第30話:『最大の天敵、来場。 ―お母さんの説教は物理を越える―』
神を倒し、国家を脅し、世界を救ったリィナ。
しかし、彼女が唯一勝てない存在――「お母さん」が、次元の壁を無視して説教しにやってきました。
最強のチート能力を「デコピン」で無効化する母親の、理屈を超えた存在感。
リィナの空中帝国に、かつてない危機(主に教育的な意味で)が訪れます。
「……ちょっと。このモール、掃除が行き届いてないわよ。サッシの隙間に埃が溜まってるじゃない」
空中モールの受付。神々やラスボスたちが震え上がる中、一人の中年女性が指先でカウンターをスッと撫で、鋭い視線を飛ばしていた。
リィナの動きが、完全に止まった。
「……え。……ママ?」
そこにいたのは、かつてリィナが自室に引きこもっていた際、ドア越しに毎日「いつまで寝てるの!」「早く学校行きなさい!」と怒鳴り散らしていた実の母親であった。
なぜか、現実世界からこのデジタル領域へ、ログインデバイスもなしに「ただの怒り」だけで境界を突破してきたらしい。
「ボス! なんだあの人は! 殺気だけで魔龍が失神したぞ!」
ゼノンがガクガクと震え、アルヴィスも鎌を握る手が汗ばんでいる。
「リィナ。あんた、こんなところで何してるの。買い物? お店ごっこ? ……そんなことより、宿題は終わったの?」
「……ま、待って。今、私はこの世界の管理者で、神様もバイトで雇ってて……」
「言い訳しない! 神様だろうが何だろうが、部屋の片付けもできない子が偉そうなこと言わないの! ほら、さっさとそのパーカー脱ぎなさい、洗濯するから!」
リィナは慌てて指を走らせた。
(印:絶対服従)×(印:記憶消去)×(印:強制送還)。
しかし――。
「(母親の直感)×(お説教:15年分)。――リィナ。お母さんに魔法(そんな変な動き)を使うのは10年早いわよ」
パチンッ、と母親がリィナのデコに軽いチョップを入れた瞬間、リィナの最強の数式が霧散した。
論理も、数学も、神の権能すらも。「母親の小言」という概念の前では、ただの落書きに過ぎなかったのだ。
「……うぅ。……負けた」
最強の女子高生リィナ、異世界転生後、初の完全敗北。
「さあ、帰るわよ。……あ、でもこのモール、メロンが安いのね。ちょっと買っていくから待ってなさい」
母親は、怯えて固まっているサトウ(元魔王)からカゴをひったくり、バーゲンの主婦さながらのスピードで売り場へと消えていった。
どんなに強くなっても、母親の「宿題やったの?」の一言には勝てないリィナ(笑)。
「母親の直感」は、ある意味で神の権能より上位のシステムなのかもしれません。
リィナの無双生活に、ついに「教育の光(物理)」が差し込みました。




