皇帝の王冠は、お母さんから手渡された「汚泥をすくうシャベル」へと差し替えられた。
「……はぁ。私、皇帝の娘になるチャンス逃したわね」
リィナが庭でゴミ袋を広げていると、空にいた次元艦隊の兵士たちが一斉に降下し、ドロドロの側溝に向かって「閣下の溝は、我らが命に代えても美しくする!」と叫びながら、素手で泥を掻き出し始めた。
九条家の前の側溝は、わずか5分で「聖水が流れるクリスタルの水路」へと浄化された。
第60話、ありがとうございました!
銀河皇帝の戴冠式を「溝掃除」でキャンセルするパパの潔さ(笑)。
「田中さんに何を言われるか」という極めてローカルな恐怖が、宇宙の頂点に勝る瞬間です。




