第40話:『非売品の女子高生。 ―国家予算 vs 主婦の勘定奉行―』
リィナを「国宝」として管理しようとした政府。
しかし、お母さんにとっては「だらしない娘」という真実こそがすべてでした。
国家予算の提示を「家計簿の邪魔」と一蹴する最強の主婦。
九条家のプライバシーは、物理的にも政治的にも、もはや不可侵の領域です。
「……失礼いたします。内閣官房から参りました。九条リィナさんを、『国家戦略特区・歩く超高純度エネルギー体』として登録に伺いました」
黒塗りの高級車が10台、九条家の玄関先に並んだ。
現れたのは、日本政府の特使と、莫大な契約金(小切手)を盆に乗せたスーツ姿の男たち。彼らはリィナの「掛け算」が、一国を数秒で黄金郷に変えられるほどの資産価値だと気づいたのだ。
「リィナさん。君の存在は、もはや一家族が所有していい規模ではない。君自身が『日本円の裏付け』であり、生きた国家予算なのだよ。さあ、こちらへ」
「……はぁ。私、銀行の金庫で寝るなんて真っ平よ」
リィナがスマホをいじりながら生返事をしていると、奥のキッチンから「カツ、カツ、カツ」と、大根を刻む鋭い音が響いた。
「ちょっと。玄関先で何をゴニョゴニョ言ってるのよ」
エプロン姿のお母さんが、包丁を持ったまま(ここ重要)現れた。特使たちはその圧倒的な「生活感という名の威圧感」に気圧される。
「お、お母様。これは国家の存亡に関わる……。リィナさんをお預けいただければ、一生遊んで暮らせる年金と、九条家専用の特別区を――」
「あんたたち、さっきから聞いてれば……。うちのリィナを『予算』だの『エネルギー』だの、勝手に分類しないでちょうだい!」
お母さんは特使の鼻先に、スーパーのレシートを突きつけた。
「いい? この子はね、夕飯の好き嫌いは激しいし、脱ぎっぱなしの靴下は裏返しのままだし、テストの点数だって言いたくないレベルなの! どこをどう見ても『ただの娘』よ! 国家予算? そんな面倒くさいもの、うちの家計簿には載せられません!」
「し、しかし、彼女の能力は……!」
「(お母さんの怒り)×(印:お門違い)×(投げ銭:塩撒き)。――リィナ! あんたもいつまで突っ立ってるの! 玄関掃除しなさい、この人たちを掃き出すついでに!」
リィナは苦笑いして、指を弾いた。
(印:国家権力の無力化)×(印:ただの近所のおじさん化)。
「――はい、ログアウト。おじさんたち、早く帰らないと駐禁取られるわよ」
パチン、と指を鳴らすと、特使たちの高級車は「ただの三輪車」に変わり、彼らのエリート意識は「今日の献立は何にしようかな」という、極めて一般的な市民の悩みへと書き換えられた。
100兆円の予算案よりも「脱ぎっぱなしの靴下」を問題視するお母さん(笑)。
「うちの子は非売品」という言葉が、どんな魔法よりも強力なプロテクトとして機能しています。




