第29話:『ストレスの再配布。 ―幸福という名の猛毒―』
「幸せ」という名のシステムエラー。
世界を救いすぎて滅ぼしかけたリィナが選んだ解決策は、あえて「ささやかなストレス」を人々に与えることでした。
ガチャの爆死やWi-Fiの不調。現代人が最もリアルに感じる「闇」を掛け合わせることで、リィナは世界のバランスを無理やり繋ぎ止めます
「……チッ。運営が消えても、根本のシステムがこれじゃ、寝る暇もないわね」
リィナは調理場の大型モニターに映し出された【幸福指数:99.9%】のグラフを睨みつけた。
この世界の根底にある「因果律プログラム」は、光があれば闇があるという等価交換で成り立っている。リィナが「掛け算」で全員を幸せにしすぎた結果、反対側の「絶望」のストックが限界まで圧縮され、反動で世界が爆発しようとしているのだ。
「ボス! 空から『強制リセット』の光が降りてきてるぞ! このままじゃ、もふもふも、メロンも、キャラ弁も全部消える!」
ゼノンが窓の外を指さして叫ぶ。
「リィナ、どうする? 世界に『悲しみ』を無理やり作らなきゃいけない。誰かを生贄に捧げるかい?」
テラ(元・神様)が、少し悲しそうな目で問いかける。
「そんなの、効率が悪いわ。……要は、『ちょっとしたムカつき』が大量にあればいいんでしょ?」
リィナは指先で、禍々しくもどこか「地味」な色の印を練り上げた。
(印:通信遅延)×(印:ガチャの爆死)×(印:行列の割り込み)。
「――【レガシー・スパイス:世知辛い日常】!」
リィナが指を弾くと、幸せに包まれていた空中モールに、微妙な「不協和音」が混ざり始めた。
「あ、あれ? Wi-Fiが急に重くなったぞ! 肝心なところで動画が止まる!」
「期間限定の魔龍弁当、目の前で売り切れたんだけど……。うわぁ、マジで凹む……」
「ガチャ引いても引いても、初期装備の『ひのきの棒』しか出ねえええ!」
モール中に、「あああ、もう!」という小さくてリアルなストレスが充満していく。
すると、真っ赤に点滅していた【リセット警告】が、ゆっくりと青色へと戻っていった。
「……ふぅ。これでバランスが取れたわね。……ねえゼノン。あんた、さっき私のキャラ弁つまみ食いしたでしょ? 罰として、今日から一週間、ログインボーナス全部『石ころ』にするから」
「おい! それは公私混同だろボス!」
リィナは再び椅子に深く腰掛け、わざと通信速度を落としたスマホで、カクカク動くアニメを観始めた。
「……完璧。やっぱり人生、ちょっとはイライラするくらいが、丁度いいのよ」
「絶望」を「ガチャの爆死」で代用するあたり、リィナの現代っ子らしい合理性が光ります(笑)。
世界を救うためにガチャを渋くする救世主……ある意味、運営よりタチが悪いかもしれませんね。




