第33話:『タイムセール、勃発。 ―10円のためなら理を越えろ―』
お母さんが持ち込んだ「特売チラシ」という名のオーバーテクノロジー。
10円という安さの魔力に当てられた異世界は、未曾有の経済混乱に陥ります。
しかし、お母さんにとっては「安く買えた」という事実こそが世界のすべて。
リィナの能力は、ついに「主婦のわがまま」を叶えるための道具へと成り下がりました。
「いい、リィナ? この『卵1パック10円』っていうのが、主婦にとってどれだけ神聖な数字か分かってるの?」
お母さんがテーブルに叩きつけたのは、現実世界の近所のスーパー『ヤオハチ』のシワシワのチラシだった。
そのチラシには、異世界のいかなる禁呪よりも禍々しい赤文字で「衝撃の10円!」と刻まれている。
「ママ……ここは異世界よ? 卵なんてその辺のコカトリス(魔物)が産みたてをタダで置いていくわよ」
「タダならいいってもんじゃないの! 努力して『10円』で手に入れることに価値があるのよ! ほら、このチラシと同じ値段でセールをやりなさい。今すぐに!」
「……無茶苦茶言わないで。10円なんて、この世界の通貨価値に換算したら0.000001レガシー以下よ? 経済が爆発するわ」
しかし、お母さんの背後には、怒れる母神のようなオーラが渦巻いている。
リィナは諦めて、指先を高速で動かした。
「(チラシの概念)×(印:強制価格固定)×(サトウの闇市ルート)。――全次元、タイムセール開始。……もう、どうなっても知らないからね」
【警告:世界全土の商人がパニックを起こしています。高級ポーションから聖剣まで、全品一律10円に書き換えられました】
「おい、ボス! 卵を買いに来たおばちゃんたちが、音速を越えてモールに突っ込んできてるぞ!」
ゼノンが窓の外を見て叫ぶ。
お母さんが持ち込んだ「特売」という概念は、異世界の住人たちに「生存本能」以上の狂気を与えてしまった。
神々はレジ打ちに追われ、魔龍は「お一人様一点限り」のプラカードを掲げ、アルヴィスは割り込む客を鎌の峰で(殺さない程度に)弾き飛ばす。
「……あ、ママ。卵、買えたの?」
「ふふ、見なさいリィナ。この輝き……。苦労して手に入れた10円の卵は、どんな魔法の宝珠よりも美しいわ」
お母さんは戦利品を抱え、満足げに微笑んだ。その足元には、10円セールの余波で財政破綻しかけている地上の王国たちの嘆きが転がっていたが、お母さんの知ったことではなかった。
聖剣もポーションも10円。もはや経済という概念が息をしていません(笑)。
「努力して安く買う」という主婦の美学の前に、リィナの最強理論もタジタジです。




