第57話:『余った煮込み。 ―一さじで銀河が買えるインフレの極致―』
「もったいない」から始まったフリマ出品。
しかし、九条家の料理はもはや「通貨」を越えた「神話のエネルギー」でした。
全宇宙の経済をトマトスープ一杯で崩壊させかけ、最終的には炊き出しで警察を懐柔する。
リィナの経済力(=胃袋)は、今日も全次元を支配しています。
「……リィナ、これどうするのよ。寸胴鍋三つ分も残っちゃったわ。明日も明後日もカレーにするわけにいかないし」
お母さんが、世界樹のトマトで作った「超高純度魔力スープ」を前に頭を抱えていた。一滴飲めば死者が蘇り、一杯飲めば宇宙の真理を悟るレベルの代物だ。
「……捨てるのはもったいないし。じゃあ、これに出品してみるわ。(フリマアプリ)×(次元間取引)×(投げ銭:匿名配送)」
リィナがスマホで適当に「九条家特製・トマト煮込み(残り物)」を出品した瞬間。
全次元のスマホ、水晶玉、テレパシー回路が一斉にアラートを鳴らした。
『出品:神域の雫(トマト味)』
『価格:応相談(魂、星系、または現金のいずれか)』
「……あ、通知が止まらない。パパ、これ今、いくらになってる?」
『リィナ。……現在、銀河連邦の中央銀行が、このスープ一杯のために「全宇宙の通貨発行権」を差し出そうとしているよ。……(印:入札額の指数関数的上昇)×(印:貨幣価値の崩壊)。……よし。現在、一さじのスープの価値が「宇宙10個分」を超えた。金本位制ならぬ「トマト本位制」の誕生だね』
「パパ、感心してる場合じゃないわよ」
画面には、全次元の支配者たちからの必死のメッセージが並ぶ。
『全銀河の黄金を差し出すから、そのお玉一杯分を譲ってくれ!』
『私の星系すべてをトマト煮込みの所有権と交換したい!』
あまりの経済パニックに、宇宙のインターポール(次元警察)が九条家の周りを包囲し始めた。「経済を私物化し、全宇宙をトマト一色に染めようとする魔女」として、リィナが指名手配されてしまったのだ。
「……ちょっと、リィナ! 玄関に警察官がいっぱい来てるわよ! 『トマトの独占禁止法違反』とか叫んでるけど、何事!?」
「あー、ごめんママ。……(印:オークションの中止)×(印:全落札情報の消去)×(投げ銭:警察への炊き出し)」
パチン、と指を鳴らした瞬間。
宇宙を揺るがしたオークション画面は消え、殺気立っていた次元警察たちの手元には、紙コップに入った「ほどよく温かいトマトスープ」が配られた。
「……う、美味すぎる。逮捕とかどうでもいい……俺は、この味を守るために警察官になったんだ……(感涙)」
玄関先で武装集団が号泣しながらスープを啜る中、リィナは最後の一杯を自分で飲み干し、静かにスマホを置いた。
第57話、ありがとうございました!
「トマト本位制」というパワーワード(笑)。
銀河を買えるスープを、近所の炊き出し感覚で配ってしまうリィナの太っ腹さが光ります。




