6話 この世界の構造
完結まで毎日投稿(午後8時50分ごろ)目指します。
「うまくいったな」と米粒侍さんは笑う。
「説明してくださいよ。なんでスキル使うって言ったら逃げるんですか?」
「そうか。そこからか。まず、スキルがなにかわかるか?」
「さあ? ゲームとかにあるやつですよね。キャラが持っている特殊能力みたいな」
「そうだ。この世界に生まれ育った人間はスキルが使えない。スキルは異世界からの転生者にしか使えないんだ。そして、そのスキルの内容はその人間の前世の生き方に依存しているらしい」
「つまり、僕の前世がスキルになるわけか。だとしたらたぶん大したスキルじゃないでしょうね。偉業を成し遂げたわけでもないただのニートで、最後はホームレスとして食中毒で死んだんですから」
「食中毒だと? すると、毒を作り出すスキルか、解毒するスキルに違いない」
「いや、多分違うと思いますよ。『光栄ある孤立者の唯一の同盟者』って名前だし」
「なるほど。同盟を作るスキルに違いない。やはり自分の目は正しかった」
「同盟って、僕はどっちかというと人づきあいが苦手な方なんですけどね。便利店でマニュアル挨拶するのが精一杯です」
「そう謙遜するな。おそらく同盟者を作り出すスキルだ。仲間集めに向いている。今回よく分かった。一人では30人に囲まれたときに逃げ出すことすら難しい。君のスキル『光栄ある孤立者の唯一の同盟者』を使って仲間を集めてもったいない一揆を実現するのが近道だ」
「そんなこと言われても」
だから、もったいない一揆ってなんなんだよ。
「よし! このまま同志を探そう。同じように食糧を喜捨といって平気で捨てるような連中が支配する体制を転覆するんだ!」
「いや、米粒侍一人でやってくださいよ」
「何を言っているんだ。われわれは同志だ。同じ飯を食べる仲間だ。ほら、持ってきたぞ」
といって便利店に陳列されていたおにぎりをどっさり見せびらかす。
「盗んだのか!」
「どうせ我々はお尋ね者だ。いまさら窃盗など罪のうちにも入らない。どうせもうお前に戻る場所はない。退路は絶った。進むのみだ!」
なんかはめられた気がする。でも、あのまま捕まってもろくなことにならなかっただろうし。
「わかりましたよ。このまま捕まるのは嫌だし、仲間を探しましょう」
といっても、仲間ってどうやって探すんだ。
「当面の食糧はあるからいいとして、これからどうするんですか?」
米粒侍が紙を広げる。「このあたりの地図だ」
地図には赤色の四角、青色の四角、そして緑色の四角が描かれている。
「この四角いのは?」
「これは便利店がある場所を示している」
「赤い四角が中央に密集しているのはなんでですか?」
「ドミナント戦略だからな」
「ドミナント?」
「便利店には大きく3つの勢力が存在する。阿藤家が支配する赤い便利店、伊藤家が支配する青い便利店、そして佐藤家が支配する緑色の便利店だ。この三大勢力が競い合っているんだ。そして、この中心地域は赤い阿藤家の支配地域だから赤便利店が密集しているんだ」
「コンビニ三国時代って感じか。僕が働いていたのは青い便利店だったから伊藤家の便利店なんですね」
ん? 伊藤って確か、僕を買ったやつが伊東って名前だったような。
「伊藤家には伊東家という親戚がいる。罪人を購入して、レイバーとして働かせるレイバー仲介業者、その元締めが伊東家だ」
いとうが2つもあって面倒くさいな。にしても、日本人みたいな名字だな。
「ここって日本なの?」
「日本? ああ、転生者は日本というところから来ると聞いたことがあるが、やはりそうなのか」
「日本にもよくあるんだよ、伊藤って名字」
「なるほどな。便利店を最初に作ったのは転生者だそうだ。日本から来た転生者だったのかもしれない」
「便利店の勢力はどうでもいいですよね。仲間はどうやって集めるんだ?」
「実は便利店にはレイバーが働いていることが多い。まずはレイバーを勧誘して勢力を増やしていこう」
「僕と同じ転生者のレイバーなら勧誘しやすいかもしれないってことか。そもそもレイバーってなんですか」
「この世界の階級は、王、労働貴族、資本家、地主、そしてレイバーに分かれる。その下にルンペンというのがいるんだが、まあそれはおいておこう」
「王様がいる世界なのか」
まあよくあるといえばよくある。
「ああ。王様には労働貴族が仕える」
レイバーってどういう意味だっけ? でも、働いているなら労働貴族と何が違うんだ?
「レイバーと労働貴族はなにが違うんだ?」
「なにもかも違う。レイバーは第5階級なのに対して、労働貴族は第2階級で、地主や資本家より偉い」
「え!?」
「地主は土地から金を得る、資本家も金を貸して金を得る卑しい仕事だ。それに対して、労働貴族は労働して汗をかいている」
「ますますレイバーとの違いがわからない」
「雇用形態が違うんだ。自分で仕事を自由に選ぶことができて、仕事についたら一生その仕事を続ける、それが労働貴族だ。たいして、レイバーは自分で仕事を選ぶことができず、割り振られた仕事をこなすだけ。給料を得て生活するんだ」
「言われた仕事をやらないといけないレイバーと、仕事を自由に選べる労働貴族か」
労働貴族、いいなあ。就活とかなさそうで。
「そうだ。労働貴族にとっての労働は自由意思によるもので、レイバーには自由意思が認められず、資本家や労働貴族に従って労働するのみ。だから選挙権もない。重要なことは、労働の成果物はすべて労働貴族に与えられるということだ」
「働いた分が自分の懐に入るのは当たり前だろ?」
「違う。労働貴族はすべての労働をしていて、すべての労働の成果物を得ることができるんだ。レイバーの労働も含めてだ」
「じゃあ、レイバーどうなるんだ」
「レイバーは盗む。盗む以外に生きる方法なんてないんだ」
「なんでレイバーは働いても得られないんだよ。なんでまじめに働いても、盗まないと生きていけないんだよ。おかしいじゃないか」
「それはこの世界の神が決めたことだ。我にはわからない」
「神?」
「この世界の神は余裕あることを尊ぶ神で、余裕あるものの振りをするためにより多くのものを捨てることが喜ばしいこととされる。全員に分ければ足りるはずの食べ物があっても、王や貴族たちは自分たちが食べた余りを捨てる。それが王や貴族にふさわしいふるまいだとみなされるんだ」
「なんで捨てるんだよ」
「神に聞いてみるしかない。まあ、神と話せると自称するのは教会の連中だけだがな」
「教会って」
「教会は、罪を罰し、あるいは赦す場所だ。裁判をして罪人を裁くことになっている。魂の流刑も教会で行われるんだ」
最初に転生したあの場所はやっぱり教会だったようだ。
「教会の連中は階級でいうと祭祀、王と並ぶ第1階級か、第2階級の労働貴族の中でも最上位の人間がつく決まりになっている」
「つまり、あの眼鏡をかけた禿は結構えらいやつってことか」
「禿はこの世界では優れた髪型だとされている。髪を喜捨した存在だからだ」
「なるほど。髪がないんじゃなくて、髪を捨てたと考えるわけか」
「髪を捨てることで神に忠誠を誓う、断髪式という儀式がある。とりあえずこの世界では禿を見たら偉いやつだと思っておけばいい」
「なるほど。少しはこの世界のことがわかったぞ。で、仲間集めはどうするんだよ」
「いまの説明はこれから仲間にするメンバーについて考えるための前準備みたいなものだ。同志を見つけるなら、できるだけ幅広い階級から募った方がいい。我は元貴族。余侍はレイバー。だから、資本家、地主、そして労働貴族からも仲間がほしい」
「労働貴族は食べ物を余らせて捨てている連中だろ。仲間にするのか?」
「労働貴族はろくでもない連中ばかりだ。わが父をバカにしたやつらだからな。だが、喜捨の負担に耐えられず不満を持っている貴族も少数だがいる。そいつらを味方につけるんだ」
「なんか一気に情報が入ってきて疲れたよ」
「では休もう」
読んでくれてありがとうございました。