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7話 スキルの発動条件

完結まで毎日投稿(午後8時50分ごろ)目指します。

翌朝。とりあえず追っては来ていない。

「米粒侍。仲間をどうやって探すんだ?」

「基本的にはレイバーを勧誘する。便利店に行って、レイバーだと思うやつがいたら声をかける」

「勧誘とか苦手なんだけど」

僕は人に声かけたりするのが苦手だ。できれば米粒侍にやってほしい。

「それは問題ない。スキル『光栄ある孤立者の唯一の同盟者』を使えばうまく勧誘できるはずだ。一人だとなにかあった時に面倒だ。2人一組で行動しよう」

まあ、米粒侍一人に任せるのも危険だし、その方が安全か。

「わかった。ここから一番近い便利店は赤い便利店か」

「赤い便利店はやめておこう」

「なんでだよ」

「この辺りは赤い便利店、阿藤家のテリトリーだ」

「阿藤家ってヤバいの?」

「ヤバいというより、店が密集しているからすぐに応援が来てしまう。それよりはやや孤立気味な便利店の方が引き込みやすい」

「なんで?」

「スキル名が『光栄ある孤立者の唯一の同盟者』だからだ」

「なるほどね」


というわけで、北側の少し離れた青い便利店に向かった。

「いらっしゃいませ」とあいさつが来る。

店員は30代くらいのひ弱そうな男が一人。

「レイバーだな」といきなり米粒侍がレジに向かう。

「え? なんなんですかあなたは」と青い制服を着る男が困惑している。そりゃあいきなり話しかけたらそうなるだろうな。

「レイバーならいまの立場から脱却したいとは思わないか?」

「そ、そりゃあレイバー辞められるならその方がいいけど、働かないと生活が」

「死を恐れるな! 食えなくて死ぬことは確かにある。だが、それ以上に魂が奴隷になっていいのか? 魂までレイバーになるな!」

「はあ」

ピンと来ていない感じだ。仕方がない。「この人が言っているのは、一緒にいまの体制に抗議しないかってことなんですよ」と補足する。

「抗議なんかしても無駄ですよ。レイバーは生まれたときから死ぬまでレイバー、それは変えられないことなんです」

「そんなことはない!」と叫ぶ米粒侍。「我が家はかつて労働貴族だった。そこから転落して今はレイバーだ。だが、逆にレイバーから成りあがっていく人間もいる」

「そんなのありえない! じゃあ、どうやったら成り上がれるっていうんだ!」

彼の言うことはもっともなことだと思った。僕がいた日本でも親ガチャという言葉があって、生まれた親家によって決まってしまうという考えが強かった。ふつうの労働者の家に生まれた僕が大金持ちなんて、そんな都合のいいことは起こらない。そのことは身にしみてわかっているはずじゃないか。

涙が出てきた。

「泣いているのか? 余侍よ」と米粒侍が僕の顔を見る。

「泣いてない」

「いや、泣いている。彼に同情しているのか?」

「僕にはわからない。どうやって成り上がればいいかなんて。でも、やっぱり奴隷のまま死ぬのは嫌なんだ!」

僕が叫んだ時、またあの画面が出てきた。


スキル『光栄ある孤立者の唯一の同盟者』を発動しますか?

はい

いいえ


この選択肢。間違いない。これを使えば。よし、使うぞ。

そのとき、奥からもう一人の店員が出てきた。「おい、交代の時間だぞ」

そのとき、スキル画面は突如消滅した。

「え? ちょ、ちょっと」

そのあと店員さんは奥に引っ込んでしまった。

結局勧誘は失敗。

食料を置いてきた林に戻った。

「どうした。どうして泣いた?」

「実はあのあとスキル発動画面が出てきたんだ」

「なに!?」

「でも、消えちゃったんだ」

「いつだ! なぜ消えたんだ」

「ちょうど交代の店員さんが出てきたときだよ」

「……なるほど。あくまで推測だが、『光栄ある孤立者の唯一の同盟者』は勧誘する相手が独りぼっちの時にしか使えないのかもしれないな」

「『光栄ある孤立者の唯一の同盟者』。名前だけ見ると、孤立しているぼっちの唯一の同盟者って意味になる」

「だから、また彼がひとりのシフトのタイミングで勧誘してみよう」

「うん」


翌日。この前より1時間早く便利店にやってきた。これでたっぷり勧誘できる。と思ったら、その時間は昼時だった。昼時の便利店にはたくさんのお客さんがお昼ご飯を買いにやってくる。

「まずい。これでは勧誘ができない」

案の定、混雑のせいで話しかけることができない。接客に精一杯で、ようやく客がいなくなったのは昨日来店した時間とほぼ同じだった。

「またあなたたちですか」と店員が言う。

「そうだ。お前も同志にならないか?」

鬼にでも勧誘するつもりか! と心の中で突っ込みを入れた。

「正直、迷っているんですよ。これからどうするかって」

「もしかして学生か?」と米粒侍さんが聞く。

「そうなんです。いまは就活しながら就活ない日にシフトに入れてもらって働いているんです。親もレイバーで、仕事は選べない」

「それで就活はうまくいっているのか?」

「いま不況だからない内定。卒業まであと半年なのに」

ちなみにいまは10月の初めだ。日本と同じなら学校を3月に卒業するのだろう。

「まだ半年もあるじゃないか」と米粒侍さん。

「遅すぎるくらいですよ。みんな卒業の1年前、2年前から就活する人もいるんです」

「なんと! どうしてそこまで頑張って就活するんだ?」

「いい企業に入れば労働貴族様ほどじゃないけど、盗みをしなくてもいい暮らしができるようになる」

「そうか。しかしうまくいってないんだな」

「はい」肩を落とす学生。「いいところの募集は大体締め切られて」

「……もう少し頑張れ。それで無理ならまた来る」

そういうと米粒侍さんは店を出ていった。僕も慌ててついていった。

「どうして勧誘しなかったんですか?」

「彼の眼にはまだ希望の光が残っていた。もったいない一揆に参加することは命がけだ。彼にはまだその覚悟がない」

よくわからないが、まだ一揆をするほど彼は追い詰められていないということらしい。

「じゃあ別の人を勧誘しないとな」


読んでくれてありがとうございました。

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