第32話:『母、店長に就任。 ―神々の地獄の新人研修―』
リィナの母、空中モールの「パート・マネージャー」に電撃就任。
神様も魔王も、彼女の「主婦の説教」という名のデバフの前では赤子同然でした。
かつてないほど清掃が行き届き、規律正しくなった要塞。しかし、そこには「自由なバグ生活」を奪われたリィナの悲哀が漂っています。
「……いい? 返事は『ハイ』。それ以外は認めません。リィナ、あんたもシャキッとしなさい!」
空中モールの朝礼広場。
そこには、神界の雷神、深淵の魔王サトウ、さらには創造主テラまでもが、背筋をピンと伸ばして整列していた。その前で腕組みをして仁王立ちするのは、エプロンを「戦闘服」のごとく着こなしたリィナの母親である。
「サトウさん! その角、危ないからカバーをつけなさい。あと、その漆黒のオーラは不潔に見えるから、今すぐ換気して! テラちゃんも、神様だからってポテチ食べながら仕事しない!」
「「は、ハイッ!!」」
かつて世界を震撼させた猛者たちが、母親の叱咤一発で直立不動になる。リィナはラウンジの隅で、顔を覆って小さくなっていた。
「……ボス、助けてくれ。あの人、俺の『死の宣告』を『言葉遣いがなってない』って理由で物理的にかき消したんだぞ……」
ゼノンが涙目で縋り付いてくるが、リィナにできることは何もない。
「ママ、もういいでしょ……。みんなちゃんと働いてるんだから……」
「何言ってるの。あんたが甘やかすから、こんなカオスな店になるのよ。ほら、アルヴィスさん! その鎌でレタスを切らない! 断面が黒ずむでしょ!」
お母さんの指揮下に入ったモールは、わずか一時間で「異次元の効率」を発揮し始めた。
(お母さんの目配り)×(神々の作業効率)×(主婦の節約術)。
リィナの「掛け算」を借りずとも、お母さんの存在自体がひとつの巨大な「最適化バグ」だった。
「……ねえ、リィナ」
テラが小声で耳打ちしてくる。
「あのお母さん……もしかして、僕がこの世界を作る前にいた『先代の創造主』の生まれ変わりとかじゃないよね? 怖すぎて、僕の管理権限が勝手にログアウトしそうなんだけど」
「……ただの、日本の主婦よ。世界で一番怒らせちゃいけない種族なの」
リィナは遠い目をしながら、お母さんに手渡された「雑巾」で、渋々自分の要塞を磨き始めた。
最強の存在は、意外と身近にいるものです(笑)。
「鎌でレタスを切らない」という、処刑卿にとって最大の屈辱。
お母さんの支配下で、モールは健全(?)な優良企業へと生まれ変わろうとしています。




